西園さんとお買い物 |
「なんでこんなことに……」
「乙女の秘密を勝手に見たのですから当然です」
先日の件があって、そのおわびに西園さんの買い物
に付き合うことになったのだが、こんなにも手のひら
に汗をかいているのは、女性物の売り場に来ていると
いう緊張感だけではない。
「うぅ、視線が気になる……」
「大丈夫です、みなさん思ったより気付いてません」
「……それ、何人かは気付いてるってことだよね」
いわゆるウィンドーショッピングをしているのだが、
それだけなら何の問題もない。
「普通の格好で来れたらよかったのに……」
そう、問題は服装にあった。
西園さんは私服で、ぼくは制服だ。
ただし、女子の。
教室の掃除当番が回ってきた。ぼく以外は早々に退散してしまったので、掃き掃除だけ
してぼくも帰るか、と考えていたら机にぶつかって中身をこぼしてしまった。
「やっちゃった…」
ん、これ西園さんの机か。ごめんなさい、と心の中で謝りながら落とした教科書やら
ノートやらを拾う。するとその中に『リトルバスターズ!』と題されたノートが。
「……」
好奇心には勝てず、ごめんなさい西園さん、ともう一度謝りながらページをめくると、
そこにはバスターズの練習風景が描かれていた。さらにページをめくると、服を脱ぎだす
恭介が。なんだこれと思いつつ次のページを見ると、何故かぼくが裸だった。しかも恭介
に抱かれてる。……見てはいけないものを見てしまったような気がする。
よし。ここは小毬さん直伝の魔法を唱えて、机に戻すことにしよう。とその時
「……直枝さん?」
西園さんが戻ってきたらしい。ぼくは動揺を微塵も隠せず、手にはノート。
「……見ました?」
うわぁ、そんな目でないでっ。逃げ出したかったけれども
「……(コクッ)」
結局無言でうなずくことしかできなかった。
「あ、そうだ。直枝さん」
「なに?」
「下着の試着、していきますか?」
「カンベンシテクダサイ」
「冗談です」
実際のところ恥ずかしさのせいで、ぼくは主につま先を見ているだけだ。そのせいで危
うくディスプレイ用のボディにぶつかりそうになったけど、顔をあげるとそこに飾られて
いたワンピースに目がいった。デザインはシンプル、けれどもパステル調の淡い水色はす
ごく西園さんに似合うと思う。
「ねぇ、西園さん。これ、これにしようよ」
「たしかにいいですね、これ。でも本当に買い物をするつもりはなかったので」
「じゃあぼくが西園さんにプレゼントするよ!この前のおわびもかねて」
これを着た西園さんを見てみたいと思ったのだ。だから迷わずそう口にしていた。
「……わかりました。直枝さんの好意に甘ることにします。ありがとうございます」
しばらく考えてから西園さんは同意してくれた。
「ありがとう、西園さん」
なぜかぼくの方もお礼を言っていた。
ほどなくして買い物も終わり、寮へと歩いていく。疲れた。正直、心身ともに疲れた。
疲れたけれど、なんだろう、全然悪い気分じゃない。
「今度は普通の格好で行きたいな」
自然とそんな言葉を口にしていた。それでも
「わたしは、楽かったですよ。こういうのも」
いたずらっぽく、それでも優しく微笑む西園さんをみたら、まぁたまにはこんな日があ
ってもいいのかな、なんて思ったんだ。
「直枝さん」
「なに?」
「今度はこれを着てくださいね」
先ほどの買い物袋をぼくの前に掲げてみせる。
(うん、やっぱり今日だけでいいかな)
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ただのデートです。たぶん…… | ||
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