かみなり
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神様───。

 

 

 

西洋では一般的な神様というとイエス・キリストや全知全能の神ゼウスなどが挙げられる。

 

日本においても天照大神や鬼子母神等、八百万の神々と言われる位沢山の神様がいる。

 

身近なものを挙げると、お地蔵様、座敷童子、七福神……

 

そして、各土地を守る土地神、またの名を産土神。

 

さて、今こうしてたくさんの神様を紹介したが、それを踏まえてあえて言わせていただこう。

 

 

 

 

俺が土地神だ!!

 

 

 

 

……どこのロボットアニメだよ。

 

 

 

 

しかしこれがネタではない。今現在、本当に俺は神様に成っているのだ。

もちろん、生まれた時は普通の人間だったし、ついこの間まで一般的普遍的な一高校生として何の変哲も無い日常を暮らしてきた。

 

では、なぜ俺は土地神なんぞになってしまったのか?

そしてもう一つ、なぜ今土地神である俺は妹によって正座させられているのだろう?

それら全ての問題を解決するべく、俺は朝からの出来事を回想し始めた。

 

 

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「ふぁあ〜〜、おはよう」

 

「あ、やっと起きてきた」

 

朝7:00、俺はいつも通りに起床した。

 

「光一にぃ、早くしないと学校に遅れちゃうよ!」

 

そういい俺を急かすのは妹の高橋 真紀恵。

今年から俺と同じ県立南高校の1年生になった。

 

「そんなに急がなくてもまだ時間に余裕あるだろ」

 

そういって、俺は朝食を食べ始める。

まだ急ぐような時間じゃないんだ。まだ……。

 

「ピンポーン」

「あ、ほら美柚さん来ちゃったよ!?」

「………………」

 

しばしの無言を返事にし、残りの朝食を超速でかっ喰らう。

……いや、ダジャレとかじゃなくて。

 

「ごちそうさま!」

 

きちんと食後の挨拶を済ませ、すぐさま準備を整える。

その間2分。

まあ、色々準備に時間のかかる女子と違って、男子なら本気を出せばこんなもんだ。

 

「準備終わった? 早くしてよもぅ」

 

俺は促されるままに急いで玄関へ向かう。

 

「おはよう光一くん」

 

すると玄関先に、幼馴染の佐倉 美柚が立っていた。

 

「悪いな待たせて」

 

俺は軽く美柚に謝り、そして学校へ向かった。

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「よお」

 

登校して席に着いていると、クラスの男子に声をかけられた。

 

「おう、おはよう」

 

「なあ、今日の英語の小テスト、自信あるか?」

 

朝っぱらから小テストなどという暗い話題に俺は、

 

「自信? そんなもの無いな」

 

と答えてやる。

 

「そうか……実は俺もなんだ」

 

という答えが帰ってくるのが、最早いつもの定番だ。

 

「仕方ないな、みゆちゃんから出そうな所聞いてくるか」

 

「だな」

 

ちなみに美柚は俺たちとは違い、学年でも上位の成績である。

従ってよく俺達は美柚に助けを求める。

 

「みゆちゃ〜ん、小テストで出そうな所教えてくれ〜」

 

「えー、また? たまにはちゃんと勉強しないとダメだよぉ?」

 

といいつつ早速ワークを開く。

 

「いい? まず最初に先生の狙いそうな難しい単語から教えていくね」

 

美柚は俺たちに分かりやすいよう、単語とその意味、あと簡単な用法を教えてくれた。

感謝しながら、俺たちは美柚の示した単語を必死に覚える。

 

「とりあえず、これだけ覚えてくれれば合格点は取れると思うよ」

 

「ありがたや〜美柚大明神さま〜」

 

「ちょ、ちょっと、やめてよぉ」

 

そんなこんなで、今日もまたいつもと変わらない学校生活が始まった。

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「起立、礼、着席」

 

「はい、それじゃあ帰りのHR始めるぞ」

 

今日も取り立てて変わったこともなく、いつもどうりに一日が終わろうとしていた。

 

「よし、じゃあ今日はここまで」

 

「起立、礼」

 

HRが終わり、放課後となる。

 

「光一くん、今日は放課後何か用事ある?」

 

「いや、特に無いよ」

 

「じゃあ一緒に帰ろ」

 

「オッケー」

 

特に誘いを断る理由も無い俺は、美柚と一緒に帰ることにした。

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今は6月、時期が時期なだけにここの所ずっと雨が降っていた。

今日は今のところ雨が降っていないが、天気はずっと雲がかったままで今にも雨が降りそうだ。

一応折り畳み傘を常備しているが、それでも雨が降る前に帰れたことに越した事は無い。

俺と美柚はいつもより心もち早歩きにしていた。

 

「でチャンスだ! と思った俺はボールを取り返すために思いっきりボールを蹴ったわけだ」

 

「うん、それでそれで?」

 

「蹴った先に味方がいなくて、運悪く自分とこにゴールしちまった」

 

「えええっ! オウンゴールしちゃったの!?」

 

「そういうことになる」

 

「あらら……」

 

帰り道、美柚と今日あったことを語り合っていた。

今日はさっきも言った通り雨が降らなかったので、体育の時間に屋外でサッカーをしていた。

 

笑いあいながら歩いていると、ふと急に美柚が歩みを止める。

 

「ん? どうした?」

 

「あれ……」

 

「?」

 

美柚が指差す先を見ると、そこに綺麗に青白く光る石が落ちていた。

 

「何だか綺麗だね」

 

「そうだな、どれ」

 

その石にちょっとだけ興味を引かれた俺は、何気なくその石を拾い上げてみた。

 

「!」

 

すると突然、石から発せられる光が急激に強くなって、俺の視界が青白い光に包まれた!

 

「!?」

 

次の瞬間、俺の視界が暗転し、俺の意識は深淵へと沈んでいった。

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「う……ん……」

 

目を覚ますとベットの上だった。

 

「あ、光一にぃ?」

 

「目、覚めた?」

 

ベットの横には、美柚と真紀恵がいた。

 

「よかったぁ、光一くんが倒れた時はどうしようかと思ったよ」

 

「もぉ、心配かけさせないでよ」

 

どうやら二人とも俺のことを心配してずっとベットの近くにいたようだ。

 

「……悪いな二人とも。もう大丈夫だから」

 

そういい俺はベットから起き上がろうとする。

 

「あ、まだだめだよ! 今日はこのまま寝てないと」

 

と、美柚に制止されてしまった。

 

「……分かったよ。今日はこのまま寝てる」

 

「うん。それじゃ、そろそろ私帰るね」

 

「ああ、ありがとう」

 

「私からも、光一にぃを助けてくれてありがとうございます」

 

「べ、別に助けただなんて、ただ私は近くの人に助けを求めにいっただけだよぉ。家ももう近かったし」

 

「それでも、ありがとう」

 

俺は強く美柚に感謝する。

 

「……うん、今日はゆっくり休んでね」

 

「ああ」

 

そうして美柚は帰っていった。

 

「じゃあ晩御飯は部屋に持ってくるね」

 

「重ね重ね悪いな、本当に」

 

「いいって別に、それよりさっさと治しちゃってよね、メンドーなんだから」

 

「分かってる。明日には復活するさ」

 

「ま……まあそんなに急がなくてもいいけどね」

 

そういって真紀恵は下に晩飯を取りに行った。

何でアイツ、最後ちょっと照れてたんだ?

まあ、いいか。

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飯を食って、俺はすぐに眠りについた。

しかしあまり早くに寝てしまうと、ついどうしても夜中に目が覚めてしまう。

 

「何か飲みに行くか」

 

そう呟いて俺はベットから起き上がろうとする。

しかし次の瞬間、俺は思わずその場で凍りつく。

 

なんと、俺のベットの横に着物を着た見知らぬ女性が立っているではないか!

……女、だよな? 暗くてよく見えないが、髪が長いし、着物もどことなく女物っぽいので恐らく女性だと思われる。

 

「……目が、覚めたか?」

 

「へ?」

 

突然の問いに、俺は思わずマヌケな返事をしてしまう。

 

「じゃから、目が覚めたのかと聞いておるのじゃ」

 

「あ……はい」

 

喋り方もえらく古風なものだ。一体コイツは誰なのだろう?

 

「ふむ、まあよい。とりあえず、まずお主の疑問に答えてやらねばな」

 

「へ? 俺まだ何も言ってませんけど」

 

「お主のいいたいことなど分かりきっておる。大方、コイツは誰だろう? とか、そんなことを思っておるのじゃろう?」

 

おお、ビンゴ!

 

「ならまずは自己紹介じゃな」

 

そういって、その女性は一息置く。

一瞬、部屋の中の空気が澄み渡る。

そしてその女性は自らの名前を告げた。

 

「妾の名は楓葉之比売命、この辺の土地を任されておる神じゃ!」

 

「………………」

 

再び空気が澄み渡る。

次の瞬間、俺は携帯を開き、開いてから悩む。

 

「うーん、110番にかけたものか、119番にかけたものか……」

 

「おい、お主全部聞こえておるぞ」

 

「は、しまった! 不審者は刺激しちゃいけないのに!」

 

「お主……妾にケンカ売っとるじゃろ?」

 

何にせよ、この女の人が危ない人であることには間違いない。

どうしたものか……。

 

「ふむ、やはり信じられぬか。まあ仕方の無いことじゃな」

 

そういうと、この女の人は俺の手から携帯をふんだくり……。

 

ふんだくり……。

 

……。

 

逆パカしやがった!!!

 

「あーーー!! テメェ何しやがる! 先月買い換えたばっかなんだぞそれ!」

 

俺は当然の怒りをこの女にぶつける。

しかし、女は一向に怯むことなく、

 

「携帯一つ逆パカされた程度でギャアギャアうるさいのお。ほれ、これでよいじゃろ?」

 

女は真っ二つの携帯をテーブルに置き、パン! と一つ柏手を打った。

すると、携帯が眩い光に包まれそして……。

 

次の瞬間、携帯は見事逆パカ前の状態に戻っていた。

 

「マジかよ……」

 

「どうじゃ? 少しは信じる気になったか?」

 

そういい胸を張る自称神様。

 

「……で、何で俺の携帯を逆パカしたんだ?」

 

「証拠を示さねばお主妾のことを信用せぬじゃろ」

 

「それだけのために俺の携帯を逆パカしたのか!?」

 

「全くギャアギャアうるさいの。次はお主の体を逆パカしてやろうか?」

 

「………………」

 

一瞬にして血の気がひいていく。

 

「まあ、これで妾が神であるということは信じれるようになったじゃろう」

 

「確かに今のはすごかったけども……」

 

「なんじゃ? そんなに体を逆パカされてほしいかの?」

 

「……いいえ、サレタクアリマセン」

 

「なら信じるがよい」

 

「………………」

 

これもまた、「信じる者は救われる」ということなのだろうか?

何にせよ、とりあえずコイツが神であることを信じれば身体逆パカの刑は免れることができるらしい。

 

とりあえず、死ぬのはイヤなので今は黙って信じていることにしておこう。

 

「で、何で神様なんぞがごくごくありふれた一般的高校生男子の部屋なんぞにいるんだ?」

 

「そうじゃな、まず、お主はすでに一般的普遍的な男子高校生では無いと伝えておこう」

 

「……は?」

 

「じゃから、お主は今普通の人間では無いというておるのじゃ」

 

「ちょ、ちょっと待てよ、俺が普通の人間じゃなきゃ一体何なんだよ!?」

 

一気に俺はパニックに陥る。

そして次の瞬間、この自称神様からとんでもない事が告げられる。

 

「お主は今、妾たちのような神と同じものになっておる」

 

「はあ!?」

 

パニックは最高潮だ。

もう自分で自分が何を考えているのかすら分からない。

 

「why!? what!? when!?」

 

「落ち着け、whenは”いつ”という意味じゃ」

 

「そんなこと今はどうでもいい!! 一体何で!?」

 

するとこの自称神様はふうっ、と一つ溜息を吐いてから、事情を説明し始めた。

 

「お主夕方に青白く光る石を拾ったじゃろう?」

 

「ああ。それがどうかしたのか?」

 

「どうもこうも、その石が原因じゃ」

 

「はぁ!?」

 

俺は事情が飲み込めない。

 

「お主が拾った石は”神成石(かみなりいし)”といっての、本来は選ばれた御霊(みたま)、まあ幽霊のことじゃが、御霊に神としての力を与える、文字通り神に成る石なのじゃ」

 

なるほど、神様に成る石を拾ったから神様に、ね。しかし、

 

「ちょっと待てよ、それってその……御霊? だけに効果があるんじゃねえのか? 何で人間の俺にまで効果があるんだよ?」

 

「それはの、御霊というのは死体から抜け出た魂、つまりおおまかに言ってしまえば生きてる人間の体の中にも御霊があるということじゃ。まあ厳密にいえば少し違うんじゃが、今回のケースじゃとお主の体の中の魂が石の力で神格化したんじゃろうと思う」

 

「……て、ことは」

 

俺はゴクリとつばを飲み込む。

 

「そう、今お主は生きながらにして神、つまり現人神の状態ということじゃ」

 

な、なんだってえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!!??

 

俺はとうとう限界を突き抜けてフリーズしてしまう。

 

「しかしお主よく無事でいられたのお、あれは土地神用の石じゃったから石の力に負けてお主の魂が砕け散ってても、なんらおかしくなかったんじゃぞ?」

 

「そ……そうなのか?」

 

俺はかろうじて反応する。

 

「うむ。幸運に思うが良い」

 

信じられない話だ。石を持ち上げただけで魂が砕けるとか。

 

そもそも、魂の存在自体も怪しい。

 

「で、これって元に戻れるのか?」

 

するとこの……楓葉之比売命?長いから楓でいいや。

楓は難しい顔をした。

 

「まあ、戻れる事は戻れる」

 

その明るいニュースに俺の気分は幾分か明るくなる。

 

「が、しかし、すぐに戻すことは出来ん」

 

「な、何でだよ?」

 

納得できないので理由を聞いてみる。

 

「実はの、妾はお主と同じ土地神で、といってもかなり昔からやっていて力もお主よりずっと強いんじゃが、しかし一介の土地神の力では神を御霊に戻すなんていう高度なことは出来ないんじゃ」

 

「そんな……」

 

少し明るみがかっていた俺の気分が、一気に暗闇のドン底へ叩き落される。

 

「じゃあ、何でお前はここに来たんだよ……」

 

今俺が思うことを率直に言葉にする。

 

「もちろん、このまま打つ手なし、というわけでもない。妾の上役の神、まあ直属の上司なんじゃが、そやつならお主を元に戻せる」

 

その言葉で、再び俺の心に光が差しこむ。

 

「じゃが神の世界も面倒でのお、神一人を御霊に戻すには色々手続きが必要でな、しかも今回は特殊なケースじゃから通常半年のものがさらに1.5倍かかるらしい」

 

「9ヶ月……てことはあれか、今6月だから6+9=15、15÷12=1余り3、来年の3月!?」

 

なんてこった……。

 

「てなわけでじゃ、これから9ヶ月間、妾はお主の家で世話になることになった」

 

「……ちょっと待て、何でお前が俺の家で世話ならなきゃならないんだ?」

 

聞き捨てなら無いセリフにツッコミをいれる。

しかし、

 

「何でって……お主そんなデカい力を持ってて、しかも力の使い方も知らずに悪霊に襲われたりしたらどうするつもりじゃ? 恐らく魂を喰らわれて終わりじゃぞ」

 

「え……」

 

衝撃の宣告に、言葉も出てこない。

 

「じゃから、妾はお主をそういう性質の悪い霊から守る為に遣わされたんじゃ。お主とて、悪霊の餌にはなりたくないじゃろ?」

 

「まあ、そりゃあ」

 

「ならば妾にまかせよ。その代わりこの家に居候させてもらうぞ。なに、ほんの9ヶ月じゃ」

 

「う……うぅ……」

 

俺はいいんだけど、真紀恵が何ていうだろう。

そもそも説明のしようが無い。

 

「でわ、よろしく頼むぞ!」

 

なんだかな〜〜〜〜〜。

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─────────。

 

──────。

 

───。

 

そして、今に至る。

 

今の回想で恐らく一つ目の疑問は消えただろう。

だが、まだもう一つ疑問が残ってる。

そう、なぜ俺は今正座させられているのか、ということだ。

 

それは口頭で説明しよう。

なに、簡単なことだ。

 

昨日の晩、俺の部屋に珍妙不可思議で胡散臭い女が一人、突然入り込んできた。

名を楓葉之比売命というらしい。

その女はいきなり自分は神だとか言い出した挙句、俺に向かってお前はすでに人ではなく自分と同じ神だと言った。

そして、信じなければ体を逆パカするとか言いだす始末。

それが嫌で、とりあえず信じることにした俺。

しかも、そいつは言うだけ言った挙句俺を悪霊から守るから居候させろとか。

もうやだ。

 

さて、ここからが問題だ。

面倒なので手短にすませる。

俺の元へ来た……楓は、居候するだけに帰ろうとしなかった。

そして、俺はいくらかまた話をしてから、眠さのあまりベットに倒れこんだ。

 

……楓をほっといて。

 

最初は楓が耳元で色々騒いでいたのが聞こえていたが、そのうちすっかり俺は寝付いてしまった。

 

……楓をほっといて。

 

次の日、俺は真紀恵に起こされる。

まあ、それは良いんだ。

良いんだけど、何だか顔が笑っている。笑っててコワイ。

 

「おはよう、光一にぃ」

 

「あ……ああ、おはよう」

 

にこやかさを装って挨拶をする真紀恵。

しかし、全く装えていない。

 

「ねえ光一にぃ」

 

あ、声のトーンが一個落ちた。

これはちょっとマズいかもしれない。

 

「一個だけ……聞きたいことがあるんだ」

 

「……分かった。だけど、まず先に着替えるから部屋から……」

 

ふにゅ。

 

「………………」

 

今、横に手をついた瞬間、何かやわらかいものを掴んだけど……。

何だろう?

 

嫌な予感がする、しかし見ないわけにはいかない。

恐る恐る、俺は手元を確認してみる。

 

すると……。

 

……そこには、楓の胸を掴んでいる俺の手があった。

 

と、言う事はアレだ、俺のすぐ横に楓が寝ていたって事だ。

 

「その横で寝てる女の人、誰?」

 

俺はこの時、心底ツイて無いと思ったね。

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……あの後の事は正直、思い出したくも無い。

思い出したくも無いが一応説明しておくと、我を忘れた真紀恵に1時間も問い詰められた挙句、俺の答えに全く納得してくれず(まあ当然といえば当然だが)その後2時間もなぜか説教を喰らい、真紀恵が我を取り戻した時にはもう10時を過ぎてしまっていた。

 

時に現在、楓と真紀恵はというと……、

 

「ていうか、楓さんは今何歳なんですか?」

 

「ふむ、そうじゃの……ハッキリとは覚えてないが大体800歳くらいかの」

 

「えー! そんなになるんですか!?」

 

「うむ、まあ実際に土地神として仕事をするようになったのは500年ほど前じゃがな」

 

「そうなんですかー」

 

……何か、すごく仲良くなってたりする。

 

「……って、もう10時過ぎてる!? 大変だよ光一にぃ、もうこんな時間だよ!! 早く学校に行かないと!!」

 

「いやもう完璧遅刻だし急ぐ必要も無いだろう」

 

と、俺はツッコミを入れる。

 

「あ、そうだよね。もう間に合わないもんね。ならもういっそサボっちゃおっか」

 

「いや、それもどうかと思うぞ」

 

「えー、いいじゃん別にサボりの一回や二回くらい」

 

「そうじゃぞ。別に一回や二回くらい良いでは無いか。……ところで学校とはなんじゃ?」

 

「あ、学校っていうのは寺子屋みたいなもので……」

 

と、真紀恵が学校について説明を始める。

 

「ふむ、なるほど。何となくは分かったぞ」

 

と、楓も納得した様子。

 

「あ、あの〜」

 

「うん?」

 

楓と真紀恵の2人を眺めていると、横から声を掛けられる。

なぜかそこには美柚がいた。

 

「あれ? 美柚、お前何時からそこにいた?」

 

「ひどい! もしかして全然気付いてなかったの!?」

 

「ああ……」

 

「えええ!?」

 

と、美柚はひどくショックを受けているようだ。

 

「ガーン……」

 

「悪かったって、よしよし」

 

そういって軽く美柚の頭を撫でてやる。

 

「ふぇぇ」

 

半泣きになるくらいショック受けたのか、何か悪い事したな。

 

「ところで学校とやらは結局どうするんじゃ? サボるのか?」

 

楓は美柚をスルーして話を進めようとする。

 

「ところで、お前どこら辺から話聞いてた?」

 

念のため美柚に確認してみる。

 

「え? う〜ん、ハッキリどこから聞いてたかは覚えて無いけど、とりあえずその女の人が光一君と結婚するってことは分かったよ」

 

「……へ?」

 

「え? だってそうでしょ? これから一緒に暮らすんだよね?」

 

「いや、そうだけども……ちょっとまて、何で一緒に暮らす=結婚するになってるんだ!?」

 

「違うの?」

 

「違う違う全然違う!! つかそれなら真紀恵はどうするんだよ!」

 

「え、だって真紀恵ちゃんは妹だし」

 

「も、もしかして光一にぃ、わ、私と、結婚したいわけ? な、なにバカな事い言ってんのバカにぃ!!」

 

「バカにぃ言うな全然違うから!! てかバカ二回言っただろひでぇ!!」

 

「ほほぉ。 そうかそうか光一は妹愛好者だったか」

 

「お前まで何言ってんだ!!」

 

「こ、光一君がその……本気なら、私……」

 

「本気って何!? 俺は別にそんな気は無いよ!?」

 

「変態バカにぃ!!」

 

「あー何だかもうチクショーーー!!!」

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それから3人の誤解を解くための説明を最初からするのに(1人は絶対に楽しんでいるだけだったが)また時間を費やし、その後みんなで時計を目にした瞬間、

 

「あ、光一君、お茶淹れるから急須借りていい?」

 

「おう、かまわないぞ」

 

「あ、美柚さん私も手伝います」

 

「2人とも頼んだぞ〜」

 

今日は学校なんて無かった、そう暗黙のうちに意見が一致した。

 

「良いのか? 学校とやらに行かなくて。妾のことなら別に放っておいても構わぬぞ?」

 

「いや、学生には学生の事情というものが有ってだな、今から連絡も無しに学校に行くと何かしら面倒があるわけだ。というわけでもういっそ……」

 

「……分かった、もう言わずとも良い」

 

どうやら楓も分かってくれたようだし、今日はもう家でゆっくりしてよう。疲れた……。

あ、あと学校に電話して適当な理由話さないと。

仕事で海外に行っている親に間違っても電話が行くような事があったら……。

おお、怖い怖い。

 

「もしもし、2年4組の高橋光一です。今日朝から頭痛を催してですね……」

 

 

 

「……はい、はい。ではお願いします」

 

ガチャ。

 

軽い演技を入れながら何とかごまかした。

美柚は……あれでそういうところはしっかり? してるからもう連絡を入れているんだろう。

 

「光一くん、お茶持ってきたよ〜」

 

「おう、サンクス」

 

ちょうど美柚と真紀恵が帰ってきた。

俺はお茶を受け取って、一口飲んだ。

 

「そうだ美柚、お前学校に電話したか?」

 

念のため美柚に確認をとる。

 

「電話? それならここに来てすぐしておいたよ」

 

「そうか」

 

それを聞いて、またお茶を一口飲む。

 

「光一くんは?」

 

「ああ、俺は今電話しておいたよ」

 

「そっか」

 

「光一にぃ、私の事も言っておいてくれた?」

 

「おう、しっかり言っておいたぞ」

 

「怪しまれたりしなかった?」

 

「まあ、ちょっとだけな。とりあえず何とかごまかせたと思うけど」

 

「ふーん」

 

そう納得すると、真紀恵は美柚たちと話に行った。

 

「ふぅ……」

 

その時、ふと思い出して携帯を確認する。

思ったとおり、京太からメールが来ていた。

適当に返事を書く。

 

「送……信、と」

 

携帯を閉じ、俺も話の輪に加わった。

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夜───。

明日からまた学校に行かないといけないので寝ようとベットに入った直前にノックが聞こえてきた。

 

「まだ起きておるか?」

 

「おう、起きてるぞ」

 

そう返事をすると、楓が入ってきた。

 

「どうした?」

 

「いや、お主に少し必要な知識を与えてやろうかと思っての」

 

「必要な知識?」

 

俺は思わず首をかしげる。

 

「うむ。今お主は期せずして神になっておる。じゃが神といえども力の使い方もお主に害をなそうとする輩についての知識も知らぬお主は奴らにとって格好の標的じゃ。じゃから主に色々教えてやろうと思っての」

 

「……」

 

「ん? 何か問題でもあるか?」

 

「ほら、俺明日学校だし」

 

「差し支えない程度に済ませる。まあとりあえず聞け」

 

「ああ……」

 

そう言われて、折角なので少し聞いてみる事にした。

俺の命にも関わりそうだし。

 

「さて、ではまず低・中級の悪霊への対抗術から教えようかの」

 

そう言い、楓は早速話し始めた。

 

「まあ力の弱い霊なら特別な事をせんでも神の力をぶつけるだけでいいんじゃがの、お主はまだ力を自力で出す事が出来ないじゃろ? じゃからしばらくは道具の力を借りる」

 

と言って、俺に黒い扇子を渡してきた。

 

「この扇子は神器といってな、神の力を補助するものじゃ。とりあえずしばらくは寄ってくる霊はこれで一発殴れば良い」

 

「はあ……」

 

「次に扇子で殴っても効果が無い強力な悪霊の対処法じゃが……」

 

「どうすんだ?」

 

「今のおぬしにはどうにも出来ん。逃げよ」

 

「ええ!?」

 

「一応今のお主でも使えそうな簡単な術や結界を教えるからそれを駆使して妾のところまで逃げて来い」

 

「なんと言う……」

 

そして楓は俺にいくつか術を教える。

 

「この呪文を唱えると神の力の塊を弾丸のように飛ばすことが出来る。本来妾のような神はこれを基本にして霊を滅するが、お主が飛ばせる力がまだ弱いし牽制以外にはほとんど使えんはずじゃ」

 

他にも対霊用の罠みたいなものや簡単な結界を教わった。

 

「よし、こんなもんじゃろう。しっかり身に付けるんじゃぞ。でわの」

 

そう言って楓は部屋を出て行った。

 

……まあ、そんな急に襲われたりしないだろう。

たぶん、きっと、メイビー。

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「起立、礼」

 

「気をつけて帰れよ〜」

 

帰りのSHRが終わり、教室が一気に騒がしくなる。

これから部活動に励む者、帰りがてら寄り道する者、塾で勉強する者……。

俺はそのどれにも属せず、ただまっすぐに家路に着くのみである。

 

「……結局、何も起きなかったな」

 

少々残念そうに言ってみる。と、言うか正直残念である。

 

期せずして身につけた力とはいえ、こんな珍しい体験はそうそう無い。

ちょっとだけ力を使ってみたかったが……、

 

「まあ、そうそう来るわけが無いか」

 

悪霊に襲われない=命が危険に晒されない。

うん、ポジティブシンキング。

 

「よお、一緒に帰ろうぜ」

 

「あ、ごめん今日委員会があるから無理なの」

 

「そうか……」

 

美柚を誘ってみるがあえなく撃沈。

仕方なくもう片方に誘いをかける。

 

「よお京太、久々に一緒に帰らねえか?」

 

「ん? 光一か、すまねえな実は英語の大沢に呼び出し喰らったんだ」

 

「ほお、また何で」

 

「週末課題をやってなくてな」

 

「……ざまあ」

 

「酷いっ!?」

 

英語科の大沢はひたすらに厳しくて、あいつの宿題をやらないだなんて勇者かバカのすることだ。

 

「まあ、がんばれや」

 

「うう……、つう事だから、今日は一緒に帰れねえ」

 

「了解、じゃあな」

 

「おう」

 

京太も撃沈。

寂しく一人で帰るしかないようだ。

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「はあ……」

 

家ももうすぐというところで、ふと空を見上げてみる。

そろそろ薄っすらと赤くなってて、思わずこう、何だか寂しいような、切ないような、不思議な気分になる。

まして周囲には自分ただ一人。こういう気分にもなるものだ。

 

「……?」

 

再び前を見ると、目の前に黒いモヤモヤがあることに気付く。

徐々にそれは形を成していき……。

 

「!?」

 

人形(ひとがた)になったかと思うと、突然俺に向かって突っ込んできた!

 

「うおわああああ!!!」

 

俺は咄嗟の事に反応しきれず、そのままその黒いモヤモヤとモロにぶつかってしまう。

 

「くぅ……!」

 

そしてそのまま俺に纏わりついてきた。

 

俺は必死になって振り払おうとするが、それは煙を振り払うのと変わらず、徒労に終わる。

 

俺はこのままこの得体の知れないものに魂を食われてしまうのだろうか───?

 

ふと不吉な考えが頭をよぎる。

 

しかしその瞬間……、

 

「───!」

 

俺は咄嗟に左ポケットに突っ込んである扇子を取り出して、それをがむしゃらに振り回した。

 

「この! えい! この野郎!!」

 

その姿は何とも滑稽で、それはもう見られた瞬間しかるべき機関へ通報されること間違い無しと言う位おかしな姿だった。

 

しかしどうやら効果は有ったようで……、

 

「キャアアアアアアアアアア!」

 

と、一つ叫び声があがったかと思うと、そのまま俺に纏わりついていた黒いモヤモヤは、そのまま霧散していった。

 

「……」

 

周りには、もう何もいないようだ。

それを確認すると同時に、安堵感と一抹の恐怖が芽ばえる。

 

「───!」

 

気が付いたら、俺は家に向けて走り出していた───。

-14ページ-

「楓!!」

 

「ん、どうした?」

 

家に戻ると、楓は居間のテーブルに座ってお茶を飲んでいた。

 

「な、なな、何か黒い変なのが、俺に纏わりついてきて!」

 

「とりあえず少し落ち着かんか、ほれ、これを飲め」

 

そう言って俺に緑茶を差し出す。

 

「おお、サンキュ」

 

そう言って渡されたお茶を一気飲みする。

 

「うむ、良い飲みっぷりじゃの。そんなに妾との間接キスが良かったのか?」

 

「ぶふぉ!?」

 

楓からそれを聞いて、俺は思わず吹き出してしまう。

 

「おま、そういうことは先に言え!!」

 

「先に言えって……今まで妾がそれを飲んでいたのはお主も見たじゃろうに」

 

「そんなの気にかける余裕があるかー! 大体お前は……」

 

「……逆パカ」

 

「すみませんでしたっ!」

 

情けなくも素直に引き下がる俺。

身体逆パカだけは絶対に御免だ。

 

「さて、じゃあ落ち着いたところで何があったか話してもらおうかの」

 

「お、おう……」

 

俺はさっきあったことをすべて楓に話した。

 

「ふむ……ならば何の問題も無いな」

 

「……へ?」

 

楓の言葉に一瞬耳を疑う。

 

「な、何の問題も無いって……」

 

「とり憑かれたわけでもあるまい。霊を祓えたならば何の問題もなかろう」

 

「だけど……」

 

「これからも同じことが続くからの、慣れるまで頑張ることじゃ」

 

「……」

 

絶対、そんなのに慣れたくねぇ!!

 

「それじゃあ、妾はここでくつろいでる予定じゃが、お主はどうする?」

 

「……少し寝る」

 

「そうか、夕飯までには起きて来い」

 

「分かった」

 

そうして俺は自分の部屋に戻りベットに突っ伏した。

-15ページ-

「……はぁ」

 

枕に顔を沈めて、軽く目をつぶる。

 

そして、さっきあったことを思い返す。

 

「……っ!!」

 

瞬間、俺の身体が震えだす。

 

部屋は十分暖かい、むしろ少し暑いくらいなのに、だ。

 

「くそっ、もうやめた!」

 

俺はそう一言言い放つと考えるのをやめて目を瞑った。

 

 

 

「……にぃ、光一にぃ!」

 

「……あ、真紀恵か……どうした?」

 

「お夕飯出来たから起きて」

 

「おう、今行く」

 

「早くしてねー」

 

「分かってるよ」

 

そして真紀恵は俺の部屋を出て行った。

 

「さて、じゃあ飯食いに行くかな」

-16ページ-

「いただきまーす」

 

「はい、召し上がれ」

 

こんな年になっても食事の前にはちゃんと挨拶する俺、えらい……。

まあ、ちゃんと挨拶しないと真紀恵に起こられて、最悪しばらくの間色々とひもじい思いをするからなのだが……。

 

この家の家事はほとんど真紀恵がやっている。

時々俺も手伝うが、俺に手伝えることも限られている。

そう、例えば料理とか……。

 

「光一にぃ、そのおひたしちょっと味つけ過ぎた気がするんだけど、どう?」

 

「そうか? 俺はおいしいと思うけど」

 

「本当!? よかったぁ」

 

なんて会話もしばしば。

 

「まだまだあるから、いっぱいおかわりしてね」

 

「おう」

 

ああ、俺は料理の……、

 

「ああ、俺は料理の上手な妹を持って幸せだ!! って顔をしておるの」

 

「心の中を覗くんじゃない」

 

「何を言うか、顔に出てるといっておるじゃろう。第一、妾がお主の心を読もうものなら、お主の現時点での感情や思考だけでなく、お主がベットの土台とマットの間に数冊のエ……」

 

「うわぁー!! ストップストップ!!」

 

「ふふん、妾の手に掛かればこんなもんじゃ」

 

「……」

 

ああちくしょう! 今ので絶対に勘付かれちまった!

後で場所を変えねば……。

 

「うん? なになに、次の隠し場所は……」

 

「だからそれ以上言うなー!!」

 

「いえ楓さん、かまわず続けてください」

 

「まて真紀恵、お兄ちゃんは何もやましいものなんて隠して無いぞ!?」

 

「そうなんだ、それなら何言われても大丈夫だよね?」

 

「うぐっ!」

 

「さあ楓さん、早く続きを教えてください」

 

「と言っておるが、どうする?」

 

「お願いします本当にお願いしますお願いしますからそれ以上何も言わないでくださいお願いします」

 

「止めるってことは何かやましいものを隠してるんだよね? 自供した方が絶対楽だよ」

 

「オネガイシマスオネガイシマスコレイジョウナニモキカナイデクダサイ」

 

「さぁて、光一にぃは何を隠しているのかな〜」

 

「やめてー!!」

 

 

 

「よくもやってくれたな……」

 

「ははは、すまんすまん。ほんの茶目っ気じゃよ」

 

「危うく茶目っ気で済むレベルじゃ無くなるところだったけどな」

 

あの後俺は懸命にあの手この手で真紀恵をごまかして危機を脱した。

 

「まあ、お主も年頃の男じゃしの、咎めはせんが……ところでいいのか? 本の場所を変えなくて? 多分あやつお主の部屋を調べると思うぞ」

 

「そ、そうだな。ちょっと場所移してくる」

 

「次はもっとばれにくい所に隠せよー」

 

「いやどうやってもお前にはばれるだろ!?」

 

しっかり突っ込みを忘れずに、俺は2階の自分の部屋に戻り本の位置をひとまず色んなプリントを挟んであるファイルの中に移した。

 

後でもっと良い場所を考えなければ。

-17ページ-

楓が居候を始めてからもう1ヶ月経った。

その間に大きな出来事があったとするならば、精々梅雨が明けたことくらいだろうか。

当たり前のことではあるが、それでもちょっぴりうれしい。

 

そして、それに伴い平均気温は一気に上昇。

ここ数日、ずっと暑い日が続いている。

 

「……暑い」

 

「本当だねー、ここの所一気に暑くなったからね」

 

例によって、俺と美柚は一緒に帰り道を歩いていた。

 

住宅街の人目につきづらいところにさしかかる。

すると……、

 

「うぉあぁぁぁ……」

 

「……またか」

 

これまた例によって黒いモヤモヤが現れた。

最初こそ酷くビビっていたが、さすがにここ1ヶ月、2〜3日に1回のペースで現れれば慣れもする。

 

「どうしたの? もしかして、またアレ?」

 

「ああ……」

 

美柚も、最初は俺が黒いモヤモヤに向かって扇子を振り回すと、「何か変質者みたいだね」とか言って若干引き気味になっていたが、今では、

 

「ふっ!」

 

扇子で一発小突いてやると、

 

「キャアアアアアアアアアア!」

 

と、毎度変わらない叫び声を挙げて消えていった。

 

「よし」

 

「いなくなったの?」

 

「ああ、いなくなった」

 

「最初はあんなに慌ててたのに、慣れたもんだねー」

 

「出来ればこんなことに慣れたくなかったけどな」

 

そういうやり取りをしながら、俺達は自分の家に帰っていった。

-18ページ-

ある日の晩、俺は暑さのせいで目を覚ました。

 

「……喉渇いた」

 

そう呟き、ベットから起き上がってキッチンへ向かった。

 

冷蔵庫の中から麦茶のボトルを引っ張り出して、コップに注いでそれを飲み干す。

そしてコップを洗ってから元の場所に戻して、部屋に戻ろうと思い後ろを向いた。

すると、俺の後ろに誰か立っていたので、一瞬声をあげそうになった。

しかし、すぐに真紀恵か楓だろうと思い落ち着きを取り戻す。

どっちだろうと思い、よく目を凝らしてそれを見てみた。

 

「え……」

 

だが、それは真紀恵でも楓でも無かった。

さらに直感が伝えてくる。

そもそもそいつは人じゃない、と。

では人で無ければ何なのだろう?

 

そいつの顔を見てみるが、目の辺りがぼやけて見えてハッキリしない。

足元を見てみると、若干透けている。

 

多分こいつは……、

 

「幽……霊……」

 

恐らく、幽霊に間違い無いだろう。

今まで見てきた黒いモヤモヤとは違い姿はハッキリしているが、家には今俺と真紀恵と楓しか居ないし、雰囲気的にもそんな気がする。

 

しかし、最近の俺はもう幽霊が出た態度ではビビらない。

俺は今までとは違うタイプの霊に戸惑いながらも、扇子を取りに一旦俺の部屋にもどろうとした。

だけど、幽霊をかわして行こうとしても、幽霊は常に俺の目の前に現れて交わすことが出来ない。

 

どうしたもんかと悩んでいると、俺はあることを思いついた。

俺は楓がやるように、柏手を打ってみる。

そして心の中で扇子が手元に現れる様を想像してみた。

そしたら、突然目の前が光ったかと思うと、俺の目の前に扇子が現れる。

俺はそれを掴み取り、自分が出せる最大限の「神様の力」を扇子に込めて幽霊に向かって扇子を振り下ろした!

 

「うおおおおっ!!」

 

バシンッ!

 

幽霊はほとんど動かなかったので俺の扇子は難なく命中した。

だが……。

 

「ォオオオオ……」

 

幽霊は消えず、軽くうめき声をあげるだけだった。

 

俺はめげずに続けて幽霊を扇子で殴り続ける。

 

しかし、何度殴っても幽霊はうめき声をあげるだけで、消える様子は一切無い。

 

「……マジかよ」

 

流石にそろそろ焦りが生じる。

そして、その焦りはいつしか恐怖に変わる。

 

「ア……アア……」

 

幽霊の手が俺の顔にのばされ、頬に触れる。

俺はそれに対し、身動き一つ取ることが出来ない。

全身は小刻みに震え、奥歯からもガチガチと音が聞こえる。

大声を出して助けを呼ぼうにも、声が出てこない。

俺はここで死ぬのか?

そんなことを思ったその時……、

 

「光一!」

 

後ろから誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。

そしてそれと同時にどこかで聞いたような柏手を打つ音が聞こえてきた。

すると……、

 

「ギャアアアアアアアアアアァァァァァ!」

 

幽霊は大きな叫び声をあげ、それと同時に足元から崩れ去っていく。

そして、そのまま全部消えていってしまった。

 

「大丈夫か光一!」

 

俺が安堵して床に崩れ落ちると、楓が俺に駆け寄ってくるのが見えた。

 

「あ、ああ。とりあえず大丈夫だ」

 

「全く無茶しおって……、なぜすぐに妾を起こしに来なかった!?」

 

「……」

 

言えない! 俺一人で大丈夫だろうと思ったら全然歯が立たなかったなんて絶対言えない!

 

「ふむ、そういうことじゃったか……お主、アホじゃろ?」

 

って、心の中読まれてるしぃぃぃ!!

 

「確かにあの霊はお主がこれまで見てきたものと同じ浮遊霊と呼ばれるものじゃが、同じ浮遊霊でも今出てきたものは形を成すほどに強力な力を持つものじゃ。今のお主では祓うことは出来ん」

 

「は、はぁ……」

 

「前に言ったであろう? どうにも出来ん霊が出てきたら妾のところに逃げて来いと」

 

「ああ、まあ、そうだな」

 

「今度からは無茶をするんじゃないぞ。死んでも知らんからな」

 

「分かった、悪い」

 

「うむ、分かったなら良い。それじゃあ妾は寝る。おやすみ」

 

「おう、おやすみ」

 

そうして、楓は自分の寝床へ戻っていった。

 

「……俺も寝るか」

 

一言そう呟いて、俺も自分の部屋に戻っていった。

-19ページ-

あくる日の日曜。

俺と真紀恵と楓は昼飯を食べた後、特にすることも無いのでリビングでくつろいでいた。

 

「ところで楓さんは普段私たちが学校に行ってる間何をしているんですか?」

 

「うーむ、特にこれといって何もしていないな。まあ午前中少しばかり家事を手伝って午後はゆっくり過ごしているかの」

 

楓が来る以前は家事はほとんど真紀恵がやっていたのだが、最近は仮にも居候という肩書きの為か、楓は家事の一部を快く引き受けてくれている。

 

楓に家事が出来ることを知ったとき、それを口に出したら身体逆パカに遭いそうになったのは、また別の話だ。

 

「まあ、特に何もしておらんな」

 

「そうなんですか、どこかに出かけたりとかもしないんですか?」

 

「そうじゃの……用事があるとき以外は外に出ないの」

 

「それじゃあ、これから3人でどこかに出かけませんか? 外はいい天気ですし、これといってすることも無いですし」

 

「おい待て、何で俺も行くことになってんだよ」

 

「どうせ光一にぃも暇でしょ?」

 

「俺には今新作ゲームを攻略するという使命がだな……」

 

「光一にぃはすっごく暇みたいなので皆で行きましょう」

 

「そうじゃな、光一はものすっごく暇みたいじゃから皆で行くとするか」

 

「おい待て、何でそうなる」

 

「家に引きこもってるよりずっといいじゃない」

 

「えー、外行くのダルーい」

 

「ほら引き籠りみたいなこと言っとらんでさっさと支度せんか」

 

「うー……」

 

結局俺は唸りつつも外に出かける準備を始めるのだった。

-20ページ-

「で、どこに行くんだ?」

 

「どこに行こっか?」

 

「決めてないのかよ……」

 

「たまには、どこと決めず街をぶらつくのも良かろ」

 

「あ、楓さんもそう思います?」

 

「うむ、家に引き籠ってるよりは幾分かマシじゃ」

 

「今までほとんど家から出なかったくせに」

 

「……逆パカ」

 

「すみませんでしたっ!!」

 

「とにかく、気になる場所に行ってみようよ」

 

「そうじゃな」

 

「……」

 

そうして少し歩いていると、真紀恵はある店の前で足を止めた。

 

「そうだ、ここ寄っていきませんか?」

 

その店は……、

 

「……ユニ○ロ?」

 

楓が店の名前を読み上げる。

一部伏字なのは……察してくれ。

 

「楓さん、あまり着るものを持ってないみたいだったので、この際だから何か他に着るものを買おうと思って」

 

「おお、それはいい考えじゃないか?」

 

「じゃ、じゃが妾は今服が買える金など……」

 

「別にそんなに高いものでなければ買いってやるよ」

 

「しかし……」

 

「良いじゃねえか。そうだ、ほら、この間俺を助けてくれたろう? そのお礼だ」

 

「それは妾はお主を助けるために来たからで……」

 

「これは俺からのちょっとしたお礼の気持ちだ、ダメか?」

 

頑なに断る楓に、俺は粘り強く食い下がる。

 

「……まあ、そういうことなら受け取ろう」

 

「ありがとうな、楓」

 

何とか楓は納得してくれたようだ。

 

そうして3人で店の中に入っていった。

 

 

 

「あ、楓さん、これなんてどうですか?」

 

「ほお、これはちょっとかわいいのお。どれ、試着してみるか」

 

そう言って楓はいそいそと試着室に入って行った。

 

店に入って一時間、センスに自信がない俺は服選びをほとんど真紀恵に任せていた。

しかし、未だに2人はいろいろな服を手に取っては、あーでもないこうでもないと話し込んでいる。

……正直な話、飽きてきた。

 

「光一にぃ、一応決まったからちょっとこっち来てよ」

 

2人のあとをついて歩くことに疲れて椅子に座って休んでいると、真紀恵が俺を呼ぶ声がした。

 

「おう」

 

返事をして楓が今使っている試着室の前まで来た。

 

「光一にぃこれ見たら絶対びっくりするよ」

 

真紀恵はニヤニヤしながら俺にそう言って、試着室のカーテンを勢いよく開けた。

 

「ジャーン!」

 

「ど、どうかの?」

 

「……」

 

「あ、あれ? 反応薄いなぁ」

 

「その……似合ってなかったか?」

 

「あ……え? あ、いや……悪い。その、ちょっと見とれてた」

 

「な……」

 

俺が正直にそう言うと、楓は一気に顔を赤くさせて……、

 

「そ、そういうことを真顔で言うんじゃない!! その、は、恥ずかしい……じゃろ……」

 

そう言うと楓は俯いてしまった。

そんな態度を取られるとこっちまで段々恥ずかしくなってくる。

 

「あのー、光一にぃ? 楓さん?」

 

真紀恵に呼ばれてそっちを見ると、真紀恵は何が面白くないのか、例によって目以外笑っている表情を取っていた。

 

「もうその服で良いのでしたら、お会計に行きましょう?」

 

「あ、ああ」

 

「うむ、そうじゃな」

 

そして、俺たちは会計を済ませて店を出た。

 

 

 

 

帰り道───。

 

服を買った後も色々な場所を回り、今は帰りのバスの中。

真紀恵は歩き疲れたのか眠っている。

全く、子供かっての。

 

「こ、光一?」

 

「うん?」

 

俺も半ば眠りかけていたら、楓が話しかけてきた。

 

「その……服、ありがとうの」

 

「良いって、この間のお礼のつもりでもあるし」

 

「でも、妾はとても嬉しく思っている。だから、ありがとう」

 

「……どういたしまして」

 

そんな会話をしていると、俺たちが降りるバス停が近づいてきた。

真紀恵は楓に寄りかかって眠っていて、起きる気配が無い。

 

「そろそろ、起こしたほうがいいかの?」

 

「そうだな」

 

そして真紀恵を起こし、俺たちはバスを降りてまっすぐ家に帰って行った。

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夏休み初日。

 

「光一、ちょっと良いか?」

 

午前中に宿題を進めた俺は、午後はもう何もしないと心に決めていたのだが……、

 

「今すぐに外に出る準備をしろ」

 

……どうやら俺に休める時間は無いらしい。

 

「どこに行くんだ?」

 

「神社じゃ」

 

「何でまた?」

 

「妾の上役……直属の上司にあたる神がおるのじゃが、そやつが一度お主と会ってみたいと申すのでな」

 

「ふーん……」

 

まあ、神様に会いに行くから神社へ。違和感は無いな。

 

「分かったよ、着替えるから少し待ってろ」

 

そう言って楓に部屋から出るよう促す。

 

そして楓が出て行ったらさっさと着替えをして、俺は玄関へ向かった。

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「ここじゃな」

 

家から歩いて約10分、俺たちは家から最も近い神社に来ていた。

 

「ここにお前の上司の神様がいるのか?」

 

俺は好奇心から質問してみる。

 

「いや、ここには居らぬ。正確に言うと向こうからここに降りてくるんじゃ」

 

「へー」

 

そんなやり取りをしていると、突如一陣の風が吹きぬける。

 

「……来たな」

 

楓がそう呟く。

 

その瞬間、目の前がまばゆい光に包まれ……なんてレベルでは無い!

 

「うおぉ!? まぶしっ!!」

 

余りにも強烈な光に、俺は顔を背ける。

しばらく目を開けられない時間が続いた。

 

光が徐々に引いてくる。

目の前が段々見えるようになってきた。

 

「……?」

 

そして、今まで俺と楓しかいなかったのに、いつの間にか俺たちの目の前に見知らぬ男が立っていた。

 

「……君が、高橋光一君か」

 

なぜかその男は俺の名前を知っているようだ。

 

「楓葉之比売命から聞いているよ。思った通りの子だね」

 

楓から話を……てことは……、

 

「あんたが楓の上司ってわけか」

 

「そういうこと。事情があって名前は名乗れないが、これからよろしく頼むよ」

 

「……? 名前を名乗れないって、どういうことだ?」

 

俺が疑問を口にすると、すかさず楓が補足を入れる。

 

「こやつ程の神になるとな、名前を名乗るだけで現世に大きな影響を与えることがある。ゆえにこやつは現世では知られていない神じゃ」

 

「まあ、神様が人々から祀られていないっていうのもどうかと思うけどね」

 

「はあ……」

 

どうやら、名前を名乗るだけで大変なことになるかもしれない、というのは何となく分かった。

 

「さて、じゃあ早速本題に入ろうか。高橋光一君、君は自分が神様であることをどう思う?」

 

「……はい?」

 

「早く答えてくれると助かる。僕は現世に存在してるだけで影響を及ぼすんだ」

 

「あ、はぁ……」

 

俺はとりあえず自分の思ったままに答えることにした。

 

「とりあえず、面倒だから早く元に戻りたいです」

 

「ふむ、早く戻りたい……ね」

 

その楓の上司は俺の答えに2,3回うなずき、次のようにきり出した。

 

「ねえ、君、このまま神様をやる気は無いかい?」

 

「……え!?」

 

予想外の展開に、俺は困惑する。

 

「そんな……じゃあ今までみたいに霊に襲われる生活を続けろって言うんですか!?」

 

「まあ、確かに今の状態を見ればそう言う取り方にもなるね」

 

楓の上司はそこで一回咳払いをして、俺に説明を始めた。

 

「今でこそ君は霊によく襲われている。霊からすれば君は人間としては規格外に美味しそうな魂の持主だからね。でも、それはあくまで君の力が未成熟の段階で、の話だ。君の力が完全なものになって、土地神としてある程度動けるようになれば君を襲う霊はいなくなる」

 

「でも俺は別にそんなものにはなりたくない」

 

「土地神としての力を手に入れれば、気の流れを自由に動かしたりできる。まあ、余りやりすぎると上の神に怒られるけどね」

 

「だから何だよ」

 

「確かに君に大きなメリットは無いように見える。でも、実はそうでもない。これは実際土地神になってみれば分かるさ」

 

「そんなもの知らな───」

 

「返事はすぐで無くてもいい。まあ、ゆっくり考えてくれ」

 

「断る」

 

「じゃあ僕はこの辺で引き上げる。後のことは楓葉之比売命、君に任せるよ」

 

「うむ、承知した」

 

「ちょっと待てよ!!」

 

「じゃあね高橋光一君、また会おう」

 

「だから待てって……」

 

その瞬間、再び強い光が発せられ、俺は目を覆う。

 

次に目を開けた時には、楓の上司はもうそこにはいなかった。

 

「……ちくしょう!!」

-23ページ-

家に帰ってきてから、俺はずっとベットの上に横たわりながらさっきのことを考えていた。

 

「……」

 

しかし、いくら考えてもただイライラしてくるだけだ。

 

「……くそ! 考えるの止めた!」

 

そのまま俺が寝ようかとして目を閉じると、真紀恵の声が聞こえた。

 

「光一にぃ、ご飯だよー」

 

「おう」

 

俺は腹が減っていることに気づいて、飯を食いに下へ降りて行った。

 

 

 

食後、俺は楓を呼び止めた。

 

「何じゃ?」

 

「さっき話されたことについて、だ」

 

「お主は神になんぞなりたくないと」

 

「そういうことだ」

 

俺の言葉を聞いて、楓は少し考える。

 

「ではそんなお主に、妾が神になるメリットを話してやろう」

 

「興味無ぇな」

 

「まあ、そう言わず聞け」

 

そう言って俺に居間に来るように促してきた。

 

「座れ、ちょいと長くなるやも知れん」

 

「……」

 

俺はちゃぶ台の前に黙って座った。

 

「うむ、では話をしよう。まず1つ目のメリットは、本来人間は死ぬと御霊というものになり、自我を失っていずれ消える。しかし神になるとそんなことは無く、神である限りいくらでも自我を保って活動することができる」

 

「……」

 

「次に2つ目のメリットじゃが、1つ目に関連するかの。永く神として働くうちに色々な知識や考え方を知ることができる」

 

「知識や考え方を得たから何だ? 別にまた人間として生活できるわけでも無いだろう」

 

「人生全て勉強じゃよ」

 

「なら俺は勉強なんて要らない。そんなもの、御免被る」

 

「そうかの……では妾が隠してた最大のメリットを言おうかの」

 

「……何だよ」

 

そうすると、楓はニコッと笑ってこう言った。

 

「妾と何時までも一緒にいれるぞ」

 

「……!!」

 

「冗談じゃよ冗談」

 

そう言って楓は笑い飛ばす。

しかし、今確かに俺は、何故だか分からないがドキッとした。

 

「さて、今話したメリットを踏まえてもう一度考えてくれるかの」

 

「あ、ああ……」

 

「では妾は風呂に入ってくる」

 

楓は一通り話し終え、居間を出て行った。

 

「……あー、今俺は何をドキドキしてたんだろう」

 

誰もいない居間で、俺は一人つぶやいていた。

-24ページ-

夏休みに入って、もう一週間経ってしまった。

 

楓に妙なことを言われたあの日から、俺は自分でも何故そうするかはよく分からないが、気がつけば楓を見つめているようになった。

 

「……ん? 妾の顔に何か付いとるか?」

 

「あ、いや……何でも無い」

 

「?」

 

ここ数日、しょっちゅうこういうやり取りをしているのだ。

 

「じゃあ俺、風呂入ってくるよ」

 

「うむ」

 

そうして俺はそそくさと風呂に逃げ込んでいった。

 

 

 

「あ゛〜、いい湯だ」

 

俺は湯につかると、自分でもだらしないと思える声でそんなことを言った。

 

「……」

 

そうして俺は今日もまた、自分の不可解な行動について黙考を始める。

今日もまたというのは、言葉通りここ最近風呂に浸かって考えることはこれ1つに絞られている。

 

なぜ俺は最近楓を見つめているのだろう?

 

なぜ俺は最近楓を気にかけるのだろう?

 

そんな問いが俺の頭の中をぐるぐると駆け回る。

しかし、一向に答えが見つかる気がしない。

答えにつながるヒントすら出てこない。

 

一体、どうしてなのだろう?

 

 

 

結局、俺は1時間も風呂に入ってた。

出てくる頃には茹でダコ状態になっていて、足元が覚束なかった。

 

自分の部屋に戻ると、気だるい体をベットへ投げ出す。

俺はそのまま目を閉じ、眠りについた。

-25ページ-

真っ白な場所に、俺と楓だけが立っていた。

 

「妾は……妾はお主のことが好きじゃ、愛しておる!」

 

突然、楓はそんなことを言い出す。

 

「俺も、お前のことを愛してる」

 

俺は恥ずかしげも無くそんなことを言い放った。

 

「……!!」

 

楓は驚いて、パッと口元に手を当てると、そのまま泣き出してしまった。

 

「おいおい泣くなよ」

 

「だって……だって妾、もしお主に振られたらと思うと怖くて……」

 

「俺がお前を振るわけ無いだろ」

 

「光一……!!」

 

そうして俺と楓は抱き合う。

さらに自然な流れでお互いに顔を近づけていって、そして……!

 

 

 

時間はもう10時を回っていた。

窓からは太陽の光が差し込み、俺の部屋の中を照らしている。

 

「……」

 

俺はどうやら、夢を見ていたようだ。

それも、恥ずかしくてとても人には言えないような、フロイト先生も大爆笑必死な夢を!

 

「ア゛ーーーーーーーーーー!!」

 

恥ずかしさの余り、俺は思わず絶叫した。

その時の恥ずかしさといったら、自分で首を括りたくなるほどだった。

 

 

 

居間に降りると、楓が茶を飲んでくつろいでいた。

 

「おはよう。お主さっきはどうしたんじゃ? いきなり叫び声を挙げよって。一瞬臨戦態勢に入ってしまったではないか」

 

「あ、いや……」

 

夢の内容とも重なり、楓の顔を見るのが恥ずかしい。

それでも俺は、懸命に平静を装おうとした。

 

「何でも無いぞ」

 

「本当かのぉ?」

 

楓は疑いの眼で俺を一瞥する。

 

「さて、お主にさっきどんな恥ずかしいことが起きたのか、ちょいと記憶を覗いてみようかの」

 

「あ、バカやめ……」

 

俺の制止を聞かず、楓は俺の記憶を探り出す。

 

「!!」

 

1,2秒ほどで、楓の顔に驚きの色が浮かんだ。

 

「いや、別に俺はその……お前に変な下心とか持って無いぞ!? 本当だからな!」

 

実際、楓は顔がいい上にスタイルもいい。

下心を持ってないというのは、正直嘘なのかも知れない。

 

「……」

 

楓はさっきから驚いた顔のまま微動だにしない。

もしかして、俺みたいなのから好意を持たれて嫌だったのだろうか?

 

「……コホン」

 

しばらくすると、楓は咳払いを1つして話し始めた。

 

「夢はその人の心の中をよく映し出す。妾のような神も、その人の人柄を探らねばならぬ時は大体その人の夢を見る。皆、夢の中では嘘はつけない。妾は今、お主の記憶の中から夢の中で妾と恋仲に落ちる夢を見たという記憶を発見した」

 

「嫌だったか?」

 

「そうでは無い。いや、もしかしたらむしろ逆なのかもしれんな」

 

「……逆?」

 

「ああ。お主はなぜ勇気を出さぬ? もしかしたら、相手はお主から言い出してくれるのを待っておるかもしれないのに」

 

「……勇気を、出す?」

 

「うむ」

 

「……何に?」

 

「もしかして、お主はなぜ自分がこういう夢を見たか分かっておらんのか!?」

 

「ああ……」

 

「……まったく、仕方ないのぉ」

 

そう言って楓は、若干呆れた風を見せる。

 

「お主のその夢の発端、それは……」

 

「それは……?」

 

「……恋心じゃよ」

 

「え……まさか、そんなこと……」

 

いや、待てよ?

ここ最近の俺の行動……。

 

気が付いたら楓のことを見つめていた。

 

最近四六時中楓のことを考えている。

 

もしかしたらこれが……、

 

「これが……恋?」

 

「そうじゃ。それが分かったら、次にお主が取るべき行動は?」

 

「……告……白」

 

「そうじゃな。さあ、言うてみよ」

 

楓は、俺に告白しろと言ってくる。

しかし俺は、振られたらどうしようと考えている。

確かに、誘っておいて断るだなんてこれ以上タチの悪い話は無い。

しかし、俺はそれでも「もしも」を考えると声が出なくなる。

 

「怖いか? まあ、臆病者と言えばそれまでじゃが、ある意味仕方ないやもしれぬ」

 

「……!!」

 

楓が、俺を臆病といった。

その事実だけで、意味も分からなくやらねばならぬという使命感に駆られる。

 

「……誰が臆病者だ」

 

「おっと、気を悪くしたかの」

 

「ああ悪くしたさ。だから、俺は俺が臆病者じゃない証明をする必要がある」

 

「ふふ、霊に襲われた時半分腰を抜かしておったくせに」

 

「う、うるさい! それとこれとは話が別だ!!」

 

「そうじゃな」

 

「じゃ、じゃあ……」

 

そして俺は大きく息を吸い込んで……言った!

 

「楓、好きだ!!」

 

「うむ、妾もじゃ」

 

……あれ?

 

「……あの、楓さん? 何だか余りにも素直すぎやしませんかね?」

 

「そうかの? まあ、別に良いじゃろ」

 

「……」

 

若干釈然としない気持ちがある。

 

「なあ、こんなこと聞くのもなんだけど、お前は俺のどこが好きなんだ?」

 

そういうと楓は、こう言ったのだ。

 

「うむ、ある意味これは……庇護欲、かの?」

 

「……ひ、庇護欲?」

 

「そうじゃ。どうもお主を見てると守ってやりたくての〜」

 

「……」

 

俺は若干格好の付かない理由に、少々項垂れる。

 

「まあ、それだけじゃ無いがの」

 

「へ?」

 

「それは追々話すとしよう」

 

そうして楓はいきなり俺に抱きついてきた。

 

「あ、こら!」

 

「うむ、抱き心地が良いぞ」

 

結局俺はしばらくして降参し、楓とずっと抱き合っていた。

 

ちなみに、昼頃になって昼飯を作るために下に降りてきた真紀恵に抱き合ってるところを発見され、しばらく口をきいてもらえなくなったのはまた別の話である。

-26ページ-

その日の晩、俺は心の準備をしていた。

 

俺は今日、楓に告白をして見事成功を収めた。

まだふわふわして自分の中でもはっきりしない気持ちだけど、この気持ちを忘れずにいれたらと思う。

 

さて、では話を戻すが俺が今何について心の準備を行っているか?

 

簡単なことだ。今日俺は楓と気持ちを確かめあって何時までも一緒にいたいと思った。

この気持ちは変わらない。変わる気がしない。

どうしてか俺の気持ちは激しく駆り立てられる。

 

そして、その気持ちに突き動かされ、何時までも一緒にいるために明日行動を起こす。

 

そう、明日楓の上司に神を続けることを言いに行くのだ。

 

思い立ったが吉日。こういうのはさっさとやってしまう方がいいだろう。

 

俺は1人、明日に向けて気持ちを燃やしていた。

その時、部屋のドアをノックする音が聞こえる。

 

「誰だ?」

 

俺がそういうと中に誰か入ってくる。入ってきたのは……、

 

「真紀恵か? どうしたんだこんな時間に?」

 

そう、真紀恵だった。

 

「……光一にぃ、明日神様になるの?」

 

「正確には神様を続けるって楓の上司に言いに行くだけだ」

 

そういうと、真紀恵はこっちに近づいてきて、突然俺を抱きしめた。

 

「な、真紀恵!?」

 

「何で楓さんなの?」

 

あからさまに泣くのを堪えている声で、真紀恵は俺に言う。

 

「まだ美柚さんとかなら分かるよ? だって、美柚さんとはすごく付き合いが長いから。なのに何で楓さんなの?」

 

「……」

 

なぜ楓か、それは俺も少し悩んでいたところだ。

しかしなぜだか、今なら答えれる気がする。

 

「あいつは美人で、頼りがいがあって、でも実は少しだけ恥ずかしがり屋で、あとはその……何だ、言葉に表せない気持ちってヤツだ」

 

我ながらクサいなと思うセリフを吐きつつ、でも言ってることは違っていないと確信していた。

 

「ふーん……」

 

真紀恵がそういった次の瞬間、真紀恵は突然俺を押し倒して覆いかぶさった!

 

「うわ!! なにしやがる!?」

 

「光一にぃは渡さない、間違っても楓さんだけには……!!」

 

「何で楓だとダメなんだよ!?」

 

「だって、だってそんなの絶対おかしいよ!」

 

「おかしくないし、別に俺が誰を好きになろうと勝手だろ!?」

 

「良くない!! だって、私は……」

 

矢継ぎ早に言葉を紡いでいた真紀恵が、急におとなしくなる。

 

「私は……私は光一にぃのことが好き!!」

 

「!?」

 

突然の告白に唖然とする俺。

 

「光一にぃ……大好き……」

 

そう言って真紀恵は俺の唇に自分の唇を近付ける。

しかし俺はそれを……、

 

「やめろよ」

 

と言って回避した。

 

「……光一にぃは私のこと、嫌いなの?」

 

「違う。真紀恵のことも俺は好きだ。でも、今は俺、楓のことがどうしても大事なんだ」

 

「……」

 

そう言うと真紀恵は押し黙り、

 

「……そうだね、そうだよね、ごめん。突然変なこと言って困らせて」

 

「いいよ。俺は真紀恵もちゃんと好きだからな」

 

「光一にぃ……」

 

そして俺は、唇にではないが、真紀恵の頬に軽くキスをしてやった。

 

「あ……」

 

「ほら、今日はもう寝ろ。俺は明日忙しくなりそうだしそろそろ寝たい」

 

「……うん」

 

真紀恵はそうして俺の部屋を出て行く前に、こんなことを言った。

 

「じゃあおやすみ、シスコンお兄ちゃん」

 

「……シスコン言うな」

 

出ていく真紀恵を見送った後、俺もすぐに眠りについた。

-27ページ-

翌朝、俺と楓はこの間行った神社に再び来た。

 

俺たちが境内に入ると、すでに楓の上司が待っていた。

 

「心は決まったかい?」

 

「ああ、俺はこのまま神を続ける」

 

「その気になってくれたか。まあ若干動機に問題があるような気もしないけど、今回は特別にスルーしておくよ」

 

「そりゃどうも」

 

「よし、じゃあ早速試験を始めようか」

 

「……はい?」

 

てっきり俺がやると言えばそれで済むのかと思いきや、楓の上司は試験をやるとか言い始めた。

 

「試験……ですか?」

 

「ああ。試験の内容はもう決めてある。単純明快だ」

 

そう言って楓の上司は試験の内容を話し始めた。

 

「今回の試験は、僕と戦ってもらう」

 

「え!?」

 

「いやぁ、本当は土地の気を操ってもらってそれで決めようかとも思ったけども、実地経験が全く無い者にそれをやらせると少々危険すぎるからね。ルールは簡単、1対1で僕と戦って僕が満足できる戦いが出来たら合格だ」

 

「満足のいく戦いって……」

 

「だって、これを言っては難だけど僕と君の間には力の差があり過ぎるからね。まあこちらもできる限り手加減をする気でいるけど……」

 

「まあ、本気のお主が相手では妾とて3分持つかのう」

 

それまで黙っていた楓がそう言った。

 

「そんなに強いのか?」

 

「ああ。こやつはここら一体の土地神をまとめる頭じゃからの、その力は半端では無い」

 

「……」

 

楓の言葉に、俺は少しだけ怯む。

 

「どうしたの? 止めるなら今のうちだけど」

 

「……! 誰が止めるかよ」

 

俺はプレッシャーに押しつぶされまいと、少しばかり強がる。

 

「うんうん、そうで無くっちゃね。じゃあ早速始めるけど、いい?」

 

「おう」

 

俺が返事を返すと、楓の上司は軽くファイティングポーズをとる。

 

「じゃあ、どこからでもかかってきて」

 

「……うおお!!」

 

俺は普通のケンカと同じ要領で殴りかかる。が……、

 

「!?」

 

拳を振りおろした先には誰もいない。

 

「こっちだよ」

 

真後ろから声がして、振り返るとヤツはそこにいた。

 

「ただ殴りかかるだけじゃダメだよ、神様になる試験なんだから神様の力を使いながら戦ってくれないと」

 

「神様の力を使いながら……こうか!?」

 

そう言って俺は足と拳に神の力を込めて、再び殴りかかる。

その時の俺の脚力は、軽くオリンピックで金メダルを取れそうなものだったし、パンチ力は熊さえ一撃でノックダウン出来そうなものだった。なのに……、

 

「あ、当たらねぇ……」

 

試験が始まって5分、さっきから自分の持てる力をすべて使って攻撃を試みるが、どの攻撃も当たる気がしない。

 

さっきケンカと同じ要領でと言ったものの、ほとんどケンカの経験も無く、どうすればいいか分からない。

 

「くそっ……、くそっ……!」

 

肉弾戦に加え光弾など神の力をフル活用したものも交えるが、それも避けられたり防がれたり……。

 

「どうしたの? 君の力はこんなもん?」

 

「うるせえ!!」

 

そう言って再び光弾、そしてすぐに上段蹴り。

 

しかしヒラリヒラリとかわされてしまう。

 

そろそろ力も底を尽き始めた。

 

「ぐっ……」

 

戦いとはいうものの、向こうは避けるだけで攻撃は一切してこない。

なのに、俺はこうして不甲斐ない姿をさらしている。

 

試験が始まって20分、俺は力尽きたように膝をつく。

 

「終わり?」

 

ヤツはそんなことを聞いてくる。

 

「まだだ……まだ終わらねぇ」

 

そうして最後の力を振り絞って奥の手を使う。

 

神の力をピーム状にして撃ちだす攻撃。

光弾より遥かに力を消費するが、これが最後の攻撃に相応しい……!

 

「行くぞぉ!!」

 

そうして俺は光弾で牽制、そして……、

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

自分の力を全て使い果たす攻撃、向こうは意表を突かれてモロに喰らった。

喰らったのに……、

 

「ふう、今のはちょっとキツかったかなぁ」

 

「……嘘、だろ」

 

楓の上司は、ほぼ無傷で立っていた。

 

「いやぁ、今のは凄かったよ。でもこれじゃあ合格には出来ないかな」

 

俺は瞬時に絶望に覆われる。

もうダメだ、そんなムードに1人包まれていた。

 

「光一!!」

 

しかし、諦めかけた俺の耳に、楓の声が聞こえる。

 

「諦めるんじゃ無い! お主はまだやれるはずじゃ!」

 

……これで負けたら、楓と一緒にいることが出来ない。

神になるとか正直どうでもいい俺にとって、重要なことはこれだけ。

しかし俺は、これだけのためにまだ頑張れる!

 

何か……、何か無いか!?

 

俺は疲労しきった頭で懸命に考える。

 

「おっと、何か考えているようだね。それじゃあもう少し待ってみよう」

 

そんな言葉も聞こえず、俺は集中して考える。

 

───そう言えば、俺ってこんなに戦えたっけ?

いつまでも楓と一緒にいるため……その理由だけで俺は力が湧いてくるような気がしていた。

しかし、どうもおかしい、それだけではないような気がする。

 

俺は藁をも掴む気持ちで気を研ぎ澄ませる。

すると、辺りに大量の気の力が流れていることに気付いた。

 

俺は最後の賭けに出る。

 

「……はああああああああああ!」

 

「うん? 何を始める気だい?」

 

俺は最大限まで集中力を引き上げて、周囲に流れる気を自分の中に取り込んだ。

 

「お、おお、おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

体の奥が熱くなり、力がみなぎる。

傷は癒え、頭はすっきりし、俺は再び立ち上がった!

 

「……そうか、ようやく気がついたか」

 

俺は仕上げとばかりに周囲に霧散している気の力を1つに収束させる。

 

「これが俺の全力全開! はああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

俺はそれを容赦なくぶっ放した!!

 

「ああああああああああああああああああああああ!!!」

 

その砲撃にも似た攻撃は数秒間続いた。

そして……、

 

「ど、どうだ!?」

 

舞い上がった土埃が下に降り、視界がはっきりしてくる。楓の上司は……、

 

「……今のは、ちょっと効いたね」

 

「……あ、ああ」

 

思わず俺は上ずった声を挙げる。

 

楓の上司は、まだまだ平気そうな顔で立っていた。

 

「そんな……」

 

「まあこれでも力と年季が違うからね、それにアイディアは良かったけどまだまだ力を収束出来たはずだ」

 

俺は自分に出来る最大限のことをした。それでも、勝てなかった。

 

「でもまあ、見たいものは見れたかな。よし合格だ」

 

そうだよな、これだけ本気になっても全然敵わなかったんだから合格でも仕方ない。

合格でも……。

え?

 

「ご、合格!?」

 

「そう、合格」

 

「な、何で!? だって全然敵わなかったのに」

 

「そりゃあ、君ごときに倒されるようだと神の頭は務まらないからね」

 

「でも俺全力でいったのに……」

 

「まあ、楓葉之比売命でも僕相手じゃ傷一つ付けるのにも苦労するんだ。逆にこれだけ出来てある意味満足だよ」

 

「……」

 

「さて、じゃあ僕はこれから戻って光一君を神として受け入れる準備を始める。光一君を神として使用するのは死んでからだ。とりあえず君は残りの自分が生きてきた時間より長い余生を楽しみたまえ。あと楓葉之比売命については、研修ということで光一君が死ぬまでここに残ることを許可する」

 

「……分かった。礼を言うぞ」

 

「なに、あくまでこれは研修、だからね」

 

「ふふ、そうじゃな」

 

「それじゃあ光一君、今度は死後に会おう」

 

「ああ」

 

「それじゃあ2人とも、達者で暮らせよ」

 

そう言って楓の上司はどこかへ行ってしまった。

 

「……光一」

 

「……楓、お前のおかげだ。あの時名前を呼んでくれなかったら、俺はあそこで諦めてた」

 

「じゃが、試験に合格したのはお主じゃ。これはご褒美をやらんとな」

 

そして、楓は俺に顔を近づけて……、

 

唇にキスをしてきた。

 

「さあ、帰ろうぞ」

 

「……そうだな、帰ろう」

 

俺と楓は、少し頬を赤く染めながら、手をつないで帰って行った。

-28ページ-

俺が死んでからもう10年になる。

 

「楓葉之光一尊、ちょっといい?」

 

楓の上司は、今は俺の上司でもある。

俺は楓と一緒に、自分が生まれ育った町の土地管理をしている。

1つの地域に2人の土地神がいるのはかなり異例なことだが、それでもうまくやっている。

 

「ちょっと葉庫田川の主の所にこの手紙届けてくれる?」

 

「分かったよ」

 

相手は曲がりな気にも上司であるが、俺はほとんど敬語を使っていない。

 

「ありがとう、じゃあいってらっしゃい」

 

そうして俺は今の自分の住処にしている神社から出ようとする。

 

「おお光一、これからどこに行くんじゃ?」

 

「あ、楓。これから葉庫田川の主の所におつかいだ」

 

「そうか、ならば妾も一緒に行くぞ」

 

「お前自分の仕事は?」

 

「どうせ暇でこれからお主を誘って町内パトロールでもしようと思っていた所じゃ」

 

「なら大丈夫だな」

 

そうして俺と楓は一緒に境内から出て行く。

 

あれから俺と楓の気持ちは変わらない。

むしろ、一層強いものになっている。

そしてその気持ちは、これからも俺たちをいつまでも一緒に居させてくれるものだろうと確信している。

 

俺たちの愛は、永遠に……。

説明
神様好きの神様好きによる神様好きのための小説
まともに書いた作品はコレが3つめ
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