彼女が名前を呼ぶわけは |
「ねぇ、唯ちゃん」
「……その唯ちゃんと言うのはやめてはくれないの
か?」
来ヶ谷唯湖――――まぁ、私なのだが。どうにもコ
マリマックスはこの呼び方をやめてはくれない。正直
唯ちゃんと呼ばれるのはむずがゆいものを感じて仕方
ない。
「そう言えば、コマリマックス」
「ほえ、どうしたの?」
一つ気になったことがあった。
「おねーさん以外の呼び方はどうしているんだ?」
「ん? 何のことを言っているの唯ちゃん?」
あぁ、その呼び方はやめてくれ……
「例えば、鈴君に対しては鈴ちゃんと呼んでいるだろ
う?」
あぁ〜とほんわかな声を出して、天使のような微笑
みを私に向けてきた。そんな笑顔を向けられたら、お
ねーさん襲っちゃいそうだぞ。
「鈴ちゃん以外だとさーちゃん?」
疑問形で言われても私が分かるはずがないだろう。さーちゃん……というのは恐らく笹
瀬川女史のことか。
「後、くーちゃん!」
これは実に分かりやすい。クドリャフカ君のことだろう。
「リトルバスターズメンバーのニックネームを教えてくれないか?」
「いいよ〜」
ひまわりのような笑顔を真っすぐ向けてくる。あぁ、抱きしめたくなってしまうじゃな
いか。
私はニックネームを聞いているうちに、小毬君の名前の呼び方に法則性を見つけた。小
毬君は三文字の名前の人は最後の文字を取って呼ぶらしい。そして二文字の名前に対して
は伸ばすか、そのままちゃんをつけるだけというものである。しかし、例外として同じひ
らがなが重なっている場合には伸ばすということか。
確かに、唯ちゃんと呼ばれるだけの材料がそろってしまっている。遺憾だ……
「理樹君、恭介さん、井ノ原君、宮沢君か……」
ん、待て微かな違和感が。理樹君はわかる。恭介さんというのは目上の人に対するもの
で、小毬君なりの礼儀と言うやつだろう。おねーさんは感心だ。
……ってそうじゃない。
「時に小毬君。どうして真人少年と謙吾少年のことは名前で呼ばないのだ?」
そう、理樹君のことは直枝とは呼ばない。これいかにどういうことか。
「えーと……そのー…………」
露骨に視線を避けているように見える。つい意地悪したくなってしまうじゃないか……
まったく困ったものだ。
考えてみると、少年二人の名前は真人に謙吾。小毬君方式で考えるなら、まさちゃんに
けんちゃんか……
「ふふ……」
そう聞くと二人とも本当に少年じゃないか。あながち私が少年と言っているのもうなず
ける。仮に伸ばしたとしてもまーちゃんとけーちゃん。どこの漫才コンビだろう。思慮し
た結果、やはり名字で呼ぶ方がしっくりくるからだろうと思っていた。が、次の言葉でそ
れが覆されるとは思っていなかった。
「理樹君は……」
「ん?」
顔を赤らめながら急にもじもじとした小毬君。恥じらう姿もまたいいものだ。
「理樹君は特別だから!」
声のボリュームが一際大きくなった。その言葉を聞いて、鼻血がでそうになりかけた。
おっと、危ない。冷静になれ私!
「唯ちゃん、今のは内緒だよ!」
しーっという仕草を見せてきて、ちょっと膨れた感じで去っていく。
「ぐあああああああ!」
今のは殺人的にかわいすぎるだろうっ! 反則だ……私はその場で気を失ってしまった。
その日、グラウンドには血の池ができたそうだ。未だに犯人は誰か分かっていないとい
うことである。私もそんなことは知らんな。タチの悪いイタズラだこと。やれやれと言っ
た感じで窓越しからの風を一身に受ける。
「今日もいい天気だ……」
学校なんていつも平和なものである。来ヶ谷唯湖の鼻には紅く染まったティッシュが幾
重にも詰められていた。
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姉御アフターほしかったなぁ…… | ||
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ct017ngm リトルバスターズ 来ヶ谷 小毬 | ||
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