「・・・ドリーム？」

あまりの衝撃に、起きた瞬間に【サイレントヒル】のハリーメイソンが起きたシーンの時みたいな言い回しになってしまった

・・・いや、知ってる人いないだろうけどさ絶対に

とにかく、それほどの凄まじい衝撃

寝巻きなんて、汗でびっしょりだ

「はぁ〜・・・夢でよかったぁ」

本気でこぼれた、安堵の溜め息

ここまで酷い夢なんて、久し振りに見たぞ・・・悪夢ってやつだ、絶対

「ん・・・？」

あれ、そういえば・・・悪夢なんて、何年ぶりに見ただろう？

確か、最後に見たのは・・・

〜なんで・・・なんでボクを、一人にするの？〜

頭が・・・痛くなった

胸が、苦しい・・・？

これは・・・

「お、ようやく起きよったな」

「あ、【桔梗】さん・・・おはよう」

「まったく、さっきからうなされておる様じゃったから・・・何事かと思ったぞ」

「あはは、ごめん」

笑い、俺はベッドから体を起こす

それから再び、部屋の入り口に立つ彼女に『おはよう』と挨拶をした

「うむ、では朝食の準備は出来ておるからな

下で待っておるぞ

おお、布団はそのままにしておくのじゃぞ？

後でわしが、一刀の残り香を楽しむ為にな」

「いや、勘弁してよ

こんな汗びっしょりなんだし・・・絶対、汗のにおいがすごいって」

「馬鹿じゃな、それがいいんじゃろうが」

そう言って、桔梗さんは部屋から出ていった

彼女は【望月　桔梗】さん

言ってしまえば、俺の保護者・・・まぁ、母親のような人だ

ようなという言葉でわかるとは思うけど、血は繋がってはいない

ちょっと変わってるけど、うん・・・優しくて、本当に良い人だ

【あの日】からずっと、俺の傍にいてくれたし

「【あの日】・・・か」

呟き、窓の外を眺める

今日は、昨日と同じように・・・空は快晴だ

うん、良い天気だ

「まだ・・・思い出せないのか」

伸ばした手を、太陽に重ねてみる

温かな光に、俺は目を細めた

「・・・さて、今日も一日頑張りますかっ！」

パンと、気合一発

頬を叩き、かばんを持つ

それから部屋を出るべく、歩き始めた

その時・・・

「ん・・・？」

目に映ったのは、部屋の天井

そこに出来ている、大きなシミだった

よく見たら、ポタポタと水のようなものが漏れている

「水漏れ？

昨日の夜、雨でも降ったのかな？」

しかし、すごい漏れが酷いな

しかも・・・

「なんか、アンモニア臭みたいなのがするような・・・」

天井がＣＣレモンでも漏らしたのか？

ははは、そんな馬鹿なwww

ーーー†ーーー

・・・そんわけで、学校に向かって歩いていく俺

華雄は部活の朝練があるから、今日は先に行っている

なので、久し振りに一人寂しく登校中だ

「はぁ・・・しっかし、ダルイなぁ」

起きてから、続くこの体のダルさ

原因はまぁ・・・昨日色々ありすぎたからだろうな、確実に

特に、最後のあの変態阿部とのデスレース・・・あぁ、思い出すだけで鳥肌が

「おっ？」

そんなことを考えながら歩いていると、俺の少し前・・・楽しそうにスキップしながら進む少女の姿が目にうつった

「へぅっ、へぅっ、へぅっ♪」

鼻歌(？)まで歌って、軽やかに進んでいく少女

制服をみれば、うちの学校のものだった

どうやら俺と同じ、通学生みたいだな

「へぅっ、へぅっ、へっぶんんぅ！！？」

あ・・・コケた

いや、結構派手にいったなぁ

「ひぇぶ、ひぇぶ・・・〜っ」

ていうか・・・中々起き上がらないし

倒れながら『へぅ、へぅ』言おうとしてるし

可愛いな、うん

「って、そうじゃないだろ

あれをほおってはおけないよなぁ」

俺は軽く溜め息をつくと、その倒れている少女のもとへと駆け寄っていく

それからしゃがみ込み、彼女の様子を窺った

「えっと、大丈夫かな？」

「へ、うぅ？」

俺の声に反応し、顔をゆっくりとこちらへと向ける少女

そのおでこはぶつけたのか、赤く腫れている

「痛そうだね・・・とりあえず、立てそう？」

「へぅ、大丈夫だと思います」

そう言って、フラフラとなりながら立ち上がる少女

フラフラと、フラフラと・・・

「へぅ、へっぶんりぃぃっ！？」

あ、またコケた

うん、全然大丈夫そうじゃないね

そして、また顔面からいったし・・・あれは痛いぞ

「仕方ない・・・か」

小さく呟き俺は、彼女に背を向ける

それから、ニッと笑って見せた

「同じ学校だろ？

だったら、学校までおぶっていってあげるよ」

「へぅっ！！？」

ビクリと、大きく体を震わせ驚く少女

彼女のその様子に、俺は苦笑をもらした

「やっぱ、見知らぬ男におぶられるのは嫌だよな」

「へぅ、そんなんじゃなくって！

その、北郷さんに迷惑をかけたくなくって・・・！」

「ん・・・俺の名前、知ってるの？」

「へぅ、同じクラスですけど・・・？」

「ごめん、超ごめん・・・」

知らなかった・・・この子、俺と同じクラスだったんか

なんかすごく申し訳なくて、思わず深く頭を下げてしまう俺

そんな俺の様子に、彼女は慌てて首をブンブンと横に振っていた

「そんな、気にしないでくださいっ！

今まで直接お話したこともありませんし、生徒も多いですから仕方ないですよっ！」

そう言って、俺に優しく微笑む彼女

め・・・女神や

女神様がおる

「ありがとう

えっと、君は・・・」

「私は【麻生　月】といいます

その、へぅ・・・私のことは、どうぞ月とおよびください」

「うん、よろしく月

俺のことは、好きに呼んでくれていいよ」

「じゃぁ、間をとって・・・【御主人様】で♪」

「ぶはっ！？」

噴出した、しかもムセた

待て、どことどこの間をとってそんな言葉が出てきたんだ！？

あれか？冷静と情熱の間か？天と地の間か？

そりゃ、こんな可愛い子に御主人様なんて言われたらすごく嬉しいよ！？

できれば、毎日でもこんな子の淹れてくれるお茶を飲みたいよ！？

月の淹れてくれたお茶は美味しいねっていってあげたいよ！？

『ふふ、ならば俺は勝ち組というわけだな』

誰だお前っ！！？

なんだ！？よく見たら、俺と同じ顔を・・・

・・・って、俺の馬鹿っ！！

なに考えてるんだ！？そうじゃないだろ！？

「あの、できればそれは勘弁してもらえないでしょうか・・・？」

「へぅ、残念です・・・」

そう言って、本当に残念そうにうな垂れる月

待て、なんでそんな残念そうなんだ？

「やっと・・・私の御主人様に出会えたと思ったのに

やっぱり、長すぎたんだね・・・一億もの月日は」

「月・・・？」

「へぅ、なんでもありませんよ？

それでは・・・一刀様と、お呼びしてもいいでしょうか？」

う〜ん・・・できれば、それも勘弁して欲しいんだけど

まぁ、仕方ないかぁ

「わかった・・・それで構わないよ」

「へぅっ♪　よかったです」

笑い、『へぅへぅ』言う月

はは・・・こんな笑顔が見れるのなら、一刀様と呼ばれるのも悪くないのかもしれない

なんて、な

「ひぇっぶんんんぅ！！！？」

あ・・・またコケた

ーーー†ーーー

「この、女タラシ」

「待て、『おはよう』とかすっ飛ばしてそれは失礼すぎるだろう」

教室に入った瞬間、そんな華雄のキツイ一言が俺を待っていた

機嫌もすこぶる悪い

ていうか、クラスメイトの視線もかなりキツイ(特に男子)

なんなんだよ、いったい・・・

「あの一刀様、そろそろ下ろして頂けないでしょうか？」

「あ、そういえば・・・月があまりにも軽いから、すっかり忘れてたよ」

「へぅ、恥かしいです・・・」

言いながら、俺は月を優しく下ろしてあげる

すっかり忘れていた・・・そういえば、おぶったままここまで来てたのか

「へぅ〜、ありがとうございました」

「気にしないで、困ってる人はほっておけないんだ」

足はもう大丈夫なようだ

月は軽い足取りで、自分の席へと歩いていく

途中詠に話しかけているところをみると、彼女は詠と友達だったのだろう

「えいっ！」

「ひぇっぶ！！？」

・・・うん、仲良しなんだな(？)

ていうか、昨日詠が言ってたのって月だったんか

良い一撃がはいってたけど

まぁ、元気なようでよかったよ

「この、一級フラグ建築士」

「だから、さっきからなんなんだよ華雄

そんなイライラしてさ・・・可愛い顔が台無しだぞ？」

「なっ！？」

瞬間、華雄の顔が真っ赤になる

どうしたんだ？

「なんだよ、熱でもあるんじゃないのか？」

「ぴっ・・・！？」

心配になり、俺は華雄の額に自分の額をあてる

うわ、すっげえ熱い！！

「華雄、お前熱あるんじゃ・・・っ！！」

「ふにゃぁ〜・・・」

「ちょ、まっ・・・華雄！！？　どうしたんだ華雄！！？」

可愛らしい声をあげながら、気を失ってしまった華雄

ていうか心なしか、幸せそうな顔なのは何故なんだ！？

しかも、『けっ、このリア充が』とか『はいはい、バロスバロス』とかっていう男子からわけのわからない言葉が出てきてるし

とにかく、まずは華雄を保健室へ・・・！

「うっし、いくぞ！」

掛け声と共に、俺は華雄の体を持ち上げる

所謂『お姫様抱っこ』というやつだろうか・・・

そのまま、俺は教室を飛び出していった

〜アイツ・・・ボクの御主人様を・・・〜

〜保健室、なら・・・『彼女』に任せましょう〜

〜電波受信っ・・・保健室に運命の出会いの予感っ！！〜

これが新たなる騒動の幕開けとなることに、気づけぬままに・・・