真・恋姫無双 EP.30 黄巾編(4) |
曹操軍と黄巾党の開戦から、一週間が過ぎた。一刀たちは街での準備を終え、本拠地の裏側近くまで馬車で来ていた。
「黄巾党本拠地の裏手は、断崖絶壁になっています。縄でも垂らさない限り、人力で登るのは不可能でしょう。仮に出来たとしても、頂上までは一日でも難しい高さです。そのため、見張りもなく警戒している様子もありません」
「そこが、隙ってわけだな」
「はい」
稟が旅をしながら記したという地図を見ながら、一刀は頷いた。
「人力では不可能でも、こっちにはセキトがいる。頂上近くの岩場にでも降ろしてもらえれば、簡単に忍び込めるって寸法だ」
「でも……」
得意げに胸を張る一刀に、さすがの風も言葉を濁した。
「何だよ? 何かあるなら言ってくれ」
新しく仲間になった二人に、一刀は訊ねる。
風と稟は結局、一刀たちとは別れずに一緒に行くことにしたのだ。しかも風に至っては、夢を見たという事で程cと改名までしたのである。真名も交換しあい、すっかりみんなと仲良くなっていた。
「お兄さんは、本当にそれで行くつもりですか?」
「そうだよ。どうして?」
「どうしってって……ねえ、稟ちゃん?」
「えっ? わ、私に振らないでください」
助けを求めるように、稟は月たちを見た。しかし月はうつむき、詠と音々音に至っては無関係とばかりにそっぽを向いている。
「何か変かなあ、恋?」
「…………ちょうちょ、可愛い」
そう、一刀と恋は蝶の仮面を付けて変装していたのだ。そのために街に留まって恋の分も作ってもらい、余った材料でみんなの分も作ろうとして断られたので、セキトの分を作った自信作だった。
蝶の仮面を付けた二人と一匹だけが、どこか嬉しそうに見えた。
黄巾党の本拠地は、自然を上手に利用して造られていた。しかしすべてが天然というわけではなく、堀や丸太を組んだ柵、土嚢の壁など人工の城壁が何重にも用意されている。曹操軍は小競り合いを繰り返しながら、二つ目の城壁を越えることに成功していた。
「まだ三つほど、壁が見えるな」
指揮をしながら、戦況を見守っていた秋蘭が誰にともなく呟いた。順調とは言い難い戦いに、疲れも溜まっていた。もともとの兵力が違うため、黄巾党に比べれば被害は少ないとはいえ、このままではジリ貧になるのはこちらの方だ。
二つの壁を越えるのに、一週間ほど掛かった。残り三つ、まだ先は長い。
「夏侯淵殿」
不意に声を掛けられ、振り返ると関羽と趙雲が立っていた。
「交代の時間です」
「もうそんなに経ったか……」
「戦況はどうです?」
「相変わらずだ。停滞している」
少なくとも、見た目には変化はない。壁を崩しながら、たまに出て来る敵兵を追い返している。
「あの子供らは出てきましたか?」
趙雲が訊ねると、秋蘭は黙って首を振った。
「幸いというべきか、私の時はまだ一度も。あの子供ら以外は、盗賊から流れてきた者ばかりで大した相手ではないのだがな。姉者の話では、あっという間に壁に取り付いた兵士を追い払ってしまうらしい」
「曹操殿にあの子供らを殺さず捕らえるよう進言したのは、夏侯惇殿でしたな。正直、曹操殿がそれを承諾するのは意外な気がしました」
関羽が言うと、秋蘭は笑った。
「自らの意志で向かってくる者には、容赦はしない。だが本人の意志に反して操られている者を、無闇に殺す意味もないだろう。華琳様はいずれ、大陸を治める王となる方。民衆をないがしろにした結果がどうなるか、今の朝廷を見れば明らかなはず」
「なるほど。平和な世なら、彼らもまた民ということか」
「そういうことだ」
秋蘭と交代し、関羽と趙雲が指揮を執ることになった。
「ところで趙雲は、いつまで留まるつもりだ?」
「何だ、私が居ては邪魔なのか?」
「いや、そうではないが……」
「白蓮殿の治療の礼もあるが、私個人も黄巾党をこのまま放っておく気はない。少なくとも、義勇軍が撤退するまではここに居よう」
その言葉に、関羽は少し嬉しそうに笑った。
「だが、このままでは埒があかないな。よし、私が少し様子を見てこよう」
「ちょっ! どこに行く気だ、趙雲!」
「周囲を見てくる。どこかに穴でもあれば、そこから攻められるではないか」
「しかし、一人では危険だ」
「一人だから良いのだ。身軽の方が、見つかり難い」
関羽の制止を聞かず、趙雲は横道から山の中に入って行った。この辺りは木が多く繁って、足場も悪く、急な斜面になっている。多少の見張りはいるが、一人ならば十分隠れられた。
(さて、やはりこちらは手薄か……だが、部隊を送るのは難しいな)
壁の内側を覗き、敵の数や配置などを頭に叩き込む。
(陽動には使えるか……どれ、もう少し奥に進んでみよう)
足を忍ばせて、趙雲はさらに奥へと進む。最後の壁の手間まで来て、そこからは崖になっていて進めない。仕方なく、戻ろうかと思ったその時。
「あれは――!」
遙か遠く、一際大きな天幕のそばにある人影に趙雲の目は奪われた。見間違いではないかと、目を凝らしてよく確認するが、間違いない。
「まさかこんな所に……」
再会を願ってはいたが、まさかこれほど早く、しかもこんな場所だとは思わなかった。
「華蝶仮面! こうしてはいられない」
興奮した様子で、趙雲はもと来た道を戻って行く。
なぜか冷たい視線に見送られ、一刀と恋は黄巾党の本拠地裏手から忍び込んでいた。
「誰もいないな?」
「……大丈夫」
「よし!」
周りにはいくつもの木箱が積まれており、人の姿はない。遠くでは戦いの声が聞こえ、怖いほどの静寂が別世界のようだった。
「……待って」
急に恋が、一刀を制止する。
「どうした?」
「……嫌な臭いがする」
「臭い?」
くんくんと鼻を上に向けてみるが、一刀にはよくわからなかった。
「厠の臭いじゃない?」
「違う…………これは、オーク」
「オーク!」
一刀は緊張しながらも、大きな天幕に近付いて行く。嫌な予感が、胸に溢れた。その時である。どこに隠れていたのか、何十人ものオークがぞろぞろと現れて二人を取り囲んだのだ。
剥き出しの敵意に、一刀と恋もそれぞれの得物を構えた。
うっふぅぅぅぅぅん!
むっふぅぅぅぅぅん!
「……行くぞ!」
説明 | ||
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。 なんやかんやで30回です。やっぱり一刀が出て来ると、とても書きやすいですね。 楽しんでもらえれば、幸いです。 |
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コメント | ||
オークの出現で盛り上がった緊迫感が次にでた掛け声?で一気に萎えたのは悪いことでしょうか?; そして華蝶の素晴らしさは何時の世も万人には理解されないんだなw(深緑) | ||
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