リトバス短編コンテスト参加「宇宙!」
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うちわ片手に浴衣で歩く夏の夜道。俺たち5人は空を

見上げ、花火が散らす錦の光に照らされていた。

突拍子もない爆発音に、なぜこれほどの情緒があるの

か?心に温かく響くことよ。足元に捨てられたゴミに

苦笑する。季節の粋な風によどみを作るとは、楽しみ

方を知らぬ。出店のくすんだ色合い、交る声様々。

恭介「理樹。」

トラブルのタネ有りますと、その顔には書いてある。

俺が取るべき行動を決定するのに、脳へ情報を送る必

要があろうか?逃げろと脊髄が声高く叫ぶ。

恭介に名を呼ばれてから、俺が一歩下がり身をひるが

えすまで、瞬きするほどのまであったはずだ。が、俺

は逃げることかなわず、襟首をガッチリ掴まれている。

相変わらず無駄にスペックが高いな、恭介ぇ。

恭介「ヘイ、カウボーイ。主役がどこに行くつもりだ。」

答えを知っていて、あえて問うのはどうかと思う。恭

介が俺を主役と表現した理由は、むしろ知りたくない。

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和服の着こなしがハンパない謙吾が「恭介は俺と同じことを考えているようだな」と会話

に参加。2人が何を共有しているのか不明だが、俺に害なすのは明白。謙吾はけがれ無き

瞳の奥で、想像の斜め上行くバカを考えているはず。恭介といるときの謙吾はそうだ。

真人が恭介の肩に手を置き、自分も判っているとアピール。きらりと光る奥歯。

たたみ込むように鈴が天を指さし、芝居気たっぷりに「理樹、宇宙へゆけ!!」と叫ぶと、

5人の視線が集まった先で、偶然花火がドンと美しく咲いた。

猫娘のシャウトに力強く頷く恭介たちを見て、俺は無性に泣けてきた。念のためNASA

を目指し勉強せいということか?と聞くと、今すぐこの場で飛べとせかす。やっぱり。

ヴァカァァだぁこいつら。そんな言葉を本気で口走るがっかりな高校生は、いまどき漫画

にも登場しない。まじで目を覚ますか、人生をやり直すか、どちらかを選べ。

真人「筋肉だ。筋肉がお前を宇宙に連れてゆく。月でも火星でも、新巨人の星でもな。」

筋肉を疑わぬ真直ぐな瞳の説得力は圧倒的。お前は宗教方面に才能があるのかもしれない。

筋肉でどのようにして地球の重力から逃れるのか、興味に抗いきれない。

俺には何の発想もないが、真人には有るのだろう。否定も逃亡も、それを聞いてからにし

たい……ああ、このとき即時に駆け出していれば……真人は俺の帯紐に手をかけ、頭上に

振り上げた。

普通に投げ飛ばす気なのかと恐怖に引き攣り聞けば、筋肉を信じろと無理難題の返答。

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なにしろ「いくら真人でも無理だってわかるよな」と、真っ先に候補から外した方法だ。

強烈な加速Gに、愚かにも一瞬ナゾの期待してしまう。結果は20mほど先でボロ雑巾の

ように地に転がるのみ。100%予想通り。ぴくぴくと痙攣する四肢が、我ながら哀れ。

真人「かあああああっっ!!惜っしいぃぃぃぃっっ!!」

恭介「すごい飛んだな。驚いたぜ。」

そのセリフに謙吾が反応し、俺を持ち上げてチェストォと叫び投げた。そして、どちらが

より遠くへ飛ばしたかで、真人と喧嘩をはじめた。2人を放置し、俺へ歩み寄る恭介。

恭介「なぁ理樹、前置きは十分だろう?そろそろ本題に入らないか?」

なんで俺のわがままで2度ぶん投げられた、みたいになっている。痛みで身動き一つとれ

ない俺は真人に背負われ、5人で土手を下りる。花火の打上げ場に入ってゆくので、驚い

て危険だ止まれと叫ぶが、花火師がやってきて恭介を出迎えた。話はついているらしい。

恭介「やぁ風知屋さん。立派なのができましたね。」

恭介がぽんぽんと叩くそれを見て、俺の全身の血液は撤退、心臓の部屋の奥へと逃げた。

高さ4m余り、ロケットの形をしており、側面に“鴉鋪蘆拾參”(あぽろじゅうさん)と

書いてある……ぶっちゃけ、ただの花火だ!!

理樹「その発想を形にしたのはすげぇよ!!だがな、それに乗って行けるのは天国だけだ!!」

命の危険に大量分泌されるアドレナリン。俺は大暴れをして真人の背から逃げ落ちた。

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ふらふらと体を起したとき、何かに寄りかかり倒してしまった。

ドム!花火、水平発射。逃げまどう人々。焼きそばの屋台が一つ木端微塵。火災が発生し、

待機していた消防隊員が素早く駆け付け放水。その地獄絵図に、うーんと満足げな四人。

恭介「なかなかの破壊力だな。うん、あれなら宇宙に行けそうだ。」

謙吾「理樹、お前の失敗がはからずも、ミッションの成功を約束してくれたぞ。」

理樹「お前らと今後も付き合っていくか、よくよく考える必要がありそうだ。」

真人「落ちつけよ理樹。筋肉の進歩に、犠牲はつきものなんだぜ。」

その意味不明な台詞は、俺の意思を絶縁へと大きく傾けた。宇宙ロケットと称するただの

でっかい花火を担ぎあげる真人。俺を挟み撃ちにし追い詰める恭介と謙吾。猫と遊ぶ鈴。

じょわ。異音に真人が振り返ると、鴉鋪蘆拾參に引火している。持って歩くから、他の打

ち上がる花火の火の粉を被ったのだろう。叫び声をあげて放り出すと低く飛び去り、ガン

と橋げたに当たり落下。ドゴォッ!水中で爆発し水柱100m。霧のように舞う水しぶき。

夜店の灯りに照らし出される虹が、ぼんやりと美しく筆舌に尽くしがたい。俺も含め5人

感動、いや、そこにいた全ての人達が感動し、言葉がない。

恭介「よし、全てはうまくいった。ミッションコンプリートだ。撤収!」

土手の上できょろきょろと何かを探し歩く、見覚えのある少女。

佐々美「今年の花火は一味違いますわね。ところで謙吾は何処っ?」

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よ、四頁・・せ、狭いです・・ううう・・・
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