女心がわからないっ! |
寮長室には二木さんが書類にペンを走らせる音と
僕がハンコをつく音だけが聞えている。
「――直枝」
「どうしたの、二木さん?」
「私たち付き合ってるわけじゃない? それなのに恋
人らしいことは何一つしてないと思うんだけど」
僕を見ることもなく書類にペンを走らせている。
「恋人らしいこと?」
顔が赤い。もしかして平静を装ってるのかなあ。
「手はよく繋いでるよね」
「そうなんだけど……」
二木さんがフリーになっている左手を机から下ろ
した。これは手を握って欲しい時の合図だ。
僕は二木さんの手にゆっくりと指を絡め、握った。
「こ、これはこれで……う、うれしいわ」
まだ僕を見ようとしないで書類に目を通している。
けど握っている手の指が感触を楽しむように動いて
いるところを見ると、頭には入っていないと思う。
「も、もっと恋人らしいことよ」
「なんだろう……?」
二木さんが顔を真っ赤にして書類に目を落とす。
「だから……きっ、キっ、キ、キ…………キスとか」
語尾は聞き取れないほど小さい声だ。って!?
「えええええぇぇーっ、キ、キ、むぐぐっ!?」
慌てふためく二木さんに口を押さえられた!
「ああもう! 今のは忘れて! 忘れなさい!! 今すぐ忘れなさい!!」
耳まで真っ赤にした二木さんが、いそいそと書類処理に戻る。
「…………二木さん」
「な、なによ?」
「よかったらだけど……キスしよっか」
二木さんの目が驚いたように見開かれ、その手からペンがコロリと落ちた。
「こっち向いてくれないかな?」
「い、いいわよ」
まるで機械仕掛けのように今の姿勢から90度動く。僕と向き合って座って
いるその様子は、まるで卒業式のようにカチコチした座り方だ。
顔を真っ赤にし、目は僕を見たかと思えばすぐに下にそらす。しばらくするとまた僕に
訴えかけるような視線を向け、すぐにそらす。
「ふ、二木さん」
「はイッ!?」
声が裏返ってるし! な、なんか僕まで緊張してきた!
「も、もうちょっと顔を前に出してくれない?」
「か、顔? こ、こう、かしら?」
行儀よい姿勢のまま、体を少し前に傾け顔を突き出す。
「じゃ、じゃあ……」
僕が近づこうとした瞬間!
「ま、ま、待って待って!! はぁ、はぁはぁ……こ、これ、心臓に悪いわね……」
姿勢を戻して胸に手を当て深呼吸。僕の心臓だってバクバクいっている。
「も、もう大丈夫よ。き、来なさい」
またさっきのように顔だけ突き出す二木さん。
「じゃあ……い、いくよ……」
顔を近づけると、その潤みを帯びた瞳が優しく閉じられた。
こんなに二木さんを間近で見るの、初めてだ。そんなことを思いながら……。
――ちゅっ。
二木さんのホッペにキスをした。
「キ、キスしちゃったね」
真っ赤っ赤だ。両方とも。けど二木さんは驚いたような雰囲気。どうしたんだろう?
「…………ホ、ホ、ホ、ホッペタぁぁぁーっ!?」
「うわわっ、どうしたのそんな大声出してっ!?」
「だっ、だって、あなた、ちょっ……ふ、普通キスっていったら、キスっていったら!」
真っ赤になってアワワアワワとしている。
「ホッペだよね?」
「違うわよっ!」
顔を真っ赤にしたまま腕を組み、ぷくーっと膨れてしまった!
「ふん。もうあなたなんかと口聞いてあげないから」
「え、え!? ふ、二木さんどうしたの?」
「聞えません」
「ちょっと二木さんーっ」
「聞こえませーん」
説明 | ||
リトルバスターズ!のSSです。付き合うことになった佳奈多と理樹。けどウブな理樹は恋人らしいことを何もしてくれません。なので佳奈多は思い切って…… http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana/ こちらで活動中です! |
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