真・恋姫?無双 悠久の追憶・第七話 〜〜宣戦布告〜〜 |
第七話 〜〜宣戦布告〜〜
‐―――――――――――――――――突然戦場を駆け巡ったその知らせは、その場にいた全ての群に衝撃を与えた。
『曹操の軍が反乱の首謀者である張角とその姉妹を討ち取った』と。―――――――――――
―――――――――――――――――――――――――――
「そんな・・・本当なのか?」
当然その知らせは一刀の耳にも入り、信じられないと言った表情を浮かべていた。
「はい。 黄巾党が一斉に引き上げていきます・・・おそらく事実でしょう。」
まるで波が引くように撤退していく黄色い群れを見ながら朱里が言った。
その行動は自らの主導者を失い、これ以上戦闘を続けられなくなったことを意味している。
「でも、曹操さんはずっとあそこにいたのにどうやって・・・?」
一刀の隣で桃香が不思議そうに首をかしげる。
確かにこの戦いが始まってからずっと、曹操の軍は陣から一歩も動いてはいない。
それを実際に見ていた桃香たちにとってはそれが余計に謎だった。
「・・・おそらく、他の軍勢が黄巾党と戦っている中を、ごく少数の部隊で潜り抜けたのではないかと・・・」
あれほどの乱戦の中を少数で移動していたため、展開していた監視用の部隊も気づかなかったのではないか、と雛里は続けた。
雛里の推察は半分正解だ。
しかし実際にはそれに加えて夏候淵たちは変装までしていたのだ。
観察部隊が気づかなかったのも無理はない。
「つまり、ずっと本陣にいたのは周りにそれを気づかれないためか・・・」
「はい・・・申し訳ありません!私たちが気づいていれば・・・」
「・・・申し訳ありません。」
朱里と雛里は泣きそうな顔でうつむいてしまう。
そんな二人の頭を一刀は笑顔で撫でてやる。
「二人のせいじゃないよ。 それにしても曹操・・・さすがは乱世の奸雄、か・・・」
遠くに見える曹操の陣を見つめながら、一刀は小さく呟いた。
――――――――――――――――――撤退していく黄巾党を見つめながら、雪蓮は戦場に立ち尽くしていた。
「ふぅ、曹操の奴・・・まんまとやられたわ。」
剣を軽く振ると、今まで刀身を赤く染めていた血が地面に勢いよく飛び散った。
それでもまだ血まみれの剣を鞘におさめ、落胆の表情を浮かべる。
もはや黒く変色している全身の返り血は、彼女がどれほどの賊を斬ったのかを物語っていた。
「お姉さま、いかがいたしますか?」
妹の孫権が歩み寄ってきた。
「そうねぇ、もうここにいてもしょうがないわ・・・帰りましょう。」
「はい。」
まるでおもちゃを取り上げられた子供のようにすねた表情で言う雪蓮に、孫権は静かに頷いた。
孫権には目の前に立つ赤く染まった姉の姿がとても勇猛で、しかし少しだけ恐ろしく見えた。
そして落ち込んでいる雪蓮にかわっての孫権の号令で、呉軍は戦場を引き上げていった。
―――――――――――――――その頃一刀たちのもとに、中途半端な形で戦を終え、苦い表情の愛紗たちが戻ってきた。
「申し訳ありませんご主人様・・・我々が出遅れたせいで、黄巾党討伐の功名を奪われてしまいました。」
帰ってくるなり頭を下げる愛紗に、一刀は笑顔で答える。
「お疲れ様。 そんなこと気にしなくていいよ。」
「しかし・・・」
「俺は別に、功名が欲しくてここに来たんじゃないよ。 どんな形であれ、黄巾党が居なくなって少しでも苦しむ人々が減るのならそれでいいさ。」
「そうだよ愛紗ちゃん。 皆が無事に帰って来たんだからそれでいいの。」
「ご主人様、桃香様・・・」
自分を責めるでもなく優しい言葉をかけてくれる二人に、愛紗は心の中で感謝した。
「・・・甘いわね、天の御遣い。」
「!?」
突然愛紗たちの後ろから声が聞こえた。
見ると、そこに立っていたのは金髪の小柄な少女と、背の高い赤い服を着た少女、曹操と夏候惇だった。
だがもちろん、一刀たちはその正体を知らない。
「貴様っ、何者だ!!」
いきなり現れた見知らぬ少女に、愛紗は青龍刀を向けた。
「愛紗、やめるんだ!」
「しかし・・・ご主人様・・・」
一刀は闘争心をむき出しにする愛紗を止めるが、愛紗は構えた青龍刀を降ろそうとはしない。
必死の形相で、目の前の少女を睨みつけている。
「いいから、落ち着いて。」
「・・・はい。」
もう一度優しく言うと、愛紗はやっと構えをといた。
だが、鋭い視線は少女からはずさないまま。
「春蘭、あなたも剣を収めなさい。」
「はっ。」
それを見ていた曹操も夏候惇に声をかけ、夏候惇はいつの間にか抜いていた大剣を鞘におさめた。
おそらくあのまま愛紗が引かなければ、戦いになっていただろう。
しかし一刀が愛紗を止めたのは、決して夏候惇が剣を抜いていることに気がついたからではない。
目の前にいる少女がいったい誰なのか、それが分かったからだ。
もう一度言うが、一刀は少女に会うのは初めてで、顔など知っているはずもない。
しかし、自分よりずっと体の小さいその少女がまとっている気迫は物語っていた。
少女が只者ではないことを。
それを肌で感じ、一刀にはすぐに理解した。
いや、させられたと言う方が正しいのかもしれない。
この少女こそ、歴史に名を轟かせた乱世の奸雄なのだと。
「君が・・・曹操か。」
確信をもってその名を口にする。
「あら、天の御遣いに名を知られているだなんて・・・光栄ね。」
曹操は言いながら薄く笑みを浮かべる。
光栄・・・などと本気で思っていないことぐらいは、一刀にも理解できた。
彼女の笑みは、戦の前に会った雪蓮のそれとは違う。
まるでこちらの全てを見透かしているかのような、冷たい笑いだった。
「まずはおめでとう・・・って言うべきなのかな。 張角を討ち取ったこと。」
「あら、ありがとう。 あなたたちの戦いもなかなかのものだったわよ?」
人の命を奪ったことに対して『おめでとう』などと、一刀ももちろん本気で言っているわけではない。
しかし今は、目の前の英雄の気迫にのまれないようにするために、無理にでもこうして平静を装うしかなかった。
少しでも隙をみせたなら、その瞬間に喰われる。
彼女の笑みの奥にひそんでいる表情は、そう言っているような気がしてならなかった。
「それで・・・俺に、何かようかな・・・?」
そのままの表情を崩すことなく、一刀は真剣な表情で問いかける。
すると曹操の顔からとたんに今までの笑みが消え、鋭い目が一刀を見つめた。
「あなた、先ほどこう言っていたわよね?自分の名が上がらなくとも、苦しむ人々が救えればそれでいい、と。」
「・・・あぁ。」
「その考えが甘いと言ったのよ。 この乱世に覇を唱える者として、そんな考えでこの先戦えると思っているの?」
「・・・俺は別に、覇王を目指しているわけじゃない。 ただ仲間たちと一緒にこの世界を平和にしたいだけだ。」
一刀の返答に、曹操の表情はさらに険しくなった。
「あなたはそれでよくても、その仲間とやらはどうかしら?」
「何?」
「あなたの部下が有能なのは認めてあげるわ。 さっきも言ったけれど、今日の戦での働きも大したものよ・・・でもね、自らの手足となって戦っている臣下に対して満足に功も上げられず、それで忠義に報いていると言えるの?」
「それは・・・」
「知らないのなら覚えておきなさい。 いくら部下が有能でも、それを擁する者が無能では意味がないのよ!」
「・・・・・・・」
曹操の言葉に、一刀は黙りこんでしまった。
確かに、彼女の言う通りなのかもしれない。
自分は名前など上げられなくとも人々を救えればそれでいいと、本気でそう思っていた。
しかし考えてみれば、それをするにはやはり名声というのは必要なものなのだ。
それを求めようとしない自分に対して、桃香や愛紗たちが不満を感じているのではないかと問われれば否定はできなかった。
しかし曹操の言葉に、一刀の隣にいた桃香が前に出て口を開いた。
「私たちは、ご主人様に不満なんてありません!」
「桃香・・・」
「桃香様の言うとおりです。 本当に平和を願う心さえあれば、名などは勝手に付いてくるもの。 だから私たちは、ずっとご主人様についていきます!」
「鈴々も付いてくのだ!」
「私もです!」
「わ・・・私も!」
「フフ・・・そういうことだ曹操どの。 せっかくの御心配はありがたいが、ここはお引き取り願おう。」
「愛紗、皆・・・」
桃香に続いて、その場にいた全員が曹操に反論する。
一刀はしばらく唖然としていたが、急に何かが吹っ切れたように笑顔を浮かべ、もう一度真剣な表情で曹操を見つめた。
「・・・曹操さん、確かに俺は君の言うとおり甘いのかもしれない。 だけど、それでも俺は仲間たちと一緒にこの乱世を戦いぬく覚悟をしたんだ。 その気持ちだけは嘘じゃない。 君に何と言われようと、俺は俺のやり方でこれからも戦うよ。」
言いながら、今自分はとんでもないことをしているのではないかと一刀は思った。
何しろあの曹操孟徳に対して宣戦布告をしているのだ。
本当ならば怖気づいて何もしゃべれなくなっているはず。
しかしこの時だけは、一刀は引きたくなかった。
自分のために曹操に反論してくれた仲間のために。
こんな自分についてきてくれると言った彼女たちのために。
ここで何も言わないことは、そんな彼女たちの思いを裏切ることだと思ったから。
「・・・・・・」
相手の予想外の反応に曹操はしばらく目を丸くしていたが、すぐに最初と同じ笑みが戻ってきた。
「フフフ・・・ハハハハハッ。」
「か、華琳さまっ!?」
いきなり笑い出した曹操に、隣にいた夏候惇は驚きの表情を浮かべる。
「・・・まさかこの曹孟徳相手にここまで言ってのけるとは・・・あなた、自分が何を言ったか分かっているの?」
「わかってるさ。 たとえ君が相手でも、俺は逃げない。 全力で戦うよ・・・俺なりのやり方でね。」
いつの間にか、真剣だった一刀の表情も笑みへと変わっていた。
それはおそらく、仲間たちがついていてくれるという安心感からなのだろう。
最初は自分よりずっと大きく見えていて、恐怖すら感じていた目の前の少女が、今は不思議とそれほど怖くは感じなかった。
「・・・おもしろい。 あなた、名は?」
「・・・北郷一刀。」
「一刀・・・ね。 覚えておくわ。 行くわよ春蘭。」
「は、はいっ。」
夏候惇に声をかけ、一刀たちに背を向ける。
そしてもう一度顔だけ振りかえり、曹操は口を開いた。
「この戦乱の時代、いずれ矛を交えることもあるでしょう。 その時まで、せいぜい生き抜くことね。」
「あぁ・・・お互いにね。」
「フフ・・・・ではまた会いましょう。」
「・・・曹操さん。」
「・・・何かしら?」
歩き出そうとした曹操を、一刀は呼びとめた。
「それだけを言う為に、ここに来たのかい?」
「・・・さて、どうかしらね。 ただ天の御遣いという男が気になったから・・・ということにしておきましょうか。」
「・・・そっか。」
「えぇ。 それじゃあね、一刀。」
それだけ言って、曹操は歩き出した。
去っていく彼女の背中を一刀はしばらく見つめていた。
「・・・ご主人様?」
「!・・・あ、あぁ・・何?」
「もしかして・・・曹操さんに言われた事、気にしてるの?」
不安げな表情で一刀に問いかけてくる桃香の頭に、一刀は“ポン”と手を置いて。
「大丈夫だよ・・・それより桃香、皆、ありがとうな。」
「へ?」
なぜお礼を言われるのかが理解できず、桃香は首をかしげた。
だが、一刀はどうしてもこれだけは言っておきたかった。
あの時、皆が曹操の前で思いを伝えてくれたおかげで、頭の中の迷いを消し去ることができた。
戦う勇気をもらった。
生き抜く覚悟をもらった。
自分についてきてくれると言ってくれたことが、一刀は本当にうれしかった。
「俺、もっと頑張るよ。 皆の期待に応えられるように。」
「ご主人様・・・」
孫策、そして曹操。
この日、三国志を代表する二人と出会い、一刀は感じていた。
今のままでは、彼女たちの足元にも及ばない。
世の中を平和にするだなんて、今の自分には口にする資格もない。
しかし同時に、この戦乱の時代を戦い抜き、必ずこの大陸に平和をもたらす覚悟を決めた。
それは自分ひとりの力では到底無理な話で、そこまでの大言壮語を吐くつもりはない。
だが、ひとりでできないことなら、仲間と共にやればいい。
自分には自分を信じ、支えてくれる大切な仲間がいるのだから。
彼女たちと一緒なら、やれそうな気がした。
やらなきゃいけない気がした。
一度力を貸すと約束したのならば、最後まで彼女たちと共に戦おう。
一刀はそう心に決めた。
「さぁ、戦いは終わったんだ。 帰ろう、俺たちの街に。」
「うん♪」
「はいっ!」
「おーっ!」
「はい。」
「はい♪」
「・・・はい♪」
――――――――――――――――――――――――――――――
「華琳さま・・・よろしかったのですか?」
「あら、何が?」
「あの天の御遣いとかいう男の事です。 あのままにしておいてよろしいのですか?」
「・・・そうね、一度会ってみてつまらない奴ならばすぐに潰してやるつもりだったのだけれど・・・まぁ、今回は及第点ということにしておきましょう。」
「・・・・はぁ。」
「フフ、北郷一刀・・・ね。 これから楽しくなりそうだわ。」
――――――――――――――――――――――――こうして、この日大陸を混乱に陥れた黄巾の乱は、曹操孟徳の勝利という結果と共に終わりを迎えた。
―――――――――――――――――――――
〜〜一応あとがき〜〜
さて、というわけで黄巾党編最終話です。
前回のあとがきにも書きましたが、結局華琳の一人勝ち〜ってことで終了ですww
それから、今回が華琳と一刀のファーストコンタクトになりました。
華琳の雰囲気がちゃんと出せたか不安なところです・・・(汗
え〜、次回は拠点話第二段です。
主役は桃香の予定。
ではでは、また次回読んでいただけることを願います。 ノシ
説明 | ||
七話目です。 ついに一刀と華琳が接触ww そしてこの話で黄巾党編は終了ですww |
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コメント | ||
砂のお城さん、いつもコメントありがとうございますww 少しでもコメントをもらえることが書いているほうとしては何よりうれしいですww(jes) | ||
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