八陣・暗無5
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 第五章『任務終了』

「・・・・・・。」

 ハプネスの戦闘用タイツを着て、その上から防弾チョッキを纏う。自殺用爆弾・緊急用爆弾を隠し、更に防弾ジョッキの中にWarser881を詰め込む。その右手には、何よりも風間と付き合いの長いナイフを持つ。

「いや〜、共同作戦なんて、ね。八陣が二人も出動するなんて・・・・・・」

「恭平。」

 更衣室で、一緒の任務についた恭平が話しかけてくる。

「どうした神海?怖いなら先輩が教えてあげるぞ。」

 ジュニア育成時から全てにおいて講師の立場から、八陣にあがったばかりの風間と唯一喋れる恭平。普段は風間もとても助かっているが、任務には必要のない感情であった。

「悪いが、今回の件は私に任せてくれないか?」

 平然と装ったつもりが、その言葉に恭平は顔をしかめる。

「まさか、私情を挟んでいる、とか?」

「ビンゴ。」

 やれやれと両手を大きく広げ、大げさにため息を吐いた。

「OKボブ。だが、ターゲットはマッドドラゴンだぜ?火を吹くんだ!ぼおおおお。」

「・・・・・・。」

「ぼおおおおお。」

「・・・・・・。」

 アクション映画風に再現している恭平を冷たい目で見つめる。

「・・・・・・。」

「・・・・・・もう終わりなのかい?」

 怪獣が火を噴くポーズのまま固まる恭平は、未だにポーズを崩さない。

「お前、つめたいなぁ。父さんは悲しくて悲しくて・・・・・・。」

「仮に君が父親だとしよう。すると今の動作一つで親子の縁はばっさりと切るな。」

 しれっと言い放つ風間を見て、恭平は身体をくねっとさせて胸を隠す仕草をする。

「酷い!神海のエッチ!和泉のこと弄んだのねっ!慰謝料はキャネクで払ってよ!」

「声音(こわね)うまっ!」

 姿さえ見なければ、まるで本人がその場にいるとまで思わせる口調であった。

「ふふっ、これぐらいお手の物さ。伊達に八陣暗無の名を得てないのでな。」

「すごい!なら今度はドナルドダッグ。」

「ぐわぁぐわぁぁぐわぐわぐわぁぁ!」

「素晴らしい!こ、これが八陣の力か・・・・・・わ、私は八陣最強の称号を得たからといって調子に乗ったが・・・・・・上には上がいたのか。」

 がくりと跪く風間。その表情は本気で悔しがっていた。

「はは、思い知ったか?これがモノマネ部最強の八陣・木田恭平だ!」

「八陣・・・・・・・なるほど。分野が多い。」

「風間様、木田様。時間の方が迫っていますのでお急ぎお願いします。」

 二人が遊んでいると、いつのまにか仕事口調の和泉が入っていた。

「きゃあああああ、この私の身体を見たわねっ!和泉ちゃんの不潔っ!」

「木田様、お急ぎください。」

「恭平。彼女はワインを餌にしない限り崩れないぞ。」

 風間は最後にブーツを履く。和泉が来た地点で諦めたらしい。

 

 

 そんなこんなで深夜零時。目的地へと出発したわけだが、ここにきてやっと実感が沸いてきた。

 軽部はどこかの廃墟を転々と移動しているようで、現在のポイントを発見したのが昨夜であるからにして移動は無いとのことだ。

(・・・・・・。)

 不思議と胸の奥が熱くなっていく。いや、それは不思議な感覚ではない。一度殺されかけた風間の身からすれば、それは必然。ただ、恭平や和泉があまりにも日常的なのでそれを忘れていただけであった。

 バババババババババババッ!

 耳障りな音を遮りながら恭平の声聞こえてくる。

「神海。確認までに言っておくが、オレの専門はスナイパーライフル。遠距離射殺だからトリガーを引かなければいいだけの話だが、もしもの時はお前を助けられない。それでいいのか?」

「ああ、構わない。」

「そうか。」

《ターゲットの居場所に到着しました。》

 バッ。

 パラシュートを装備した風間は、言うが早いか既に飛び出していた。

 殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!この私をあんな目に遭わせたあの男を殺せ!

 もう一人の自分が訴えるが、それを必死で隠し、あくまで平静を装う。

(・・・・・・さあ、借りを返そう。)

 すでに魔物にとりつかれていた。

 ビュオン!

 パラシュートが開き、すごい勢いでそのまま落下すると、建物の最上階に音なく着地する。そして、パラシュートを捨てると音もなく窓から侵入に成功する。

「・・・・・・なっ!おま・・・・・・。」

 すぐにターゲットと遭遇したが、もう用件は済んだ。

 いつ見ても忘れない軽部の胸には風間が放ったナイフが突き刺さっていた。

「ぁ・・・・・・。」

 だが、すぐに軽部の目の前までくると、そのナイフを抜き、そして刺す。

 ぶちゅ。

 抜き、刺し、抜き、刺し、抜き、刺し、抜き、刺し、抜き、刺し、抜き、そして刺す。

 ぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅ。

 刺すたびに身体が固まり、抜くたびに身体が震える。

(・・・・・・なるほど。)

 殺し屋には不要なこの行為も、今の風間にとってはとても重要なことであった。

「・・・・・・・・。」

 ぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅ。

「・・・・・・・・。」

 ぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅぶちゅ。

 ・・・・・・

 ・・・・・・・・・

 ・・・・・・・・・・・・。

 どれだけそうしていたであろうか?もう音にキレがなくなったとき、風間は軽部の少ない髪を掴んでその首を強引に刈り取った。

 白めを向き、人間の欠片もないその生首に向け、風間は言った。

「・・・・・・この5年。私は軽部のことだけを考えて生きてきたんだぞ。」 

 君という二人称ではなく、あくまで軽部という三人称。

 こうして八陣最強の暗無が出撃した任務が幕を閉じたのであった―――

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