真・恋姫?無双 悠久の追憶・第八話 〜〜騒がしい来客〜〜
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第八話  〜〜騒がしい来客〜〜

 

 

――――――――――――――街の空は素晴らしい晴天に恵まれていた。

 

抜けるような空の青さと輝く太陽の光に照らされながら、この日一刀は街を歩いていた。

 

いつものように机の前で頭を抱えているわけでも、視察という名目で仕事から逃げているわけでもない。

 

今日は純粋にただの休暇だ。

 

というのも、『今日は特に急ぎの仕事はありませんので、午前中はゆっくりしてください。』と愛紗に言われたからだ。

 

急に舞い込んできた半日の休み、昼まで布団でゴロゴロ・・・というのもいいが、せっかく天気が良いのにもったいない気がした。

 

 「ああ、これは御遣い様。 おや、今日はおひとりですかい?」

 

 「こんにちは。 まぁ、たまにはね。」

 

声をかけてくれた店のおじちゃんに笑顔で応える。

 

今日、一刀に護衛は付いていない。

 

もちろん愛紗は、休みの時ぐらいかたっくるしい護衛はやめてほしい、という一刀に対して最初は大反対していた。

 

凛々しく眉毛をつり上げて、『おひとりで不貞の輩にでもからまれたらどうするのですかっ!』の一点張り。

 

もちろん愛紗の言い分も分かるし、自分のことを心配してくれているのも嬉しいのだが、街を見て回るのに屈強な男たちに囲まれていては息が詰まるのは必至だ。

 

どこへ行っても、まわりの人たちは自分を囲む男たちに怯えて離れて行ってしまう。

 

それでは街の住民との交流も深められない。

 

時間はかかったものの、桃香たちの協力もあってなんとか愛紗を説得し、一刀は久しぶりに一人の時間を満喫していた。

 

 「まだまだ物騒な連中も多いですから、気をつけて下さいよ?」

 

 「ありがとう、気をつけるよ。 それじゃあ。」

 

心配してくれるおじちゃんに軽く手を振って別れ、また通りを歩き始める。

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 「うんうん、だいぶ賑やかになってきたな。」

 

周りを見渡しながらの独り言も、自然と声が弾む。

 

先日の桃香の腹ペコ事件の日にも一度視察はしたのだが、日に日に賑やかになっていく街を見て回るのはやっぱり楽しいものだ。

 

なにより、今日は護衛がいない。

 

それだけで、視察の時とは解放感が全く違った。

 

 「・・・少し腹が減ったな。」

 

一刀が街に出てから、もう結構な時間が経っていた。

 

日もだいぶ高く昇り、そろそろ昼食の時間だ。

 

 「せっかくだし、何か食べて帰ろう。」

 

今から昼食を食べて城に戻ればちょうどよい時間だろう。

 

そう考えて、一刀は飯店が集まっている方へと歩き出した。

 

 

 

 「ん〜・・・何食べようかなぁ・・・」

 

最近は飯店もだいぶ増えて来たので、昼食を食べるのにも目移りしてしまう。

 

 「ねぇねぇ、お兄さん。」

 

 「?」

 

通りに並ぶ店を見ながら悩んでいると、後ろから声が聞こえた。

 

 「・・・あれ?」

 

振りかえってみるが、そこに人の姿はなかった。

 

 「?・・・気のせいかな・・・」

 

気のせいでなければ、呼ばれたのはきっと自分ではないのだろうと思い、元の方向へと歩き出す。

 

 「ねぇねぇ、お兄さんってば!」

 

 「へ?」

 

再び後ろから聞こえた声に、やはり自分が呼ばれたのかと思いもう一度振り返る。 

 

しかし、やはりそこには誰もいない。

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 「・・・おっかしいなぁ。」

 

“ガリガリ”と頭をかいて、通りを見渡す。

 

 「そっちじゃなくって、こっちだよ〜。」

 

 「?」

 

今度は反対側から声が聞こえた。

 

振りかえっても案の定、そこには道があるだけ。

 

 「もぉ〜〜!こっちこっち、こっちだってばぁ〜〜!」

 

 「こっちって・・・」

 

もはやどこから声がしているのか分からなくなってぐるりと辺りを見渡すが、声の主は見つからない。

 

ふと、気付いたように視線を落そうとしたその時だった。

 

 “バッ!”

 

 「ここにいるぞーーーー!!」

 

 「うわっ!?」

 

 “ドン!”

 

一刀の死角になっていた下側から、突然小さな影が飛び出してきた。

 

あまりの驚きに、一刀は思わず豪快に尻もちをついてしまった。

 

 「あはははっ、おっかし〜。 お兄さんたらそんなに驚いちゃって♪」

 

飛び出してきた影の正体は、一人の少女だった。

 

栗色の髪を頭の横でまとめていて、歳は鈴々より少し上くらいだろうか・・・

 

その少女は、尻もちをついている一刀をみて笑っている。

 

 「な・・・なんなんだ一体・・・」

 

まだ状況がつかめない一刀は、ただ目の前で笑う少女を見上げて呆然としている。

 

 「は〜面白かった。 驚かしちゃってごめんね、私は馬岱(ばたい)っていうの。」

 

 「え?・・・あ、あぁ。」

 

いきなり名乗られたことに戸惑いながらも、一応頷いておく。

 

そして一刀はようやく立ち上がり、尻についた砂を手で払った。

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 「で、馬岱ちゃん・・・だっけ? 俺に何か用?」

 

「あ、そうそう。 お兄さんに道を聞こうと思って。」

 

 「道を?」

 

 「そーだよ? なのにお兄さんてば、何回呼んでも全然気づいてくれないんだもん。」

 

馬岱と名乗る少女は、そう言って唇を尖らせた。

 

小さくて見えなかった・・・なんて言うと確実に怒られそうなので、口には出さずに思うだけ。

 

 「あぁ、ごめんごめん。 で、どこに行きたいの?」

 

一刀自身あまり外には出ないため詳しくは分からないが、ある程度の場所なら答えられる自信はあった。

 

もし分からなくても、近くの人にでも尋ねればいい。

 

 「あのね、この街のお城に行きたいんだけど・・・」

 

 「・・・城?」

 

予想外の答えに少し拍子抜けだった。

 

それは、一刀がこの街で一番よく知っている場所だ。

 

 「城ならほら、この通りを真っ直ぐ行ったところにあるあれだよ。」

 

一刀は通りの先に見える城を指さしてみせる。

 

 「・・・あっ、ほんとだ!なんだぁ〜、やっぱりこの道で良かったんだ♪」

 

 「(・・・というか、なんで気づかないんだ?)」

 

いくら小さめの城とはいえ、こうして通りからもしっかり見えているのにいったい何を迷うことがあるのだろう。

 

そう思ったが、一刀はあえて突っ込まなかった。

 

 「ありがと、お兄さん♪」

 

 「どういたしまして・・・ところで、城に何か用なの?」

 

一刀としては、こんな女の子が一人で城なんかに何の用があるのかが気になった。

 

たいして大きくもないこの街に、ただの観光が目的とは思えない。

 

 「うん。 御遣い様に会いに行くの♪」

 

 「・・・へ?」

 

 「へ・・・って、お兄さんもこの街の人なら知ってるでしょ?最近この街にきた天の御遣い様だよ。」

 

 「いや、知ってるもなにも・・・」

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馬岱の返答に、思わず戸惑ってしまった。

 

何しろ彼女が会いたいと言っている天の御遣いは、他ならぬ自分の事なのだ。

 

 「どんな人なんだろうな〜御遣い様って。 お兄さんは見たことある?」

 

 「いや、だから・・・」

 

 「やっぱりすっごい人なのかな〜? 街の人たちの信頼も厚いって聞くし。」

 

馬岱は一刀の声を聞こうとせず、ただ目を輝かせて独り言を続けている。

 

 「(・・・いかん、なんかどんどんハードルが上がっている気がする。)」

 

これ以上放っておくと名乗るに名乗れなくなりそうなので、一刀は少し強引に口をはさんだ。

 

 「あ、あのさ・・・馬岱ちゃん。」

 

 「?・・・なぁに?」

 

一刀の呼びかけに、やっと馬岱は顔を向けてくれた。

 

 「その、天の御遣いなんだけど・・・」

 

 「え!?もしかしてお兄さん知り合いなの!?」

 

 「いや・・・それ、俺の事なんだ。」

 

 「・・・・・・・・・へ?」

 

 「だから、俺が天の御遣いなんだよ。」

 

馬岱は一刀を見つめたまま目を丸くしている。

 

二人の間に、しばらくの沈黙が続いた。

 

 「・・・ぷっ、ははははっ!」

 

そして沈黙を破ったかと思うと、馬岱は突然笑い出した。

 

馬岱の反応に、今度は一刀が目を丸くする。

 

 「・・・えっと、何かおかしなこと言ったかな?」

 

 「ははははっ。 だって〜、お兄さんがそんな冗談言うなんて思わなかったから。」

 

馬岱はいまだにお腹を押さえて、必死に笑いをこらえているようだった。

 

 「いや、冗談じゃないんだけど・・・」

 

 「またまた〜、そんな嘘ついちゃって〜。 だいたい、お兄さんが天の御遣いならこんなところに一人でいるわけないでしょ?」

 

 「ぐ・・・っ」

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言われてみれば確かにその通りだった。

 

仮にも君主である天の御遣いが、こんなところで護衛もつけずに歩いているなどいったい誰が思うだろうか。

 

今回ばかりは、護衛をつけていないことを後悔した一刀だった。

 

 「まいったなぁ〜・・・どうしても信じてくれない?」

 

 「もぉ〜、まだそんなこと言ってるの?そんな嘘に騙されないよ〜だ。」

 

 「はぁ〜・・・」

 

思わずため息。

 

この様子では、これ以上自分が何を行ったところで無駄な気がした。

 

 「あら?御遣い様じゃありませんか。」

 

 「え?」

 

一刀が半ばあきらめかけていた時、たまたま近くにいた店のおばちゃんに声をかけられた。

 

 「今日はまたずいぶんと可愛らしい子を連れてらっしゃいますね。」

 

おばちゃんは、一刀の傍にいる馬岱を見てニコニコと笑っている。 

 

すると、先ほどの言葉を聞いて、馬岱は少し驚いたようにおばちゃんに言った。

 

 「ね、ねぇおばちゃん。 今御遣い様って言った!?」

 

 「?・・・あぁ、それがどうかしたかい?」

 

 「御遣い様って・・・もしかしてこのお兄さんのこと・・・?」

 

馬岱は、隣に立っている一刀を指さした。

 

 「なんだお譲ちゃん、知らずに一緒にいたのかい?そうだよ。 そのお方が天の御遣いの北郷さまさ。」

 

 「えぇ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

驚いた馬岱の声が、通りに響き渡った。

 

道行く人たちは何事かと驚いたかもしれない。

 

 「じゃ、じゃあ・・・本当にお兄さんが天の御遣いなの!?」

 

 「だから、さっきからそう言ってるじゃないか。 ・・・まぁ、信じられないのも無理ないけど。」

 

頭を“ガリガリ”とかきながら、一刀は心の中でおばちゃんに感謝した。

 

 「ごっ、ごめんなさい!私ったらさっきから失礼なことばっかり言っちゃって・・・」

 

馬岱は必死に一刀に頭を下げる。

 

さっきまで元気だった声は一気に沈んでしまった。

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 「いや、気にしなくていいよ。 いつも周りから君主っぽくないとか言われてるから。」

 

 「でも・・・」

 

 「それよりさ、馬岱ちゃんは俺に用があるんだろ? だったら城で話を聞くから、一緒に行こうよ。」

 

 「・・・御遣い様、怒ってないの?」

 

馬岱は恐る恐る顔を上げ、少しうるんだ瞳で一刀を見上げる。

 

 「全然。 だからそんな顔しないで?」

 

 「・・・うん♪」

 

一刀が笑顔で応えると、馬岱も笑顔で返事をしてくれた。

 

 「それじゃあいこうか。」

 

 “グゥ〜”

 

 「?」

 

 「あ・・・」

 

笑顔になった馬岱を連れて城に向かおうとした時、馬岱のお腹が小さく鳴った。

 

 「馬岱ちゃん・・・もしかしてお腹すいてるの?」

 

 「・・・うん。」

 

一刀の問いかけに、馬岱は恥ずかしそうに頷いた。

 

 「ははは、そっか。 そういえば、俺も今から昼飯にするつもりだったんだ。 よかったら城に行く前に何か食べていこうよ。」

 

 「あ・・・でも私お金が・・・」

 

 「そんな事気にしなくていいよ。 君はお客さんなんだから、それぐらい御馳走するよ。」

 

 「ほんと!?」

 

馬岱の表情がとたんに明るくなる。

 

ふとした思いつきで言った提案だが、二人分の食事代分くらいは財布にあるはずだ。

 

 「ああ。」

 

 「わーい!ありがとう御遣い様♪」

 

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―――――――――――――――――――――向かった店は昼時ということもあり満席だったので、一刀たちは店の外にある席で食事をとることにした。

 

 「ん〜!おいし〜い♪」

 

 「喜んでもらえて何よりだよ。」

 

馬岱は卓の上に並べられた料理を笑顔で口に運んでいく。

 

 「ありがとう御遣い様。 それから・・・さっきは本当にごめんなさい。」

 

 「もう気にしなくていいって。 あの状況じゃ誰だって信じないよ。」

 

疑ってしまったことをまだ気にしている様子の馬岱に、一刀は笑顔で応える。

 

 「それより、がっかりさせちゃったかな?天の御遣いが俺みたいなヤツで。」

 

 「ううん、全然。 カッコいいし、優しいし、威張ってないし、むしろ想像以上って感じ!」

 

 「あはは、ありがとう。」

 

馬岱は食べていた手を止めて、満面の笑顔で応えてくれた。

 

そこまで言われるとさすがに照れてしまうので、笑ってごまかす。

 

 「ところで、馬岱ちゃんはこの街に一人で来たの?」

 

 「ううん、お姉さまと二人で来たの。 あ、お姉さまっていっても従姉なんだけどね。」

 

 「へぇ〜。 で、そのお姉さんはどこにいるんだい?」

 

 「分かんない。 御遣い様に会う少し前までは一緒だったんだけど・・・」

 

 「コラッ!たんぽぽ!」

 

 「ふぇ!?」

 

会話をさえぎって突然聞こえてきた声に、馬岱の体が“ビクッ”と跳ねた。

 

 「お前、こんなところで何やってんだ!」

 

 「お、お姉さま!?」

 

声がした方を見ると、そこには馬岱に良く似た少女が立っていた。

 

その少女は馬岱よりも背が高くて髪はポニーテールにまとめてあり、まるで彼女がそのまま成長したような感じだった。

 

 「まったく、急にいなくなったと思ったら呑気に昼ごはんか?」

 

突然現れた少女は馬岱を見て怒っているというよりは呆れているようだった。

 

 「ち、ちがうよ!これにはいろいろと訳が・・・」

 

 「言い訳するな!早く城に言って天の御遣いに会わなきゃいけないってのに。」

 

 「それなら大丈夫だよ。 御遣い様ならここにいるもん!」

 

馬岱は自分の向かいに座っている一刀を指さした。

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 「はぁ?何訳わかんないこと言ってんだ。 ほら、行くぞ!」

 

 「あ、ちょっとお姉さま〜!」

 

だが少女は馬岱の言葉に耳を貸さず、座っていた馬岱の腕を掴んで連れて行こうとする。

 

馬岱は腕を引っ張られながら、必死に目線で一刀に助けを求めていた。

 

 「あ、あの・・・君が馬岱ちゃんのお姉さん?」

 

 「ひゃわっ!? なななな、何だよお前!?」

 

馬岱の視線に気づいた一刀は、少し戸惑いながらも少女に声をかけた。

 

すると少女は、まるで今一刀の存在に気付いたかのように驚いた。

 

 「何だよって・・・さっきからずっとここに座ってたんだけど・・・」

 

 「そ、そうじゃなくて、なんでたんぽぽと一緒にいるのかって聞いてるんだよ!」

 

 「何でって・・・」

 

 「だから〜、このお兄さんが天の御遣いなんだってばぁ!」

 

 「・・・・・・は?」

 

少女の質問に答えようとした一刀より早く、まだ腕を掴まれたままの馬岱が言った。

 

その言葉を聞いた少女の動きが“ピタリ”と止まった。

 

 「て、天の御遣いって・・・・」

 

少女は固まった表情のままゆっくりと一刀の方を見る。

 

一刀はそんな少女に対して苦笑しながら、一度“コクリ”と頷いた。

 

 「えぇ゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

 

通りに、今日二度目の大声が響いた。

 

 「いや、そんなに驚かなくても・・・」

 

馬岱の時といい、周りの人たちからすればいい迷惑だろう。

 

 「う、うううう嘘だ!こいつが・・・て、天の御遣いなんて!」

 

 「ほんとうだってば〜!」

 

 「はぁ〜・・・」

 

二人のやり取りをみながら、一刀は今度はどうやって信じてもらおうかと考えながらため息をついた。

 

 

 

―――――――――――――――――その後、頑として信じようとしない少女をなんとか馬岱と二人で納得させ、話を聞くために城へと向かった――――――――――――――

 

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〜〜一応あとがき〜〜

 

というわけで今回は翠とたんぽぽの登場でした。

 

この二人は個人的に気に入ってるのでようやく出てきてくれてうれしいですww

 

ちなみに、たんぽぽの登場シーンはただあの決め台詞を使いたかっただけ・・・ (汗

 

それから、迷ったのはたんぽぽの一人称なんですが、とりあえず真名を名乗るまでは『私』にしました。

 

次回はなぜ翠とたんぽぽが来たのかというお話です。

 

また読んでやってくださいww

説明
第八話ですww

前回の予告通り、あの二人の登場ですww

最後まで読んでやってくださいww
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コメント
うん、やっぱ最初はこんな感じだよね、城に着いたら嫉妬に駆られた将軍が「またですか・・・・#」的になるんだろうね(黄昏☆ハリマエ)
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真・恋姫?無双 一刀  たんぽぽ 

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