お姉ちゃん、揉ませてっ!
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――ペラッ。サラサラサラ。ペラッ。サラサラサラ。

 

 夕日が射し始めた寮長室には、書類をめくる音と私がそれにサインをする音が響いていた。

「ひーまーひーまーひまーっ」

 長机の私の横では、葉留佳が本当に暇そうに机に突っ伏して、構って欲しい旨をアピールしている。

「そんなに暇なら帰れば?」

「それ言われちゃ身もフタもないですヨ……ねーねー、なんか手伝うことない?」

「ないわ。あるとしたら黙って待ってることくらいね」

「うぅ…はーい」

 はぁ…さっきからこの調子だ。

 葉留佳に手伝わせたいほどの量の書類があるのだが、私が書類に目を通さないと話にならない。

 本当はさっさと終わらせたいんだけど。

 私だって……葉留佳と一緒に帰りたいし……。

 

 書類の数も後30分ほどの量になったとき。

「ふぅ」

 手を止め、肩をクキクキと鳴らす。

 さすがにこの量は疲れるわね…。

「あ。お姉ちゃん」

「……なによ?」

「えっとね」

 えへへ、と葉留佳が笑う。

「なに? 忙しいんだから要件があるなら早くしなさい」

「はるちんがいつもみたいに肩揉んであげる」

「…いらない」

「えーっ! だって今お姉ちゃんコキコキしてたじゃんっ」

 嬉しい申し出だ。

 いつもならやってもらっている。

 けど、今日の書類の量でそんな休憩を入れては余計に仕事が長引きそうだ。

「してたけど、いらない」

「私もお姉ちゃんのお役にたちたいーっ」

「……」

 構わず書類に目を通していると。

「私の暇もつぶれるし、お姉ちゃんの作業効率もあがって一石二鳥っすヨ?」

「だから今こそこのあっしめがお揉みしますぜ?」

「……」

「うあーんっ、揉みたい揉みたい揉みたいーっ」

 葉留佳がワガママを言い出した!

「はぁ……」

 この子、こうなると聞かないのよね…。

 溜息をつきながらペンを置いた。

「…好きにすれば?」

「え、いいの? うわーい」

 無邪気に喜ぶ葉留佳に、つい笑顔がこぼれてしまう。

 ホント私のことになると一生懸命なんだから。

「ちょっと待って。今、上を脱ぐわ」

 肩を揉みやすいようにブレザーを脱いでイスにかけ、ブラウス姿でイスに腰を掛けた。

「いいわよ」

「はいよっ」

 葉留佳の手が肩に当てられ、リズミカルに肩に刺激がくる。

「ん……葉留佳、もうちょっと下から押し上げるような感じで」

「こう?」

 親指を押し当て強めの揉み加減になる。

「あ…いい感じよ…そうそう……次は回すような感じでおねがい」

「うわ、さっきまであんなに渋ってたのに注文が多いですネ」

「いいじゃない、どうせやってもらうならしっかり揉んでもらいたいし」

 葉留佳の手の平が肩甲骨周辺の筋肉を程よくほぐしていく。

 これはこれで至福なひと時だ。

「後は、いつもみたいに親指と人差し指でつまむ感じで揉んで」

「ここ?」

「そ」

 ちょうど首と肩を結ぶ筋(スジ)のところだ。

 私はそこが一番凝り固まるのか、そこの筋を挟んで揉んでもらうのが一番心地よい。

「うわぁ…お姉ちゃん、固くなってる」

「そりゃね」

 書類の山のせいで、すっかりと肩の筋が張ってしまっていた。

「どう? 気持ちいーい?」

「気持ちいいわ。葉留佳も上手になったわね」

「やはは、そりゃいつもお姉ちゃんに仕込まれてるからね」

「さ、揉んでもらったし、もうひと頑張りするわ」

 

――私は再び書類とのにらめっこに戻ったのだった。

 

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 一方その頃。

 

 

「ごめんねー、西園さんにまで手伝わせちゃって」

「……いえ、この程度」

 野球の練習に向かう途中、女子寮の寮長(あーちゃん先輩と言えとは言われていますが)に会い、ファイルを運ぶ手伝いをすることにした。

 ちょうど寮長室の前まで来たときのこと。

「ありがとね、西園さん。あとは私が中まで運ぶから大丈夫よ」

「……はい、では」

 『……』

 去ろうとしたら、寮長室の中から声が。

「……どなたかいらっしゃるのでしょうか?」

「かなちゃんがいるはずよ。あと…この時間なら妹さんもいるんじゃないかしら?」

 そのとき。

 

 『今こそこのあっしめがお揉みしますぜ?』

 

「……今の声は三枝さんですね」

「はぁ、またかなちゃんのことからかってるのね」

「…揉むとはどこのことでしょうか?」

「そりゃあ、揉める場所なんて……西園さんはずいぶんとスモールサイズね」

「…どこを見てるのですか?」

「え? どこも見てないわよ〜」

 

 『うあーんっ、揉みたい揉みたい揉みたいーっ』

 さらに中からはいつもの三枝さんの無理難題を言う声が外まで響いてきている。

 

「うわぁ…かなちゃんがキレなきゃいいけど」

「……きっと二木さんのことです。上手くはぐらかすのでしょう」

 つい聞き耳を立ててしまっている二人。

「そうねぇ、帰りなさいって一喝するほうに100円」

「……では、わたしは無視を決め込むほうに100円です」

 賭けをしながらその返答を待つ。

 どんな断り方をするのか見ものです。

 

 『…好きにすれば?』

 

 …………。

 

「……は?」

「……え?」

 つい、そのありえない返答にに二人で顔を見合わせる。

「え、ここここここれって…!?」

「…しっ!」

「(い、今のって……オッケーってこと!?)」

「(……ま、まさか、お、お二人は……)」

「ま、まさかねぇ」

「…はい、こういうのはマンガの中だけです」

「じゃ、そろそろ入りますか」

「……では、私はこれで」

 ドアに寮長が手を掛けようと伸ばすが。

 

 『ちょっと待って。今、上を脱ぐわ』

 

「ブハンッ!?」

「…りょ、寮長、し、静かに」

「だって、今上を脱ぐって…むぐうぐぅっ……」

 慌てて寮長の口に手を当てました。

「(だ、だだだだだだって、こ、これって、これってーっ!!)」

「(…な、なにかの間違いです。…もう少しだけ様子を見ましょう)」

「(そっ、それもそうね)」

 二人とも顔が真っ赤。

 荒くなる鼻息を抑えながらドアに耳をくっ付けた。

 

 『ん……葉留佳、もうちょっと下から押し上げるような感じで』

 『こう?』

 

「(あぁあぁあぁっ、に、西園さんっ、これカンペキ中ですごいことやっちゃってるって!!)」

「(…わ、わたしもまさか現にこういうことに遭遇してしまうとは……っ)」

 顔を真っ赤にした二人がぺたりと廊下に腰を下ろし、意味もなく両手でハイタッチ。

 

 『あ…いい感じよ…そうそう……』

 

「(キャーーーッ! あのかなちゃんがかなちゃんがかなちゃんが!! きゃーーーっ!!)」

「(寮長、落ち着いてくださいっ)」

「(私、妙にドキドキしてるんだけどーーーっ)」

「(…鼻息がすごすぎます)」

「(西園さんだって、冷静ぶっちゃってるけど耳まで真っ赤よぉ)」

「(……あぅ……こんなことを耳にしてしまうのは初――)」

 言い終わる前に、中からの甘い声が遮った。

 

 『…次は回すような感じでおねがい』

 『うわ、さっきまであんなに渋ってたのに注文が多いですネ』

 『いいじゃない、どうせやってもらうならしっかり揉んでもらいたいし』

 

「(まっ……っ!!)」

「(……まっ、回すように、とは、ど、どんな感じでしょう……っ?)」

「(ににに西園さん、落ち落ち落ち着いて、そそそそれってやっぱり、えっとその、ねえ?)」

 寮長の手つきはまるで両手でパチンコをやっているような感じだ。

「(…つ、つまり中の様子を絵にすると、このような感じでしょうか?)」

 書類の裏に即興でペンを走らせ、背中から抱きつく簡単な絡みの構図を描く。

「(ひゃぁぁぁーっ、禁断ね!! 禁断の愛ね!! どおりでかなちゃん、あんなに可愛いのに誰にも振り向かないと思ったのよっ)」

「(……前々からそのような妄想はしていましたが…まさか本当とは…)」

「(西園さん、しっ。次の動きがあるようよ…………)」

 

 『いつもみたいに親指と人差し指でつまむ感じで揉んで』

 『ここ?』

 『うわぁ…お姉ちゃん、固くなってる』

 『そりゃね』

 『どう、お姉ちゃん? 気持ちいい?』

 『気持ちいいわ。葉留佳も上手になったわね』

 『やはは、そりゃいつもお姉ちゃんに仕込まれてるからね』

 

「「(きゃーーーーーーーんっっっ!)」」

 あまりの興奮で二人とも両頬を押さえながら仰け反った!

「(どうしよっ!! どうしよっ!! 私のかなちゃんが中ですごいことしちゃってるーーーっ!!)」

「(……学校で、しかも風紀委員長が……しかも女性と……しかも妹と……過激すぎますっ、げ、原稿にいち早く下ろさないといけませんっ)」

「(聞いた!? 妹さん『いつも仕込まれてる』って! って!!)」

「(…そ、それはもしや二木さんが三枝さんにすごい技を…………はぅっ)」

「(え!? すっごい鼻血っ!! 西園さんしっかりしてーーーっ!!)」

 

「(あーんっ、次から私、どんな顔してかなちゃんに会えばいいのーっ)」

 

 

 

■あとがき

また、自重を忘れました!!

説明
リトルバスターズ!のSSです。葉留佳と佳奈多は二人っきりの寮長室で…。美魚たちはその場に居合わせてしまう。
http://milk0824.sakura.ne.jp/doukana/
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リトルバスターズ! 二木佳奈多 三枝葉留佳 西園美魚 あーちゃん先輩 

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