文化祭系小説
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「ねえ早速どこ行く?」

 

「3階でやってる写真部、今年面白い企画やってるみたいだよ」

 

 

 

 

校内を包み込む、いつも以上の喧騒。

 

そして、普段以上に集まる人々。

 

そう、今日は年に一度の一大イベント、学校を宣伝する最大のチャンス……、

 

文化祭である。

 

「さてと……」

 

特に誰かと歩くわけでもなく、また2年生で役割が無く部活にも入ってないため何か仕事があるわけでもない俺は完全に暇を持て余していた。

黙っていても時間の無駄だし適当に歩くか。

 

「3−2でメイド喫茶やってます、かわいい娘いっぱいいますよー!」

 

「3階多目的教室2で茶道部がお茶点てやってます、是非来て下さい!」

 

あちこちから聞こえる呼び込みの声。

 

流れる人の波。

 

「……」

 

しかし俺はどこにも寄りたいと思わず、ただただ行く当てもなく適当に歩き回るだけだった。

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気がつくと最上階の一番端にある、展示やイベントが催されていない教室にたどり着いた。

 

大分歩きつかれたので少しこの教室で休憩しよう、と思って中に入った。

 

中に入り、積まれているイスを降ろして座ろうとした時に俺は人の気配を感じた。

 

大量にイスや机が積まれているその余地に、ぽつんと1人、女子がイスに座って本を読んでいた。

 

「……小西」

 

そこにいたのは俺と同じクラスで、かつ俺の隣の席に座っている小西雪姫だった。

 

「……中野君?」

 

小西は俺の方を見て、ちょこんと首を傾げる。

 

普段はほとんど喋らないが、こうしてたまに話すときのこいつの動作は少し可愛らしいものを感じる。

 

「お前、こんなところで何やってるんだ?」

 

どうせ行く当てもなく暇を持て余している身なので、しばらく話をしていこうと思う。

 

「私は行きたいところが無いし、一緒に歩き人がいないから……」

 

と言うと、小西は軽くうつむく。

 

「中野君こそ、どうしてこんなところに?」

 

「俺も行くところ無いし、一人だからな」

 

「まさか、山本君とか石田君とかいるでしょう?」

 

「あいつらは今頃彼女と一緒にエンジョイしてるだろうよ」

 

「そっか……」

 

「…………」

 

「…………」

 

ここでしばしの沈黙。

 

そして次の瞬間、俺は思いもよらないことを口に出していた。

 

「なあ、もし良かったら……なんだけどさ、一緒に歩くか?」

 

「え?」

 

俺がそういうと、小西はまるで豆鉄砲でも食らったかのような表情をした。

 

「やっぱダメか……」

 

「だ、ダメじゃないよ!」

 

「え……?」

 

諦めかけたその時、ビックリするほどの大声で小西は言った。

 

「むしろ、な、中野君となら大歓迎だよ!!」

 

「小西……」

 

「……あ、は、はうう〜、何か恥ずかしいこと言ってるよ〜」

 

ひとしきり言い切ると、小西は完熟したりんごと同じくらい赤面した。

ここまで言わせておいて答えなきゃ男が廃る……か。

 

「サンキュ。じゃあ行くか」

 

そういって恥ずかしくも手などを差し出してみる。

すると小西はまだにわかに頬を赤く染めたまま、

 

「うん!」

 

と、力強くうなずいてくれた。

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「…………」

 

「…………」

 

小西と一緒に再び下の階に降りてきた。

あれから俺たちは言葉一つ発しない。

あと、何気に手を握ったままだったりする。

 

気まずさと気恥ずかしさを感じながら歩いていると、フイに俺の腹から音がした。

 

「そろそろ昼飯時だな」

 

「そうですね、どこかの模擬店に行きますか?」

 

「そうしよう」

 

そして俺たちは適当な店を選んで昼飯を買った。

 

俺は焼きそばとフライドポテトとコーラ。

 

小西はたこ焼き大のプチケーキ5個入りカップ1つとオレンジジュース。

 

「……なあ、お前それで足りるのか?」

 

「私はそんなに食べれないのでこれだけで多分お腹いっぱいです」

 

「ふーん……」

 

そんな会話をしながら俺たちは休憩スペースで昼飯を食べた。

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食後の腹ごなしにと少し歩いていると、

 

「お、ここ入らねえ?」

 

「ええ!?」

 

お化け屋敷に着いた。

 

「そんなに並んで無いな……よし、行くか」

 

「そ、そんなぁ、私怖いのダメ……」

 

「大丈夫だって、そんなに怖くないって」

 

「そ、そんなぁ……」

 

そんなこんなで半ば無理矢理入ってみた。

 

すると……、

 

「きゃああああああああああ!!」

 

とかベタな叫び声あげて小西が俺に抱きついてきた!

 

「ちょ、小西抱きつくなって」

 

「いやああああああああああ!!」

 

小西は完全にパニック状態。

 

俺もある意味パニック状態。

 

何かこう、小西の長い亜麻色の髪から甘い匂いはしてくるし、

おまけに柔らかい何かが思いっきり押し付けられてるし……。

 

あ、小西の以外にデカい。

 

じゃなくて。

 

「だから抱きつくのはやめろって!!」

 

「いやあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

………………。

 

…………。

 

……。

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「その、ごめん小西」

 

「ううん、私こそやたらと抱きついちゃって……ごめんなさい」

 

お化け屋敷を出た後、しばらく俺たちはひたすら謝りあってた。

 

 

 

「本日は、南高校文化祭にお越しいただき、誠にありがとうございました」

 

あれからまたブラブラと校内を回っていると、あっという間に時間になってしまった。

 

「今日は本当にありがとうございました」

 

「いや、俺の方こそ。ありがとう」

 

何だか、とても充実していたような気がする。

 

「その……明日もまた、一緒に歩いてくれますか?」

 

「へ……?」

 

「ダメ、ですか?」

 

「いやいやいや! 明日もまた頼むよ」

 

「……はい!」

 

どうやら、明日も充実した1日になりそうだ。

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「……やっべぇ!」

 

今俺は小西との待ち合わせの場所に向かって全力疾走している。

 

なぜかって?

 

……それは、もう待ち合わせの時間から10分も過ぎているからだ。

 

迂闊だった。

 

「ぜえ、はあ、ぜえ、はあ……」

 

階段を2段とばしで登っていき、昨日最初に小西と会った教室へ駆け込んだ。

 

するとそこには、昨日と同じイスに座っている小西の姿があった。

 

「……良かった。もしかしたら来ないんじゃないかと思いました」

 

「わ、悪い。つい寝過ごして」

 

「良いんです、こうやって来てくれましたし。今日もまた一緒に歩いてくれますよね?」

 

「ああ、もちろんだ」

 

「なら問題ないです。行きましょう」

 

そうして小西は昨日と同じように俺に手を差し出してくる。

もちろん俺はその手を握った。

 

昨日ずっとこうしていたとはいえ、まだ若干恥ずかしいな……。

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あれからいろんな所に行った。

 

美術部や写真部の展示場、昨日入ったお化け屋敷の再チャレンジ(結局小西は昨日と変わらず絶叫し続けていたが)。

 

昼飯を食った後、小西がこんな提案をした。

 

「ちょっと歩き疲れましたし、午後はあと体育館にいませんか?」

 

今はもう午後1時、文化祭はあと1時間半すれば終わる。

 

特に行きたいところも無いし、別に俺はかまわない。

 

「いいよ。それじゃあ体育館に行こう」

 

そうして俺たちは体育館へ向かった。

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俺たちが体育館に入ってしばらくすると、徐々に観客が増えてきた。

 

大方、俺らと同じような理由で来たのだろう。

 

文化祭終了30分前くらいになったら、席がほとんど埋め尽くされていた。

 

「かなり人が増えてきましたね」

 

「そうだな」

 

そしていよいよ最後のグループ、最後の1曲。

 

それは切なげなラブソングだった。

 

思わずプロでは無いかと疑ってしまうくらい透き通った声にのせられる、恋人へ向けられる言葉の数々。

 

それに聞き入る観客たち。

 

「本当に……綺麗な声」

 

「確かにうまいな、プロにでもなればいいのに」

 

恐らくこの曲を聞いてる観客の思っていることは一緒だと思う。

 

ずっとこの歌を聴いていたい、と。

 

しかしそんな願いもかなわず、紡ぎだされる最後の1フレーズ。

 

そして、湧き上がる歓声。

 

そんな中で、わが校の文化祭は幕を閉じた。

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「……繰り返します、後夜祭実行委員は至急校庭に集まってください」

 

わが校は伝統的に後夜祭を行っている。

 

とある調査によると校内カップルの約半数は後夜祭で告白を行うそうな。

 

「それでは、これより後夜祭を開催します。生徒の皆さんは校庭に集まってください」

 

「行きましょう、中野君」

 

「ああ」

 

そうして俺たちは校庭に出た。

 

もうすっかり暗くなった夜空に、煌々と輝くキャンプファイヤーの灯り。

 

皆は音楽に合わせダンスを踊る。

 

俺が誘うより一瞬早く、

 

「私たちも踊りましょう」

 

と、小西が俺を誘った。

 

それからの数十分は、ある意味で最高の時間だったかもしれない。

 

楽しげな小西を見てると、自然と俺も楽しくなってくる。

 

しかしそんな時ほど時間というのは早く過ぎ去るもので……。

 

「皆さん、今年の文化祭は楽しかったですかぁ!?」

 

「「「楽しかったぁーーー!!!」」」

 

「私たち3年生は今年で卒業ですが、1、2年生は来年があるので、今年以上の文化祭を作り上げてください! それではこれで、文化祭及び後夜祭を……、閉会します!!!」

 

「「「ワーーーーー!!!」」」

 

「……終わっちゃいましたね」

 

「そうだな」

 

「なんか、ちょっと寂しいです」

 

「俺もそう思うよ」

 

心の中でこの2日間を振り返る。

 

正直、この2日間小西と一緒にいて俺はすごく楽しいと感じた。

 

普段小西はあまり喋らないのだが、この2日間は普段の3倍くらい喋っていたと思う。

 

それだけ楽しかったのだろう。

 

本当に……まだこの幸せな時間が続けばいいのに……。

 

だけどもうその時間は終わる。

 

今校門を出て、「さようなら」と言ってしまえば、この幸福に溢れた時間は終わりを迎える。

 

仕方の無いことだ……そう俺はあきらめていた。

 

そして俺たちは校門から1歩、外へ出る。

 

「中野君はどの方向ですか?」

 

「俺? 俺はこっちだけど」

 

といって左のほうを指差す。

 

「私と同じ方向ですね、一緒に帰りませんか?」

 

「……おう」

 

俺はこの時、この時間をもう少しだけ引き延ばしてくれた何かに感謝をした。

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住宅街へ差し掛かり、暗い道を2人で歩く。

 

特に話題は無く、時々思い出したように何かを喋るといった感じだった。

 

「中野君」

 

そんな時突然、小西が口を開く。

 

「なんだ?」

 

「中野君は、2日間楽しかったですか?」

 

「当然だろ、楽しくないわけ無い」

 

「それじゃあ、私と一緒にいて楽しかったですか?」

 

「!!」

 

俺はその質問に少しドキッとして、すぐに他意は無いだろうと思い直した。

 

「ああ、すごく楽しかった」

 

「……それじゃあ、ちょっとだけお話を聞いてもらえますか?」

 

「……分かった」

 

俺たちは、近くの公園に向かった。

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「私はおとなしい為か、あまり友達とかがいません」

 

「確かにそう見えるな」

 

「だけど、昨日偶然中野君とあって、一緒に文化祭を楽しんで、まるで中野君が友達であるかのように感じられました」

 

「……寂しいこと言うなよ、俺でよければいつでもまた付き合ってやるからさ」

 

「ありがとうございます。でも、後夜祭……もっと言うと文化祭の最後のあたりからでしょうか。中野君を友達として見れなくなってきました」

 

「え?」

 

「中野君、私はあなたが好きです」

 

「!?」

 

突然の告白、面食らう俺。

 

いやまて、もしかしたらloveじゃなくてlikeかもしれない。

 

「大好きです。今いるこの、地球上の誰よりも」

 

……これはさすがにloveと見て間違いなさそうだな。

 

さて、どう返事をしたもんか。

 

「あなたは私に、どんな感情を抱いてますか?」

 

頭の中をこの2日間の記憶が走馬灯のように駆け巡る。

 

お化け屋敷で怖くて俺にしがみついてきた小西。

 

バンド演奏を聞き入っていた小西。

 

後夜祭で楽しそうに踊っていた小西。

 

俺は小西に一体どんな感情を持つ?

 

少なくとも俺は小西のことが嫌いじゃない。

 

嫌いじゃないなら……、

 

「今はまだ、俺が小西をどう思ってるか分からない」

 

「……そう、ですか」

 

「でも、少なくとも嫌いじゃないし、これからもっと小西のことを知っていきたい」

 

「え?」

 

「こんな俺でよければ付き合ってくれ、小西」

 

「!!」

 

今度は小西が面食らった顔をする。

 

そうだ、もし今好きかどうか分からないのであればこれから好きになっていけばいい。

 

あせる必要は無い、後夜祭の最後で言ってたじゃないか。

 

「1、2年生は来年がある」って。

 

「俺、来年の今日胸張って小西のことが好きだって言うからさ」

 

「中野君……」

 

誰もいない公園、薄暗い街灯に照らされる俺と小西は、来年の今日、ここで再び気持ちを確認することを誓うため、そっと口付けをした。

 

まっててくれ小西、かならず来年、好きだって言って見せるから……。

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俺たちの最後の文化祭が終わった。

 

今年は3年生であるため、部活に入っていないやつも仕事に借り出されて大忙しでデートをしてる暇も無かった。

 

後夜祭を終えて、去年約束した公園を2人で訪れる。

 

時間もちょうど同じくらいだ。

 

「中野君、去年の約束覚えてる?」

 

「ああ、しっかり覚えてるよ」

 

「なら、あなたの気持ちを……聞かせて」

 

俺は、自分の気持ちを言う前に一瞬だけ目を閉じ、この1年のことを思い出した。

 

デートにも出かけた。

 

キスもたくさんした。

 

少しだけ……イケナイこともした。

 

そして俺は、それらすべてにおいて1つも後悔などしていない。

 

気持ちはもう決まっていた。

 

目を開け小西……いや雪姫を見据え、俺ははっきりと言った。

 

「俺は、小西雪姫のことが……好きだ!」

 

 

 

……あの告白からもう10年になる。

 

今俺は、雪姫と一緒に、幸せに暮らしてます。

説明
文化祭をやってる最中に思いついた小説。
タイトルは思いつかなかったので簡潔に。
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