始まりの物語第7話〜闇に染まった銀の刃 後編〜 |
「一鞘、明日は九州の方で仕事が入った・・・頼めるか?」
俺が夕飯を食べていると、爺ちゃんがいつものように悲しそうな顔で仕事の話をしてきた。
「わかった。」
「すまんな。」
「でも、九州って此処からだと少し遠いな。 帰ってくるのは3・4日後だな。」
「そうじゃな。」
「っと。明日に備えて今日はもう寝るよ。 お休み爺ちゃん。」
「あぁ。お休み。」
俺は爺ちゃんの顔がいつもと少し違うな、と思ったが、明日の事を考えそのまま自分の部屋に向かった。
「おはよう爺ちゃん。」
「おはよう。 ご飯はもう作ってるよ。」
「ありがとう。」
そんな短い会話を終わらせ、俺はいつものように朝ごはんを食べた。
ただ一つだけ、いつもの違うことがあったとすれば、爺ちゃんのこの一言だった。
「そうじゃ、一鞘。 爺ちゃんも、もう歳じゃ。 もし爺ちゃんに何かあった時は倉庫の奥にある扉を調べてくれ。」
「爺ちゃんがそんな事言うなんて珍しいな。 あれ?でも倉庫の奥に扉なんて無かったよな?」
「まあ普通に調べれば無いよ。 そこは考えてくれよ。」
「教えてくれないのか・・・。 とりあえず分ったよ。 それにそろそろ時間だしな。」
「そうじゃな。 見送ろう。」
「ありがとう。」
俺は天斬狼牙を布に巻き、肩にかけた。
「そうじゃ一鞘。 これも持って行きなさい。」
爺ちゃんはそう言って愛刀の地斬爪牙を俺にみせた。
「でも、それは爺ちゃんのだろ。」
「いや、さっきも言ったように爺ちゃんは歳じゃ。 こんな爺が使うより、まだまだ若い一鞘に使ってもらう方がこいつも嬉しいじゃろうて。」
「わかった。 ありがたく頂きます。」
俺は爺ちゃんから地斬爪牙を受け取った。
「それじゃあ、そろそろ行くよ。」
「ああ。行ってらっしゃい。」
「行ってきます!」
そういって俺は仕事場に向かった。その間爺ちゃんはずっと俺を見送っていた・・・
「さて。そろそろ奴らが来る頃じゃろう。」
そう言って一人の武人は孫の刀であった狼牙を手に取った
「・・・来たか・・・」
武人がそう言うと玄関が開き、一人の男を先頭に数人の男達が上がり込んできた。
「お久しぶりですね一剣さん。」
男は武人の名を呼んだ。
「ああ久しぶりじゃな。――よ。」
「名前を覚えてもらっていて光栄ですよ。 さて・・・例の物は何処ですかな?」
「何のことだ? 俺には何を言ってるのかよく分りませんな。」
「嘘をつくのが下手ですね。 あなた達北郷家が守っているものですよ。」
「・・・知らないな」
「そうですか・・・。ならあなたを殺ってからじっくりと探させて頂きます。」
「フッ・・・やれるものならやってみな。」
そうして年老いた武人は剣を抜いた。
「・・・殺せ」
男がそう言うと、辺りの男が全員刀を抜き、武人に斬りかかった。
「ま・まさかここまで手こずるとは・・・。いやはや流石、武人ということか。」
「だか、これで後はあれを探すだけか・・・フハハハハハ」
・・・おかしい。 何か胸騒ぎがする。
俺は道中ずっと爺ちゃんの事を考えていた。明らかに今日の爺ちゃんはおかしかった。
そして朝爺ちゃんから譲り受けた地斬爪牙を見た。
「ん、なんだこれ?」
初めは気付かなかったが、よく見ると地斬爪牙に何か白いものが巻きついていた。
「手紙?」
巻きついていたのは爺ちゃんからの手紙だった。
「!!!!」
俺はその手紙を読み終えるのと同時に家へと全力で引き返していた。
「くそっ! 間に合え!」
その手紙の中には信じられない事が書いていた。
一鞘へ――
お前にはずっと黙っていたことがあったんじゃ。
それは、お前の両親が死んだこと。
お前の両親はこの国に殺された。
いや、正確にはこの日本を裏から操っているある組織にな。
その組織の目的は我々北郷家の者たちが代々受け継ぎ守ってきた神器。
そしてもう一つは俺達に流れている力・・・
その力は全てを消し去る破滅の力。
だがこの力は才のある者にしか現れないものだったんじゃ。
しかし、お前の父親には天才的な才能があった。
奴らはそれに気が付き、あの日・・・12年前のあの日その力を手に入れるためお前たちを襲った。
お前の母親は自分の子供を庇い死に、父親は何とかそいつらを全滅させ俺の家にお前を預けにきたんじゃ。
その時に全てを聞いたんじゃ。
俺達北郷家を狙っている奴の名をな。
そしていずれまた俺達を襲ってくるだろうと。
だからその時の為に我が子を強く育ててやってくれと。
そう言い残して死んでいったよ。
よく見ると腹に大きな傷があって、それが致命傷になっていた。
そして俺はお前を強く育てた。小さな時から刀を持たせ、技を教えてな。
だがそれも今日でお終いじゃ。
昔の仲間に奴らが俺達を探していると連絡をもらってな。
おそらく今日、奴らはやって来る。
一鞘、お前には今まで辛い思いをさせてきた。だから俺はお前を巻きこみたくなかった。
もうお前は自由だ。人を殺さなくてもいい。
だが優しいお前の事だからきっと戻って来るだろう。
だから俺は嘘をついた。本当は今日仕事なんて無いんじゃ。
だが、仕事と言えば例えどんなに遠い所が仕事場所でも不思議では無いだろう。
そしてそこに着けばこの手紙に気付いて引き返してきても、もう終わっているじゃろうからな。
一鞘この12年間お前と共に暮らした日々はとても楽しかったよ。
ありがとうな一鞘。
体には気を付けろよ。
それじゃあ行きなさい。お前はまた夢を見ればいい。
もう現実を見なくて良いのじゃから。
お休み、一鞘・・・。
「はぁ、はぁ・・・戻って来れたな。」
俺が手紙に気付きやっと家に着いたとき、家の中から笑い声が聞こえた。
「こ・・で・・だけか・・・・フハハハハハ」
その笑い声は爺ちゃんのものでは無かった。
俺は家に近づいた。
「っ!!!」
家に近づき初めに見えたのは血。玄関に大量の血と、肉の塊。
そしてその中で立ち笑っている黒い服の男。
「おや・・・あなたは・・・誰ですかな?」
男は俺に気付き問いかけてきた。だが俺は男の話など聞いていなかった。
ただ爺ちゃんを探していた。
そして俺は見つけた。 俺が昔使っていた狼牙を手に持ち爺ちゃんは眠るように座っていた。ただいつもと違うのはその腹から大量の血が流れていること。
「・・・あなたは誰ですか!」
「・・・お前が爺ちゃんを殺したのか・・・」
「爺ちゃん? まさか君は・・フフフ・・・フハハハ今日は相当に運がいい。12年前に逃がしたあいつの子供を見つけることができるなんて。」
「12年前?・・・そうかお前が俺の両親を殺し、そして爺ちゃんを殺したのか。」
男は笑って話しかけてきた。
「ええそうですよ。12年前君の両親を殺したのは私です。君たちの血筋に流れる最強の力が欲しくてね。 ですが、結局君の父親には逃げられ見つけることもできずに失敗に終わりましたがね。」
「・・・」
「ですがやっと見つけることができた。まぁ今回の目的は君たちが守っている神器だったんですがね。 ですがまさか子供を見つけることができるなんて・・・本当に運がいい。
これで最強の力が手に入る。」
「手に入れれるものなら入れてみな!」
「フフフ・・・お爺さんと同じことを言いますねぇ・・・。まぁそう言って死んで行きましたが。」
「黙れ、糞が! 爺ちゃんを侮辱し、両親を殺ったお前を俺は許さねぇ」
「ガキがほざくな!! お前等、殺さない程度に傷めつけろ!」
男が叫ぶと後ろから10人程の男が入ってきた。
全員手には刀や銃を持っている。
だが男たちは一鞘を甘く見ていた。
そうでなければ誰も今の一鞘に近寄りはしなかっただろう。
身内を侮辱し、両親を殺された。その事実を知り一鞘の眠っていた力を呼び覚ました。
「雑魚共が・・・」
一鞘がそう呟いた瞬間10人程いた男達は全て消え去った。
「なっ・・・ばっ馬鹿な・・・」
黒服の男は震えていた。
理由はいくつかあるだろう。だが、おそらく一番の理由は男達のせいだろう。
なぜなら、一鞘が呟いた瞬間に、そこに居たはずの男達が肉片になったのでもなく、消えてしまったのだから。
「・・・ありえない! 肉片になるわけでもなく、消えるなんて!」
俺は一人で叫んでいる男に近寄った。
その手に黒い漆黒の刀を握って。
「・・・言い残すことは無いか・・・」
「ひっ! ・・・たっ頼む!命だけは、命だけは助けてくれ!!」
「お前を許すことは無い。 必ずお前は殺す。」
この時俺は、すでに気が付いていた。
俺の後ろで3人程の人間が俺の隙を窺っていることに。
そして、この黒服の男はまだ俺をガキだと思い、その隙を作ろうとしていることに。
だから、あえて俺はこいつの作戦に乗ってやった。こいつから全ての希望を奪い取り、絶望を与える為に。
「た、頼む。許してくれ! もう、こんなことはしない! だからどうか許してくれ!!」
ふっ。俺は心の中でこいつの事を嘲笑った。そして・・・騙されたフリをした。
「・・・本当か? 本当にもうしないのか?」
男は笑っただろう。 所詮ガキはガキだと。 こんな言葉で騙せるのだと。
「ああ、もうしない。 だから・・・」
「だから?」
「だから・・・大人しく捕まれ」
その直後後ろから銃声がした。
そして俺の背中を貫いた。
「フハハハ。所詮はガキですね! こんな罠に引っ掛かるのですから。」
男は笑っている。俺を捕え、この力を手に入れる事ができたのだと。
だが、男の幸せな時間はあと少しで終わる。
「おい! このガキを早く連れて行け!」
「・・・」
返事は無い。
「おい!! 聞いているのか!!」
男は声を張り上げた。しかしそれでも返事は無い。
そして、返事をしない奴らを殺してやろうと足を動かした瞬間、この男の幸せは終わった。
「!!ガキは・・・」
男は倒れていたはずの俺が居ないことに気がついた。 そして周りを見回す。
見まわしている男に俺は声をかけた。
「どうだった? 自分の罠にはまって俺が倒れ、捕えることができたと思ったか?」
男は止まった。気がついたのだ今自分の後ろからとてつもない殺気が放たれていることに。
そして、俺は話し始めた。
「お前の部下はもういないよ。 お前の部下が後ろから俺を狙っているのは初めから気付いていたしな。 だから銃声がなった瞬間に弾丸ごとそいつらを消した。」
「馬鹿な! 弾丸ごとなんてありえない!」
「ありえるだろ? お前がずっと求めていたんだろ?」
「!!まっまさか・・・」
「そう。これがお前が求めていた最強の力。 触れたものを全て消し去る破滅の力。」
男の顔から血が引いていく。
「言っただろ? お前だけは許さない・・・と。 我ら北郷家に喧嘩を売ったことを悔やむがいい。」
俺は男に絶望を与える最後の一言を述べる。
「これが最後だ。消えろ・・・。」
「まっ、待っt」「死ね」
俺は黒く染まった刀を縦に薙いだ。
斬られた瞬間、斬り口から黒い焔が現れ男を喰い尽くした。
その後俺は爺ちゃんを両親と同じ墓に埋めた。
そして墓石の代わりに愛刀だった地斬爪牙をその上から突きさした。
気がつけば空は明るくなっていた。
「ふう・・・終わったか。」
昨日あんなことがあったのに、爺ちゃんの家が山にあったためか、周りの人達には気付かれていないようだった。
「・・・そういえば昨日俺が使ったのは爺ちゃんが言ってた破滅の力だったのか? まぁどうやって使ったのかよく分らないが・・・。」
そういって天斬狼牙を手に取った。
「銀色に戻ってる。 たしか昨日あいつらを消した時は黒色だったのに・・・。」
漆黒に染まっていた天斬狼牙が元の色に戻っていたのを見て理由を考えようとした時
俺は爺ちゃんの言葉を思い出した。
「そういえば、倉庫を調べろ・・・だったっけ。」
俺は倉庫へと向かった。
全ては運命だったのだろう。
両親が殺され、俺が爺ちゃんに強く育てられる。
そして俺が最強の力に目覚め、倉庫に向かう。
この全てが起こり俺の運命が動き始めたのだろう。
だがそんな事を知るのはまだまだ先のお話。
この時はまだ神器すら見つけていなかったのだから。
それでも確かに俺は未来に一歩ずつ歩みを進めていた。
後書き
読んでくださった皆様有難うございます。
雪蓮様です。
やっと後半を書き終える事が出来ました。
予想以上に長くなってしまった!!、というのが今の感想そうです。
そのおかげで今までより遅くなってしましました(投稿するのが)
ともあれ、無事に7作目投稿できました♪
今回は一鞘の過去の後半です!
シリアスな仕上がりに?なったでしょうか?
実際倉庫でのお話もあるのですが、あまりにも長くなりそうなので、またそのうち書くことにします。
次回は本編に戻るつもりです。
これからも頑張りますので応援お願いします。
ではまた次回に会いましょう。
SEE YOU AGAIN
説明 | ||
7作目投稿しました 雪蓮様です! 今回は一鞘の過去のお話の後編です♪ 見ていただけると嬉しいです |
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総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
1957 | 1695 | 9 |
コメント | ||
己の力の片鱗に気がついてしまった訳ですか。ご両親や爺ちゃんの思いの為にも良き方向に進んでいって欲しいですね。(深緑) スターダスト様> どこまでも強く優しくなるはずです^^ どうしましょうか・・・まだ決まってないですね・・・(雪蓮様) 葉月様> きっとこれが最強のチートになるはず!・・・?です^^ そのうちにきっと制御できるようになる!!・・・・かな? とりあえず頑張ります♪(雪蓮様) まさに最強・・・・この最強の男の息子と娘は一体どれだけ成長するんだろう・・・息子の方はとりあえずは最初は凡人かな?(スターダスト) 触れたもの消し去るって、どんだけチートなんですか一鞘さんは。でも、まだちゃんと制御できてないから良いのかな?いや、それでもチートですけどね?次回も楽しみにしてます(葉月) |
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