甘々々々々々々愛紗 |
愛紗「それでは ご主人様、いってらっしゃいませ」
今日も政務へ出かける北郷一刀を、愛紗は明るく送り出した。
それを受けて、かばんを受け取った一刀は優しく微笑む。
一刀「コラ愛紗、間違うなよ。オレは もう君のご主人様じゃないだろ?」
愛紗「そっ、そうでしたッ! 申し訳ありませんッ!」
愛紗は慌てて、自分が今口に出した間違いを訂正する。顔を真っ赤に、モジモジさせて、
愛紗「いってらっしゃいませ、旦那様」
言うと同時に、二人の唇が触れた。
それが、今では必ずやっている、朝の見送りの儀式だった。
*
関羽将軍が軍籍を退いてから、もう一ヶ月が経つ。
理由は寿退社。
北郷一刀からプロポーズを申し入れて、愛紗が受けた。考える時間 二週間。本来であれば、国主である一刀は、同意なしに彼女の体を自由にできるのだが、それでも彼は待った。
その誠実さが愛紗の心を打ち、仲間を越えて、男と女として、一緒に人生を築き合っていくことを了承した。
結婚してから愛紗は軍務から一切身を引き、家庭に入ることになった。
世間の慣例や、彼女自身の有能さを鑑みれば、結婚後も一将軍として働くことは大いにありえたが、彼女は その道を選ばなかった。
自分は北郷一刀の妻である。
自分というものを示す言葉は、ただその一つだけでよかった。
愛紗「ふぅ……」
一刀が政務に出かけてから、夕方に帰宅するまで、この家では彼女一人ですごすことになる。
朝食の片付けをしつつ、愛紗は ふと、左手の薬指に目が行った。そこにあるのは、銀色にきらめくシンプルな造りの指輪。
それは天の国にあるという慣わしで、夫婦の契りを交わした者は左手の薬指に、指輪をつけるのだという。
一刀もつけている、今愛紗が見下ろしているものと、まったく同じデザインのものを。
自分が既婚者という証。
それを愛紗は、うっとりとした表情で眺める。何時間 見詰めていても飽きない、自分が、愛する人の所有物になったという証。
愛紗「ふふ……」
陶然とした笑みが漏れる。
それともう一つ、彼女と一刀が、今は他人ではないという証がある。
一刀が生まれた天の国では、結婚した女性は、生来の姓を捨て、夫の姓を変わりに名乗るという風習があるのだそうだ。
愛紗の姓は「関」で、名前が「羽」。
しかし「北郷羽」では語呂が悪すぎるので、あえて真名に、愛する人の姓を重ねてみる。
北郷愛紗。
愛紗「北郷愛紗……!」
北郷愛紗なのである。
愛紗は もう堪えきれなくなって、部屋の中でクルクル回る。
こんな日が来るなんて思いもしなかった。
自分は、生まれもった武才を使い、世の安寧のために一生を捧げると思っていた。女としての幸せなど終生 縁のないものだと。
しかし今、この心は女の幸せを知っている、この体は女の悦びを知っている。
愛紗「こんなに満ち足りていていいのだろうかッ?」
愛紗は、自分の着ているフリル付きのエプロンを引っ張ってみた。一刀がわざわざ「愛紗に似合うから」と言って、呉服屋に縫わせたものだった。
愛紗「はッ? ……イカンイカン、たとえ結婚して無役になったといっても、私には、人の妻としての仕事があるのだった!」
そうそうトリップばかりもしていられない。
愛紗「ごしゅじ……、じゃなく、旦那様が帰ってくる前に、掃除と洗濯、コレを終わらせておかねば! あと午後は料理の練習をするぞ! 今週中に献立の数を二倍に増やすのだ!」
専業主婦だってやることは一杯あった。
それでも、将軍として軍務に追われていた あの頃に比べれば、信じられないほど穏やかな時間が流れていた。
洗濯物を取りこむ最中に、日の光を一杯に浴びた夫の上着に 顔を押し付けたり。
寝室の掃除中、昨晩のことを思い出して赤面したり。
庭に咲いた季節の花を手折って、玄関の花瓶に生けたり。
訪問してきた野良猫と戯れて時間を潰したり。
本当に穏やかに時間は流れていた。
*
そうして気付いてみると、時刻は夕方。
この頃になると愛紗は毎日ソワソワして、落ち着きがなくなる。
愛紗「まだかなぁ、旦那様まだかなぁ……」
この時間になると そのことしか考えられなくなる愛紗だった。
たまに星あたりがバカなことやって、一刀の帰りが遅くなることもある、そういう時は もう最悪だが、今日は幸い そんなことはなかった。
一刀「ただいまー、あー疲れた疲れた」
一刀は いつもと変わらぬ時間に帰宅してきた。
愛紗はパタパタとスリッパを鳴らして、玄関へ直行する。
愛紗「お帰りなさいませ! 今日のお仕事は どうでしたか?」
一刀「ああ、概ね順調だったけど、この夏にやる祭りで、貂蝉が「男裸音頭をやる!」とか言い出して調整に 手間取ってさー。ホントあれだけで一日分のスタミナ消費したわ」
玄関をくぐって襟元を緩めた一刀は、疲れてはいるようだが体調を崩した様子はない。今日も無事に過ごせたと安堵しつつ、一刀からカバンを預かる。
愛紗「それでは旦那様、お食事とお風呂、どちらを先になさいます? 料理は既に出来てますし、湯も沸いてますよ?」
一刀「コラコラ愛紗ー」
一刀は愛紗のおでこをコツンと突いた。
一刀「いつも言ってるだろう? そういう時には、ちゃんと決められた聞き方があるって」
愛紗「あ、ハイ……」
指摘され、愛紗は赤面しつつ、例の言葉を唱えた。
愛紗「お帰りなさいアナタ、ゴハンにします? お風呂にします? それともア・タ・シ?」
一刀「この淫乱妻めーッ!」
一刀は大喜びで愛紗のことをハグした。
自分で言わせたのに。
愛紗「もう旦那様、いつでも悪ふざけして、もう!」
愛紗も満更でもなかったが、ここでコトに至っては せっかく愛紗が用意した料理やお風呂が冷めてしまう。
そこで、まずは料理を先に選択する一刀であった。
愛紗「さあ、ドンドン召し上がってくださいね! お代わりはたくさんありますから!」
本日のメニュー。
すっぽん鍋。
うなぎの蒲焼。
ニラレバ。
おろしニンニク。
イモリの黒焼き。
ハブ酒。
朝鮮人参。
馬刺し。
一刀「……うわぁー、わかりかすぃー」
若い一刀は すべて平らげた。
そして お風呂。
先に湯船に入って待つことになった一刀、何を待つかというと、それは わかりきったことだった。
一刀「愛紗、まだー? 愛紗、まだー? 愛紗、まだー? 愛紗、まだー? 愛紗、まだー?」
愛紗「ハイハイ、すぐ行きますから大人しくしててください!」
脱衣所で衣服を剥がしつつ、落ち着きのない夫に苦笑する愛紗だった。
パンツをクルクルと下ろして脱衣籠に入れると、愛する夫しか見たことのない生まれたままの裸身になり、浴室に入る。
元々そういう目的で設計した浴槽は、二人で入っても十分にゆったり出来た。
愛紗が湯の中に尻を沈め、盛大にお湯があふれ出す。
そうして沈んでいく愛紗の尻が最終的に触れたのは、浴槽の底ではなく、一刀の筋肉質な太ももだった。
二人の体の表面が、湯の中でピッタリ重なり合う。
一日の中で至福の時間が始まった。
一刀「ああー、いい湯だなー」
愛紗「本当に、この世の至福と言えますね……」
髪を纏め上げたために露出したうなじが、位置的に一刀から丸見えだった。
お湯の温かみで玉のような汗が、首筋に数的浮かぶ。
一刀「…………」
愛紗「……あの、ご主人様。ドコを触ってるんですか?」
一刀「愛紗の恥ずかしいところです」
と自供する一刀が触ったり抓んでる部分とはドコか? それは愛紗の お腹だった。
一刀「愛紗は最近 運動不足だからなぁ、現状をキープしているかどうか詳しくチェック」
愛紗「何をお言いですか旦那様ッ!」
愛紗が湯船から腕を出して、一刀の頭をポカリ。
愛紗「もうッ! どうせわかってますもん! 将軍を辞めてしまった私は体を動かす機会なんてないですもん! ブクブク体格 直行ですもん!」
いかん、拗ねてしまった。
愛紗「……旦那様は、やっぱり武人だった頃の私の方が好きですか? 勇ましく武器を振り回していた私のほうが、引き締まっていて好きでしたか?」
一刀「いやいや……」
愛紗「わかってます、武神なんて呼ばれるようなガサツな女が、急に しおらしく人妻のマネなんかしても似合わないって。どうせ私は、生まれてこの方 女らしいことなんてしてこなかったし、家事も料理も、まだまだ半人前だし」
一刀「愛紗は可愛いよ、武器を持とうとホウキを持とうと」
一刀は愛紗の頭を撫でた。
一刀「俺が愛紗を好きになったのは、愛紗の真っ直ぐで、清く正しい心をもってるからだ。そんな愛紗が見せるものなら、なんでも可愛いって思えるよ。武器を持って暴れるところも、チャーハンを焦がして失敗するところも」
愛紗「旦那様……」
世界一幸せな瞬間。
愛紗「好きですよ旦那様、大大大大大大大大大大大大大大大大好きです」
一刀「オレも大好きだよ、愛紗」
愛紗「知ってます」
戦乱の荒野で出会い、さまざまな困難を一緒になって戦い続けた二人。
苦しいときも、楽しいときも、横を向けばお互いの顔があった。
本当に、この時間が永遠に続けばいいな。
終わっても終わらない、好きな人と過ごす、この大切な時間が。
*
翠「……紗、おい愛紗、いい加減起きろよ!」
翠に揺さぶられて、愛紗は目を覚ました。
見回してみると、そこは城の中庭にある東屋、日は既に傾き始め、虫たちが涼しげな音を奏でている。
愛紗「…………だんなさま?」
翠「何寝ぼけてんだよ愛紗は。ったく こんなところで無防備に昼寝なんかしやがって、そんな たるみっぷりじゃ武神・関雲長の名が泣くぜ?」
言われて、自分の体を見下ろす愛紗。
エプロンは着けていない、左手に指輪はない。手に持っているのは青龍偃月刀。
愛紗「そうか、私は、夢を見ていたのか」
物凄く甘くて、暖かくて、満ち足りていた夢。
あのまま覚めてしまうのが悔しいぐらいの幸せな夢、でももう自分は帰ってきてしまった、あの夢の場所へ行く手段は、もう自分にはない。
翠「それよかさ、今 ご主人様が稽古の見学に来てるんだぜ? 手合わせしよーよ愛紗、ちっと ご主人様に、アタシのいいとこ見せてやりたいのさ!」
茂みの向こうから聞こえてくる、金属がぶつかり合う轟音と、「なのだーッ!」という掛け声。
愛紗はフッと、寂しげに笑った。
愛紗「よかろう、私はご主人様の矛、この武のすべてはご主人様に捧げるためにある」
翠「なんだよ、気合入ってんなー」
愛紗「ご主人様に、ご自身の手にする武具がいかに優れているか ご照覧いただこう。それと、翠が意外に頼りにならんところもな」
翠「言いやがったなーッ! そっちこそ寝起きを負けた言い訳にすんなよーッ!」
こうして愛紗が茂みの向こうへ出ると、そこには夢にいた彼と同じ、とても愛しい笑顔があった。
あの夢の場所には もういけない。
でも このまま現実を歩き続ければ、似た場所にはたどり着けるかもしれない。
そんなことには欠片も気づかず、武人は長刀を振るい続ける。
終劇
説明 | ||
なんか巷で不穏な噂を聞いて、書いてみた作品。 オレの中の愛紗欲は、こないだの にゃーにゃーで発散されたと思いきや。 例の噂を聞いたとたん種的なモノがパカーンと割れて、一作できてしまいました。 即興で、拙いところもありますが、慰みになれば幸いです。 |
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コメント | ||
テス様>ありがとうございます。今期の聖地は秩父or群馬になりそうですね。それはともかく思う存分2828してあげてください。(のぼり銚子) ここが聖地かッ!! って思えるくらい愛と2828に溢れていたよ! 素晴らしい作品でした!(テス) 深緑様>いえいえ、こちらこそコメントありがとうございます。(のぼり銚子) 今は一時の夢物語であっても、近い未来に愛紗ならたどり着ける未来だよなw可愛い愛紗をありがとう御座います^^b(深緑) namako様>綾波さんのようにほくほくしてくださいw(のぼり銚子) なんか、ほくほくしました。(いじり) リョウ流様>ニャーニャーしてくださいw(のぼり銚子) 大日本帝国様>夢だからこそタガが外れて楽しめたのだと思います。(のぼり銚子) 関平様>なんか上手いコト言われたッ。(のぼり銚子) 鬼間聡様>大丈夫です、ヤツらは武将でなくても死ぬまで走り続けるのですw(のぼり銚子) jackry様>コレを書いてる間、「夢オチしかねえな」と思いまして。(のぼり銚子) ちょっと思ったけどあい紗はともかく恋とか鈴々とかは武将やめたらおなかがすごいことになりそうだな・・・・・(鬼間聡) はりまえ様>使命感の強い愛紗だからこそ、甘々な生活は夢の中でしか許さないのではと思いました。(のぼり銚子) 小鳥丸様>愛紗は皆に愛されておりますw(のぼり銚子) PON様>できればキャラゲーは、例外なく全員をエコ贔屓してほしいのです。……エロ贔屓?(のぼり銚子) suke様>ありがとうございます。愛紗の救いとなる作品がコレ唯一じゃなければいいんですが……。(のぼり銚子) SeeeeD様>みんなのマホイミスライム、のぼり銚子でございます。(のぼり銚子) Do m.aoi様>犠牲となったのです……。(のぼり銚子) 夢・・・・・そう、それは幻か現実かわからない曖昧なもの・・・・・って羨ましいなーオイ!!!?そんな夢見てーよ(起きた瞬間泣くけど・・・・えぇ泣きますともさ)(黄昏☆ハリマエ) 俺は愛紗大好きなのででれ愛紗最高です(小鳥丸) まぁ愛紗を含む蜀勢は今までが贔屓されてたからこれでつりあいがとれたってことでいいんでね?と個人的には思っています。(PON) この作品が唯一の救いになりました。ありがとうございました。(suke) 萌将伝の傷が癒されました。ありがとうございます(種) ふぅ・・・充電完了・・・よし!無印プレイするか! 武道会の賞品で冷遇されたキャラの話とか作れたと思うのに・・・どうしてなんだorz(Do m.aoi) 大すけ様>許せ愛紗ェ、これが最後の恋姫だ。 愛紗は犠牲となったのです。(のぼり銚子) 浅井とざし様>そういっていただけると書いた甲斐がありました。でも、無印の愛紗の可愛さを超えることは難しいですね(のぼり銚子) 320i 様>愛紗分のないヤツはオレんとこへ来い、オレもないけど心配するな、なのです。 そのうちなんとかなるだろう。(のぼり銚子) よーぜふ様>蜀のキャラクターが一番光ってたのは、やっぱ無印でしたねぇ。無印のEDからの話をFDでってのもアリだと思ったのですが(のぼり銚子) 砂のお城様>私も未購入ですが、哀・戦士です。蓮華も白蓮も焔耶も斗詩もいるというのに、人間はどこまで欲深な生き物なのでしょう(のぼり銚子) 萌将伝には愛紗メインのストーリーが無かったので、明日には売る予定(涙)(大ちゃん) 萌将伝には愛紗のCGがないとか・・・ですがこういう小説見てるとそれも気にならなくなります。ありがとうございました。(浅井とざし) このような日々、愛紗がすごせたらよかったのに・・・ 蜀に冷たい萌将伝。まぁ日常パートはおもしろいのでなおさら残念でしたが・・・例え○○○なくても、せめて個別日常がほしかった・・・(よーぜふ) |
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