真・恋姫?無双 悠久の追憶・第十話 〜〜烏丸族〜〜
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第十話 〜〜烏丸族〜〜

 

 

―――――――――――――――――報告を受け急いで街の外へと向かった一刀たちだったが、目の前の敵の姿は彼らの予想していないものだった。

 

それは相手の装備がこちらよりはるかに強力だとか、相手が予想もしないほどの大群だということではない。  

 

むしろその逆だった。

 

 「・・・あれが、烏丸族・・・」

 

 「思っていたよりも少数ですね。」

 

そう・・・相手が少なすぎる。

 

前方からこちらに向かってくる烏丸族の数は、どう多く見積もっても五百人程度。

 

とてもではないが、西涼軍が今まで手を焼いていたような相手には見えない。

 

 「・・・・どういうことだ?翠。」

 

 「あたしにも分からないよ。 あいつら、全体の十分の一もいやしない・・・きっと何か企んでるんだ。」

 

一刀の問いかけに答える翠も表情は険しい。

 

この予想外の敵の人数に、彼女も困惑しているようだった。

 

 「朱里と雛里はどう思う?」

 

 「翠さんの言うとおり、何か策があるのかもしれません。 全軍で当たるのは危険です。」

 

 「・・・あの数を相手にするのに十分な兵だけを当てて、残りは後方で待機・・・というのが良いと思います。」

 

 「では、私と翠が出よう。 鈴々と星は、後方を頼む。」

 

 「わかったのだ。」

 

 「ふむ、まぁ今回はお主に譲るとしよう。」

 

 「たんぽぽ、お前もしっかり待機してるんだぞ。」

 

 「はーい。」

 

 「二人とも、気をつけて。」

 

 「はい。 では翠、行くぞ!」

 

 「おう!」

 

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愛紗と翠は、西涼軍の兵も合わせて約千人の兵を率いて駆けだした。

 

相手のおよそ二倍・・・勝つには十分な数だ。

 

そして間もなく、ふたつの塊がぶつかった。

 

 「かかって来い烏丸族どもっ! 西涼当主馬騰の娘、この錦馬超が相手だ!」

 

 「貴様らに、あの街を襲わせはせん!」

 

愛紗と翠はそれぞれに槍を振るい、それに続く千人の兵たちも烏丸族を圧倒している。

 

 

 

しかし、戦いが始まって間もなく、愛紗たちは相手の動きに違和感を感じ始めた。

 

 「・・・なんだ?こいつら・・・」

 

さきほどから、敵はこちらが追うと蜘蛛の子を散らすように逃げるだけでほとんど攻撃をしようとはしない。

 

逃げては向かってきて、追えばまた逃げる。

 

そんなイタチごっこが、もうしばらく続いていた。

 

敵の不可解なその行動に、翠は苛立ちのあまり舌打ち混じりに声を上げた。

 

 「っ・・・・おまえら、何で正々堂々とかかってこない!」

 

すると、おそらく隊のまとめ役らしき一人の男が小さく笑って言った。

 

 「はっ。 お前らみたいなのとまともに戦るわけねーだろ?」

 

 「何だと・・・?」

 

 「よしお前ら、このくらいでいいだろう。 引き上げるぞ!」

 

 「オォッ!」

 

男のその一言で、烏丸族はすぐさま来た方向へと走り出した。

 

 「お、おい待てっ!」

 

引きとめる翠の声など聞こうとはせず、連中はそのまま遠くへと走り去ってしまった。

 

そんな敵の背中をにらみながら、翠は悔しそうに歯噛みする。

 

 「くそっ・・・なんなんだあいつら。」

 

 「まぁ落ち着け、翠。 向こうから退いてくれたのならばそれでいい。 ひとまず、皆の所へ戻ろう。」

 

 「あ、あぁ。」―――――――――――――――――――――――――

 

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―――――――――――――――――――――――――

 「二人ともお疲れ様。」

 

帰って来た愛紗と翠に声をかける一刀だが、二人の表情はまだどこか納得がいかないようだった。

 

 「いえ、疲れるほどの戦いではありませんでした・・・」

 

 「確かに、相手は逃げてばっかりだったもんねぇ。」

 

 「くっそ〜、思い出しただけでもイライラする・・・あいつら、ちょこまかと逃げ回りやがって〜!」

 

 「お姉さま、落ち着いて・・・」

 

まだ悔しさを押さえられない様子の翠をたんぽぽがなだめている隣で、朱里が難しい顔で話しだした。

 

 「おそらく、今のは敵の偵察部隊です。 私たちが西涼に入ったのを知って、力を試しに来たのでしょう。」

 

 「ふむ・・・つまり我々はまんまと敵の策にはまったわけか・・・」

 

 「ちっ!せこい真似しやがる。」

 

 「まぁ何にしても、戦わないですんだなら何よりだよ。」

 

幸い、敵の逃げの一手のおかげで今の戦いで死んだものはおろか、けが人もほとんど出ていなかった。

 

もちろんそれは敵も同じだが、お互いに血を流さずに済むのなら一刀たちにとってはそれが一番良かった。

 

 「そうですね。 敵も今からすぐに襲ってくる事はないと思います。 とにかく一度休んで、それから対策を考えましょう。」

 

西涼までの長旅で皆かなりの疲労がたまっているはずだ。

 

このままの状態で本格的な戦いになれば不利なのは明らかにこちらだろう。

 

そうなる前に、朱里の言うとおりできる限り体を休ませておく必要がある。

 

 「わかった。 翠、それでいいかな?」

 

 「ああ、来てもらって早々悪かったな。 今度こそゆっくり休んでくれ。」

 

 「よし、それじゃあ城に戻ろう。」

 

 「ご主人様。」

 

 「ん?どうした愛紗?」

 

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 「私は一度、この周辺にまだ敵が潜んでいないか見回ってきます。」

 

 「見回るって・・・一人でか?何人か兵士を連れていった方が・・・」

 

確かに、先ほどの部隊はただの先遣隊で、近くにまだ本隊が潜んでいる可能性もないわけではない。

 

愛紗の提案は正しいが、もしも本当に敵が潜んでいた場合、いくら愛紗でも一人では危険すぎる。

 

そう思って、一刀は少数でも兵を連れていくことを勧めたが、愛紗は首を横に振った。

 

 「いえ、人数が多ければそれだけ目立ちますし、皆長旅で疲れているはずです。 早く休ませてやってください。」

 

 「愛紗・・・」

 

 「大丈夫ですよ。 もし敵に遭遇しても、一人ならばすぐに逃げられます。」

 

 「・・・はぁ〜、わかったよ。 でも、本当に気をつけてね。」

 

おそらくこれ以上何を言ったところで愛紗は譲らない。

 

ため息交じりに承諾した一刀に、愛紗は“コクリ”と頷いた。

 

 「はい。 では行ってまいります。」

 

愛紗はまたがった馬の腹を蹴り、先ほど烏丸族たちが去った方向へと駆けて行った。

 

一刀は小さくなっていく愛紗の背中を心配そうに見つめながらも、皆に続いて城へと戻った。

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

 

―――――――――――――――――――――――

街を離れ、一人敵の捜索に出た愛紗は、街から少し離れた場所にある森の入口まで来ていた。

 

ここに来るまで気を抜くことなく周囲に目を光らせていたが、結局敵の姿はなかった。

 

 「ふぅ・・・これだけ見回れば十分だろう。 そろそろ戻るか。」

 

もう一度辺りを見渡して、小さく息を吐く。

 

一刀には他の皆を休ませてあげて欲しいと言ったが、疲れているのは愛紗も同じだ。

 

正直これまで敵に会わずに済んだことに心の中で安堵しつつ、城に戻ろうと手綱を引いて馬の向きを変える。

 

 “ガサッ”

 

 「誰だっ!?」

 

 「・・・・・っ!」

 

馬を走らせようとした時、突然聞こえた物音に目を向けると、そこには一人の男がいた。

 

 「貴様、烏丸族かっ!」

 

その男の顔は、つい先ほど戦った五百人の敵の中に見覚えがあった。

 

 「・・・・・・くそっ!」

 

 「おい、待て!」

 

男は愛紗の問いかけに答えるでもなく突然森の奥へと走り出した。

 

 「逃がすかっ!」

 

男が逃げ込んだのは木の生い茂る森の中だ・・・馬で追うのは難しい。

 

愛紗は馬を降り、男を追って森の中へと駆けだした。

 

 

 

 「・・・はぁ・・・はぁ・・・くそ、しつこい女だ!」

 

 「(ちっ・・・あの男、思ったよりも速い・・・っ)」

 

どんどん森の奥へと入って行く男を追いかける愛紗だが、二人の距離はなかなか詰まらなかった。

 

 

もし今走っているのが別の場所ならば、愛紗の身体能力なら造作もなく男に追いつき、捕まえているはずだ。

 

しかしここは入り組んだ森の中、慣れない環境に愛紗は思うように走れないでいた。

 

それに対し、前を走る男はこの辺りになれているのか、ほとんど何の苦もなく木の間を縫うようにして前へ進んでいく。

 

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男が速いのではなく、今の愛紗が遅いだけ・・・

 

しかしそれでも愛紗のスピードは男を上回り、徐々にだがその距離を詰め始めていた。

 

 「(よし、もう少し・・・)」

 

 「・・・その辺にしとこうぜ、お譲ちゃん。」

 

 “ガバッ!”

 

 「むぐっ・・・!?」

 

あとひといきで男に手がかかるというところで、愛紗は突然木の影から飛び出してきた大柄の男に捕まった。

 

男は左腕を愛紗の首に回し、右手に持っていた布で愛紗の口を塞いだ。

 

 「むぐ・・・むぐ・・・(しまった・・・っ)」

 

普段ならば気づけたはずの男の気配に、前の男を追うことに夢中で気づくことができなかった。

 

必死に男の腕を振りほどこうと暴れるが、男の力も相当強く、上手くいかない。

 

しかも愛紗の口を塞いでいる布には何か薬が染み込ませてあったらしく、強烈な眠気が愛紗を襲い始めた。

 

 「(くっ・・・眠り薬か・・・)」

 

 「俺たちの庭にたったひとりで来るたぁいい度胸だが・・・残念だったな。」

 

背後で不敵に笑う男の声も、もはや愛紗にはぼやけて聞こえた。

 

そして必死の抵抗も空しく、ゆっくりと瞼が重くなっていく。

 

 「(・・・ごしゅ・・・じんさま―――――)」

 

薄れる意識の中で思い浮かべたのは一刀の顔・・・

 

そして、そのまま愛紗は暗闇の中へと堕ちて行った。

 

 「おっと・・・・」

 

男は力の抜けた愛紗の体を支え、自分の肩に担ぎあげた。

 

 「まったく、女に追われてんじゃねぇよ情けねぇ。」

 

 「わりぃ、わりぃ、助かったぜ。」

 

先ほどまで愛紗に追われていた男が愛紗を抱える男のもとに歩いてきた。

 

 「・・・で、なんなんだよこの女は?」

 

 「たぶん天の御遣いとかいう奴の部下だ。 さっきの戦いで見たぜ。」

 

 「へぇ・・・そりゃいいや。 頭(かしら)に予想外の土産ができたぜ。」

 

男は肩に抱えている愛紗を横目に見ながらニヤリと笑い、更に森の奥へと進んでいった。――――――――――――――――――――

 

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 「・・・で、どうだったんだ? 奴らの動きは。」

 

石造りの椅子に腰かけた女は、目の前に立つ男に問いかけた。

 

女の目の前に立っているのは、先ほど愛紗たちとの戦いで部隊のまとめ役だった、あの男である。

 

 「はい。 どうやら奴ら、劉備と天の御遣いのところに助けを求めたようです。」

 

 「天の御遣い?・・・はっ、あの最近噂になってるうさんくさい占いのか。 そんな奴らの手を借りるたぁ、馬騰の娘はとんだふし穴だな。」

 

女は男の話を一笑に付し、少し呆れたように言った。

 

 「いや、それが・・・奴らの中にはかなりの使い手も多く、油断はできません。」

 

 「ほぉ・・・・」

 

その言葉に女は表情を変え、目を細めて怪しげに口元をつりあげた。

 

 「かしらぁ〜、土産を持ってきましたぜぇ〜!」

 

そこへ、一人の男がやってきた。

 

先ほど愛紗を捕えたあの大男だ。

 

男は肩に担いでいた愛紗を女の前にねかせる。

 

だが女は横たわる愛紗をまるで興味がないと言った様子で見下している。

 

 「なんだこの女は・・・こんなのが土産だってのか?」

 

 「こ、こいつは!?」

 

寝かされている愛紗の顔を見て、さっきまで女と話していた男が声を上げた。

 

 「なんだ、知ってるのか?」

 

 「は、はい・・・この女はさっき言っていた天の御遣いの部下です!」

 

 「なんだと・・・?」

 

女は再び表情を変え、目の前で眠る愛紗をじっと睨みつけた。

 

 「・・・間違いねぇんだな?」

 

 「はい。」

 

 「・・・よし、わかった。 その女は縄で縛っておけ。 それから、私の言うとおりに文を書いて馬騰の城に届けな!」

 

 「はっ! でも、一体どうするので・・・?」

 

 「フン・・・天の御遣いってのに、ちょっと挨拶をな・・・。」―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

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――――――――――――――――――――――――――

 「愛紗が攫われたって、どういうことなんだっ!?」

 

突然部屋に来た兵からの知らせを聞き、一刀は皆が集まる玉座の間へと駆けこんだ。

 

桃香たちはすでになにやら白い紙を中心に集まり、曇った表情を浮かべている。

 

 「ご主人様・・・これが、城門の前に置いてあったんだって。」

 

桃香は皆が見つめていた白い紙を、一刀に手渡した。

 

 「これって・・・手紙か?」

 

桃香から受け取った紙を見ると、そこには文字が書かれており、何かの文のようだった。

 

紙を広げ、書いてある文章に目を通す。

 

 『天の御遣いに告ぐ。 部下の女は我ら烏丸族が預かっている。 女を救いたければ、指定した場所へ来い。 ただし、来るのは天の御遣いと馬騰の娘の二人だけだ。 もしそれが守られなかった場合、女の命は保証しない。 よく考えることだ。』

 

文の最後には指定の場所への簡単な地図と、差出人と思われる人物の名前が書かれていた。

 

 「踏頓(とうとつ)・・・・?」

 

 「踏頓っていうのは、烏丸族の族長だよ。」

 

聞きなれない名に眉をひそめる一刀に、たんぽぽが答えた。

 

 「すまない、御遣い様っ! 愛紗が攫われちまったのはあたしのせいだ!」

 

翠は一刀にむかって頭を下げた。

 

歯を食いしばり、必死に悔しさをこらえているようだった。

 

 「いや、翠のせいじゃないよ・・・俺が愛紗を止めなかったのが悪いんだ。」

 

あの時無理にでも愛紗を止めなかったことを、一刀は心の中で何度も悔やんだ。

 

自分が彼女を止めることができていれば、こんなことにもならなかったはずだ。

 

そんな後悔ばかりが頭の中を駆け巡ったが、一刀はそんな考えを振り払うように頭を振り、顔を上げた。

 

 「愛紗を助けに行く!」

 

一刀の言葉に、その場にいた全員が力強く頷いた。

 

 「もちろん、皆で愛紗ちゃんを迎えに行こう!」

 

 「いや、桃香たちはダメだ!」

 

 「え!?どうして・・・?」

 

 「この手紙には、俺と翠の二人だけで来いって書いてある。 皆で行けば、愛紗が殺されるかもしれない。」

 

 「でも、二人だけでなんて危ないよ!」

 

 「確かに、愛紗ほどの武人がそう簡単に捕まるとは考えにくい・・・・相手にも相当の使い手がいるのかも知れません。」

 

 「大丈夫。 人質をとってる以上は、向こうも何か取引をしたがってるはずだ。 いきなり襲われたりはしないよ。」

 

 「でも・・・」

 

まだ不安そうな表情の桃香に一刀は笑顔で応え、翠の方へと目を向けた。

 

 「翠、愛紗を助けるには君の力が必要だ。 協力してくれるかな・・・?」

 

 「あたりまえだろ! 愛紗はあたしたちの街を救おうとして攫われたんだ。 あたしにできることならなんだってするさ!」

 

 「ありがとう、翠。」

 

 「そういう訳だたんぽぽ。 あたしが留守の間、城を頼んだぞ!」

 

 「うん! お姉さまも御遣い様も気をつけてね!」

 

 「おう!任せとけ!」

 

 「ああ。 桃香たちも心配しないで、必ず愛紗を連れて帰ってくるから。」

 

 「・・・・・うん、分かった!」

 

 「よし、それじゃあ行こう。 翠!」

 

 「ああ!」―――――――――――――――――――――――――――――

 

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〜〜一応あとがき〜〜

 

え〜と・・・まぁなんともベタな人質展開の十話でした (汗

 

そもそも、この時代にこんなクロロホルム的な薬があったのかさえ知りませんが・・・まぁそこはご都合主義で許してください。ww

 

それから烏丸族の族長である踏頓ですが、本当は字が若干違いますがそこは変換の都合ですww

 

さて、次回はつかまってしまった愛紗を救うべく一刀と翠が黄巾党の本拠地へと向かいます。

 

また読んでいただけると嬉しいですww

説明
十話目ですww

今回は愛紗が・・・
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コメント
砂のお城さんコメントありがとうございますww へぇ〜勉強になります。 これからまたおかしなとこあったら指摘してやってくださいね (汗(jes)
期待に応えられるような面白い展開を書けるよう頑張りますww(jes)
はりまえさん、コメントありがとうございますww いや〜、さすがにその展開は考えてなかったですね (汗(jes)
貞操が野蛮人に取られないことを願うよ。そこは作者のいじらしい文才に期待します。(黄昏☆ハリマエ)
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真・恋姫?無双 一刀 愛紗  

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