恋姫無双 3人の誓い 最終回「終わりの始まり」
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一刀達が環を倒し、飛鳥を救出した、その三十分ほど前のこと。

牙猛と対峙していた龍玄の方では、思わず息を呑むほどの接戦を繰り広げていた。

「・・・っ!アンタほどの武人を相手にするのは、久しぶりだっ!・・・血が滾って仕方ない・・・っ!」

「それは某も同じこと!この老躯・・・老いてからこの血の滾り、久しく忘れておったわ・・・っ!」

 

 

 

 

 

この戦いを始めてもう一時間は経つが、両者ともに目立った致命傷はなく、激しい攻防が続いていた。

その攻防の中、

「・・・だが分からぬっ!それほどの武を持ちながら、なぜ、あんな小童共のところにつく・・・」

牙猛は龍玄にそう問いかけてきた。

 

 

 

 

 

 

「・・・‘なぜ,なんて聞かれるほど大した理由なんざない・・・っ!俺は、俺の気まぐれであいつらのとこについてるだけだ。ただそれだけだぁっ!」

そう答えた龍玄は言葉の終わりと同時に、再び剣を振り払う。

「ぬぅ・・・っ!その気まぐれが某達のところにきていれば、どれほど頼もしかったことか・・・はあああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 

 

「ちぃ・・・っ!はあああああああああああああああっ!!」

両者は再び武器を構え、猛々しい雄たけびと共に突撃していった。

その雄たけびは、まるで本能を剥き出しにした獣を思わせる。そして、お互いの武器が自分達の身体を切裂いた。

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「がああっ・・・っ!」

「ぐおお・・・・っ!」

両者は苦痛の声を漏らすが、瞳の色には闘争心を未だに燃やし続けている。・・・が、

「く・・・そっ!まだ立ち上がる・・・のかよ・・・っ!・・・ん?」

 

 

 

 

龍玄は牙猛の斧による攻撃を左肩に受け、その肩から大量の血が流れ出ている。もはや自由に動かすことはおろか、上下させることすらままならないほどの状態だった。その他も危険な状態だった。

そんな状態の中でも、龍玄は気力を振り絞り、剣を杖にして立ち上がった。

しかし、牙猛の方は奥の扉を守るように武器を構えたままドッシリと佇んでいる。だが、その様子に龍玄は違和感を感じた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・」

身体中から血が流れている牙猛は何も喋らず、こちらに向かおうともせず、ただじっとしていた。

「・・・死して尚、立ち上がり、主を守ろうとする・・・か。その心意気、敬意に値するよ。」

龍玄は剣を杖代わりにしながら、ゆっくりと牙猛の隣を通り過ぎていった。

牙猛はそれを止めようともせず、額から血を流しながらも立ち尽くしていた。

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暗く気が遠くなりそうな廊下を無数の傷を負いながら、ずるずると進み続ける龍玄。

その後ろには血の線ができているのがはっきりと分かる。

「・・・お?やっと・・・見えてきやがったか・・・」

進み続けて、数十分。ようやく奥に小さな光が見えてきた。龍玄はその光を追いながら、部屋へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

そこにいたのは、玉座に縛り付けられた環の姿と、もう一人、眼鏡を掛けた男が環をじっと見つめていた。

「おやおや・・・せっかくこの指輪を与えてやったというのに、これほどまでに無様な姿を晒すとは・・・まさに愚の極みですね。」

眼鏡の男は環の指がついたままの指輪を、手に持ち、環に話しかけている。

 

 

 

 

 

 

「まあ、いいでしょう。貴方が起こしてきた戦の数々・・・そのおかげで、この太平要術の書も妖力を蓄えることができましたし、良しとしましょう。・・・それでは、貴方はもう用済みです。」

そう言うと、男はどこからか短剣を取り出し、その剣先を環の心臓に突き刺した。

「・・・っ!おい、アンタ!」

それは見た龍玄は、荒げた口調で男に話しかけた。

「ん?・・・おや、どこの誰かは知りませんが、どうかなさいましたか?」

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ・・・そいつを殺した。」

「ああ・・・あなたも環を討ち取るために来た諸侯の人でしたか。すみませんね〜、つい先ほど私が手を掛けてしまいましたが、いらない世話みたいでしたね。」

男は微笑みながら、そう答えた。

「なんでそいつを殺したか聞いてるんだ・・・っ!」

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「‘なぜ,ですか・・・それを貴方が知っても意味のないことですよ。」

再び問いかけた龍玄の問いに、男は不敵な笑みを浮かべながら、そっと消えていった。

「くそ・・・っ!待ちやがれっ!」

龍玄は男に掴みかかろうとしたが、すでにそこには何もなかった。

 

 

 

 

 

 

「一体・・・何者なんだ・・・?なぜ、こいつを・・・」

龍玄が目をやる方には、すでにそっと目を閉じ、静かに眠っている環がいた。

しばらくあの男のことを少し考えていたが、やはり一人では仕方ないと思った龍玄は、やっと痛みに慣れてきた身体を急がせ、玉座の間を後にした。

 

 

 

 

 

 

帰る途中、ある一室から女の子の声が聞こえてくるのを龍玄は感じた。しかも、複数。

「・・・乃!早く・・・らをここから・・・してたも〜〜!!」

「ああもう!・・・っきから・・・るさいわよ!・・・術!」

仕方なく龍玄は一室の扉に近づき、開けようとしたが、鍵が掛かっていてビクともしない。

「おい。そこにいる女の子達。よかったら返事をしてくれ。」

 

 

 

 

 

「えっ!?あ、は〜い。どちら様でしょうか?」

「名はどうでもいい。今はそこから出してやるから、ちょっと離れててくれるか?」

そう言うと、慌ててながらスタスタと後ろに下がる音が聞こえた。龍玄はよしと言うと、剣を構え、扉ごと叩き切った。

扉は音を立てて崩れると、中にはまだ幼い少女が二人と、その保護者のような女性が一人いた。

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「大丈夫・・・か?」

龍玄は女の子達に話しかけると、女の子達はビクビクと小刻みに震えながら怯えていた。

「ああ・・・すまん。ちょっと事情でこんな身体になっているが、別に何かするつもりはないから安心してくれ。」

そういうと女の子達は安心したように肩から力を抜くと、一人がすっと立ち上がり礼をした。

 

 

 

 

 

 

「助けてくれ本当にありがとうございます。ほら、美羽様も尚香様も怯えてないでお礼してください。」

「し、しかし七乃!こやつ本当は敵かもしれんぞ!わ、わらわは信じられぬ!」

「そ、そうよ!こいつ、環の手先で今度は私たちまで操り人形にされちゃうわよ!」

二人の少女は未だに龍玄のことを敵だと思い込んでいるらしく、じっと龍玄のことを威嚇する。

 

 

 

 

 

「大丈夫ですよ〜♪どうせ私達が操られたとして、全然戦力になりませんから。その点は安心してもいいですよ♪」

「それを自分で言いますか・・・まあいい。礼は別にいいから、早くここから逃げろ。いいな。」

龍玄はそう言うと、血を流し続ける身体を動かし、早足で女の子達の元から去っていった。

「何なのあいつ・・・ってきゃっ!?凄い血の量じゃない!大丈夫なのあいつ・・・」

孫尚香の心配をよそに、龍玄は出口へと歩いていった。

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時を同じして戦場の方では・・・。

「一刀達、上手くやってくれたようね。」

華琳が戦場を見やると、戦場ではいつの間にか豪雨が降り注ぎ、そして数えきれないほどの兵士達が倒れていた。半分は攻撃を受けて命を落とした者達、もう半分は、指輪の術により操られていた兵士達の催眠術から解け、気を失っている者達だ。

 

 

 

 

 

気を失っている兵士達の中には、黄蓋や孫権、甘寧などの呉の武将達もいる。

春蘭達や馬超達のおかげで、多少のケガはあるものの、大事には至ってはないらしい。

ちょうどその時、出口から一刀達の姿が現れ、手を振っていた。その横には、愛紗と凪が傷だらけながら、孫策を担ぎ運んでくる姿も見られた。

それを見た陸遜や周泰は思わず安堵の息を漏らす。

 

 

 

 

 

だが、

「あの環様が・・・まさか・・・殺されるなんて・・・許さん・・・許さんぞ・・・っ!許さんぞおおおおおおおおっ!!」

紅泉は主を殺された恨みを爆発させ、弓を力強く構える。

そして、恨みを込められた矢は一刀に向けて放たれた。

「・・・っ!?隊長!危ないっ!!」

 

 

 

 

 

凪の必死の声を聞き、一刀は後ろを振り返る。そこには、一つの矢が自分に向かってくるのが見えた。

声も出ず、ただ来る矢を待ち構えるしかできなかった。

その時、一つの影が一刀の前に現れる。

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「ちぃ・・・っ!!ボケッとしてんな!まだ戦が終わったわけじゃないんだぞっ!」

「龍玄さん!?」

「気にするな。これぐらいツバでもつけとけば治る。それよりも、早く後ろに下がれっ!」

放たれた矢は龍玄の急所をかろうじて避け、矢は右肩に突き刺さった。

「くそっ!残っている者は集結し、何としても天の使いの首を討ち取れ!あやつらは今は手負いの状態・・・何としても討ち取るのだっ!!」

 

 

 

 

 

 

紅泉は周辺にいる兵士に呼びかけ、すぐさま集合させる。その数は五千はゆうに超えるであろう数である。

「指輪で操られていないヤツもいるのかっ!?何でそんなヤツらが五胡の味方につくんだ!」

「多分・・・最初から環に入信している人達がいたんだと思う。・・・その人達には僕みたいに術は必要ないと思うから・・・」

 

 

 

 

 

 

「くそっ!仕方ない・・・おっさんと俺達で食い止めるぞっ!愛紗達は早くみんなのところに・・・」

そう言うと、蒼介、一刀、飛鳥の三人はお互いに武器を取り、構える。

「危険です、ご主人様!たった四人であの数を相手にするのは・・・!」

愛紗は孫策を担いだまま、蒼介を説得する。そして、この人も、

「そういうことだ青年達!お前ら三人も早く後ろに下がれ。ここは俺一人で十分だ。」

 

 

 

 

 

 

「ちょっ!?何変なこと言ってんだよ、おっさん!そんな傷だらけで___________________________________」

「師の言うことが聞けないのか・・・」

「え・・・・・」

龍玄に言葉を遮られて、蒼介は何も言うことができなかった。

「お前達はまだ若い・・・やろうと思えば何だって出来る歳だ。そんな力を持つお前達を、こんなとこで死なせるわけにはいかない。それに、俺もこんな状態だ・・・そうは長くは持たない。・・・囮にするにはうってつけの存在だろ。」

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龍玄はそっと微笑みながら、何も言うことができない蒼介達に言葉を続けた。

「それにな・・・悠花のいない、この世にもそろそろ飽きてきたしよ・・・・・だからこれは俺の頼みだ。・・・ここは、俺に任せてくれ。」

「けど・・・・・けど、死ぬって決まったわけじゃないですよね?生き残って帰って来ますよね?」

 

 

 

 

 

 

雨に打たれながら一刀はそっと口を開き、龍玄に聞いてみた。

「そうだな・・・その時は、弟子達のおごりで浴びるほど最高の老酒を飲ませてもらうとするか・・・」

龍玄はハハハと少し笑いそれが終わると、表情を一変させ、何も言わずに前を向く。

「分かりました・・・みんな、早く他の兵士達も撤退させてくれ・・・」

 

 

 

 

 

 

「一刀っ!おま_____________________________________________」

「・・・・・(フルフル)」

蒼介は一刀に止めようとしたが、飛鳥が蒼介の腕を掴み、そして首を横に振った。

蒼介は唇から血を流すほど、歯を食いしばりながら一刀達と共に撤退していった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・ったく。歳を取ると説教くさくて嫌になるね。ハハハッ。」

龍玄は雨が降り注ぐ空を見上げる。空は暗く、一片の光も見えず、まるでこれからの自分を暗示しているように感じた。

「・・・さて、敵さんもすぐそこまで来てることだし・・・やるとすっか。」

龍玄は手に持つ明鏡止水を敵のいる方へと構える。刀身から、身体から流れ出る血がスーと伝う。

「いざ・・・参るっ!はああああああああああああああああああああああああっ!!!」

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五千をゆうに超える兵士達と対峙するは、すでに多大な傷を負っているたった一人の武人。

その果てに待つのは、死のみだと龍玄は最初から感じていた。

だが、ただでは死なん・・・そんな一つの想いを胸に秘め、男は立ち向かう。

例え身体中の肉を切裂かれようが、無数の矢を浴びようが、立ち向かい続ける。

 

 

 

 

 

立ち止まらず、ただ敵だけを見つめ、前へと進む。

「はああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

雄たけびは戦場に響き、大量の血しぶきは己の身体に染み渡っていく。

「く・・・っ!な、なにをやっている。相手はたった一人だぞ!早く切り伏せてしまえっ!」

「で、ですが・・・」

兵士達は龍玄の姿に只ならぬ恐怖を感じ、逃げ惑う者もいれば、一歩も動けず、尻餅をついている物が大勢いた。

 

 

 

 

 

 

 

「く、く、来るなああああっ!がああああっ!・・・・・」

「ひ、ひぎいいいいいいいいい・・・っ!」

龍玄は一歩、また一歩と紅泉のいる方へと進んでいく。周りの兵士達は恐怖で何もできず、ただ斬られていくだけだった。

そして、龍玄は紅泉の元へと辿りつく。

 

 

 

 

 

 

 

「ば、化け物か・・・貴様は・・・」

化け物・・・まさに龍玄の今の姿は化け物そのものだった。

血で全身を化粧している身体・・・血が滴り落ちる刀・・・雨が降ってもその血は落ちずにいた。

そして龍玄は紅泉に向けて、刃を振りかぶる。

「ひ、ひいいいいいい・・・っ!止めてっ!止めてええええっ!!」

その振りかぶる姿を見た紅泉は、声にならない声を出し、必死に命乞いをしている。

しかしその懇願も意味はなく、刃は振り下ろされた。

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「・・・・・っ!!!」

紅泉は目を瞑り、自分の運命を待った。

しかし振り下ろされた刃の先は自分ではなく、目の前の地面。剣先を地面に刺したまま、龍玄は両膝をつき、座り込んでいた。

そして、こう言った。

「消えろ・・・」

 

 

 

 

 

「へ・・・?」

紅泉は龍玄の言葉が理解できず、思わず聞き返した。

「消えろ・・・そして・・・二度とあいつらの・・・前から・・・姿を表すな・・・」

そっと顔だけを上げ、瞳で紅泉を見つめる。その瞳はまるで今にも自分を殺してしまいそうな目つきをしていた。

「ひ、ひいいいいいいいいい・・・っ!!」

 

 

 

 

 

紅泉は叫び声を上げ、プルプルと震える足を必死に立たせ、武器を置いて走り去っていった。

「・・・これで・・・もう・・・安心だ・・・」

龍玄は座り込みながら、そう呟く。龍玄の背後にはさっきまで戦っていた兵士達の屍の山が築きあげられている。

「なあ・・・悠花・・・俺は・・・お前の代わりに・・・大切な弟子を・・・守ることができたか・・・」

 

 

 

 

 

龍玄はここにいるはずのない悠花に喋りかけた。返事が返ってくることはなく、ただ沈黙が辺りを包み込む。

そしてしばらく降り注いでいた雨はスッと止み、雲の隙間から光の柱が漏れ出す。

光は龍玄を照らし出している。照らし出された龍玄の顔は、どこか嬉しそうな顔をしていた。

おそらく、生きている者には聞こえない・・・悠花の声が、龍玄には聞こえたのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        

 

           『守れたよ・・・・・自由(みゆ)・・・』

 

 

 

 

 

 

そっと、悠花が龍玄の真名を呼ぶ声が・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※どうもお米です。最初に言った通り、今回で最終回となります。今まで応援してくださいまして、本当にありがとうございます。この駄文がここまでこれたのもみなさんのおかげです。

こんなに多くのオリキャラを出して、一刀の影が薄れてしまい、ごめんなさい。まずはそのことを謝らせてください。最後の最後まで謝罪になってしまいましたね。

そして、最終回と言いながら、次はエピローグを書きます。

一緒にしたら?と最初は思っていたのですが、区切りがちょっと悪いので分けて書かせていただきますので、何卒よろしくお願いします。

エピローグですので、更新は今日の夜か、明日と早めになると思います。

それでは失礼します〜。

説明
今回でついに最終回となります。今までこんな駄文を読んでくださってくれた皆様、本当にありがとうございました。
心が折れそうな時が多々ありましたが、ここまで持ちこたえることができたのも皆様のおかげです。

それでは最終回、どうぞご覧ください。
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コメント
どれだけ強くとも、遂げられなかった想いや守りたかったものがある・・・心安らかに休んでください・・・。(深緑)
たっちゃんさんコメント有り難うございます!有り難うございます!そう言って頂けると、本当に書き手冥利に尽きます。(お米)
ヒトヤさんコメント有り難うございます!そっと静かに眠っておられます・・・龍玄さんのご冥福をお祈り申し上げます・・・(;人;)(お米)
龍玄…。アンタぁ、漢だ!(たっちゃん)
死んだの?(ヒトヤ)
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