変わり往くこの世界 12
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  「ユタ来たぞ!」

 判ってるってか、押すな!転んだらどうする転んだら、慌てる様に全力で

  丘から西にある平地へと走る俺とリフィル。背後からは速度差が段違いなんだろう

  凄い勢いで迫ってきている事を振り向いて確認すると、右手に握っている

  クロスボウを振りクリスを確認するが、まだ1200秒は経っていない様だ。

 流石に20分は長い! …いやそれに見合った破壊力なんだが。長い!!

  ひたすら走り、平地へと辿り着き上空を向くと、既に何頭かは追いついているらしく、

  上空でホバリングして…口から火の玉吐いてくる。確認する暇もあったものでは無い。

 慌てて左右に分かれて火玉から逃れ、その直後に地面に衝突し、

  爆音と共に爆風と土煙を撒き散らし視界を奪ってくる。その中をひたすら走る。

  どうにも上空にいられると手の出しようが無いが、奴等の滞空可能時間は30分程度。

  降りてくる頃には、アイシングフィアも機能回復している。

 お? 何やら向こうから地響きが起こり、竜の吼え声が。どうやら一頭降りてきた様だ。

  だが、確認のしようも無く、俺はひたすら走っている。 リフィルにはゼロブランドが

  ある。火のブレスとは相性が良いだろうから心配無用といった所で…

  取り合えず保身最優先で走る!! 離れた所、わりと近い所で起こる爆発音。

 時折飛んでくる焼けた土の塊、強い風。それからひたすら逃げる。

  まるで空爆だぞこりゃ。上空から焼夷弾ならぬ火炎弾を吐いてくる竜の群れ。

 全く持って…うおぉっ!? いきなり目の前に現れた巨大な影は間違いなく竜!

  だが…どうやら凍っている様だ。軽く叩くと完全に凍結している。

 ふむ…これだ。その竜の陰に隠れ火炎弾から身を隠そうと腹の下周辺へと…お?

  「無事だったか」

 お前、中々ちゃっかりしているな。竜を凍らして防空壕がわりにするとは。

  四つんばいになり、周囲を確認している彼女をそう思いつつ見ていると、

  いくつもの吼え声が聞こえる。どうやら探している様だが、この土煙が幸いしたのか

  見つかる事もなく、アイシクルフィアも再起動した様だ。

 さて、そろそろやっこさんの滞空時間も過ぎる、降りてくる頃だ…と。

  そう思った瞬間、次々と地響きが起こしながら降りてくる。

 クリスに徹甲弾を生成して貰い、クロスボウを構え、リフィルと共に凍結した竜から

  飛び出すと同時に、ある程度晴れている砂煙から覗く巨体の顔に向けて撃つ。

  大ダメージとまではいかなくとも、あの高熱ブレスを妨げる事は出来る。

 その間に土煙にまぎれてリフィルが懐に飛び込み、

  竜の温度をゼロブランドで奪って凍結させ、奪った温度で風を起こし、

  周辺にかたまって居る竜をバラバラに吹き飛ばした。 ゼロブランド…、カイリスが

  戦い方を教えているのか、纏めるよりもバラけせて一体一体確実に

  処理していく手段に出ている。 砂煙のお陰で、体の小さい俺達は見つかり難く、

 巨体であるが為にそれが仇となっている竜。完全に有利だが…おっと!

  やけくそになったのか、周囲に高熱ガスだろうそれを吐き出そうとしたので、

  眉間に徹甲弾をお見舞いし、続けざまに目や喉といった比較的脆そうな場所に撃ち。

  視力や呼吸を奪った上で、他の竜を探して土煙に紛れた。

 段々と竜の吼え声が少なくなり、土煙が完全に風に払われる。

  そこには、10頭近い氷付けの竜が立ったまま絶命していた。

 並び立つ竜の氷像、その足元に。冷気を帯びた白銀の剣を携え立つ少女。

  熱を奪う…生物の命を奪う力を与えられたって所か、まるで死神だな。

 ん? 俺を見つけたのかこちらに駆け寄ってきて、怪我は無いか…と。

  そりゃ俺の台詞じゃないか?と言いながら肩を少し押すと、怒られた。

 俺、そんな頼りないですか、そうですか。ガックリと肩を落として城の方を見ると、

  ここからだと遠くて見えないな…。クリスに狙撃用の補助機能を動かして貰い、

  左目を閉じて見ると、…うーわー、半壊した城門と城壁、その割れ目から

  手斧や槍・剣を持ったトカゲがこれでもかと出てきて、堀の上の橋を埋め尽くしそうだ。

 4騎士含めたセイヴァールの連中は、その橋の手前でトカゲどもを相手して、…ああ。

  堀の生物を警戒してトカゲに押されて…なんだよ、さっきからグイグイと。

  「見ている場合か! 行くぞ!!」

 急かすな! 状況確認してから行った方が…っておい! 

  揺するだけ揺すって結局一人で先走ってしまったよ。

  仕方ないと、軽く頭をかきつつリフィルの後を追う様に城門へと駆け出した。

 

 

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「ケヒッ。何て数だよこりゃキリがねぇったらねぇな!」

 美形と言うには程遠い彼、ラザが対象的に大柄なハザトの背を蹴り、

  大きく空に跳躍すると、身を翻し両手を交差させ懐に隠していた

  無数のナイフを地面へ投げつける。

 狙いを定めるでもなく投げられた刃物は、ことごとくリザードマンの体へ突き刺さる。

  緑色の体液を垂れ流し、金切り声にも似た声をあげる奴等を更にハザトが手にした巨大な

  槌を振り上げ、橋を砕かんとばかりに振りおろれた槌はナイフの刺さったトカゲ達を

  纏めて押しつぶし、蹴散らしてしまう。

 そんな大振りな彼の周りを遠くから援護し、矢を射続けるディアナ。

  他の騎士達を守る様に、先頭でタワーシールドを構え、トカゲ達を押し返すリヴェルト。

 善戦はしているものの、数が数。次第に押されつつある状況。先に辿りついたリフィルは

  ゼロブランドを右肩に構え、広範囲では無く、単体に対して斬り・突き、

  熱を奪い一体一体確実に凍結させていく。 俺は少し離れた所から徹甲弾で橋の奥の敵を

  狙い撃ちにしていくが、それと同時に堀の化物の事を気にかけていた。

 まだ出てこない…、さっきの一撃で目でも回しているのだろうか?

  堀を気にしつつも、乱戦となった橋から少し離れた所で援護射撃を行い続ける。

  今だ城内にすら進入出来ていない。極力兵力を減らすわけにはいかないだろう。

  リフィルが戻ってきた事で、騎士達の士気が少し上がったのか、段々と橋へ橋へと

  押し返していき、ついに騎士達が橋の上へとたどり着く。

 もう少しだ!等互いを励ます声も聞こえたりするが…堀の化物は目を回していたのでは無く、

  橋の上に来るのを待っていた。そう思い知らされた。

 橋の中程にたどり着くと、突如堀から現れた無数のどす黒い触手の様な

  モノが敵も味方も関係無く捕え始め、捕えられた者は…毒か!

 触手に刺胞でもついているのか痛みからか声を上げて絶命していく。

  「皆、引け!」

 リヴェルトが盾で触手を阻みつつ後退していく中、次々と捕まり、

  苦悶の表情を浮かべ絶命していく。

 かなりの死者を出しつつも、橋から遠ざかり、鍔迫り合いの音が止み静寂の中、

  乾いた冷たい風の音だけが聞こえてくる。

 俺も後退したリヴェルト達の所へ行くと、リフィルが半ば怒りながらあれは何だと尋ねてきた。

  何だっていわれてもなぁ…刺胞生物…クラゲか? 真水にクラゲ?

 ワケのわからない生物ではあるけれど、触手に致死毒を打ち込む針が無数についている。

  それを告げる。

  「本体は水の中、触手に触れられると毒で死ぬのか…」

 まぁ、そんな所。本体の確認のしようが無いのが痛いな。

  堀の方を悔しそうに見ているリフィルから、俺も視線を戻しつつ、

  一旦その化物の届かない所に後退した俺達は、手は無いかとそれぞれ口にしている。

 リフィルの力で堀の水ごと凍らせないか…無理だ。高さもあるし何より水に辿り着く前に

  触手に捕まる可能性が高い。

  「弓でも水中までは届かない。どうする?」

 考え込む俺の横にディアナが来る。彼女も手の打ち様が無いという表情だ。

  リヴェルト達も同じ…か、周囲に視線をやると皆見た様な表情をしている。

  「ユタ。ゼロブランドに補助して貰い、空中からの攻撃を」

 ん?クリスか。空中からって…誰も空飛べないだろ。…いや待てよ。

  確かに、危険だが確かに二段ジャンプ出来るか。

 と言うか…お前までユタと言うか。全く。 ま、やるしかないな。

 リフィルに歩み寄り、あの化物を倒す方法を思いついた事を告げると、

  リヴェルト達も歩み寄ってきた。ソレしか無いだろうと、全員頷くと、

 俺とリフィルのみで再び、堀へと近づいて行った。

 

 

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「充填開始、完了まで360秒。対凍結対衝撃ジェル生成展開」

 どうも、こういった化物は俺とリフィルで倒して進むしか無い様だな。

  仕方ないといえばそうなるが。 周囲を凍らせつつ例のレーザーキャノンの様な

  モノのエネルギーを射出口付近に収束せていく中、少し離れた所でリフィルが

  ゼロブランドで地面から熱を奪っている。…さて、巧くいきますかね…と。

 「充填90%」

 そろそろか、勢い良く堀へ向かい、駆け出しその中へと大きくジャンプし身を投げる。

  いきなり飛び出てきたので、触手の反応が遅いのかこちらが充填完了した直後に

  水面からいくつもの触手が伸びてきたが…。

 「充填完了。撃ち方、始め」

 言われなくともっ! 空中で水面に向かい射出口を向け撃ち出すと、轟音とともに

  衝撃波が空間を波打たせ周囲の大気を凍結させつつ水中へと一直線に向かい、

  水面を激しく穿いた直後、水が激しく跳ね上がりながら瞬く間に凍結していく。

  打ち出した衝撃。正面で生じた激しいエネルギーの反動で、水面とは逆に

  空中へと飛ばされる。このまま落ちれば対衝撃も何もあったものじゃない。

  頭から落ちて首の骨が折れて死ぬだろうが…だんだんと近づいてくる地面で

  巻き上がった強風が俺を再び空へと押し上げ、落下の勢いを弱めて地面に腰から落ちた。

 「いでっ!」

 腰を抑えて四つんばいになって痛みを抑え、堀から突き出ている凍った触手を見る限り、

  上手くいった様だ。軽く安堵の息を吐いてその場に座り込む。

  「君も私に言えた口じゃないな。あんな無茶を」

 お前と一緒にするな!ちゃんと考えて行動しただろうこの猪突猛進娘が!!

  ん? そんなに心配だったのか。まぁ軽く謝っておくか。無茶といえば無茶だしな。

 それを見たリフィルは軽く笑うと、視線をザンヴァイクの城内へ向け、

  この中に姉さん達の仇が居るのかと…。その目は険しく灰色の城を見据えていた。

 待機していた連中も、次々とこちらへと。そして俺も立ち上がり城を見据える。

  「ユタ。これが終わったら君はどうする?」

 そうか、コイツは未来から来た事聞いてたんだよな…。考えても見なかったな。

  ま、変な事考えるより目先の敵を倒す事だけ考えろと、軽くリフィルに言うと

  つまらなそうに言葉を返し、あの化物が倒されたと判ったのか、またトカゲが城内から

  大量に出てくる中、俺達はそれを蹴散らしつつ城内への侵入に成功する。 

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小説 オリジナル 戦記 ファンタジー 喜劇 悲劇 恋愛 

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