レベル1なんてもういない 1−1 |
一歩、足を着いたら周りには何も無い所だった。
広い世界にただ1人、自分だけが意思のある存在。
全てが動かないものと錯覚する場所にいた。
左を向いても
右を向いても
事実周囲を見回しても動くものは何一つとしてなかった。
自身の周囲を取り巻いて新しい空気を運んでくれる風、
そして遥か上空に浮かぶ雲を除いては。
確か学校帰りにそんな所に連れてこられたのだ。
救いを求めるような声がした。
だから救ってあげる。
簡単な図式だ。
疑問に思う事なんてどこにもない。
だがこのままだと何もしないうちに自分の色も真っ白に変わりそうだ。
汚染されるのは嫌だ。
方角なんて当てにならないがまずここがどこなのか知らなければならない。
…
音がする。
少しだけ空気が震えている
… … …
同じリズム…足音か。
遠くから聞こえるそれは此方に近づいてくるようだ。
うっすらと影が生まれ少しずつ色を持ち出したその形を知っていた。
近づいてくる色の正体をずっと前から知っていた。
見知らぬ地に来たばかりで自分の記憶も自分の存在すらも曖昧なのに
寄ってくる人の事はよく覚えていた。
「よう」
安心を含めて慣れ親しんだ挨拶をする。
その声に応じてその緑色のものはゆっくりと対応した。
が、それは首を傾げている動きで
頭の上に?マークが飛び出してきそうな程に首を曲げている。
こちらの事が解っていないのだろうか。
そのまま一直線にここに向かってくる。
「いよう」
もう一度挨拶をする。
しかし反応は変わらない。
こんな世界に来てまで人違いか。
何一つ無い世界に動揺してよく見知った見間違いをしたのか
それともこの状況下から
自分の希望から想像し産み出してしまったのか。
有り得ない話ではない。
いや、有り得ない。
いや、有り得ない。
いや、有り得ない。
「だって、お前さん、葵だろ?
葵もこの世界に呼ばれてきたんだよな?」
「違う。私はそんな変な名前じゃない」
真っ向から否定された。
確かに昔から知っている葵という名を持つものは
この状況でそんな冗談を言う人ではない。
「私ラフォード
貴方はこの世界の人々を闇と悲しみから救う使命を持つ者
私はその者を守護する者」
ゆっくりとだが此方の言葉を聞こうともしない
そんな口調で矢継ぎ早に喋り終えると
その姿は少し満足気だった。
相当な練習をしてきたようだ。
「えっとさ…
何だかさウチもここにやって来たばかりだからさ。
質問したいんだけど」
「駄目」
「…駄目?」
「貴方はこの世界の人々を闇と悲しみから救う使命を持つ者
私はその者を守護する者」
同じ台詞を言われた。
一文字も変化がない。
「今はそれだけ心得てくれたらいい」
「あ、そう」
「エル!」
「う、はい!」
決して大きな声ではないがその一帯に響くような声だったので反射的に返事をしてしまった。
「ん?エル?
何が?」
「そう、エル
それが貴方の名前
以前来た時もそう名乗ってた」
「ウチが?ここに来たのは初めてじゃないの?」
「さあ
でも以前ここに来た時も同じ事を聞いていた」
「え?」
また一つ新たな疑問が現れる。
ええい、これ以上混乱させてくれるな。
「なあ、葵は知ってるんだろ
教えてよ
これじゃあ不公平だよ!」
「違う、私ラフォード」
「ウチから見たら葵にしか見えないよ」
「違う、私…」
「葵だよ!
久慈葵!それがおま…」
「…あ…」
少しだけ思い出した。
「え…っとラフォード、だっけ
ゴメン
そっか…
ラフォード、なんだね」
思い出した事はほんの僅かだけど、とても大事な事で、
思い出した事はとても辛い思い出だった。
「エルが気にする事ない」
「エル、これから世界を救いに行く
その中でしてはいけない事があるの」
「へえ、
でも大体は解るよ
情けは人の為ならず
そういうことだろ?」
とりあえず適当に挙げた事だから違うとは思っていたが、
その後に聞く台詞は想像だにしないものだった。
「エル、貴方は戦っては駄目」
「は?」
「貴方は戦う心を持ってはならない
怒ってはならない
貴方が戦う時は世界を救うべきその時だけ
その時が来るまでは戦う事は許されない」
「…まあいいよ。
ウチは戦わないでいいんだね。
ウチの親もよく言っていたよ。
1つの扉が閉じる時はもう1つの扉が開くときだ、ってね。
その為なのか座禅とかよくやらされていたっけ。
じゃあウチらに変な奴らが纏わり付いたその時は、どうするん?」
「其の時の為の私。
貴方は見ているだけで、いい。
仮に私よりも相手が上回っていたとしても。
「エル。真の敵は自分自身よ
それを覚えていて」
大人はいつだって解らない事しか言ってくれない。
解ってもらおうとしてるのかも疑問だ。
どうして説明してくれないんだろう。
でも今の言葉だけはどこかで聞いたような…
「さあ世界を救う冒険に!」
「ああ…うん」
いかにも歯切れの悪い第一歩だった。
もう少し段取りを考えて士気を昂らせてくれても良いのに。
それに聞きたい事も増えるばかりだが
今は促されるままについて行く事しかできないだろう。
そう言えば葵も目の前のラフォードと一緒で結論のみを一直線に言う奴だったっけ。
何も動かないと思っていた場所から足を踏み出すエルの頭の中で
これから始まる冒険の過酷さを知るのは、そう遠くない話だった。
「ところで葵さ
そんなに可愛いカッコでこんな所まで来たの?」
「私ラフォード。
そう、恥ずかしかったけれど貴方に嫌われないように、
って言われたから」
後半部分の言われたから、そこだけはたった今とって付けた様な話し方だった。
今までの練習してきた台本のような話し方とは明らかに違って聞こえた。
「あーウチも早く着替えたいなー
コレじゃあ世界を救いに行く格好じゃあ少なくともないよ」
それは学校帰りの制服で、
持ち物が本人が好きなお菓子、ポテチが入ったバッグ、
「旅」に必要なる物はコレといってないに等しい所持品だ。
「それなら早く街に行かないと」
「その街まではどれ位あるの?
日が暮れるまでには着くんだよね?」
「着かない
走っても数日はかかる
でも日が暮れても方向は解る
問題ない」
「そうなの…
ウチ野宿はちょっと…嫌だよ」
「?」
夜になると電気のある世界にいた頃とは違って、
ここにはどこを見渡しても灯りとなる物が存在していない。
進むべき道や目的地への到着への不安もそうだが
外敵に対する不安の方が脅威だった。
「夜?
ああ決戦場が見えない藍の時間ね
私は決戦場が見えなくても方向には詳しい
心配無用」
「というか決戦場って何さ?」
「あれ」
ラフォードが指を差した上空のずっとずっと先にあるものは
太陽だった。
「太陽?」
「貴方がここで一度だけ戦う世界を救う決戦の為の場所
だから決戦場」
「そんなわけないじゃん
あそこまでどの位距離知ってるか?
あの中はどの位熱いのか知ってるか?」
「貴方なら大丈夫」
素で言っているのか
葵も太陽の知識位は持っていただろうに。
「もう一つ大丈夫
決戦場が見えなくなっても空にある星は決戦場だけじゃない
暗闇に怯える事なんて、必要ない」
自分に何を期待されているのか。
世界を救う…
今時点この世界が危機なのか
何一つ教えてくれない相棒。
ひとまず今は
服を着替えたい。
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物語の始まりは異世界に降り立ったその時から。 そこで会う人物は… ここを要約すると2行で済んじゃいましたw |
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