Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)六巻の4 |
第四章 雪月花
俺の目の前には信じられない光景が広がっていた。
現在の時刻 15:33 高速本都―南地区橋
バイクを跳ばし、目的地向かう俺達は、南地区に行く為、高速道路の橋を渡っていた。だが、そんなとき、俺たちの目の前に、鉄の壁が行く手を遮った。
壁の正体、それは横転している大型トラック。そのトラックの所為で、後続車が壁の前で立ち往生するようなに止まっていた。
「だめだ。これ以上は進めねー。トラックが完全に、道を塞いでやがる」
状況を知る為、現場の魔連局員に情報を聞いてきたタクマさんが、戻ってきた。
事故原因は、タイヤのパンクだそうで、それが原因で、トラックが横転したらしい。
『さすがに、今から戻ったら間に合わないわね。そうかといって、トラックの撤去を待っても、タイムアップ』
淡々と俺の腰に提げているニアが、現実的な感想を述べてくれた。
そんなこと、素人が見ても判る。まあ、普通なら諦める、な。
普通なら、な。
「タクマさん、ありがとう。もう、ここでいいや」
俺は、被っていたヘルメットを、なかば押し返すように、タクマさんに返す。
「おい。何考えてやがる?」
そのヘルメットを受け取ったタクマさんが、俺の次の行動を訊いてきた。
そんなの単純に、
「走る」
「・・・はっ?」
タクマさんは、信じられないものを見るような目を、俺に向けてきた。
だが、俺は、気にせず言葉を続ける。
「そのために、タクマさん。俺の市街での《航空許可》とってください」
「? いやお前《飛行》魔法なんて使えたのか?」
「イヤ、使えない」
「じゃあ、なんのために?」
「それが要るところを、通る為です、よ!」
それだけ言うと、俺は地面を勢いよく蹴り、飛び上がる。そして、横たわるトラックの上に着地した。
最後にタクマさん方へ向き直り、
「それでは、お願いします!」
と再度頼み、俺は、走りだした。
控え室の扉が急に開くと、わたしは、そちらの方へ視線を向けた。
そこから現れたのは、汗を浮かべたサブ君だった。
サブ君は、控え室に入ると、すぐにわたし達に近づいてくる。よほど急いだのか、めずらしく肩で息をしている。
「よう、どうやら間に合ったみてーだな」
サブ君は、息を整えながら、無邪気な笑みをわたしに向けてきた。なので、わたしも笑みを返す。
「お疲れ様。はい。飲み物」
わたしは、持っていたスポーツドリンクをサブ君に差し出した。すると、サブ君の顔が、明らかに驚いた表情へと変わった。
「マジ!! 良いのかよ、貰ちゃって!? それ、先までリリが飲んでたんじゃねーの?」
「えーっと。さっき、買ってきたばっかりだから、手はつけてないよ。だから、気にしないで飲んで」
サブ君の勢いに、わたしは、若干引き気味になった。
「なんだ、新品か・・・」
「?」
なんで、落ち込んでの?
わたしは、意味が判らず、首を傾げる。すると、リニアが、呆れたような溜息を吐くと、わたしに、
「気にすんな。疲れるだけだから」
「??」
ますます、意味が判らないんだけど・・・
ポピーちゃんに助けを求めようと視線を向けるけど。気にしないでいい、と笑みで返された。
「っで、ライブの進み具合は、どうなんだ?」
すると、サブ君はジュースを飲みながら、今の状況を質問してきた。
その言葉に、ポピーちゃんが、答えた。
「早まってるよ。どうやら、持ち時間残しとる組が大半みなたいや、な。ちなみに、ウチらの番は、次の次や。予定時間より、はよーステージ入りしそうや」
その言葉を聞いたサブ君は、悔しそうな顔をして、舌打ちをした。
「ヤベー、な。このままじゃあ、リョウの奴、マジで間に合わねーぞ」
その言葉を聞いたわたしは、時間を確認した。
現在の時刻 15:35
俺は、脚に魔力を集中させ、さらにスピードを上げた。
魔力で自分の体を強化する《強化》。接近戦を得意とする魔導士には、必須の能力であり、これを使うと、常人の数倍の力を使うことができる。
もちろん俺も戦闘時には、常備使っている。
そして今、残っている魔力をすべて脚に集中させている。
現在の時刻 15:45 南地区首都沿岸
橋を渡りきった俺がとった行動は、ワイヤーを使い、ビルに飛び乗ることだった。
ビルの屋上に飛び移ると、すぐに進行方向の次のビルに飛び移る。
『まさかとは思ったけど。無茶なルートを使うの好きねー。貴方』
ニアは、明らかに呆れたような声色で言ってきた。
そう、さっきタクマさんに《航空許可》を頼んだのは、このためだ。
この世界では、建物の上を移動する際、緊急時以外は許可を取らなくてはならない決まりになっている。そうじゃないと、魔導士が飛びまくり、緊急時に空が使えないからだ。
だが、これじゃあまだ―――。
『間に合わないわね』
その通りだ。まだまだ、スピードが足りない。
『・・・でも、貴方のことだから、次はもっと無茶なことをするのでしょ』
「さすが相棒。判ってるじゃん」
ニアの言葉に、俺は、自然と笑みが漏れた。そして、最後のカードを使うため、集中力を高めると、アイツに呼びかける。
「(おい、返事しろ。糞狼)」
前のグループが終わり、ついにわたし達の番が回ってきてしまった。
『―――痺れる演奏ありがとう! それでは、次が最後のグループになったぜ! 野郎ども!! バテてねーだろうな?』
ウォオオオオー!
司会者の発言に、会場の観客は、地面が揺れるような、大きな声で答えた。
『よっしゃあ!! いい返事だ! それじゃあ、最後の組セッティングまで、そのテンション落とすんじゃねーぞ!!』
司会者は、次の演奏までトークで繋いでくれている。わたし達は、楽器を持ってステージ上がった。
そのとき、わたしは、前のグループの一人とすれ違った。
「あらっ? 貴女達、まだ居たの?」
「まだ、時間があります」
声を掛けてきたのは、シンディアさんだった。シンディアさんのグループは、ものすごい盛り上がりを魅せ、あまりの凄さに、敵のはずのわたしも、聴き入ってしまった。
「まあ、せいぜい足掻いてちょうだい」
「誰が、足掻くんだ?」
「えっ!?」
ステージ裏で話していたわたし達のところへ、楽器の設置をしていたはずのサブ君が、現れた。その瞬間、シンディアさんは、明らかに動揺し始める。
「そ、その・・・サブ君、間に合ったんですね!」
「ああ、おかげさんで」
サブ君は、なぜかジト目で、シンディアさんを睨みつけた。すると、シンディアさんは、その視線を外した。
「そ、それじゃあ、私、そろそろ行くね。サブ君、演奏頑張って!」
そういい残し、シンディアさんは、走り去っていった。わたしは、いきなりの変わりように驚いてしまった。
「たく。リリ、用意できたぜ。そろそろ上がれよ」
「えっ? う、うん」
わたしは、返事をすると、着ていた上着を脱ぎ、ステージに上がった。
「す、すごい・・・」
観客の人数は、驚くもので、わたし達の学園のほぼ全校生徒ぐらいの数の制服があり、さらに、外からの訪問者が混ざり、運動場は、ものすごい数の人で埋め尽くされていた。
「さすがに、すごいりょーやなー」
その光景をボーっと眺めていと、ポピーちゃんが、わたしの横にやって来た。
本当にすごい。まさか、こんなに大勢の前で歌うなんって。
わたしは、感激しすぎて、目頭に熱いものが込み上げてきた。
「―――はぁ!? まだ揃ってないだって!」
だけど、その感傷もすぐに収まる。わたしは、声のする方へ向くと、そこでは、サブ君と司会者が、揉めていた。
「仕方ねーじゃん。魔連の急な呼び出しだったんだから、いいじゃねーか。少しぐらい大目にみてくれても」
「おいおい、学園祭ライブって言っても、一応、順位決めすんだ、ぞ。お前らのところだけひいきするのは、ナッシングだろ?」
「そこを何とか頼むぜ。先輩」
「何が先輩だ。大体、それが人に物を頼む態度か?」
「あの!」
そのとき、二人が話しているところへ、わたしは、勢いよく割って入った。
二人は、驚いた表情を浮かべている。だけど、わたしは、気にせずに自分の気持ちを告げた。
「一曲だけでも良いんです。歌わせてくれませんか?」
そして、わたしは、司会者に頭を下げた。
「この二ヶ月、みんな、初めての楽器を必死に練習したんです! だから、このまま何もできないままで、終わるのだけは、嫌なんです! だから―――」
わたしは、自分の気持ちを前面に出して、司会者に伝える。
「お願いします! もう少しだけ、待ってください!」
わたしは、司会者に頭を下げた。すると、司会者は、しばらくの間沈黙した。
そして、司会者は、深い溜息を吐く。
「仕方ねぇ、な」
そう呟くと、片手で後ろ頭をかきながら、ポケットから、何かの道具を取り出した。
すると、ベースが繋がっているアンプの方へ移動すると、アンプの接続部分を障りだした。司会者は、一通り作業を追えたのか、手を止めると、サブ君に向かって声をかける。
「おい、ベース鳴らしてみろ」
わたしは、急な行動に訳が判らず、戸惑った。
しかし、サブ君は違った。
「・・・やっぱならねーっスねー。テストのときには鳴ってたんですけど」
サブ君は、口元に笑みを浮かべて、さっきの話などなかったかのような、やり取りをしだした。
「ってことは、アンプの線が、イっちまたみてーだ、な。こりゃあ、直すのに時間かかるなー」
司会者は、わざとらしく呟くと、立ち上がり、ステージの中央に戻った。
そして、
『みんな! 機材トラブルが起きたみてぇで、音が鳴らなくなっちまった! すまねーが、予定時間まで少し待ってくれ! その間、トイレ我慢してる奴はすぐに行けよ! 次の演奏で興奮してちびっちまうと、後が大変だぞ!』
と観客のみんなに告げた。
その瞬間、観客席から笑い声が聞こえてくる。
すると、司会者は、わたしのところに近づいてくると、
「久しぶりだぜ。こんなに心が震えたのは」
わたしの肩を叩いた。
わたしは、感謝の意味を込めて、頭を下げる。
「有難う御座います」
「俺ができんのは、ここまでだ。あとは、お前らの仲間しだい、だ」
そう言い残し、司会者は、舞台袖へと下りていった。
わたしは、もう一度、司会者に頭を下げる。
現在の時刻 15:51
俺は、俺の中の奴に、念話を使って話しかけた。
『オ前カラ、ワシニ話カケテクルナド、ナ』
俺の問いかけに、頭の中で低い声が返ってきた。その主の名は、マーナガルム=B俺と契約した《幻獣》だ。
『ホウ、考エタナ。長髪ノ小僧カラ、教ワッタ力ヲ、応用シタワケ、カ』
感心したような声を出す、マーナガルムに俺は、少し苛立つ。
「(そんなことは、どうでもいい。さっさと、お前の魔力を出せ!)」
『ワシノ魔力カ・・・何ノ為ニダ? ナゼオ前ハ、ソコマデ必死ニナル?』
「(事情は知ってるだろ? 時間がねーんだよ!)」
『ソウデハナイ。ナゼオ前ハ、アノ小娘ノ為ニ、ソコマデ必死ニナル?』
糞狼は、低い声で俺の行動理由を突っ込んできた。
・・・理由、か。
「貸しを返したいんだと思う」
『貸シ?』
マーナガルムは、不思議そうな声で訊き返してきた。俺は、自分の言葉を補足する。
「昔、ルナ姉から聞いたことがあるんだよ。アイツ、歌手になるのが、夢だったらしいんだよ。だけど、アイツは、俺を世話する為に、自分を犠牲にして夢を諦めたんだ」
アイツは、口にしないけどな、と言い、俺は、自嘲するような笑みを漏らした。
「だから俺は、アイツの夢を。進もうとする道を潰した。だから、その償いのために、約束を守る・・・いや、守らないといけない」
『・・・約束、カ』
狼は、俺が言い終わると、何かを呟いた。そして、急に何を思ったのか、高らかと笑い出した。
『カァカカカ! イイダロウ。面白イ、ヤッテミロ。小僧、オ前ノ約束=Bドレ程ノ重ミガアルカ、ワシニ見セテミロ』
奴は、そう告げると、俺の体の中に膨大な魔力が流れてきた。
これなら、イケる!
俺は、この魔力を《強化》の魔法に廻す。
その瞬間、俺の移動スピードは、さっきよりも、倍以上になった。
周りの景色が、横長に伸びたかのように流れていく。
『リョウ! オーバースピード! ルートと安全確認できてるの!?』
ニアがめずらしく、驚いた声色を発した。
もちろん! そんなもの、できるわけがないだろ。なので、俺は、ハッキリと、
「任せる!」
と、ニアに丸投げした。
『だと思っ――――リョウ! 前、前!』
俺は、その声に、赤い眼を凝らした。
・・・ヘリ?
俺の進行方向にヘリポートが見えた。しかも、間が悪く、ヘリが止まっている。
ヤベ! 直撃する!!
だが、俺はスピードを上げすぎて、回避することができない。ワイヤーを使うにも、周りのビルが低すぎて使えない。
万事休すと、俺は、歯を食いしばり、衝撃に身構えた。
・・・だが、奇跡が起きた。
ヘリが、下に沈んでいく。へリポートが、エレベーター式だったらしく、タイミングよく、仕舞われていく。
俺は、沈んだヘリのプロペラに着地すると、次のビルへと移動した。
『はぁ〜』
危機が去った瞬間、ニアが大きな溜息を吐いた。
気持ちは判る。さすがに、俺も死ぬかと思った。
『これは、気合入れてナビしないと、道連れにされそうだわ』
「・・・頼りにしています」
俺は、さっきのことがあるので、敬語を使って再度頼んだ。
現在の時刻 15:55
司会者が、腕時計に目を落とした。
俺の横に立っていた司会者は、視線を上げると、俺に問いかけてくる。
「タイムアップだ。もういいな?」
「・・・」
俺は、即答することができなかった。
「・・・はい」
すると、俺の近くに居たリリが代わりに返事をした。俺は、その返事に少し、驚いた。他の女性二人も、同じよう驚いた表情を浮かべている。そのリリの表情は、明らかに曇っていた。だが、リリは、俺たちに辛さを隠すように、精一杯の笑みを浮かべた。
「仕方ないよ。これ以上、迷惑は掛けれないもん。いいよね? サブ君」
「・・・ホントに、いいのか?」
「うん」
俺は、無理に笑うリリの姿が悔しく、視線を外した。
「・・・それじゃあ、客に伝えるぜ」
司会者は、再度、確認を取ると、ステージ前に向かって踏み出した。
現在時刻 15:58
『みんな、長い間待ってもらって、すまねぇ! どうやら、機材―――』
「(サブ! 緩衝材!!)」
司会者が、マイクを使って話し出した瞬間、不意に念話が頭に響いた。
俺は、すぐに反応を感じた、空を見上げた。
・・・マジで!?
「リリ! 空に緩衝材を作れー!」
わたしは、サブ君の急な言葉に驚いた。
空?
わたしは、言われた通り、空を見上げ、眼を凝らした。
「・・・っ!? リョウ君!?」
わたしは、予想外な登場の仕方に、驚きの声をあげてしまった。そして、急いで魔法を使う。即座に《緩衝網》を空に展開。リョウ君を受け止めるように五つ張った。
次の瞬間、リョウ君が、見事に網の中にダイブした。
しかし、リョウ君の勢いが凄すぎて、一枚、二枚と、次々と網を突き破った。そして、すべての網が破られてしまう。
だけど、ステージの上に出現していた大きな泡に、リョウ君は、受け止められた。それを作っていたのは、もちろんサブ君。そうなることを予想していたのか、予想して作っていたのだ。
俺は、さっきの勢いが残っていたため、泡の上で二回、三回と跳ねる。
へ?
三度目の接触で、泡が割れ、顔から落ちる。
「っぅぅぅぅー!」
俺は、打った鼻を押さえながら、ボロボロの体を起こす。すると、誰かが、勢いよく近づいてくる足音が、聞こえてきた。
「リョウ君! 大丈夫!?」
「ああ、大丈―――ぶぅ!?」
だが、俺は、覗き込んできたリリから、すぐに視線を逸らした。
無防備すぎるだろ!?
わたしは、ステージに落ちたリョウ君に、すぐに掛けつけた。
「リョウ君! 大丈夫!?」
わたしは、打ったところを確かめる為に、腰を屈めて、覗きこんだ。
「ああ、大丈―――ぶぅ!?」
すると、リョウ君は、顔を上げるなり、すぐに顔を逸らしてしまった。
・・・どうしたんだろう?
わたしは、意味が困惑していると、後ろから、
「リリちゃん。それは、サービスしすぎやでー」
「さすがリリさん。やることが大胆ですなァ」
ポピーちゃんとリニアが、楽しそうに笑い出した。わたしは、ますます判らなくなり、怪訝な顔を二人に向ける。
二人とも、何言っているんだろう?
「なんてうらやましーんだ! リョウ! てめーポジション変われ!! 見えたか!? 見えたよな!? 見やがったのか!? どんな胸だぁあああああ!!」
「―――っ!」
わたしは、意味が判った瞬間、体を抱きしめるようにして、胸を隠すと、リョウ君から勢いよく離れた。
そうすると、リョウ君は、ゆっくりと立ち上がると、すぐに口を開いた。
「っで、ライブの方は、どんな状況なんだ?」
「ギリギリセーフや」
その問いに、ポピーちゃんが、笑みを浮かべた。
「せやけど。まさか、空から現れるんは、予想外やったわー」
「仕方ねーだろ。方法がそれしか思いつかなかったんだから」
そういうと、リョウ君は苦笑いを浮かべた。そして、わたしたち、一人一人に目を向ける。
「しかし、スゲー格好だな。お前ら、恥ずかしくねーの?」
もちろん、恥ずかしいです。
わたしは、胸の中で即答する。
わたし達の衣装は、全体的に黒を基調としたもので、リニアとポピーちゃんは、ゴシックファッション。サブ君は、ノースリブにパンツ。わたしは、ワンピースという格好だ。
「まあ、こういう場所は、目立ってなんぼだろ」
「まあ、たまには、ええんやない」
「当初は、リリだけのつもりだったけど、なァ」
「リニア!?」
リョウ君の問いに、各々、感想を漏らした。リニアとは、後で話し合わないと。
『おーい! もういいかー? 時間きてんぞー!』
「あっ!? す、すいません。すぐに始めます! リョウ君、準備!」
わたしは、慌てて司会者に返事をすると、リョウ君を促した。
すると、サブ君が、リョウ君にギターを渡した。
○
『みんな!! 改めて・・・最後の組だ! 最後まで燃え上がるぞぉおおおおお!!』
オォオオオオオオオオ!!
司会者の問いかけに、観客のみなさんは、大声を上げた。
『OK! 曲よろしく!!』
司会者は、わたしの方を向いて、目で合図すると、ステージ袖に入っていった。
わたしは、頷くと、一度、深呼吸をする。
『それでは、聴いてください。friendship=x
わたしの声と共に、リニアがスティックで、リズムを取る。そのリズムに合わせて、リョウ君がギター、サブ君がベースを弾き始めた。
それに合わせて、ポピーちゃんが、キーボード。リニアのドラムが合わせる。
そして、わたしが、曲に合わせて歌詞を入れる。
みんなの音が合わさる瞬間、わたしの心は、とても高揚した。
わたしは、心から声を出す。
すると、不意に、観客の一人が席から立ち上がり、合いの手を入れてくれた。それがきっかけとなり、一人、また一人と席から立ち上がり、合いの手や手拍子をしてくれる。
不意に、わたしは、客席からみんなの方へ視線を向けた。すると、みんなは、笑みを返してくれた。みんなも楽しんでいる。
そう思うと、わたしは、歌により一層、気持ちを込めた。
○
楽しい時間が終わる。
演奏を終えると、わたしは、観客の皆さんにお辞儀をする。
その瞬間、津波のような拍手が返ってきた。
顔を上げて、その光景を見たわたしは、涙が出そうになったけど、我慢してもう一度、お辞儀をする。
そして、早足にステージ袖に逃げた。
「よっしゃあ! 大成功や!」
帰ってきたポピーちゃんは、わたしに抱きついていた。
もちろん、わたしも抱き返す。
「いや〜、何とかなるもんだ、なァ」
「何箇所か、間違えてたけど、な」
「うるせェ。あの拍手聴きゃあァ。成功だろ」
リニアとサブ君、言葉はあれだけど、嬉しそうに話している。
リョウ君は、疲れているのか、袖の階段に座って、休んでいる。
わたしは、お礼を言おうと、近づこうとすると、
「おい! オーディエンスの要請だ! もう一曲頼む!」
俺の後ろから不意に、慌てた声が聞こえてきた。
後ろを振り返ると、そこには、ステージの方へ行ったはずの司会者が、立っていた。
「えっ? でも、わたしたち遅刻したから―――」
「んなこと言っても、客は、ヒートアップしまくんだよ!」
司会者は、顎で客席の方を指した。
「「「アンコール! アンコール!」」」「もう一曲、聴かせてくれ!」「まだまだ、聞きて―よ!」「リリちゃん好きだ!」「まだ、一曲残ってるぞ!」
「・・・な」
客席の節々から声が聞こえてくる。どうやら、リリの歌が、客の心を掴んだらしい。
スゲーな、アイツ。
そんな感想を胸の中で呟いていると、俺は、すぐそこの視線に気付いた。
リリが、じっと俺の方を向いていたのだ。俺は、それに苦笑が漏れた。
「行けよ。まだ足りねーんだろ?」
その瞬間、リリは花が咲いたように、笑みを浮かべた。
「ポピーちゃん、行こ!」
「了解や!」
そして、二人は、俺の横を駆け足で横切って行った。
まあ、それはいいとして。
「俺たちは、どうすりゃあいいんだ? また、さっきの弾けばいいのか?」
「いん、や。あとは、二人に任せる」
すると、サブは、手を振って、否定した。
「二曲目やっから。オレたちは、出番終了ォ」
「二曲目?」
俺は、知らない情報を聞き、リニアに訊き返した。
「なんでも、てめェだけに内緒で、二人練習してたみてェ、だぞォ」
「なんで、俺だけに?」
「知らねェ。リリは『止められる』て言ってたけど、なァ」
・・・止められる?
ますます、意味が判らん。
『みなさん、今日は、トラブルで演奏が遅れて、すみませんでした!』
そんなことを考えていると、近くのスピーカーから、リリの声が聞こえてきた。
『それでは、聴いてください。雪月花=x
リリの声と共に、リニアのピアノの音が聴こえてきた。
・・・ん? この曲?
俺は、聴き覚えのある曲に動きを止めた。そして、自分の記憶から探す。
それは、すぐに見つかった。
「これ、俺がリリに聴かせてやった曲、だ」
「みてーだな。リリから聴かせてもらったときは、驚いたぜ。顔に似合わず、お前がオカリナなんて、吹けるなんてよー」
「これしかできねーけど、な」
俺は、サブの言葉に苦笑すると、体の力を抜いた。
やべーな。さすがに、疲れた。
「おい、まだ休むのはぇんじゃねーか?」
「?」
俺は、サブに声をかけられ、顔を上げた。
「サビぐれー、交ざってやれよ。お前の曲だろ」
「い・や・だ」
もちろん、俺は拒否する。すると、サブは呆れたような溜息を吐く。
「お前、一度乗った話だろ。だったら、最後まで責任もってやってやれよー」
「・・・はぁ〜、仕方ねーなー」
俺は、深い溜息を吐くと、コートからオカリナを取り出した。
「判ったよ。やりゃあ、いいんだろ。やりゃあ」
そう捨て台詞みたいなことを吐くと、俺は、オカリナに口をつけた。
まったく、人使いが荒いなー。
わたしは、いきなりのリョウ君の演奏に、驚いた。
曲がサビに入ると、リョウ君は、オカリナを吹いてくれたのだ。
それは、ポピーちゃんのピアノと混ざり合い、とても神秘的なハーモニーを奏でた。
その音は、とても温かく、わたしの心を、優しい手で包み込んでくれるような気持ちになる。
わたしも、その曲に歌を載せた。
それは、とても気持ちが載り、みんなに、わたしの気持ちを伝えられる気がした。
○
曲が終わると、客席からものすごい拍手が湧いた。わたしは、お辞儀をすると、すぐにステージ袖に向かった。そして、階段を下りると、リョウ君の前に廻った。
「リョウ君! オカリナ、ありがとう!」
「やあー、生で聴くとすごいなー。鳥肌たったわ。まったく、カイザー君、水臭いなー」
ステージ袖に帰ってきたポピーちゃんは、うれしそうな表情で、文句を口にした。
「・・・・・・」
「・・・リョウ君?」
しかし、リョウ君から、反応が返ってこない。
疲れたのかな?
そう思い、わたしは、リョウ君の顔を覗き込む。
「リョウ君、大丈夫? 少し疲れ―――きゃあ!」
すると、急にリョウ君が、わたしに寄り掛かってきた。わたしは、脊髄反射で手を腰に廻してしまった。急なことに、頭の中が真っ白になる。だけど、顔が上気して、ものすごく熱を感じる。
「リ、リョウ君!? ど、ど、どうしたの!?」
わたしは、パニックになる頭を必死に押さえながら、とりあえず、リョウ君から離れようと、手に力を入れた瞬間、
「・・・リョウ君?」
しかしそのとき、わたしの右手に生暖かいものに触れた。わたしは、ゆっくりと視線を右手に落とす。
・・・・・・血―――っ!?
わたしが、それに気付いたとき、リョウ君の手からオカリナが零れた。
「リョウ君!! リョウ君!!」
わたしは、必死にリョウ君の名前を叫ぶ。
だけど、リョウ君から、返事が返ってくることはなかった。
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あらすじ 学園祭ライブに向けて、もう特訓をしたリョウ達一同。 だが、その前日、急な学園へ呼び出され、リョウとサブ。 なぜか、身に覚えが無いミッションに登録されていた!? 悔しがる一同、だが、ミッションに向かうリョウが、リリと約束したことは、「ライブに間に合うように帰ってくる」だった。 はたして、リョウとサブは、ライブに間に合うのか!? スカイシリーズ第6弾、『学園祭後半』 ぜひ、最後まで読んでください!! |
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