また来たのですか?~胡蝶の夢~弐 |
華琳「…へぇー」
それは、驚くわね
玄徳「あ、はい、不思議な字ですね。初めて知った人は大体そんな反応です」
華琳「そうかしら?」
玄徳「はい、何せかの有名な中国後漢の英雄、劉備の字と同じなのですから」
華琳「……」
そう。
玄徳とは劉備、桃香の字。
そして、今この男、劉備を知っているように言ったわね。
華琳「で、何故そんな字になったのかしら?」
玄徳「父親が三国志にすごくはまっていらっしゃるお方でして…字をもらう時、「お前はあの人のようになれ」と仰いましたね」
華琳「そう……」
玄徳「…それで、失礼でなければ、貴殿の尊名をお伺いしてよろしいでしょうか」
華琳「何?私が誰かも知らなくて部屋に入れたというの?」
玄徳「恐れながら…しかし、困っている人は力の至る限り助けるというのが、家の嗜みでありまして……」
華琳「…まぁいいわ。私の名前は曹操、字は孟徳よ」
ありのままに答えた。
玄徳「曹、孟徳、ですか…それはまた、奇異なことですね。魏の王の名前と字を持っていらっしゃるとは」
華琳「だって本人だもの」
玄徳「……はい?」
私が言った言葉に、彼は少し呆気にとられていた。
華琳「聞こえなかったかしら?私は魏の覇王、曹孟徳よ。あなたのように同姓同名があるかしったことじゃないけれど、私が魏王本人だと言うことは間違いないわ」
玄徳「……ぁ…」
玄徳「っとその……」
少し返事に迷っていた男は、
玄徳「……困りますね…」
華琳「何がかしら」
玄徳「貴殿の目は、嘘をついてるようには見えません。とかいって、貴殿が狂人なのかと疑うことも無意味だと思われます。ならば、これは一体どういう意味でしょうか」
華琳「ありのままの意味よ。それとも、私が狂人か嘘を言っていると思いたいのかしら」
玄徳「いや、そういうものでは…しかし、今貴殿がおっしゃっている曹孟徳という人物はは後漢時代の人物、今から約1400年ぐらい以前の人です」
華琳「何ですって」
心から予想はしていたけれど、まさかここは…
玄徳「それに、希代の英雄だった曹孟徳が、女性だったいう話は聞いたこともありません」
華琳「…なるほどね」
ふと、一刀を初めてあった頃が思い浮かぶ。
一刀はあの時こんな気分だったのね。
これは何の冗談なのか?って気分。夢なら早く覚めてもらいたいという気分。
華琳「そうね…あなたが曹孟徳だという人物を過去の人物で、それに男だと知っているのなら、私が嘘を言っているか、それとも何かの妖ものかと思うことは当然な考えよ」
玄徳「しかし、自分の目が正しい限り、貴殿はそれのどっちでもありません」
華琳「随分と自身があるようね」
玄徳「人の目はその人の全てを語ります。人の目を見ると、その人の大体は解るものです」
華琳「で、あなたはどう思うのかしら」
玄徳「そうですね。嘘でもなく、狂人でもなければ、自分が何かの妖術にでも呪われているのか、それとも、貴殿の言う言葉を真実だと認めるしかないでしょう」
華琳「…妥当な判断ね。それで?」
玄徳「……ふーむ」
男は口を黙って少し考え込んだ。
そんな風に少し待っていたら、先お茶を頼まれた侍女が部屋に入ってきた。
侍女「失礼いたします」
玄徳「…ああ、ご苦労だった」
侍女は湯沸しと杯をお盆で持ってきた
玄徳「去っても良い」
侍女「はい、では…」
侍女が部屋から出た後、玄徳は茶を淹れる準備をした。
何だか材料が多い。
淹れたお茶を杯に注いで、私に勧めた。
玄徳「どうぞ」
華琳「いただきましょう」
いい香りがする。
すすー
玄徳「いかがでしょうか」
華琳「悪くないわね。何のお茶かしら」
玄徳「六年根の人参に棗(なつめ)、それと、蜂蜜少々。今回の人参はあまり良いものとは言えませんが、いかがでしょう」
華琳「悪くないわ。少なくとも飲んで損した気分はしないからいいでしょう」
玄徳「それはまた厳しい評価ですね」
男は俯いて微笑みながら自分の杯にも茶を注いで、杯ち口につけた。
玄徳「…やはり、今年のは良いものにはなれないようですね」
お茶を飲んだ男は、少し顔に影ができていた。
華琳「で、先に話の続きだけれど。あなたは私をどうするつもりかしら」
玄徳「どうする、ですか?…そうですね。貴殿の話が本当だとして、何かの因果かは知りませんが、あなたが過去から来た人物だということを考えれば…」
華琳「私の話を信じるというのかしら」
玄徳「…どっちかというと、貴殿は自分が嘘をついているとは思わないのですか?」
華琳「え?」
玄徳「自分が貴殿を監禁して、その自由を奪っているのに、こんな茶番な話をしてあなたを惑わそうをしている、とは思わないのですか?」
華琳「………あなたがそれを口にした時点でそれはないでしょう」
玄徳「じゃあ、問題ありませんね。でしたら、他に行くところがなければ、こちらで衣食住を提供します」
華琳「……」
解らないわね。
この男が何を考えているのか。
侍女「若旦那さま、そろそろお出掛ける時間です」
玄徳「ああ、もうそんなになったか。時間が流れるのを忘れていたな」
男は席から立ち上がった。
玄徳「申し訳ないですが、自分はこれからの日課がありますので…何か足りないものがあったらあの人に頼んでください」
男はかさを被って出掛ける準備をした。今更だけど、あの男の髪型はおかしいわね。
髪を全部巻き上げて一つに縛ってある。
華琳「こんな朝に出掛けるなんて、相当忙しいようね」
玄徳「そんなことはありません。私なんか、この村で一番怠け者ですから」
侍女「あら、若旦那さま、またそんなことを…」
玄徳「私は行く。あの方の世話を頼む」
侍女「はい」
男が部屋から出て行った後(客を残して先に出て行くなんて、礼儀に反するでしょ?)、私は侍女と一緒に最初にいた部屋に戻ってきた。
華琳「……」
侍女「…わ、わたくしの顔に何かついていますか?」
華琳「…いえ、何でもないわ」
あまり私の趣味じゃないわね。
華琳「あの男はどこに行ったのかしら」
侍女「毎日の日課で、村を巡礼していらっしゃるのです」
へぇ、何か家が大きいと思ったら、ここの太守でもあるのかしら。
華琳「あの男はここの官僚なの?」
侍女「え?ああ、違います。この家は昔からこの村で住んでいた両班(ヤンバン)家門で…」
華琳「両班?」
何なの、それは?
侍女「…あ、あの?」
侍女がおかしな顔で私を見る。
まさか両班を知らないのかっていう顔ね、あれは。
まぁ、偉い地位なことは解るわ。
どうやらここでは地域の豪族やらをそう読んでいるみたいね。
華琳「で、具体的に巡礼しながら何をするのかしら?」
侍女「あ、はい、大したことではなく、働いてる農夫や工人たちに、最近の様子はどうか聞いて回っているのですよ」
華琳「それを毎日しているの?」
侍女「はい」
いいわね。
私も毎日そんなことをする暇があるのならいいけど。
まぁ、少なくともここじゃやることもないからすごく暇なんだけどね。
華琳「そういえば、あの男はここの若旦那と言ったわね。だったらこの家の主人は?」
侍女「…あぁ、それは、その…ご主人さまは現在この屋敷にございません。それで若旦那さまが現在家の仕事や、村の管理をなさっているのです」
ああ、そういうことね。
でも、それを言っている侍女の顔が優れていないわね。
華琳「ここの主人はどこに?」
侍女「それは……」
華琳「いえ、言いづらいものならいいわ。悪いことを聞いたわね。行ってもいいわよ」
侍女「あ、はい、何か用事があったらお呼びください」
華琳「ええ……」
がらり
侍女が引き戸を閉まって出て行ったら、私一人になった。
…
ここじゃ別にやることもないわね。
机にあるのは読むこともできない本だけだし。
せっかく暇なのはいいけど、何か他にやることがなければ退屈なだけだわ。
……
先見た『洪吉童傳』の下の本をみた。
「三国志―<<曹操評伝>>」
華琳「!!!」
私の、本?
……
私が読んではいけないと思ってはいたけれど、
その本から目を離すことができなかった。
後代の人たちは、私をどんな風に評価したのかしら…
私は思わずにその本に手を付けてしまった。
「…さ……さま……華琳さま」
華琳「!!」
秋蘭「またこんなところで寝られたのですか」
華琳「秋蘭……」
ゆ…め…?
華琳「…変な夢だったわ」
秋蘭「体の具合はいかがですか?」
華琳「大丈夫よ。ありがとう…昨日もまた机の上で寝たようね」
秋蘭「はい、…少しは休まれないと、体を壊します。桂花や北郷も心配していますよ?」
華琳「ええ、悪かったわ…でも、」
秋蘭「?」
華琳「うぅーーっ、久しぶりに良く眠れたわ」
秋蘭「そうですか?」
華琳「ええ…」
……そうね。
華琳「秋蘭、今日は少し街に出かけましょう?」
秋蘭「何か必要なものでも?」
華琳「いえ、別に。ただ、最近街がどうなっているか私の目で見てみたいだけよ」
秋蘭「解りました。護衛は私と流琉でよろしいですか?」
華琳「ええ、頼んだわよ」
そして、あの日はそれでその夢のことを忘れていた。
ギィイイ
玄徳「…」
侍女「若旦那さまー!!大変です!」
玄徳「何を騒ぐんだ」
侍女「先部屋を覗いて見たら、お客さまの姿が居なくなっていました」
玄徳「…そうか…もう戻りになったのか…もう少し話をしてみたかったのだが。お忙しいお方のようだ」
侍女「若旦那さま?」
玄徳「驚くことはない。部屋を掃除しておけ。また来られるかも知れないからな」
侍女「はい?は、はい……」
玄徳「……曹孟徳…か…」
説明 | ||
華琳はどんな言い方をするか、どんなことを思うか、私にはよく解りません。 p.S. 萌将伝設定で行こうと思っていたのに、無心に北郷を警備隊隊長にしてしまったので修正しました。 |
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