真・恋姫†無双異聞 |
真・恋姫†無双異聞
第零話 One more time,One more chance
第四章
卒業する時、防衛省に入る気は無いと告げたときは、流石に両親も随分と反対をした。
何せ、将来の幕僚への道を棒に振ると言うのだから、流石に放任だの尊重だのと言ってはいられまい。
せめて訳を言えと食い下がる両親に、まさか「そのうち別の世界に行くからご心配無く」とも言えず、腐心した末に「アメリカに行きたい」と答えた。
目的を問われたら「今は言えない」の一点張りで通した。
有体にいえば、『無理を通せば道理が引っ込む』形で、家族会議は閉会したのだった。
最も、一刀にしたところで、何の考えも無くアメリカ行きを選択した訳ではなかった。
技術は学んだのだから後は実践するのみ。
しかし、戦闘技術を実践するのには、日本は平和過ぎたのである。
だが、かの犯罪大国ならば、耳に挟んだバウンティーハンター制度を利用できれば、その機会も遥かに豊富だろうと踏んだのだ。
加えて、英会話は防衛大のカリキュラムで習得していたし、在学時に毎月支給されていた11万円の学生手当てと、年二回支給される35万円の期末手当が殆ど手付かずで残っていたから、当面の生活に窮する心配もなかった。
かくしてアメリカに渡った一刀が、銃で人を殺したのは一年が過ぎた頃である。
相手は、チンケな強盗の男だった。
数店のコンビニやスーパーのレジからそれぞれ500ドルにも満たない額の端(はし)た金をかっぱらった末に逮捕され、保釈保証業者に保釈金を立て替えてもらって保釈されたものの、踏み倒して雲隠れ、と言う絵に描いた様なベイルジャンパー(保釈金踏倒し逃亡犯)である。
双方にとって運の悪い事に、一刀とバディ(相棒)がヤサに踏み込んだ時、そいつは混ざり物が ドッサリ入った極めて質の悪いコークで、バットトリップの真っ最中だった。
しかも、ナイフや拳銃ならまだしも、SPAS12アサルトショットガンなどと言うデカブツを振り回しているのだから、最早はた迷惑を通り越して、歩く厄災と言っていい。
元来が極至近距離用兵器であり、室内戦で威力を発揮する散弾銃を乱射されては、いかな海兵隊退役軍人と防衛大出身の俊英とて、手心を加えてやる余裕は無かったのだ。
変わり果てたジャンキーの死体を呆然と見つめる一刀を見たバディは、ショックを受けていると思ったのだろう。
「お前は悪くない」とか「仕方なかったんだよ」などと言ってしきりに慰めてくれた。
彼の心遣いは素直にありがたかったが、一刀が呆けてしまった訳は、そんな事では無かった。
そもそも、人を殺めるのは初めてではない。
「軽い」
そう思ってしまったのだ。
以前、剣で人を斬り殺したときは、その感触と刃にかかった重みに鳥肌が立った。
それは、自分が目の前にいる人間の命を奪ったのだという、証だったから。
しばらくの間は、夢にも見た。
しかし、今回は違う。
銃の引き金は、人の命の重量にしては軽すぎた。
そんな事があってから二年の月日が過ぎた頃、一刀が帰国する事になったのは、全くの偶然からだった。
「国に帰れや、ベイビーフェイス」
警察署内の飾り気の無い喫煙所でそう言ったのは、兼ねてから懇意にしていた警部補だった。
ベビーフェイスとは童顔と言う意味で、西洋人からすると総じて実年齢より幼く見える東洋人によく付けられる渾名である。
その例に漏れず、この警部補は初対面の時から一刀の事をベイビーフェイスと呼び続けている。
「なぁ、ベイビー、俺はイタリア系だから、あいつらの事は良く知ってる。お前がこの国にいる限り、あいつらお前を狙い続けるぞ。」
警部補の言う“あいつら”とは、一刀がある事件に関連して係わりを持った、マフィアのことである。
彼等は一刀の事を余程疎ましく思っている様で、僅か二ヶ月の間に命を狙われること、既に五度に及んでいたのだった。
「あいつらがお前を狙うのは、お前に目の前をウロチョロされるのが鬱陶しいからだ。今ならまだ、お前が居なくなりさえすりゃ、あいつらも引き下がるだろう。」
警部補は、くたびれたキャメルのパックから一本を抜き出し、火を点けながら言う。
「だがな、こんな事が続いて、その内あいつらの誰かを殺っちまったりした日にゃ、世界中のどこに逃げたって一緒だぜ」
「そうかな、やっぱり」
一刀は、警部補が勧めてくれたキャメルの火を見つめながら、疲れた様に尋ねた。
「あぁ、お前が殺されるか、お前がファミリーの一族郎党皆殺しにするまで終わらねぇだろうさ」
「ん・・・・・・、じゃ、仕方ないな」
この会話から数日の後、一刀のアメリカでの生活は終わった。
帰国してすぐ、一刀は祖父の所へ向かった。
正直に言ってしまえば、もう行くべき場所が他に思いつかなかったのだ。
「そいば振ってみろ」
祖父は、数年振りに訪ねて来るや自分を鍛え直して欲しいと懇願する孫に、顎で木刀を指しながらそれだけ言った。
一刀は祖父に正対し、柞(ゆす)という木から作られた木刀を握ると、呼吸を整える。
『一の太刀を疑わず、雲耀の速さで打ち下ろせ』幼い頃に教えられたその言葉を胸に、一刀は渾身の力を持って木刀を打ち下ろした。
残心を切ると、祖父は一刀に傍に来て座るように言った。
指示通りに座った一刀は、次の瞬間、懐かしい祖父の匂いに包まれていた。
「一刀、おまえはなんをやっちょったとよ?」
声が、震えていた。
「優しかったお前が、そげな殺気ば込めて剣ば打ち込める様になるまで、一人でなんをやっちょったと?」
祖父は、一刀の抱え込んでいるものをその一太刀から垣間見たのだろう。
だから、泣いてくれたのだ。
そう思ったとたん、張り詰めていたものが切れた。
「ごめんな、じいちゃん。俺、何にも言えないんだ」
声が裏返るのが止められない。
「俺、もっと強くならなきゃいけないんだ、俺に出来るのはそれだけだから。だからじいちゃん俺を強くしてくれよ」
祖父は、子供の様に泣きじゃくる一刀の頭を抱きしめると、耳元で力強く囁いた。
「分かった、もう、なんも心配せんでよか。じいちゃんが教えられるこつは、みんなお前に教えちゃる」
それからの五年間は、ただひたすら剣を振る毎日だった。
祖父は、“瓶の水を移すが如く”と言う古い言い回しの通りに一刀を鍛え、その持てる全てを与えたのである。
「おいがお前に教えられるこつはもうなんもなか。そいだけのこつじゃ。」
免許皆伝を言い渡され驚く一刀に、祖父は笑ってそう言った。
「じゃがの、そいは、お前が学ばねばならんこつがのうなったちゅうのと、同じではなかぞ。あとは、お前が自分で道ば作るしかなかっちゅうこつじゃ」
そう言って、祖父はもう一度豪快に笑った。
「今生の別れになるのじゃろ?」
見送りはいい、と言う一刀の言葉をのらりくらりとかわしながら、結局空港まで来てくれた祖父は、静かな声で一刀に問うた。
「うん、・・・多分。いや、きっとそうなると思う」
誤魔化したところで、どうせこの人には嘘は通じない。
「一刀、男の別れじゃ。じいちゃん、湿っぽいこつは言わん。ただの・・・・・・」
祖父の眼が、真っ直ぐに一刀を見据える。子供の頃から、この世界で一番強くて、一番怖くて、一番優しいと信じていた人の眼。
絶対に忘れる事の無い様に、一刀はその眼を見返した。
「お前は、じいちゃんの誇りじゃ、どげん時も、前ば見て進め」
「うん、ありがとう。じいちゃん」
祖父は、一刀の乗った飛行機が蒼穹の果てに消えるのを、何時までも見続けていた。
あとがき
第四章いかがでしたか?ようやく、一刀の空白の十三年間を書き終えました。
今回は、じいちゃんとの会話をもっと書きたかったんですけど、鹿児島弁がむずかしくて・・・。鹿児島出身の方が御覧になったら違和感をお感じになるかもしれませんが、私の情報ソースではあれが限界でした。すみません。
さて次回は、なぜ一刀が正史の世界に戻らねばならなかったかが明かされ、いよいよ物語が回り始めます(多分、努力します)。
では、また次回お会いしましょう!
説明 | ||
投稿四作目です。 大幅なページ配分の均一化と、若干の加筆、誤字修正等行いました。 |
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コメント | ||
readmanさん コメントありがとうございます。じいちゃんは薩摩隼人ですから!寡黙で厳しくて、でも凄く優しい人として書きたかったんです。(YTA) じいちゃん良い人ですね(ToT)(readman ) 深緑さん そうですね。私自身、親戚の爺ちゃん婆ちゃんの囲まれて育ったので、『祖父母と孫』の関係性は、凄く力を入れて書きました。因みに私の脳内設定では、一刀の爺ちゃんは太平洋戦争に従軍して、近代の戦争を体験した人と言うイメージですwww(YTA) 時として友人や肉親って本当に有り難い存在だと改めて思います。こういったじいちゃんは正に敬うべき先達って存在なんでしょうね^^b(深緑) そうだったんですか!?し、知らなかった・・・。防衛大のくだりはHP観ながら勢いで書いてしまったので・・・orz(YTA) |
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