変わり往くこの世界 18 |
翌日、朝早く軽い頭痛で目が覚める。溜まったストレスで胃も痛く食欲も無い。
俯き、深い溜息を不安と共に吐き出すと、肉付きが良くもなく、頬骨が浮き痩せた体。
一見して頼りない病人の様な男、ラザ。見た目は貧弱を絵に描き、決して美しいとは言えぬ
容姿に思考…行動。だが一度戦場に立ったその姿は強く、まるで背に翼でもあるかの様に
舞う姿は天使…。いや、死を振りまく堕天使といった所か。
「なんでぇ大将。浮かねぇ顔してよぉ? あんな上玉に言い寄られて悩むもんかねぇ」
戦場では、頼りになるが…。普段はこれだ、女の事。それも下の事しか頭に無い。
いや、待てよ。だからこそ、なんとかしてくれる。そうじゃないかと思い、昨日の事を
容器に入った水を返したかの様に洗いざらい打ち明ける。
「そりゃ大将が悪いぜ? 折角俺様がリフィルに男が喜ぶツボを教えてやったってのによ」
…ん? 今、何て言った。 教えてやった?
考えるより先に体が動き、ベッドから激しく飛び起き、ラザの首を掴みながら壁へと
押し付け睨みつけると、息が出来ないのか咳き込み、必死で腕を払おうとしている。
激昂。怒りを露にし、身を震わせ吐く言葉さえ失い、ただ力を込め彼へとぶつける。
あの時、船で彼が覗き見していた事。それ以前からリフィルの行動がおかしかった事。
男の妄想を描いた様なガードの甘い女、それに近い行動に出ていたリフィル。
何より、今は亡きセドニーが、彼女は汚れた部分を知らない未熟者だと…。
「お前か…」
ただ一言だった。喉元を過ぎた熱の様に急速に冷め、彼の拘束を解き部屋を出る。
通路の均等に並ぶ扉、その一室の前に立ち彼女を呼ぶが返事も無く。
息を大きく吸って扉を押し開く。目に入ったのは、白いベッドの上で膝を抱え、
蹲るリフィル…、それを心配そうに見ていたディアナが、出て行けといわぬばかりの
顔で見ている。ディアナに事の次第を話すと、怒りを露にして部屋を転げる様に
出ていってしまうが、それよりもリフィルだ。 相当傷ついているだろう。
それは、髪も梳かさずまるで柳の枝の様に顔を隠し垂れている。
そんな彼女に歩み寄り、右手で優しくかきあげると、彼女は泣き続けていたのか、
真っ赤に充血した目で俺を見ている。 そこに勝気で無鉄砲な彼女は無く、
教会で言う所の哀れな子羊…硝子細工の様な脆さに思わず抱きしめてやりたくなったが
…、それは出来ず。確認の為、船でラザに何かを教わったか。と。
黙って頷き、声にもならない弱々しい声で、こうすれば俺が振り向いてくれる、と。
その瞬間、諸悪の根源だろう者の絶叫が宿屋を揺るがしたが、それを無視して一言。
それは汚れた男の欲望であって、好きとかそう言うモノとは別の話。
ただ、肉欲に溺れた者の戯言だと。…ん? 体を小刻みに震わせ、小さく可愛らしい
唇をかみ締め、釣り目がより一層鋭さを増し…うおっ。
俺を激しく突き飛ばし壁に立てかけてあった熱を奪う白い剣、ゼロブランドを握り締め
部屋をディアナ同様転げる様に出て行くその背中、何故だろう…。
修羅道に堕ちたガイアスに匹敵する恐怖を覚え、その矛先が俺では無く…。
「ぎゃぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
奴に向けてであった事に、心底安心したが、宿屋の店主より請求されるであろう
修理費にそれ以上の恐怖を覚えた。
その後、賑わう酒場で、いつもの調子を取り戻したリフィル達とイレイザを合わせ、
タルワールの事、彼女とフイルドの関係。今だ連絡のこないディエトの話を
し終える。イレイザは余程アルバートの詩が気に入っていたのか、リフィルに
色々と質問している。彼女を知ろうと必死な様で、少し羨ましくも思える。
白銀の凍姫。大きな凍れる泉より数多の精霊の恩恵を受けた者。
触れれば闇を凍てつかせ、触れねば闇を風で薙ぐ白き剣を携えた無垢なる少女。
…何か色々大袈裟というか混ざって改竄されてね?
ま、まぁ…うん。聴き手を楽しませるのが吟遊詩人だしな。うん。
詩の真偽を確かめ納得したのか、見えぬ目で彼女を描いているのだろう。
とても満足そうな笑みを浮かべている。
「少々、陰が見えるが…」
笑みから転じて眉間にシワを寄せて…まさか読み取ったのか、俺の方を向いている。
その表情は、まるで宝物を壊された子供。純然たる怒気。
それを俺に向けて立ち上がり、俺の前に来ると首根っこを掴み尋ねてくる。
ま、まぁ俺にも早くに気づいてやれなかった責任もあるし、全てラザが悪いという
事でも無く。黙って頷くと軽く頬をぶたれたが、
これは自身へと戒めとして受け入れるとしよう。それをイレイザも望んでいる事は
表情から察するに余りある。
場に居た他の仲間達…一人を除いてだが、それに納得したかの様に頷く。
「さて、決行は明後日。明日は各自準備を怠り無く」
単純な強さ、戦闘経験年数・回数。恐らくはどれを取っても一番上だろうイレイザが、
言うと、皆もそれは判っているのか頷き、その場を軽く頭を下げて出て行く彼女を
見送った。
一通りの算段は終わり、タルワールの現状、化物のおおよその数。
何より、フルイドの強さと完全に自我を失っているタルワールの王。
その二人の強さが常軌を逸しているとの事であり、下手に大きいだけの化物
よりも手強い事は手に取るように判る。
が、いずれガイアスと戦わなければならない。それを考えると、
怖気づいている暇も無しと。…。ガイアスを思い出し、ふと気になった事がある。
殺意、殺気といえば良いのか。ディエトにも言われたが、俺にはまるで無いと。
だが、どうしたことか。怒ったイレイザから殺気らしきものは微塵も感じられなかった。
戦ってはいないからだろうか、今は判らないが。そんな悩みを抱えつつ、
珍妙奇天烈な小物が地面に並べられた露天の前に座っている。
円筒形で、なんといえば良いのだろう。コケシに見えなくも無いが…。
判らないソレを首を傾げていると、露天の主がこの大陸の東部にある、
リーエンドという森に住む部族の守り神らしい。 妙な守り神だな!
ま、信仰は国それぞれか…。立ち上がり別の露天を探すと、果物が並ぶ所へと
甘く酸っぱい匂いに釣られてフラフラと…。
色とりどりの果物が並び、どれもこれも宝石の様に輝いている。
文字通り目移りしながら露天を見て歩き、港町の外れへと。
流石にここまで来ると何も無い…なと。 振り返り戻ることにする。
結局、何も買わず、何事もなく。活気のある港町を堪能し宿に帰り、
翌日準備を整え、決行の日。
港町から、北部へと向かう入り口。左右に短いがレンガが積み上げられ、
ひび割れたり隙間が開いたりと、防衛する気が全くなさそうな壁がある。
何か意味あるのか?と首を傾げて見ていると、荷物袋を抱えたイレイザが
やってきた様なので俺も皆の所へと。
「遅くなってすまないな」
いやいや、こっちが早過ぎただけです。と、原因ですと言わんばかりにリフィルの
頭を軽く叩くと、口を尖らせて手を払って怒っている。
ま、いつもの猪突猛進先走り状態に戻って一安心…していいのか微妙だなぁおい。
リフィルを除いた全員が軽く笑うと、一つの不安を残してタルワールへと。
不安? それは、ディエトが結局連絡遣さなかったという事。
ま、狡猾な奴の事だ。こっそりついてきてイレイザが危ない時。
つまり、美味しい所だけ頂きまなんだろうなと思いつつ目的地へと歩いていった。
感想をもらいまして、良さそうな小説投稿サイトを教えて貰えましたので、
お気に入り登録して下さっている方にはすみませんが…、
ここでの投稿は、これで最後となります。
新しいURLはこちらに。
http://ncode.syosetu.com/n9556m/
小説家になろう。 というサイトです。
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