八陣・暗無16 |
「・・・・・・。」
風間神海は、死んだ。
そう、
そう思っていた。
だが・・・・・・。
「気を・・・失った・・・・・・のか?」
「・・・・・・っ!?」
そうではなかった。
軽部が発砲したのは、それは―――
「・・・・・・あ、」
和泉が、和泉舞の心臓が撃ち抜かれていたのだ。
「は・・・はは・・・ひゃははははは!何だ足りているではないか!お前は、私を歓喜させる存在であるのだ!ひゃははははは!」
「・・・・・・あ。」
・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・。
時が、止まる。
世界が、風間を除く全ての世界が、静止する。
黒妖刀を広い、そしてゆっくり握り、目の前の人間に向かって、歩く。
「何だ?まだ・・・立てたのか。それも・・・・ぐぇ!」
喉を切り裂いた。それも、絶命しないように、際どいぐらいの切り方。
「お前・・・・・何をした!?」
距離がまだ1メートル以上はある。当然、その位置でナイフを使おうとすれば、軽部に気付かれるし、何よりもその位置からはナイフは届かない。
「・・・・・・。」
「・・・毒は・・・・・・・無いよう・・・だな。」
軽部はすぐに身構えるが、その時には肩から夥しいほどの出血が溢れ出る。
「ひゃ!?」
「・・・・・・。」
ゆっくりと、本当にゆっくりと風間は軽部との距離を詰める。
「・・・ひ、・・・・・・ひひ!そうか!・・・・・そうかそうかそうか!」
言っている間にも、風間が放つカマイタチは軽部を刻む。
「俺を・・・・・・恐怖させるには・・・・・・足りすぎているらしいなぁぁぁ!」
手榴弾を握る。そのまま自爆でも考えているのだろう。
だが、それは叶わない。
手榴弾を握るその腕は、根元から地面に落ちたからだ。
「ひゃ・・・ああ!ああああああああああああああ!」
風間はまだ殺さない。制裁を与え、全てに絶望を抱き、全てが暗闇に覆われ、全てを無にせるまで終わらせない。
それが―――暗無。
「・・・・・・。」
近づくと、軽部が更に距離を取る。だが、確実に死が待っている。それは逃げている軽部が誰よりも分かっていた。
やがて、距離が3メートル開いた時だった。
軽部の身体は右腕を失い、身体の急所が薄く、それでも確実に切り刻まれた時・・・・・・
「軽部さんっ!」
入り口から、先程場所を教えてくれたポニーテールの女性が現れた。
「・・・・・・。」
風間はそれをつまらなそうに見下すと、再び軽部に視線を向けた。
「・・・・・・ひゃ、はは!よく来たな翔子!さあ!殺せ!こいつを殺せ!」
その言葉通りに、女性はボールの様な物体を風間の足元に投げると、黒の輝きを放つH&K(銃の種類)を不恰好にも両手で構える。
風間なら、避けることは用意な距離で、だ。
「それが・・・・・・2つなら・・・どうだ?」
そこで、軽部も風間に向け銃を向ける。本来なら避けられるのだが、距離が近いことに加え、深手を負っている。これは、正直きつい。
「・・・・・・で?」
「・・・・・・は?」
「それで・・・・・・どうなる?」
だが、今の風間の言葉は、はったりではなく本心に聞こえる。それに気付き、軽部が顔を青くすると―――
「下を、御覧なさい。」
ポニーテールの女性が投げた球体の事を指しているのだろう。風間は素直にそれに向け、視線を落とす。
「・・・・・・っ!。」
それは、恭平の生首であった。
つまり、この女性はあの上部の恭平を仕留めるほどの腕ということなのだろう。
・・・・・・そして、残念ながら二つの銃口を向けられ、それを同時にかわすことなど、手負いの風間には無理な話であった。
(・・・・・・呪ってやる!)
自分の弱さを、ここまで惨めに思ったことはない。この軽部という男は、常に風間にこの感情を与える。
そして、二人の指がトリガーを少しづつ引くと・・・・・・、
風間は今度こそ全てを諦め、目を閉じた。
バン!
部屋全体に響き渡る銃音。
そして、頭に穴が空き、人形が崩れたように、ドサ、と崩れ落ちた。
しかし、
それは風間ではなく、
――――――軽部であった。
「さて、それでは報告するか。」
「な・・・・・・っ!」
目の前の女性は、顔を始めとする全ての骨格がみるみる変形し、やがて最後には恭平にと変化した。
「何びびってんだ?・・・・・・ってか、お前これ初めて見たんだっけか。」
「・・・・・・あ、・・・ああ。」
「なら、仕方ないな。」
にっ。と微笑みを投げてくると、ポケットにしまってある携帯を取り出す。
「・・・・・・ああ、俺だ。プリティ恭平。ああ。・・・・・・ああ。キナラを至急風間の部屋まで呼んでくれ。」
「・・・・・・首は、一体・・・・・・?」
「レプリカだ。・・・・・・ああ、それと救急隊もだ。・・・・・・ああ。OK。んじゃ。」
「・・・・・・は、はは。」
安堵感のため息を、一つ吐いたとき、
自分の愚かさに気がついた。
(・・・・・・何を、)
拳を、意味を持たない、使い道を持たない無力な拳を強く握る。
「ほら、何ボーっとして・・・・・・ああ、なるほど。」
(・・・・・・和泉。)
愛していた。その態度も、仕草も、思考も、そして、同じ境遇から共に上を目指し、這い上がってきた仲間でもある。
(・・・・・・そんな女を・・・・・・私は・・・・・・っ!)
悔しい!軽部が、人間が、自分が。八陣だろうとなんだろうと、愛する女性一人救えない。
この無力感を味わった地点で、風間は勝者とはいえないであろう。
「おら、早くしないと和泉ちゃん死んじゃうだろ。いや、ってか死んでるか。」
その言葉に、敏感に反応する。
「おいおい、怖いから睨むなよ。ハゲるぞ。」
「頼む・・・・・・少し、少し黙っていてくれないか?」
せめて、お別れだけは、言いたかった。
「・・・・・・おい。お前も一回死んでるんだ。キナちゃんに見せてからでも遅くないんじゃないか?」
「――――――っ!」
心臓が先程とは違う跳ね上がりかたをする。
「・・・・・・ほら、救護隊が来た。オレらは邪魔だから、行くぞ。」
「あ、・・・・・・ああ。」
半ば強引に、風間はその場から離れていった。
今思えば、怪我のせいか意識も薄くて頭が回らなかったのかもしれない。
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