「九段坂恋歌のいる世界」プロローグ |
九段坂恋歌(くだんざか・れんか)が死んだとき、私は泣いた。
彼女とは特に親しい仲だったわけではない。高校で三年間、同じクラスだったというだけの関係。どこかに一緒に遊びに行ったわけでもない。教室で仲良くお喋りしたこともない。私にしてみれば、学校に行けば毎日見る顔。ただそれだけだった。
高校を卒業すれば、当然のように彼女と会うことはなくなった。そして大学にいって社会人となった今、彼女との接点は何もなくなっていた。
それはOLとして働き始めて二年目の冬だった。偶然の再会。クリスマスイブの夜のこと。駅のホームでたまたま九段坂恋歌に会った。もう何年も会っていないのに、親友だったわけでもないのに、私は一目で彼女だとわかった。
「恋歌、久しぶり♪」
私が軽いノリでかけた声に、彼女はひどく驚いた様子だった。
電車が来るまでの数分。私と彼女は話をした。ホントたわいもない話だった。何を話したかさえも覚えていないお喋り。私にとって、相手が誰でも変わらない井戸端の世間話みたいなものだった。
だから別れ際も後ろ髪を引かれることなんてなく、すんなりと別れた。
その翌日、九段坂恋歌は死んだ。自殺だった。
九段坂恋歌が死んだことは、高校時代の友人からのメールで知らされた。それも彼女が死んで二ヶ月がたった後の話だ。その友人も又聞きで詳しいことは何も知らないらしい。私の友人も、九段坂恋歌と友達というわけではないのだ。
ただ、自殺した日付は聞いていたようで、私に来たメールに書いてあった。その日付を見て、私は背筋が凍る思いをした。それは私が彼女と会った日の翌日だったのだ。
あの日のことは妙によく覚えている。彼女に会ったのはクリスマスイブの夜で、本来ならクリスマスの陽気に誘われて十人十色に楽しく過ごす夜のはずだ。
街中が浮き足だった独特の空気が流れていた。その翌日、つまり彼女はクリスマス当日に自殺したのだ。
何を思って、そんな日に自殺したんだろう。そんな私の疑問に答えられる人はいない。ただ彼女が「誕生祭」の日に死ななければならなかったことが、私の心を締めつけた。
けれど、それが九段坂恋歌の死を知って、私が涙した理由だとは思えなかった。友達でもない人間の死が悲しかったとは、とても思えない。私はなぜ自分が泣いたのか、その理由がわからない。
ただ
『ねぇ。知ってる? 九段坂って死んだんだよぅ☆』
そのディスプレイに並ぶメールの文字を見た瞬間、私の瞳から自然と涙がこぼれていた。
説明 | ||
ケータイ小説をイメージして書いた軽い作品です。軽い気持ちで読んで頂ければ幸いです。 | ||
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