ライトノベルを書こう!
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「いいかお前ら、始めるぞ」

 指し棒を持った恭介が言う。僕たちは空き教室に集

まっており、僕の隣の席には鈴、後ろの席には西園さ

ん、そして鈴の後ろの席には小毬さんが座っている。

「恭介さん、なにを始めるんですか?」

 小毬さんがハテナマークを頭に浮かべて尋ねる。尋

ねられた本人である恭介は何やら黒板に書き始めた。

「最近若者の間で流行っているものを俺たちはあまり

知らない。だからたまには流行に敏感になってみよう

と思う」

 黒板にはなんとも微妙な大きさで『ライトノベル』

と書いてある。ライトなノベル? 軽い小説ってこと

なのだろうか。

「ライトノベルを書くぞ」

「お言葉ですが恭介さん」

 西園さんが挙手をする。

「ライトノベルとは1970年代に生まれたという説

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があります。流行し始めたのはそれよりずっと後ではありますが、それでも最近とは言え

ないかと……」

「まあまあ、細かいことはいいんだよ」

恭介は西園さんの言葉を一蹴し、黒板を軽く叩く。

「神北、西園、お前たちが何故呼ばれたか分かるな?」

 それは僕でも分かる。小毬さんは童話を書いているし、西園さんの読書量は半端じゃな

い。僕と鈴が呼ばれたのは何故だか分からないが。

「でも私、童話しか書けないですよ?」

「逆にそれが新しいだろ。普通のライトノベルじゃつまらないからな」

「なるほど、それは一理ありますね」

 西園さんが一冊の本を鞄から取り出した。僕たちの視線はそこに集中する。

「ファンタジー、アクション、学園もの、その他もろもろありますが私も常日頃普通のラ

イトノベルには少し足りない物があると思っていたんです」

「それはなんだ?」

「ボーイズラブです」

「ぼっ……!」

 僕と恭介は同時に吹きだす。とても西園さんの口から出てくるとは思えない単語だった。

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「なあ理樹、ぼーいずらぶってなんだ?」

「鈴は知らないほうがいいよ」

「む、そうか。気になるな……」

 どうやら鈴は知らないらしい。小毬さんはあたふたとしているが、知っているかどうか

は微妙だ。聞いたことはあるという程度だろう。

「確かに以前より数は増えてきています。ですが、圧倒的に割合が少ないのです」

「に、西園……それは鈴や神北には少し刺激が強いんじゃないか?」

「では、恭介さんや直枝さんになら刺激が強くないのでしょうか」

「そういうわけでもないが……」

 恭介は困ったように僕を見た。それに対してどうすればいいのか分からない、という旨

のアイコンタクトをする。

「棗×直枝……ですね」

 それを見ていた西園さんに恐ろしいことを呟かれる。僕たちはこの場ではもうアイコン

タクトをしないと固く決意した。

「……とにかく、ボーイズラブは却下だ。それも俺たちを題材になんてもっての外だ」

「それは残念です」

 続いて恭介は小毬さんに問う。

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「神北、お前から何か良い案はないか?」

「うーん、童話なら考えつくけど……らいとのべるって読んだことないんだよー」

 小毬さんは童話が得意なのだから仕方がない。頼みの綱だった二人からアイディアが出なかったので、恭介は頭を抱えながら鈴に尋ねる。

「鈴、お前は何かあるか?」

「ない。というかなんであたしは呼ばれたんだ?」

「り、理樹!」

「僕もなんで呼ばれたのか……」

「何てことだ、案が一つも出ない……となると」

「ボーイズラブですね」

 肩を落とす恭介とは逆に、西園さんは笑顔を浮かべている。その笑顔の理由が別のものだったら目を奪われていたであろうほど、魅力的な笑顔だった。

「それは絶対に嫌だあああああ!!」

 恭介の叫びが教室に木霊する。結局、ライトノベルを書くという今日の議題はなかったことになったのであった。

説明
リトバス短編小説コンテストへの応募作品。終始駄弁ってるだけです。
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