〜魏志恋姫伝〜10 |
最終話 三羽烏 黄巾の終焉
「桂花。これみてどう思う?」
俺は先の戦いで正式に軍師になった荀ケ・・・桂花に竹簡を渡しながら意見を求めた。
「この情報を何処から仕入れて来るのか知らないけれど、これが本当なら黄巾党はこのまま大陸を南下するでしょうね。」
「やっぱり桂花もそう思う?それならこれを華琳に届けてくれないか?」
「何で私があんたの言う事聞かなきゃならないのよ?」
「おや?せっかく華琳と話す口実をあげたのに・・・。仕方ない。俺がこれを報告して閨にでも呼んでもらおうか。」
「だ、誰も行かないなんて言ってないでしょ。」
桂花は慌てて、俺から提出する予定の竹簡を奪い取って行ってしまった。
「くすっ。素直じゃないね。」
桂花の後ろ姿を見て俺は思わず、笑みがこぼれた。
桂花には軍師の他にも政務の方にも手を貸してもらっている。
王佐の才と言わしめるだけあって、仕事の効率も上がり大分余裕ができた。
俺は政務室を出て、玉座の間に向かった。
俺は王座の間の前に立ったが、何かを忘れているような気がする。
「華琳、俺だ。入って良いか?」
「一刀?いいわよ。」
「か、華琳様?」
「桂花?誰が止めていいなんて言ったかしら?」
俺が玉座の間に入ると、華琳が玉座に座り、その前に桂花が跪き華琳の足を丹念に奉仕している。
―忘れてた。しかし良かった、まだ脱がせる前で。
固まっているわけにもいかないのでとりあえず華琳の前に来た。
「邪魔したか?」
「大丈夫よ。」
「なら良いが。」
「うぅ。華琳様。」
「ほら、桂花。口が止まってるわよ?」
「1週間ほど空けるが良いか?一応、本隊の討伐戦までには帰ってくるつもりなんだが?」
「討伐に間に合うのであれば、構わないわ。でも、帰ってきたら何をしていたかをちゃんと説明なさい。良いわね?」
「ああ。じゃあ行ってくるよ。」
俺が玉座の間を出たらすぐに、桂花の悦楽の声が聞こえた。
「さて、俺も桂花が華琳の相手をしている内にやる事を終わらせますか。」
俺は部屋に戻り、荷物をまとめた。そのまま馬小屋に愛馬の飛影を受け取りに行く。
飛影は、華琳の愛馬の絶影の兄弟馬であり、体格も良く、普通の馬の二倍程の大きさである。
色は黒毛で漆黒の闇を思わせるようで、毛並みがとても良かった。
俺は飛影に鐙を付け跨がった。そして腹を蹴り、飛影は力強く駆けだした。
今回の目的地である洛陽へと。
それから数日後。
秋蘭と季衣は先行部隊として町で族と交戦中だった義勇軍と合流した。
義勇軍は楽進、李典、于禁の三人が中心にこの町を防衛していた。
「李典。この町の各門の状況は?」
「西門、南門の修復は終わっとる。せやけど北門と東門がなぁ。特に東門何て攻められれば、あっと言う間に落とされるで?」
「そうか。季衣と于禁と李典は北門。私と楽進は東門を防衛する。勝つことは考えるな耐える事だけを考えろ。今を耐えれば華琳様の本隊が来る。」
「はーい。」
「了解しました。」
「了解なの。」
「了解や。」
北では新しく入った季衣が賊を吹っ飛ばす。
「この町の人たちは、ボクが守る。」
季衣の武に鼓舞され、周りの兵の士気が上がる。
「沙和も負けないの。」
「ウチかて、負けへんで。」
于禁、李典も季衣の後に続き敵を蹴散らして行った。
時を同じくして東門は、秋蘭が弓兵隊を率いて敵にむかい弓を放った。
矢は吸いこまれるように敵に降り注いだ。
動きが鈍った所に楽進が氣弾を打ち込む。先ほどからこれを繰り返しているのだが、敵が減る様子がない。むしろ増えているように思える。
それもそのはず、北門からの進行が無理と判断した賊の頭が東門に向かうように指示を出したのだから。
そして、この状況に楽進は焦っていた
「このままではジリ貧だ。」
「楽進。今は耐えるんだ。」
「分ってます。でも、このままじゃ。」
「将が焦れば兵が浮足立つ。なら今する事は何だ?」
「くっ。今は耐え忍び、援軍と共に賊を撃つ。」
「分っているなら、目の前に集中せよ。」
秋蘭の言葉に楽進から焦りの色が消え、冷静さを取り戻す。
楽進は右腕に氣を集中させ、一際大きい氣弾を敵に解き放つ。
目の前の賊が弾き飛ばされ、敵中にぽっかりと穴が開く。
秋蘭は楽進の姿を見る。
―これならもう大丈夫だろ。さて、私も負けてられんな。
秋蘭はそう思いながら弓を番えた。
そして約2刻後その時は来た。
「夏候淵様。敵後方に援軍が到着いたしました。」
「そうか。皆の者良く耐えた。これより援軍との挟撃に移る。全軍突撃!!」
敵はあっと言う間に瓦解した。
北郷隊が横撃をかけ、敵を分断した。
突然現れた敵に、動揺が広がり浮足立ったところを無数の弓が降り注いだ。
黄巾党は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
それを華琳達は確実に打ち取ってゆく。
華琳達は秋蘭達と合流した。
「秋蘭。それに貴方達もよく頑張ったわね。」
「華琳様。」
「曹操様。」
「貴方達も休んでちょうだい。残りは一刀と春蘭、流琉に任せておけば大丈夫でしょう。」
「「「はっ。」」」
しばらく経つと本隊に春蘭、流琉が合流する。
遅れて直ぐに俺も合流した。俺は敵陣内で見つけた、美少女三人を連れて華琳の下に向かった。
「華琳。土産だ。」
「一刀、その子たちは?」
「ああ張三姉妹だ。」
俺は友達を紹介する感じで言った。そしてこれからの事を予想し自らの耳を塞ぐ。
「「「ええーーーー!!」」」
大絶叫がこだまする。
「敵の本陣で幽閉されてた。」
「そう。手配書とは全然似てないわね。貴方はこの子達をどうするつもりなの?」
「それを決めるのは華琳だろ?」
「そうね。貴方達はどうしてこんな事をしたのかしら?」
「私達はただの旅芸人で祭り上げられただけなんです。」
「そう。でもきっかけを使ったのは貴方達なのは、分かっているのでしょう?」
「はい。」
「もし、償いたいと言うのなら私の下に来なさい。私なら貴方達の手綱を握れる。決してこのような事にはさせない。」
「いいんですか?」
「ええ。この曹孟徳に二言は無いわ。」
朝廷には男の首が3つ届けられ、曹操が張角らを打ち取られた事が大陸中に広がった。
各地でも黄巾党が討伐され数を減らした。これにより黄巾の乱は収束した。
賊たちも減り平和が戻ってきたように見えた。しかし、それはただの仮初でしかなかった。