それがあなたの望むことならば~雛から凰まで~六歩 |
前書き
というわけで、元直ちゃんと普通に友たちになることができました。
「キャハ」
「(カタカタブルブル)」
「一成ちゃん」
「キャハハー」
でも、あの時の事件のせいなのか、元直ちゃんが近づこうとすると、
「ピイイーー!!」
命の危険を感じた小鳥みたいな声を出します。
「キャハハー」
そして加害者(?)さんはそれを楽しんでいる様子。
「ピイイイー!」
そして、被害者(?)さんは私の後ろに隠れて威嚇の声を出しています。
「一成ちゃん、落ち着いて」
「元直ちゃん、あまり一成ちゃんをいじめたらダメだよ」
朱里ちゃんが仲裁しようとしますが、
「だっておもしろいものー」
「わ、私で遊ぶなー」
「……キャハ?」
「ピー!!こっちくんな!!もう桃まんヤダー!」
そして、その後桃まんは近くにいるのさえ嫌いのようです。
だから、今の『桃まんを両手に持っている元直ちゃん』は多分一成ちゃんが世界一で嫌いなものだと思います。
「え?街に行きたい?」
「はい」
この前、一成ちゃんに言っておいたように、明日百合姉さんは食料と他塾に必要な色んなものを買いに街に出ます。
普段は百合お姉さんが一人で行くか、そうでないと朱里ちゃんと一緒に行くのですけど、
朱里ちゃんは今日元直ちゃんに塾の中を案内させると言ってたので、
「だったら、私たちが代わりに手伝いに行くよ」
「うーん、お手伝いと行ってもね…一成ちゃんの気持ちはうれしいのだけど」
「大丈夫だよ。私男の子だから、荷物とか運べるし」
「いえ、荷物は後で他の人に頼んで持ってきているから、一成ちゃんが持つ必要は…」
「じゃあ、見物に行くだけでいいから一緒に行かせて」
一成ちゃんは時々凄く直線的な言い方をします。
「最初っからそのつもりだったんでしょ……うーん、水鏡先生が許してくれたら連れて行ってあげなくもないけれど」
「本当?じゃあ、今すぐ行ってくる。鳳統お姉ちゃん行こう?」
「うん」
・・・
一成side
「街に出掛けたい、ですか?」
「はい」
「うーん、どうしましょうかねぇ」
あれ?以外と固い?
快く承諾してくださると思ったのに、
何でこの世界はこうも外に出るのが難しいの?
私ここに来てもう一ヶ月もなったのに塾の外にすら出歩いたことないんだよ。
この年の子にあまりの仕草だよ?
子供とは元気に遊びながら育つんだよ。遊び所必要なんだよ?
「一成ちゃん」
「あ、いや、鳳統お姉ちゃんと勉強するのが嫌なわけじゃなくて!」
「え?」
あ
「あ、いや、な、何でもないよー」
「そうですわね…雛里、あなたも行くのでしょ?」
「はい」
「それじゃあ、大丈夫でしょうか。一成君、遊び心なのはいいけど、あまり百合と雛里を困らせちゃダメよ」
やっぱ水鏡先生はお見通しでした。
「はいっ!!」
雛里side
そういうわけで、私たちは街に出ることになりました。
「すごーい」
ここに来て初めて街に出てみる一成ちゃんは、瞳をキラキラとしながら、片手は私の手を掴まえて街を歩いています。
「街、すごく賑やかだね」
「今日は特別なのよ。今日は洛陽からの大商人団が着く日だから」
「そうなんだ…洛陽って確か漢の都だよね」
「ええ、最近は以前のように盛んではないけど、でも都は都だからね…はい、着いたよ」
百合お姉さんと話をしていたら、いつもの食料の店に着きました。
「おじさん、私来たよ」
「うん?おお、子瑜じゃねぇか」
「はい」
「…そこの子供は子瑜の息子かのぉ?」
「えっ!?」
「あわわ……」
でも、百合お姉さんは顔色も変えずに、
「あらあら、おじさんったら、そんなセクハラ言うと、後でおかみさんに言いつけますわよ」
「わりぃ、わりぃー。いつものものは用意しておるが、他に何か必要なものはあるかね」
「そうですわねーとり合えず、例の物を少々見せてください」
「あいよー」
「(小声)子瑜お姉さんって、すごいね」
「(小声)そうだね。大人の対処だね」
後ろで私と一成ちゃんがそんな話をしていると、
「二人とも、何か必要なものがあったら言って見て?」
「必要なもの、ですか??」
「そう。ここまで来たのに何か買ってあげないとね」
「うーん、一成ちゃん、何かある?」
「うーん、そだね……」
一成ちゃんは少し考えては
「あ、この前孔明お姉ちゃんの筆みたら磨り減っちゃってて、字がうまく書けなかった」
「朱里ちゃんの筆ならもう選んでいるわよ」
「え?そうなの?」
「他の人のじゃなくて、一成ちゃんが必要なものを言いなさい」
「うーん…じゃあ、」
また考え込んだ一成ちゃんは、今度は私を見ました。
「鳳統お姉ちゃんと同じお帽子欲しい」
「へっ!?」
「まぁ…それはまたあくしゅm…じゃなくて独特な頼みだね」
百合お姉さん今何と言おうとしました?
っていうか、何でそんな?
「でも…そうね。雛里ちゃんのお帽子は、ここに来る前から持っていたものだから、どこに行けば買えるのかしら」
「え?そうなの?私はてっきりこれも制服だと思ってたのに」
「塾の制服にあるお帽子は皆朱里ちゃんや私みたいなものなの。色はちょっとずつ違うし、被らない子もいるけどね」
そういえば、元直ちゃんはお帽子は被ってませんでした。
「じゃあ、ダメなの?」
「どうでしょうね。後で服屋の人に頼んでみましょう。できるとは限らないけど」
「うん」
百合お姉さんはそういいましたけど、一成ちゃんは凄く楽しみみたいです。
「…あの、一成ちゃん」
「うん?何、鳳統お姉ちゃん」
「何で、この帽子が欲しいの?」
「うん?帽子が欲しいんじゃないよ」
「え?じゃあ??」
「へい、お待ちー!」
その時、店のおじさんが百合お姉さんに頼まれたものを持ってきて、私たちの対話は切られました。
その後、私たちは服の店に行きました。
「え?水鏡先生の塾の制服を男性用に作りたい?」
「はい、この子に着せるものですけど……、少し事情がありまして水鏡先生が預かりようになりました」
「まぁ、あの方はそんなことは多いからねぇ。しかし、女子塾のあのところに男の子か…今はまだ幼いから良いとしても、もうちょっと大きくなったら厳しいよ」
「その時は…またその時ですね。それで、どうですか?」
「ふーむ、今日のうちには少し厳しいな。寸法は計って見たらいいとしても、先ず意匠を作らねばならないからね」
「じゃあ、この後私がまた街に出る時には出来ますよね」
「まぁ、そのぐらいなら」
「あ、それと、この子と同じ帽子も作られますか?」
百合お姉さんは私の帽子を指しながら言いました。
「その子と?」
「できますか?」
一成ちゃんが目をキラキラしながら聞きました。
「うーむ、作るのは難しくはないけど…」
「はぁあー」
「大きさは合わせて少し小さくするとしても、男の子には少し似合わないだろうと思うが、もっと他のものも作ってあげられるがね」
「あの帽子がいいです!あれと同じように作ってください!!」
「そ、そうか」
何だか一成ちゃんが凄く積極的です。
いつもよりも。
「か、一成ちゃん、そんなに無理しなくてもいいわよ」
「だ、大丈夫だよ。これぐらい…」
用事を済ませて帰ってくる時、最初のおじさんに頼んだもの以外の物は皆で分けて運んでいましたけど、その中でも一成ちゃんが一番重そうなものを持って、苦心して塾に戻る山登りをしていました。
男の子だから大丈夫という話ですけど、きっと大丈夫じゃないです。
私も百合お姉さんも、そんなに丈夫な体じゃないから何ともいえませんけど、少なくとも一番幼い一成ちゃんが、しかも初めてする登山であんな荷物を持っていくのは少し不安になります。
「一成ちゃん、私は少し持とうか?」
「ううん、へーき。今日はお服も買ってももらったし、これぐらいしないとね。あぁー、早く着てみたいな。帽子」
「あ、そういえば、一成ちゃん、何で私と同じ帽子が被りたいっていったの?」
「うん?それはまぁ…その…」
「あらあら…雛里ちゃん、そんなことは聞いちゃダメよ」
「あわ?」
「うぅぅ……」
てってってってっ
その時、一成ちゃんは急に先に走り出しました。
「ああっ、一成ちゃん、そんなに走って行っちゃ危ないよ」
「大丈夫だもーん」
「待ってー」
てってってってって
私もその後を追うように一成ちゃんについて走りました。