とある時空の並行旅人〜パラレルトラベラー〜U
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T9 仁科の世界・ファーストコンタクト

 

 

「木原ぁ」

声を荒げた青年が407KIHARAのプレートのある部屋のドアを勢いよく開け放つ。重厚な机の向こう側に座っている白髪の初老のに近づき胸ぐらを強引につかみ上げる。同じ白衣をきた二人は、先進教育局の研究者。しかしながら初老の老人はここの所長の木原(きはら)幻生(げんせい)。この青年は若いながらもネームプレートには主任の文字が書かれている。本来このような行為は組織にとって許されるものではない事を理解しているが、それでも抑えられない感情を木原に向けていた。

「どうしたのかね仁科君。おちつきたまえ」

「あなたは、私の弟を実験台にしていたんですね」

「何を言うんだい仁科君。君が弟さんの原因不明の症状を治したいと言うから、ここの最新設備を使い治療の糸口を見つけようとしていたんじゃないか」

「ええ、あなたのその言葉を信じていましたよ。ですがあなたの本当の目的を知ったからには、弟を・・・ここにいる子供たちをあなたから解放します」

その言葉を聞いた木原は穏やかな表情から、奇異と感じるようなくらい目を見開き目の前の青年を凝視する。

「仁科君・・残念だよ。・・君には期待していたんだが・・」

木原の白目が赤く変色していく。

「それが実験の結果ですか・・・」

「そうだよぉ仁科君。能力者の脳波を統一し、能力者の脳はネットワークを作り出す・・・私の研究のしていたプランの1つに過ぎないがね・・ひっひっひ」

「あなたって人は」

「さらばだ・・・仁科君」

にやりと笑みを浮かべた木原。

 

ドン

 

あまりの衝撃と音で外で遊んでいた子供はおろか、職員まで地面に倒れこんだ。次に見たのは、先進教育局所長室から立ち上る炎と黒煙だった。

 

『ここ先進教育局の爆破事故から10年。この事故に関して、当時を知るコメンテーターの・・』

リモコンでテレビの電源を切る。通っている高校の指定の制服、ブレザーを着てしわすれたネクタイをあわてて首に巻く。時計は家を出て居なければいけない時間をとっくに過ぎていた。

「めんどくせぇ・・・」

そう思いながらもサボったときの兄の顔と、言われるであろうお小言を想像し1つため息を吐く。

「いってきまーす」

いつもどおり返事のない家の鍵を閉め、学校へ向かった。通学時間からだいぶ立っているため、学校へ向かう道ですれ違う学生やクラスメイトの姿はない。こちらに引越し、今の学校に通い始めてそんなに経ってはいないが、ここ第七学区の空気はなんだか好きになれそうな気がしていた。学校の校門から敷地内へ入ると、頭上から声が聞こえた。視線を上に上げると自分のクラスのベランダから男子が一人顔をのぞかせている。後ろに教員と思われる女性が立っているが、彼は気づいていないのだろう。丸めた教科書で頭を叩かれ慌てて振り向いて教室に入る彼。

「なにやってんだか」

半分あきれながら教室へ向かった。

 

「おーっす」

教室のドアを開けると先ほどの男子が声をかけてきた。

「大倉・・あとで補習な」

「そんなぁ・・木山先生それはあんまりだ」

教室に笑いが走る。いつもクラスのムードメーカーの大倉。転校して来た時に一番最初に話しかけてきたのが彼だった。彼のおかげで仁科はこのクラスにすぐ馴染めたのは言うまでもない。

「おっす」

そういって自分の席へ向かう。

「仁科君、今何時かしら?」

目じりの辺りがぴくぴくしているのを見逃さなかった。そうとう怒っているのだろうと仁科じゃなくても気づく。

「3限です。ごめんなさい」

「ごめんなさい・・じゃない。あとで職員室来るように」

「げ・・・」

「あっはっは、ざまぁみろ」

「大倉ぁ・・・君もだ」

「げげ」

大倉はオーバーなリアクションで木山に抗議をするも、それはあえなく却下された。

 

放課後こってり絞られた二人はげっそりしながら下駄箱へ向かった。あたりはすっかり夕暮れで、校内はすっかり静かになっていた。

「仁科この後は?」

「ああ、前居たところでも風紀委員(ジャッジメント)に席を置いてたってのは話したろ」

「エリート校の集まる18学区でやってたってやつね」

「そうそう。なんか向こうの先輩がこっちの風紀委員(ジャッジメント)の人に、俺の事話したらしく今日挨拶に行かなきゃなのさ」

「まー気をつけてな。俺はこれからバイトさ」

「あーjosePh'Sか」

josePh'Sは大手チェーンのファミレスで、学生以外にもOLや家族ずれなど幅広い層に人気がある。第7学区の学生はよく利用している。

「今度食べに行くよ」

「ああ、じゃあな」

校門のところで仁科と大倉は別れた。大倉は自転車通学のため駐輪場へと向かった。仁科は会う約束をしている風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部へと向かった。以前は柵川中学の一室に設けられたいたのだが、柵川中学以外の学生も通うため、それぞれが通い安いようにそれぞれの学校へ均等の距離にあるビルの1テナントとして一部屋借りている。もちろん治安維持が目的のため、賃貸料などは学園都市持ちである。

「ここか」

 

風紀委員活動第一七七支部(JUDGMENT 177 BRANCH OFFICE)

 

プレートに矢印と2Fという文字が書かれている。それを確認し二階にある一七七支部のドアをノックした。どうぞ、と声が聞こえたためドアを開けた。

「失礼します」

「君が、仁科司君?」

セミロングの髪にメガネをかけた女性が出迎えてくれた。促されるまま中に案内される。そこにはツインテールの少女と花飾りを頭につけた少女が立っていた。少し離れた椅子に座っている黒髪の長い少女、窓際でサバサバしたオーラを放っている少女が仁科の方をみていた。

 

これが仁科と彼女たちの最初の出会いだった。

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T10 仁科の世界2・落ちこぼれの・・・

 

 

第一七七支部で仁科が活動するようになって2週間たったある日。バンクに登録されているレベルよりも格段に能力が上がっている能力者が多数現れるようになった。それは噂大好きな涙子によれば、都市伝説の一つに幻想御手(レベルアッパー)と呼ばれるものがあるらしいとの事だった。にわかに信じがたいものではあったが、初春がネット上でそれらしい情報や掲示板を見つけた事により現実味を増した。それに前後するように起きた連続虚空爆破(グラビトン)事件によって、レベルアッパーの存在の核心に近づいていた。「はい、鎮圧完了」

仁科の周りにはボロボロになった男達が気絶していた。幻想御手(レベルアッパー)の情報を得るために、いろいろな所へ足を運んでいた。絡まれたりされたが、無能力者だったため難なく返り討ちにした所だった。服やズボンの汚れを払っていると携帯が鳴った。着信者の名前をみると白井黒子と表示されていた。

「はいはいこちらサボリの仁科です」

「なにアホな事言ってますの」

黒子はあきれた様に電話越しにため息を吐く。黒子は一瞬電話を切ろうとも考えたが、結果だけを聞こうと思い仁科との会話を続ける事にした。

「それより何かわかりまして?」

「特になんもー」

「そうですか」

「ただ・・・」

「ただ?」

「初春さんが見つけた掲示板が、取引に使われてるのは間違いないかと」

「わかりましたわ。仁科さんはこのまま情報収集を続けてくださいな」

「ういー」

そういって電話を切った。やれやれと思いつつ休憩をしようと近くのjosePh'Sというファミレスへ入った。

「いらっしゃいませー」

店員がやってきた。店は夕方の時間帯で割りと席は埋まっていた。

「あれ?なんだ司か」

「大倉か」

このファミレスの制服を身にまとった大倉は、いつもよりも引き締まって見えた。

「あそこの窓際の席でいいだろ」

「おう」

そういって窓際に設置された一人用の席へ案内された。適当にお勧めを聞いてそれを注文しておいた。

「それにしても次の身体検査(システムスキャン)楽しみだなー」

声を少し踊らせながら大倉の目はどこか別の世界へ飛んでいる。

「そうか?てかあんだけ嫌いだーって言ってんにどういう変化だ?」

「ふっふっふ、男心とさんまの塩焼きってな」

「聞いたことねーよ」

いろいろ聞いておきたい所だったが、来客の為大倉はそちらへ行ってしまった。

 

 

 

 

 

その日は収穫がなさそうだったため、報告をするために第一七七支部へ仁科は戻ることにした。支部のドアの前に立つと中から黒子の声が聞こえてきた。

「それにしても固法先輩。このまま仁科さんを風紀委員(ジャッジメント)をさせててよろしいのでしょうか。彼、いまいちやる気というか自覚が足らないと感じていますの」

黒子のその言葉を聞き、ドアノブにかけた手を離した。同じような事を前にも言われていた・・・そんな記憶が甦った。

「あなたにはやる気が感じられない。どうしてお兄さんのようにできないの」

「お兄さんはとてもすばらしい功績をもってるわ。仁科さん・・あなたも頑張って」

兄兄兄、どこへいっても優秀な兄と比べられそんな期待にこたえ様としていた司の心は、病んでしまっていた。どこへ行っても落ちこぼれ、能力レベルは2と診断されますます回りの目は厳しさと哀れみと蔑みで満ち溢れ、いつしかあきらめと言うことを覚えていた。

(兄さんとは違い落ちこぼれ・・・ドッペル・・か)

そんな今の自分を嘲笑し、再びドアノブに手をかけて今度は話すことなくまわした。ガチャという音と共に入ってきた仁科を見た黒子はバツが悪そうに目線をはずしていた。

「ただいまもどりました」

そういって空いているデスクの席へ腰をかけ、本日の活動報告をまとめる。簡単に言えばたった4文字・・・情報なしなのだが。

「とくにこれといった情報は得られませんでした。初春さんの調べた掲示板が怪しそうということくらいですね」

「もう少し調べてみますね」

と初春は複数モニタと端末のある席へ座り、操作し始めた。仁科は黒子に視線を向けた。黒子が風紀委員(ジャッジメント)として誇りを持っていることは仁科にもわかってはいた。それだからこそ、自分の姿にはいらだちを隠せないという事もわかっていた。だからこそ何も言わず風紀委員(ジャッジメント)の腕章をはずし、それを固法のいる机においた。

「仁科くん?」

「俺には・・・向いていないんです。勝手過ぎでごめんなさい」

「ちょ・・」

仁科は自分の通学用の鞄を手にして、第一七七支部を後にした。

固法と黒子は目をあわせ、初春も心配そうにドアのほうへ視線を向けていた。

 

 

 

 

 

すっかり日も落ちた夜の都市。コンビニのビニール袋を片手に白い短髪で中性的な印象を受ける少年がコンビにから出てきた。それを見計らったかのようにぞろぞろとチンピラが少年を取り囲む。数秒後には全員が地に伏せ、少年はくだらないとばかりに、たいくつそうにその場から歩いていく。自宅のマンション付近までくると学生鞄を持った同じく少年が視線の先に立っていた。

「一方通行(アクセラレータ)・・・待ってた」

「アア?誰だオメェ」

そのまま一方通行(アクセラレータ)は少年に歩み寄った。よく見れば自分と同じ年くらいの男だった。

「ちょっと付き合え」

「誰に命令してんだ誰に」

「今むしゃくしゃしてんだ、相手してくれよ」

「めんどくせェ」

めんどくさそうに一方通行(アクセラレータ)は高加速し少年に詰め寄る。これが一方通行(アクセラレータ)の能力。体表面に触れたあらゆるベクトル(向き)を任意に操作(変換)させる、絶対防御と絶対攻撃を兼ね備えた能力。そのまま蹴りだされた足にさらにベクトルを加える。その蹴りは運動量のベクトル操作により、通常の倍以上の威力を持っている。いつもは無意識かに絶対防御に当てているため、攻撃してきた相手にそのまま撥ね返るオートカウンターで相手を倒していく。しかしこの蹴りは自らの意思での攻撃のほか、高加速とさらにベクトルの変化を加えた蹴り。

 

ガッ・・・

 

相手のお腹へ直撃した蹴りは何事もなかったかのように、少年のお腹の位置でぴたりととまった。

「は?」

少年は振りかぶり拳を一方通行(アクセラレータ)へ振り下ろす。ベクトルの操作で少年の攻撃はなんなくかわすが、一方通行(アクセラレータ)は少し驚いていた。

 

ドン・・・・

 

振り下ろされた拳、その先にあるアスファルトの道路がヒビをいれつつ地面へめり込んだ。

「やるじゃねェか」

蹴りを受け止めたことも驚いたが、それにプラスして少年の攻撃力、一方通行(アクセラレータ)は少年に興味を抱きつつあった。それと一つ思い出した事が・・・

「オマエ・・思い出したぞ。落ちこぼれのドッペルか・・・」

出そうと思った言葉を飲み込み少年・・・仁科司は唇を強く噛んだ。

「ドッペルドッペルうるせぇ。ドッペルがどんなもんか見せてやる」

「そうまでいうなら、サイッコーに楽しませてみせろよ」

笑い声を高らかにあげ、一方通行(アクセラレータ)特有のベクトル操作により一般人ではありえないくらいの跳躍と機敏な動きをしながら仁科へ上空から攻撃を仕掛けてくる。ガードするでもなく一方通行(アクセラレータ)の攻撃を頭で受けるもピクリとも動く事無く一方通行(アクセラレータ)をにらみつけている。

「っらぁ」

そのまま一方通行(アクセラレータ)へ右ハイキックで顔を狙うも特有のベクトルによりそのままはじき返される。体ごとふっとんだ仁科は受身を取り体勢を相手へ向ける。一方通行(アクセラレータ)はなぜか楽しそうににやついている。

「ハッハッハ、場所を変えようじゃねェか」

そういってついた先は空き地。マンション建設用のため資材等置かれているが、戦うには十分な広さの場所。

「続き・・いくぞオラァ」

同じように何度か攻撃していくうちに、一方通行(アクセラレータ)は一つの仮説をたてた。

「オマエ・・・後手後手の戦い方だな。オマエの高い防御力もきっと能力・・・」

仁科は一方通行(アクセラレータ)の言葉をさえぎる様に攻撃を加える。一方通行(アクセラレータ)は確認するため全ての攻撃を受けず、ベクトル変化の高速移動でかわす。

「さっきの地面をへこますくらいの威力がある攻撃は、できねェようだな」

一方通行(アクセラレータ)が攻撃をしなくなってから、仁科の先ほどのような高威力な攻撃は鳴りを潜めていた。

「防御に関しては威力を吸収だとして、それを攻撃時に反射。そんな能力聞いたことねェな。それに吸収と反射だとすると、多重能力ってことになるが・・・。理論上不可能なはずだな」

「はぁ・・はぁ・・・吸収と反射・・・たしかにお前の理論は正しい。だが・・・」

仁科は近くの小石を広いそれを一方通行(アクセラレータ)へ放り投げた。一方通行(アクセラレータ)は反射する事無くその変哲のない小石を受け取る。

「これがなんだ?」

仁科は何も言わず再度小石を放り投げた。

「・・・これは・・」

何の変哲もないただの小石。しかしその小石は・・、

「これが・・オマエの」

その二つの小石はまったく同じ形をしていた。可能性としてはなくはない、だがまったく同じ形の小石の可能性はないに等しい。

「俺はバンク上ではレベル2の能力者。これは物体複写(メタコピー)」

「なるほど・・・コピーできるのは物体だけじゃねェってことか」

「そうさ、衝撃と能力もコピーできるのさ」

「とんだドッペルだな」

「俺の能力は、生物をコピーできない。それで上のやつらに言わせたら、とんだ欠陥品て言われたぜ。ドッペルゲンガーを作り出せない、俺は・・・落ちこぼれの欠陥複写能力者(ドッペル)さ」

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T11 仁科の世界3・心の夜明け

 

 

「まぶし」

薄めに差し込む眩い日差し。わりとすわり心地のよいソファの上で眠りについていたようだが、昨日の今日で体の痛みは甚大だった。テーブルを挟んだ反対側のソファには白い短髪を少し乱した一方通行(アクセラレータ)が無防備な顔で眠っている。昨日の夜から空が明るくなるまでこのマンションの近くの空き地で、仁科と一方通行(アクセラレータ)は死闘のようなケンカのようなとにかく空き地がぼこぼこになるまでただひたすらに仁科は一方通行(アクセラレータ)にぶつかった。

 

 

 

 

「あー、無理。もー無理・・限界」

そういって仁科は仰向けに倒れこんだ。体にたくさんの酸素を送り込もうと、胸が肺が激しく上下する。

「もー限界・・・真っ白だ・・・」

そういいながらも、憑き物が落ちたようさっぱりとした表情をしていた。

「あンだァ?てか、空がもう明るいじゃねェかクソったれが」

そういって仰向けに倒れている仁科の近くに腰を下ろした。

「ったく・・これでもオレは優等生してんだ。完全に寝不足だぜ・・」

そう呆れたように仁科を見下ろした。その視線に気づいた仁科はふっと笑ってしまった。

「噂に聞いていたような悪魔ってよりは、学校の事を気にするなんて」

悪いか、と一方通行(アクセラレータ)はそっぽを向いた。

「とりあえずオレの部屋にこい」

「んあ?」

というような事があり、今一方通行(アクセラレータ)の部屋に一緒にいる。時計に目をやると10時40分

「あ・あれー?・・・ぬあー完全に遅刻だぁぁぁ」

「うるせェぞ」

あまりの騒音に強制的に目覚めさせられた一方通行(アクセラレータ)は、手元に合った空き缶を仁科に投げつけた。

「だ、大遅刻だ・・・」

「まァしかたねェ・・・遅刻か・・・」

「あは、あははは」

「早くいくぞ」

急ぎ二人で一方通行(アクセラレータ)の部屋を出た。

「オマエ・・」

「司だ・・・」

「知ってるよ。オマエのアニキってのには世話になった事があるからな」

「そうなのか」

「仁科(にしな)清貴(きよたか)だろ。オレに関わった科学者の中でまともなやつの一人だからなァ」

「そっか」

「オマエの事は知らん。オレはオレで今までずっと実験対象とされてきた。それぞれいろんなもんがあるんだって事だな」

隣を歩く仁科は黙っていたが、かまわず話を続けた。

「だがそれが生まれてきた意味だとしても、ふて腐れてしかたねェ。だったら頂点に立ってすべてをひれ伏せさせるほうがよっぽど楽しいじゃネェか」

そういった一方通行(アクセラレータ)はこれ以上ないと言うほど冷たい笑みを浮かべていた。こんなやつと昨日やりあってたのかと思うと、仁科の背筋に悪寒が走った。

「できる事をやってりゃ、ちゃんと理解してくれるやつが・・・おっとしゃべりすぎだな」

「・・・・オレよりちゃんとしてんだな」

無意識に仁科の口から漏れた言葉。

「ほら、オメェはそっちだろうが・・・じゃあな」

上げた掌をひらひらさせ一方通行(アクセラレータ)は背を向けて歩いて言った。

「まァ、オメェはオレが興味を持った、三人目の・・・人間だからな」

その言葉は仁科には聞こえる事はないが、一方通行(アクセラレータ)は満足げにつぶやいた。しばらく歩いた所にあるベンチに座っていた茶色い髪の少女は、一方通行(アクセラレータ)を見つけると、彼の隣に走りより彼のかばんに抱きついた。

 

 

 

「今の俺にできること・・か。理解してくれる人か・・」

少しだけその場で立ち止まっていた仁科は、決意をしたように一方通行(アクセラレータ)とは別の方向へ歩き出した。そして携帯を取り出し電話帳に登録されている番号に電話をかけた。

「はい、もしもし」

「あ、固法さんですか・・・に・・仁科です」

 

 

 

 

その日の夕方、夕方と言ってもまだ夕日までには割りと時間がある・・そんな時間帯。仁科は第一七七支部へ戻りみんなに謝罪をしていた。

「1日で戻ってくるとは・・・単純ですこと」

そう言って黒子は少し呆れたような顔をした。

「ふふ、一番心配してたの白井さんなのに」

「そうですよ。あの後すごく『少し言いすぎましたかしら』って心配そうに」

「うーいーはーるー」

「し、白井さん怖いです」

「みんなごめん。いろいろモヤモヤしてて・・それでこっちに転校したり逃げてばかりで・・・。でも逃げずに受け止める。俺は俺、第一七七支部の一員としてやるべき事をやる」

「ええ、改めてよろしくね仁科君」

「頑張りましょう」

「ま、これからのあなたに期待しますわ」

そしていつものようにここに、涙子や美琴がやってきていつも通りのにぎやかな日常が続く・・・はずだった。

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T12 仁科の世界4・原因不明

 

 

仁科が第一七七支部で新たな決意を表明して数日、世間を騒がせていた連続虚空爆破(グラビトン)事件は解決へと向かった。介旅(かいたび)初矢(はつや)という男子学生が、風紀委員(ジャッジメント)への逆恨みで起こしたと言うことを、白井の口から告げられた。

 

 

 

 

「ちぃーっす。遅れましたー」

特に時間等の厳密な規則はないのだが、仁科が来る頃には固法や他メンバーがいることが多いため、遅れたと思う癖がついてしまった。今日に限っては事務所には固法しかいなかったが。「仁科君お疲れ様」

作業していた手を止め顔を入り口の方へ顔を向けた。

「あれ?白井さん達は?」

いつも自分よりも先にいるいつもの二人が、今日に限っては事務所に姿はない。

「ああ、それがね・・・」

固法は先ほど合った白井からの電話の内容を仁科に伝えた。

「初春さんが風邪ですかー、じゃあ今日の警邏は俺が変わりに行きますね」

「ほんとに?そうしてくれると助かるわ」

「行ってきます。何かあれば携帯に」

そう言って盾マークと緑のラインが入った風紀委員(ジャッジメントの)腕章をつけて、外へと向かった。外は蒸し暑くワイシャツをバタバタと仰ぎ、風を服の中へと送り込む。

「そうは言ったけど・・今日は警邏当番じゃないからウキウキーって思ってたのに」

ぶつぶつと端から見たらなにか呪文を唱えているように見えるように、陰湿なオーラを放ちつつ決まりのないルートを歩く。

「あとでぜったいあの白井黒子に何かおごらせるぞ・・・」

と密かな企みに不気味な笑いを浮かべつつ歩いていると、背後から呼ぶ男女の声が聞こえた。声のした方へ振り向くと見慣れたクラスメイトとカチューシャをつけた他校の制服を着た女の子がこちらへ走ってきていた。

「よー仁科」

見慣れたクラスメイト、大倉が軽く手を上げる。

「大倉か、女の子を連れているとはいいご身分だな」

冷ややかな視線を大倉へ送るも、にやりと笑いするりとかわす。

「この間入ったバイト先の子なんだよ」

「どうも、仁科でーす」

大倉へ向けた表情から一変し、仁科なりの爽やかーな笑顔を作った。女の子を良く見ると、肩にとどきそうな髪、前髪をカチューシャで上げているため、おでこ全開でそのせいかものすごく元気がよさそうな印象を受けた。

「に・・しな?・・ねぇ、下のお名前は?」

「司だよ。つ・か・さ」

それを聞いた女の子はぐいっと顔を、つかさの顔に近づける。突然のそれに仁科は一歩後ずさった。

「な、なにか?」

こんなにも接近されたことがないため、一瞬だが頭が真っ白になったり、心なしが顔が熱くなったり戸惑った。

「やっぱりー。司ちゃんだー」

「え?え?」

いきなりの名前をちゃんづけで呼ばれ、いったい何がと困惑している司に冷ややかな視線が刺さる。その視線に気づき顔を向けると、にやりといいものを見たと言わんばかりの大倉の顔がそこに合った。まずいという心情の仁科をよそに、その女の子は嬉しそうに仁科の手をつかみ上下にぶんぶんふりまわす。

「あ、あのー。君は・・・」

「ええ。覚えてない?」

「??」

困惑する仁科に彼女は続けた。

「あたしよ、えださき。枝先(えださき)絆理(ばんり)」

「あ・・・」

覚えのある名前。言われたらそのカチューシャで前髪をあげてスタイル。そしてあいまいだが口にするのも、思い出すのも辛いある時期に知り合った女の子。

「先進教育局で中学入学まで一緒だったでしょ」

先進教育局・・ある異常な研究者によって子供を非人道的実験をしていた施設。爆破事件後はその研究者の消息は不明となり、別の者が後任をついだ。

「仁科先生にもこの間会ったら、司ちゃんがこっちに引越したって聞いたんだよ」

その後任こそが仁科清貴、司の兄である。司にしたら優秀すぎる兄は目の上のたんこぶみたいなもので、周りからの期待や言葉に重荷に感じていた原因であった。

「兄さんに会ったのか。俺には絆理(ばんり)がこっちにいるの教えなかったくせに」

「ふふふ。って大倉さん、時間が」

時計に目をやった大倉も慌てだした。

「やばい。じゃーな仁科・・・枝先に昔の事・・・おしえてもらうからー」

そういって走り去っていく。

「今度、司ちゃんちに遊びに行くねー」

手を振りながら大倉の後を追って行った。

「・・・って、あの野郎・・・住所まで教えてたのか」

ここにはいない目の上のたんこぶにふつふつと怒りを覚えつつ、二人の背中を見送った。

 

 

 

 

その頃、美琴と黒子は水穂機構病院へ来ていた。連続虚空爆破(グラビトン)事件を起こした介旅(かいたび)初矢(はつや)が警備員(アンチスキル)の取調べ中に意識不明になったため、搬送されたこの病院へ来ていた。介旅(かいたび)初矢(はつや)の病室へ向かうと、ドアの前で医師と思われるメガネをかけた男性と看護婦が話をしていた。二人に気づいたように視線を投げかける。

「風紀委員(ジャッジメント)の白井です。介旅(かいたび)初矢(はつや)の容態は?」

右上につけた腕章を見せながら、医師に伺った。

「最善をつくしていますが・・・今の所意識が戻る様子は」

「あのー」

申し訳なさそうに小さく手を上げた美琴。

「わたしこの間、そいつの顔を思いっきりブン殴っちゃったんですけど」

「いえ、頭部に損傷はありませんでした。・・・というか彼の体には異常がないんですよ」

医師はカルテらしきものに目をやる。

「意識だけがない状態です」

「原因不明・・というわけですのね」

「ええ。ただ・・」

「ただ?」

「同じような患者が今週に入って次々と運ばれて着ていて」

医師はそう言って、患者の資料を二人に提示した。そこには美琴と黒子が関わった事件の犯人と思われる人物の名前があった。それを確認し二人は目を合わせ頷く。

「情けない話ですが・・当院の設備とスタッフの手に余る事態ですので」

医師は肩を落とした。

「ですので、外部から大脳生理学の専門家をお呼びしました」

カツカツとヒールの音を廊下に響かせ、こちらに近づいて来る1つの人影。

「おまたせしました」

前日の停電の影響で薄暗い廊下、美琴達がいる場所は窓から差し込む光があるため、廊下が暗くはっきりとした容姿は見えにくい。美琴達に近づくにつれ光の割合が増え、ようやくヒール音を鳴らしていた女性の容姿が見えてくる。紫色のスーツに白衣を纏い、ロングヘアの髪を頭の後ろでまとめてられている。

「水穂機構病院院長から招聘をうけました、テレスティーナ・ライフラインです」

 

その数日後、佐天涙子が幻想御手(レベルアッパー)の影響で昏睡したと、初春から聞いた黒子から仁科に連絡が入った。

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T13 仁科の世界5・脳波ネットワーク

 

 

佐天さんが倒れた?白井さんどういう?」

「詳しくはわかりませんけど、初春から連絡がありましたの」

その後2、3言交わし通話を切った。幻想御手(レベルアッパー)についての情報収集を続けていた仁科だったが、黒子からの電話で幻想御手(レベルアッパー)の正体が音楽ファイルと教えられた。現在それの解析のため、大脳生理学の専門家のテレスティーナという女性の所へ、幻想御手(レベルアッパー)を届けに初春が向かっていることも・・。

(佐天さん・・幻想御手(レベルアッパー)を・・・まぁ、気持ちはわかるけど)

自分より優れたものがいる、強い者がいる、それを追い越せるもしくは近づけるのなら、誰でもその甘い誘惑に勝てる者は少ない、ましてや自分が低いと劣等感を感じているものならなおさらだな、と仁科は考えつつ一度支部へ戻るにした。

「特定の人物の脳はパターンがはっきりしてるなら・・・」

美琴はPCを操作している黒子の横で画面を確認する。

「ただいまーって何してるんです?」

巡回から帰ってきた仁科はPCで何かをしている二人に話しかける。

「おかえんなさい」

美琴は視線はモニタを見たまま、声だけで仁科を出迎えた。あちち、と事務所内の冷蔵庫から麦茶が入っている容器をとりだし、仁科はそれをコップに注いだ。

「幻想御手(レベルアッパー)使用して昏睡状態に陥った患者の脳波が、全員同じパターンて事がわかったのよ」

「脳波が同じ・・ですか」

麦茶を飲みつつ二人へ近づきモニタを眺める。

「脳波パターンがはっきりしてますので、初春にバンクのデータを検索してもらえ・・ば」

黒子はカタカタとキーボード操作し、必要な情報とページを表示させていく。しかし何かに気づいたように表情が一変する。

「って肝心の初春がいないんですの」

「たしかどっかのなんちゃらの人に」

仁科は先ほどの通話を思い出す。

「大脳生理学の先生ですわ」

呆れ顔で黒子が補足する。

「いったい何の騒ぎ?」

事務所の奥から固法がやってきた。事情を説明すると・・・

「そう言うことならバンクへのアクセスは認められるでしょうね」

そう言って固法は自分のデスクのPCからバンクへのアクセスを開始する。バンクのデータには各個人の脳波パターンもすべて保存されており、能力開発を受けた学生はもちろん、職業適性テストや病院の受診を受けた大人のデータもすべて保存されている。

「でもなんで幻想御手(レベルアッパー)を使うと同一人物の脳波が組み込まれるのかな」

「能力者のレベルがあがるなんてさっぱりわかりませんわ」

それぞれ違う個人、能力者にも差がありとすっかり迷宮入りしそうな二人をよそに、固法はある事に気づく。

「これってネットワークと同じなんじゃないかしら?」

「ネットワーク?」

「ええ。パソコンはそれぞれOSや使ってる言語も違っていわ。でもネットワークが作られるのは・・」

「プロトコル・・ですわね」

「そう。プロトコルがあるからネットワークが形成される。つまり・・」

「特定の人物の脳波パターンがプロトコルっってことか」

「おそらくは」

そういって固法は最後にエンターキーで検索を開始させた。

「複数の能力者の脳を使って処理能力を上げる。さらに同系統の能力者同士なら、効率よく能力を扱えるようになる。」

あごに手を当てたまま美琴は推察する。それに固法は同意した。

「黒子、テレスティーナ先生の所へ行こう」

「この情報をもっていけば、なにか解決の糸口が見つかるかも知れませんわね」

そう言って二人は事務所を飛び出して言った。固法が止めるまもなく・・・。二人だけになった事務所で仁科は二人の変わりに考察を再会する。

「つまり、今昏睡している患者達は・・・・」

「きっとネットワークのために脳をすべて使われているから、昏睡して・・ってでたわ」

画面上には一致率99%の文字が表示されている。その人物の情報を確認するためクリックすると、そこに表示されたのは二人の人物である。

「これって・・・・」

仁科と固法は息を呑んだ。初春が幻想御手(レベルアッパー)をもっていき、先ほど美琴と黒子が会いに行くと向かった大脳生理学の専門家、テレスティーナが映っていた。

「脳波パターンは個人個人それぞれ違うはずじゃぁ・・」

もう一人のデータを閲覧するそこに映し出されたのは白髪の初老の人物。それを見た瞬間、仁科の視線は凍りついた。

「木原・・・幻生(げんせい)」

その言葉に固法が振り向く。

「仁科君、この人知ってるの?」

その問いに固まった口を無理やりこじ開け、声を絞り出した。

「人体実験狂いの・・・狂科学者(マッドサイエンティスト)」

「狂科学者(マッドサイエンティスト)・・・・」

「こいつとテレスティーナの脳波がなぜ?」

「そんなことより三人が・・・」

「俺追いかけます」

「わかったわ、私は警備員(アンチスキル)連絡を。仁科君・・気をつけて」

その言葉に頷き、仁科は二人の後を追った。

-6ページ-

T14 仁科の世界6・微笑みの悪意

 

 

「うふふふ」

ソファに横たわる初春を見下ろし、下卑た笑みを浮かべ手元の資料に視線を落とす。

「レベル1・・・低能力者か」

まあいい、と資料をめくる。

「空間移動能力者(テレポーター)、発電系電撃能力者(エレクトロマスター)」

捲られた資料には、白井黒子と御坂美琴の写真が載っていた。目を通した後乱雑に資料が閉じられたファイルを、机の上に放り投げる。再び初春に目をやると、頬には涙の後が残っていた。ここへ駆け込んできたときは、目も顔も真っ赤にして親友を助けたいんだと、すごい勢いだったことを思い返す。だがそんなことにはさらさら興味はないのか、すぐに行動を開始する。やがて来るであろう者たちへの準備を・・・。ふと室内の壁にかけられた鏡に映る自分が見えた。整った顔立ちにプロポーション、紫のスーツが良く似合っている。だが気に入らなかったのか、手元にあった分厚い本を鏡に投げつけた。粉々に砕け散った鏡だった残骸は、床に散乱していた。ものすごい音に驚き、初春は目を開けた。

「な、なにかあったんですか?」

散乱した鏡をみて目の前の女性に話しかけた。

「なんでもないのよ。手元がすべって・・・ね」

「は、はぁ」

「それよりも、ちょっと移動しましょう」

そういって彼女は初春に近づいた。

「え?でも解析け・・」

初春の言葉をさえぎる様に、彼女はスプレーを初春に向けて噴射する。

「え?テレ・・ス・・・な・・」

「ふふふ、起きられてると面倒だから」

そういって初春を抱きかかえ部屋を後にした。

 

 

 

 

初春を追ってテレスティーナの研究所へ来た美琴と黒子は、タクシーの運転手とのやりとりもそこそこに建物内へ入る。目に入ってきたのは異質な感覚。廊下の電気はおろか人の気配さえも感じられない。あるのはただひたすらな無音な空間。

「黒子、ほんとにここ」

「恐らく・・たぶん・・・間違いないと思うのですが」

質問しようにも人が誰もいないのではと思いつつ、廊下の奥へと進んでいく。空調も聞いていないため、じっとりと肌につくような蒸し暑さが二人を包む。ここであっているのか、半信半疑になりながらも奥へと進む。

「こうなったら手分けして捜すわよ」

「わかりましたわ。私はこちらを」

「わかった、何かあったら連絡して」

そういって二手に別れた。黒子は空間移動(テレポート)を使いながら徐々に上へと向かっていく。

「4階・・ここが一番上の階ですわね」

奥へと進むとそこには扉が開きかけた部屋が1つ。

(所長室・・・ここが)

中を除くと人影は見えなかったが、散乱した鏡を発見した。

(いったい何が・・・)

部屋を物色していると、外から車の鍵を開ける機械音が聞こえた。窓から外をのぞくと初春を担いだ女性が、車の後部座席に初春を乗せている姿が確認できた。

「初春」

一瞬で外の車の位置まで空間移動(テレポート)し、初春を乗せた女性へ詰め寄る。

「あ〜ら、見つかっちゃった。案外早かったのねぇ」

「初春に何をしましたの」

声を荒げる黒子に対し、彼女は飄々と話す。

「別に〜。まだ何も」

「テレスティーナ先生、あなたはいったい・・う」

背後から後頭部への強い衝撃、意識と力がするりと抜けうつぶせに黒子は倒れた。

「油断・・しちゃだめよ、うふふふ」

そういってテレスティーナは初春にしたように、黒子に手錠と目隠しそしてヘッドホンをつけ、初春の反対側の後部座席に乗せ自分は運転席へまわる。

「黒子!!」

この建物に来てたもう一人の人物、駐車場への入り口から勢いよく美琴が飛び出してきた。

「はーい、遅かったわね」

何もないかのようにテレスティーナは微笑む。

「あんた、黒子と初春さんを返しなさい」

「もう遅いわ」

そういって美琴のほうへ小さなパチンコ玉くらいの大きさの物を投げた。

「さようなら、御坂美琴さん」

重力子を急速に加速が始まる。

「これって連続虚空爆破(グラビトン)・・」

ドーンと大きな爆発音と衝撃をすでに走りだしていた車の後方で感じながら、バックミラーを確認する。立ち込める砂煙を確認し、醜い笑みを浮かべアクセルを踏み込んだ。

「くっそ」

美琴はすぐにカエルの形の携帯を取り出し電話をかけた。

「御坂さん今どこに・・」

「黒子と初春さんが連れてかれた」

「え?」

「アタシはテレスティーナを追いかける。仁科、あんたはアンチスキルへ連絡を」

「わかった。俺もそっちへ向かう」

「だめよ。レベル2のあんたじゃ」

「白井さんに初春さんは、風紀委員(ジャッジメント)の先輩で・・仲間だ。だから」

「ふ〜、わかった。早く来なさいよ。遅いとあたしが全部片付けるから」

電話を切った美琴はすぐにタクシーを捕まえ、テレスティーナを追った。

 

 

「仁科君。初春さんを乗せた車は、今高速を走ってるわ」

「高速の封鎖は?」

「アンチスキルに連絡はしてあるから、彼らがしてくれてると思うわ」

「わかりました。俺も現場へ向かいます」

「頼んだわよ」

電話を切った仁科は、美琴と同じようにタクシーへ乗り込み行き先を告げた。

-7ページ-

T15 仁科の世界7・多才の片鱗

 

 

司が美琴たちの所へ辿り着いた時には、砂煙が上がり高速道路の一部分がごっそり抜け落ちていた。タクシーの運転手にお金を払うのと同時にすぐにこの場から逃げた方がいいことを告げ、司は走り出した。砂煙の向こうに美琴らしき姿を見かけたが、それ以外の人がいないことに気づき、黒子と初春の安否を確認するため、とりあえず階段を使って上に登ることにした。階段を登るにつれ下の様子がはっきりと見えてくる。美琴と対峙する紫色のスーツの女、テレスティーナは美琴に向かって何か話している様子だった。美琴も司に気づいていないらしく、殺気だった彼女はビリビリと帯電している。

 

 

 

 

 

「いい実験素材(サンプル)が手に入った・・・あとはレベル5」

踏み込んだアクセルに反応するように車はどんどん加速していく。スポーツ車ではなくちょっと高めの乗用車なのだが、改造してあるのかスポーツ車並の加速でほかの車をどんどんごぼう抜きにしていく。

「まだかしら・・それともあきらめちゃ・・・」

そういってルームミラーで後ろを確認すると、1台も車が映っていないのを確認し退屈そうにアクセルを少し緩めた。

「がっかり。拍子抜け・・・」

そう思ったテレスティーナだが、ある事に気がつき舌打ちをした。反対車線も含め自分以外の車が一台走っていない。

「思ったより上の連中もだめね・・・」

そして前方に道をふさぐように人と車が並んでいる。学園都市に住むものにとっては見慣れた・・・

「警備員(アンチスキル)か・・・圧力をかけたはずだが・・・」

ゆっくりとブレーキを踏み、警備員(アンチスキル)と距離を置いたところで車を停車させた。

「テレスティーナ・ライフラインだな。無駄な抵抗はやめて速やかに車から降りろ」

長い紺色の髪をうろで一つに纏めた女性が、メガホン越しに言い放つ。前方に並んでいる隊員が銃を構えその前には円筒形の警備ロボットも並んでいる。

「やれやれ」

テレスティーナは言われたとおり車からおり、指示されたように頭の後ろに両手を合わせる。

「確保じゃん」

見た感じは武器もないただの女性のテレスティーナに対し、隊員達は最新の注意を払いじりじりとこちらへやってくる。それにイライラしてきたテレスティーナは頭の後ろにあわせていた両手を降ろす。

「イライラさせんなー」

右手を左に薙ぎ払う。と同時に起きた突風により前進してきた隊員たちを後ろへ吹き飛ばす。

「な・・」

「つまんないから性能テスト・・・させてもらうわね」

 

 

 

 

緑色の蛙デザインのお気に入りの携帯が鳴った。影響画面には固法の名前が表示されている。

「もしもし御坂です」

「あ、御坂さん。今どこ?」

「今テレスティーナを追いかけているところです」

「そう、状況は仁科君から聞いているわ。そんなことより・・」

いつもより少し早口になっている固法は、今見ている監視映像の状況を伝えた。

「テレスティーナが能力者?」

「ええ、能力開発を受けた実績はないけれど、明らかにこれは」

車内でも大きく聞こえた爆発音と衝撃、運転手は慌ててブレーキを踏んだ。

「もしもし・・どうしたの?」

「いえ、ちょうど現場につきました。あ、運転手さんこれ・・おつりはいいから早く逃げてくださいね」

そういってお金を払うと運転手の戸惑いの声をあげたが、美琴は気にせず近くにある非常階段へと向かった。

「でも気をつけて。彼女・・複数の能力を使うわ」

「ふ、複数って・・そんな・・・能力は一人に一つなはずじゃあ」

能力開発によって、超能力を得た人は脳で演算を行い能力を使用するため、理論上能力は一人に一つまでとされてきている。

「ええ、でも彼女はもしかしたら幻の能力・・・多重能力(デュアルスキル)なのかも」

その後二言三言かわし電話を切った美琴が見たのは全滅している警備員(ジャッジメント)と、何事もなかったかのように平然と立っているテレスティーナの姿であった。

「遅かったわね・・・レベル5・・ふっふっふ。御坂美琴さん」

ゆっくりと美琴のほうへ振り向いたテレスティーナは、狂喜とも歓喜にもにた不気味な笑みを浮かべている。その表情に悪寒を感じた美琴は、後ずさりしたい衝動を抑えつつ彼女を正面から捉える。

「あたしの友達を・・・返して貰うわよ」

バリバリと帯電し睨み付ける。それに動じる事無くテレスティーナは軽口を叩く。

「そんなに怒らなくても・・・その子達と同じように・・・あんたも実験対象(サンプル)なんだからさぁ」

爆発音を鳴らしアスファルトを砕きながら、ハイヒールとは思えないほどの高速移動で、美琴の右側へ詰め寄る。テレスティーナの突き出した右手を体を反転させてよけつつ、流れるような動きで足を垂直に上げ振り下ろされる踵を、横へ飛び退く。振り下ろされた場所にはヒールのピンが突き刺さっている。

(ど、どんなヒールはいてんのよ)

内心そんな事を感じつつ、洗練された相手の動きに避けるのがやっとだった。テレスティーナは乱れた髪を手で耳にかけつく、ゆがんだ笑みを美琴へ向けた。

「た、楽しませてくれそーね・・あんたは」

そういって前髪から電撃を放出させ美琴の反撃を開始する・・はずであったが、テレスティーナは冷静に足をアスファルトを踏む。カツという音の後にテレスティーナの目の前のアスファルトが盛り上がる。衝撃音と共に立ちふさがったアスファルトは粉々に砕け散ったが、そこにテレスティーナの姿はなく美琴は見失う。

「それでおしまい?」

背後から聞こえた声の主に、振り向く事無く前方へ蹴り飛ばされ、うつぶせに体を地面にこすりつけた。

「くっ」

膝に手をつき、立ち上がった美琴は振り向きながら電撃を放つ。

「無駄よ」

そういったテレスティーナの周囲を黒い半球体が多い、雷を絶縁遮断する。

「な・・・誘電力場?」

「ふふ、どうしたの?それで終わりなのかしら?」

「くっ」

「複数の能力を同時に使えば、あなたの電撃なんて・・・。ふふふふふ」

愉悦に浸る表情で己が力を語る。絶対の自信と経験と応用力、すべてが御坂美琴の経験値を上回る。

「こーんなのはどう?」

足元から自身を中心に円方向への衝撃を放つ。直後ひび割れた道路が波を打ちながら崩れ落ちる。美琴はバランスをとりながらミニのプリッツスカートから短パンを覗かせつつ降下する。テレスティーナは地面に着地する瞬間に、重力を無視するかのようにふわりと着地する。

「あら、それ・・・おもしろいわね」

美琴は両足から電流を流し高速道路の足の部分に吸い付く。戦いの場がどちらになろうと、テレスティーナの優位に変わりない。

「ずいぶん余裕ね・・・」

「ふっふっふ」

笑いながらも冷たく鋭い視線で美琴を刺す。

「まだまだ・・これからぁ」

電磁力の力で吸い寄せた瓦礫を投げ飛ばす。間髪いれず大小とわずテレスティーナへ向ける。

「くだんねぇ攻撃してんじゃねぇ」

荒々しい口調に歪んだ表情、右手に集めた粒子を棒状に固めた白銀光のそれで、瓦礫を粉々に破壊して行く。

「はあああ」

美琴は地面に降り、テレスティーナに向けて突き出した右手に、電気をため狙いを定める。テレスティーナが瓦礫を破壊した際の粉塵で視界が悪い。

「どこ見てるのかしら?」

「また」

気づけば背後にまわるテレスティーナの動きに反応できないが、変わりに溜めた電撃を全身から放電させる。

バチィィという音と共に、テレスティーナはすかさず美琴から距離をあける。足からの爆発的な衝撃で、美琴が放電した電撃よりも早く遠ざかった。

「あら、すこーしはできるようね」

「なめんじゃないわよ」

「ふふふふ。これからあなたの無力っぷりを・・・感じさせて、ア・ゲ・ル」

その言葉と同時に美琴へ向けて手を仰ぐ。仰ぐ回数が増すたびに美琴へ届く風の力が強くなっていく。

「う・・・こんな風であたしが」

向かってくる風に目を細めながらも、相手から視線をはずさない。ただ不気味なのはテレスティーナの後方から無数に伸びた土の蔦。どんどん長さを増しつつ、上へと伸びていく。

「なにを・・・」

「ふふふ」

伸びていく蔦はすでに高速道路の高さまで到達し、先端を道路に乗せる。

「あなた・・上を見て御覧なさい」

「上?」

見上げたそこには蔦が絡まった一台の車が。

「な・・それ・・」

「んふふ。わかったかしら?私の車よ」

「まさか」

美琴が想像した最悪の事態は、この後テレスティーナが想像を現実へと変えた。

「ひゃーっはははは。ほーら飛んでけー」

「やめ」

車に絡んだ蔦を人間の手のようにしならせ、車を放り投げる。くるくると回転させながら高速道路の高さと投力と重量と重力に引かれ、加速しながら飛んで行く。

「黒子・・・初春さん・・・・」

鈍い音を鳴らし、車体の形を粘土のように変形していく。そして激しい衝撃音と共に黒煙をあげ炎に包まれる。

「ひゃーっひゃはははは。無力・・オマエは無力なんだよー」

「・・・ろ・・・・」

「おい、さっきの勢いはドーシタ?その程度かー?ひゃーはっひゃっは」

「くろこーーーーー」

美琴の悲痛の叫びは目から流れる雫と共に、爆音は絶望へと誘い迎え入れる。

-8ページ-

T16 仁科の世界8・完全偽装(フェイク)

 

 

鈍い音を鳴らし、車体の形が粘土のようにぐにゃりと変形していく。そして激しい衝撃音と共に黒煙をあげ炎に包まれる。

「ひゃーっひゃはははは。無力・・オマエは無力なんだよー」

「・・・ろ・・・・」

「おい、さっきの勢いはドーシタ?その程度かー?ひゃーはひゃはは」

「くろこーーーーー」

美琴の悲痛の叫びは目から流れる雫と共に、爆音は絶望へと誘い迎え入れる。

ただ呆然と炎上する車を見つめる目は虚ろ、背後にはその姿をみて笑うテレスティーナが近づいてくる。

「黒子・・・初春さん・・」

「レベル5もただの子供・・まぁ、これからは立派な実験対象(サンプル)・・ふふふ」

空中を漂う水分を氷結化させ、周囲に無数の氷の塊を作り上げる。先端を尖らせた氷は、鋭利な凶器と化し狙い美琴へと定められた。

「殺しはしない・・・ただ、動けなくなるかもね〜。がひゃひゃひゃこりゃ傑作だ」

掌を美琴へ向けると同時に作りあげた氷の塊が美琴へ襲い掛かる。失心の今の美琴は、それに気づく事無くただただ燃え上がる炎と黒煙を見つめ、心の中では自責の念がみずからを縛りつける。

「お姉様!」

その声と共に瞬間的にその場から美琴の姿が消え、氷は誰もいない地面へと突き刺さった。

美琴とその声の人物は先ほど美琴の位置の対角線上、テレスティーナの背後へと姿を移す。

「く・・ろこ?」

「はい、私は無事ですわ。それよりお姉様お怪我は?」

失ったはずのその人物が目の前に、光を失った目は再び輝きを取り戻していく。

「黒子あんた・・・」

「ひゃーはははは」

死んだはずだった黒子を確認し、テレスティーナは高らかに笑い声を上げた。そして非常階段の方へ視線を向ける。美琴は崩れ落ちた高速道路の方へ目をやると、そこにはちょこんと顔をだした初春を確認した。

「よかった、二人とも無事で」

安堵からかさらに体の力が抜け倒れそうになる美琴を、黒子が両手で抱きとめる。黒子が生きている実感を感じ、美琴は目にたまった雫を気づかれないように下へと流す。

「黒子」

「はい、お姉様」

美琴の手が強く黒子を抱きしめる。少し恥ずかしそうに顔を赤らめながら、やさしく黒子も抱きとめる。

「でもどうして・・・だって二人は」

「ええ、それは」

「そー言うことか・・これは一杯食わされた・・・そうだろ?仁科君」

 

 

 

 

 

美琴とテレスティーナは非常階段へ登る司に気づいていないらしく、殺気だった美琴はビリビリと帯電している。非常階段を登るとボロボロになった警備員(アンチスキル)と1台の無傷の乗用車があった。

「大丈夫ですか」

負傷した隊員たちを警備員の車の近くに運んでいる隊長格と思われる女性に話しかける。

「一般人は危ないから早く非難するじゃん」

ものすごい剣幕で言われたが、こちらも目的があるため引き下がるわけには行かない。

「あの車に友人が乗っているんです」

そういって司はその車へ近づくと後部座席には手錠とアイマスクに、タオルを猿轡のように口にかまされている二人を発見した。しかし鍵が掛かっているのか扉が開かない。ガラスを割ろうとしたが、強化なのか特殊なガラスなのか、打撃ではヒビすら入らない。警備員(アンチスキル)に鍵を壊してもらおうと走り出した直後に、背後から伸びた土の蔦が、二人の乗る車に迫ってきていた。

「まずい・・・」

あわてて引き戻し司は車に触れる。車体のフォルム、材料、シャーシ、ギア、エンジン、内部構造、すべてが脳内で演算構築されていく。そして蔦に近づきすぐさま司の能力を発動させる。蔦と二人の乗る車の間に、全く同じ車を発現させる。それを掴んだ蔦はうまく絡みつき、持ち上げながら高速道路に空いた穴のほうへ車を持っていく。それを確認した司はひとまず警備員(アンチスキル)に鍵を壊すように依頼をした。鍵を突き抜けた銃弾は車体に丸い後を残した。そのまま後部座席から二人を下ろし、拘束を解いた。

「助かりましたわ」

「仁科さん、ありがとうございます」

その直後激しい音と共にもくもくと黒煙が立ち上っていた。そして下卑た笑いが聞こえたため、仁科と黒子は目を合わせ下へと急いだ。

「その子をお願いします」

そう言って先に下へ向かった黒子のあとを追いかけた。

 

 

 

 

 

「仁科君・・・いるんだろ?」

非常階段から降りてきたのは呼ばれたとおり、右手に風紀委員(ジャッジメント)の腕章をつけた仁科司が姿を見せる。いつもとは違い、強張らせた表情に鋭いめつきでテレスティーナを睨む仁科に、美琴と黒子は違和感・・因縁みたいなものを感じ取った。

「はじめまして・・・であってるか?」

「そうね・・ふふふ。この姿でははじめまして・・かしら」

美琴と戦っていた時と違い、外面な穏やかな口調でテレスティーナは仁科を見つめる。

「ふふふ、でも君とはちゃんと向かい合わなければ失礼というものだね・・・仁科司君」

先ほどまでとは違い、低く少しくぐもった声を喉から発する。

「ふっふっふ」

回転式のパネルのように体全体を複数のパネルが覆っていたかのように、それぞれがくるりと反転していく。

「え・・・」

目の前の光景に黒子も美琴もただ息を呑むばかり。紫色のスーツは一変し白衣に、長く後ろで纏められた髪は白髪のオールバックスタイルに、つややかだった肌は張りを失ったそれ相応のしわを増した肌に、すべてが滑らかに変化していく。テレスティーナから反転したのは白衣を着た年老いた男性・・・テレスティーナとはまったくの別人だが、狂喜的な表情に仁科を見つめる奇異な目はテレスティーナのそれに重なる。

「木原・・・幻生(げんせい)」

「覚えていてくれて光栄だよ・・司君。君を手放さなければならなかったのは、私の研究の完成を大いに狂わされた」

両手を後ろに回し腰のあたりで組み、少し猫背気味に上体を降ろす。

「手の込んだ真似をしてるじゃねーか」

「ふっふっふ。これは私の孫娘・・テレスティーナの能力でね。ある人物に成り済ます能力、私は完全偽装(フェイク)と呼んでいるがね」

「お前・・自分の孫まで・・・」

自然と奥歯をかみ締める力が強まる。

「だが、欠点があってね。成り済ます人物の事を把握しないといけなくてね・・・所詮はレベル2。使えん娘だ・・・まぁ、今回は君達兄弟を欺けただけでもよしとしよう」

そういって気持ちの悪い笑みを浮かべ司のほうへ歩き出す。それと同時に近づかれないように木原の周りを円を書くように歩き一定の距離を保つ。

「それにしても・・君の能力はすばらしい。まさか私の車をコピーするとはね。さすがレベル6の可能性を秘めた・・とでも言おうか」

「レベル・・・6・・・」

美琴は呟く。司は気に入らないように、やめろと木原を制するが効果はなくそのまま話を続けていく。

「バンクを見たよ、君のデータを何度もね。君はレベル2のメタコピー(物体複写)。ひそかに身体検査(システムチェック)も確認した。本や机を30程度コピー・・・それで無能科学者(バカ)どもはレベル2と決め付けるとは・・」

やれやれと首を振り世の中の科学者を否定する。

「君の能力はすばらしいコピーだ。本当は、武器に兵器・・さらには金・・・あらゆる物体を脳で理解しコピーできる。戦車であれば役1万ほどコピーできる・・恐ろしいまでの軍隊の完成。ただ君は一度に覚えられる物体は1つ、さらに・・生物はコピーできないというのさえなければね。生物さえコピーできれば、無限に実験対象(サンプル)を増やし研究は加速度的に進歩し、そして無限の軍隊を生成・・それさえできれば君は・・きみはぁ」

口から涎をたれながし、狂ったように理想を自分の欲望を口からこぼれ溢れ出す。目は宙を眺め脳内で己が未来・・妄想を繰り返し再生させる。

「うるせぇぞジジィ。ここで終わらせてやる」

「ぐふふふ。知っているとも・・・君はある程度の能力もコピーできるんだろう?あの一位のガキとの戦いは中々興味深かった・・・それでもせいぜい君はレベル4だよ。複写欠陥能力者(ドッペル)の司君」

その言葉に司は激情し木原へ向かって走り出す。

「はっはっはっは」

近づく司をあざ笑うかのように、空中を独歩し司との間合いをとる。

「ふふふ、君の能力コピーの力も暴いていこうか」

その言葉を言い終えると同時に空中から瞬間に姿が消える。

「ほらここだよ」

美琴の時と同じように司の背後に立つ木原。

「空間移動能力(テレポート)ですって」

黒子は声を上げた。黒子並みに正確な空間移動、それほどまでの使い手は学園としないでも数えるほどしかいない。しかし・・・

「幻想御手(レベルアッパー)を使えば、低い空間移動能力者でも・・・」

美琴の言葉に黒子ははっとした。空間移動系は最低でもレベル3に位置される。幻想御手(レベルアッパー)を使ったことにより黒子と同等、もしくは黒子以上の力を持っていてもおかしくはない。

「くっ」

司が振り向くのより早く木原は拳より爆発的な衝撃を発する。だがびくともしない司に違和感を覚え後ろへ飛び退く。直後振り向いた司が右手を振りかぶり拳を突き出す。と同時に木原は念動能力(テレキネシス)で瓦礫を盾代わりに司との間に滑り込ませる。司の拳が瓦礫に触れた瞬間、ドンという音と共に瓦礫はガラガラと砕けその衝撃は木原へ届く。だが慌てる事無く空中を飛び歩き再び仁科との距離をあけた。

「まさか・・衝撃までコピーできるとは少し驚きだよ仁科君」

そういって少しうれしそうに口の端に笑みを浮かべるが、目は相変わらず笑っておらず見開いたまま司を捉える。

「わかりましたわ。あれは空間能力系でもレベル3に分類されている、対象人物の背後へと移動する能力ですわ」

「テレポートとは違うの?」

「私のは11次元上の理論値を演算する事によって可能にしていますが、あれは対象のの位置情報を把握し背後へ移動する能力の為、演算は比較的楽ですの。11次元上の演算ができない能力者って事に・・」

「そこのお嬢さん・・すばらしい。君がいればこの能力者はいらなくなる。この背面移動・・いうなれば死角への移動は使い勝手が悪いのだよ」

顎に手を沿え満足そうに頷く。

「ふふふ。話がそれてしまったね。司君。君のコピーには感嘆する。衝撃までコピーできるとは・・そしてコピーするときは一方通行並みの防御力だねぇ。すべてを吸収する・・だから無傷。いや〜結構結構」

「それで?それがわかった所で・・・」

「それから能力コピーについてだが、君は発電、発炎系は受けた分だけしかコピーできない。つまり自分では発電も発炎もできない。わかりやすく言えば電撃を100受けたとしたら・・100を使い切ったら電撃は撃てない・・・だからネタ切れになる」

ひっひっひと嫌味を覚える笑みを浮かべ圧倒的な威圧を発する。

「御坂さん、白井さん。悔しいですが俺には手が余る相手です・・・協力お願いできますか?」

「もちろんですの」

「当たり前でしょ。こいつを倒して・・・私達の日常を取り戻す」

黒子は太もものホルダーから鉄矢を手にテレポートさせ、美琴はちょっと前の放心状態から回復しバチバチと帯電していく。

「さあ来なさい実験対象(サンプル)達よ」

そういって木原は白衣をたなびかせた。

-9ページ-

T17 仁科の世界9・賭して永久に

 

 

黒子の空間移動(テレポート)も美琴の電撃も木原の多才能力(マルチスキル)により、二人の息のあった攻撃を難なく防いでいる。防ぐだけではなく反撃に転じ3対1の状況でも、木原は圧倒的な能力事の知識が多才能力とあわさり、補うほどの強さを発揮する。一方通行に言われたように司の攻撃は後手の能力であり、敵の能力と攻撃があってこその攻撃となるため、木原は不要に司を狙わない。

「なんと味気ない・・・サンプルはサンプルらしく、私の言う事は聞くもんだよ」

美琴への背後移動は、黒子がテレポートしながらうまく美琴への被害をかわしている。しかしすかさず風刃と追撃に地面を突起させ二人に考える隙を与えさせない。仁科に対しても一定の距離とけん制をしつつ二人を追い詰める。

「黒子ぉ」

突然の呼びかけに体をびくっと反応させ司を見る。いつも以上に、今まで以上に真剣な表情に、黒子はこの場には似つかわしくない感情を少しだけ抱く。

「こっちだ」

その言葉に従うように、美琴を掴んだまま司の背後へ移動する。

「な、なんですの?急に」

顔を直視できず少しだけ視線をずらす。頬は少しだけ赤く染まっている。

「俺をやつの上に飛ばせ」

「え・・・えっと」

「いいから」

いつになく真剣な表情の司に圧倒されつつ、言われたとおりに司を移動させる。頭上に現れた司を確認する前にすで頭上めがけて瓦礫を飛ばしておいた木原は、司に攻撃させる隙を与えずに瓦礫に突き飛ばさせた。瓦礫に対して防御はしたものの、そのまま瓦礫に押されるように地面に叩きつけられた。

「仁科君・・・君のそれは、相手が君の能力をしらないからこそ意味がある。知っている相手には」

「それはどうかな」

木原の言葉を遮った司は、誰にも気づかれず木原の後ろに立っている。初めて油断と隙を見せた木原の背中に、初めての打撃を浴びせる。突き出しだ右の拳、間髪いれずに肘撃。体をそのまま水平回転させ腰の辺りに遠心力を加えた回し蹴り。さらに詰め寄った司だったが確認せず背後に向けて木原の掌から炎が飛び出した。だがすでにそこに司の姿はなく、美琴と黒子の前に立っている。

「すばらしい・・すばらしいよ司君。テレポートさせたのは攻撃するためじゃない・・・コピーが目的とは」

額に手をあて肩を震わせる。怒りでも悲しみでもなく、彼の顔は愉悦に満ちた表情をしている。

「空間移動系の能力もコピーできるとは・・・。そうか演算自体は自身だけでなくコピーされた本人にも無意識かにさせている・・これはすばらしい。つまりすべてを負担させないから本人にはなんの違和感もない・・・私の多才能力システムにも通ずる・・・さすがは司君・・・」

誰にいうわけでもなくただひたすらぶつぶつと呟く。ただ声のボリュームが大きいため、三人にも聞こえてはいるが、あまりにも異質な木原のそれには不気味さを覚える。

「はぁ、はぁ・・・」

左手で頭を抑えながら黒子へと向き直る。

「仁科さん、大丈夫ですの」

「あんた」

「白井さん・・いいか、俺と二人でやつを翻弄する・・・御坂さん」

「なに」

「ありったけ電撃・・ためといて」

「わかったわ」

「これが・・チャン・・う」

司は頭を抑え肩膝をつき顔は苦痛に歪める

「ちょっと」

美琴が心配そうに顔を覗き込むも、司は口元だけ笑みを浮かべる。

「これがチャンス。俺と白井さん・・・二人で連続でテレポートし続ける。それでも多才能力の前では少ししかもたないかも」

「私達が囮・・という事ですわね」

「そう、白井さんは俺が合図したらお互い左右ばらばらに木原から離れて」

「わかりましたわ」

「そこへ全力の超電磁砲(レールガン)を・・・御坂さん」

そう言っている司の顔からは汗が滴り落ちる。顔色も先ほどよりも青ざめてきている。

「でもあんたがやばいんじゃ」

「大丈夫・・・いくら白井さんの脳に補助してもらっていても・・・俺の脳では11次元の演算はつらい。これで決めよう」

「わかりましたわ」

「わかった」

美琴と黒子は頷き最後の攻撃を開始する。

「白井さん」

「行きますわよ。遅れたらしょうちしませんから」

「いくよ」

二人同時にテレポートする。木原はそれに反応するように能力を応酬し二人を襲う。二人は息を合わせながら木原の上に左右に連続で移動させ木原を翻弄していく。テレポで現れた所へ攻撃を放ってもそのときには別の位置に現れ木原に打撃での攻撃を与えていく。

「白井さん」

「はい」

それと同時に二人は左右別々にテレポートし木原から距離を置く。

「ただの実験対象(サンプル)がぁぁぁぁぁああ」

叫びと共に自分を中心に全方向へ、ドンという音と共に衝撃波を放出させる。あたりに待っていた砂塵はその波によってはじかれ、急激に視界を良好にさせる。そして木原が見たものは、青白い電撃を身にまとわせこちらへ右手を突き出す。

「あんた、人間を何だと持ってるの。人の心を弄んで・・多くの人を巻き込んでおいて・・」

「学園都市の人間・・すべてが実験対象(サンプル)。それをどう使おうが我々の自由だ」

「ぶざけんな。あんたは・・あんたは・・・絶対許さない」

「ふっふっふ。許す?君は我々に研究される側・・・我々に口答えするとは・・・驕るなガキ共」

木原も美琴と同じように右手を突き出す。白光の粒子が手に集まりやがて凝縮する。

「これで終わりにする」

右手から放り上げられたコインがクルクルと落ちてくる。

「もういらん・・・レベル5・・お前など」

白光が一層凝縮され収縮と拡大を繰り返し激しく光る。

「全部・・返してもらうわ」

「私は・・私は・・・神を」

お互いから発せられた一筋の光のラインは側面をかすらせつつ交差すす。美琴から発射されたコインを先頭に超電磁砲は、かすった反動で照準がやや上気味にずれる。木原から放たれた収縮された光の粒子はかすった衝撃で照準を下気味にずれていく。何よりも速く通り空気を切り裂いた白い砲線。まっすぐな青白くオレンジの宙影を残した電撃の一線。遮るもののない美琴の超電磁砲(レールガン)は木原の額をぶち抜いた。その衝撃で後方へと吹き飛んだ木原は、高速道路の高架脚部分に直撃し赤い線を下に引きながらずり落ちた。

「ど、どうなりましたの?」

黒子は反対側で仰向けに倒れている司の旨が上下に動いているのを確認すると、悲鳴を上げる体を起こし美琴のほうへと視線を向けた。

「お姉様」

ゆらゆらと立っている美琴を発見し安堵の涙を頬に走らせる。そして美琴はゆっくりとうつ伏せに地面に倒れた。

「お、お姉様?」

なにか異変にきづき、少し炒めた足をひきずりながら美琴へと近づく。

「御坂さん」

いつのまにか下に降りてきていた来ていた初春も、美琴のほうへ駆け寄る。

「お姉様・・お姉様!」

黒子の悲痛の叫びにもピクリとも反応しない美琴の左胸の辺りには、こげた制服と赤い染みが面積を増していった。口からも赤黒いドロっとしたものは流れ落ち、みるみる冷たくなっていく。

「お姉様嫌ですわお姉様・・お姉様。目を開けてお姉様。どうして・・どうして・・・おねえさまぁぁ」

美琴の表情はとても穏やかなで、今にも起きてきそうな・・・そんな表情をしていた。

-10ページ-

T18 仁科の世界10・終わりと始まりと

 

 

御坂美琴の告別式は、厳かに行われた。常盤台中学の女子生徒はほとんど泣き崩れ、中には倒れる人も出たほどである。あの厳しい寮監でさえ目に涙をため、別れを告げるときにはいつもから想像できないほど、両目から涙を流していた。黒子もその中の一人であった。いつ晴れるともわからない心の闇、いて当たり前の存在の喪失感で黒子は覆われていた。虚ろな瞳で生前の彼女の笑顔の写真を見るたびに、嗚咽をもらし視界が波を打つ。その式の中に目も頬も赤くさせ同じように泣いている初春の姿もあった。美琴が木原を倒したことにより、幻想御手(レベルアッパー)の事件は解決するかと思われたが、彼の異常なまでの自我の影響で目覚めた使用者が暴れ出すという事態に発展していた。木原の自我によって、個人の脳波にノイズが残っており、目覚めた直後に暴れ出すものや退院後になんらかの拍子に暴れ出す者など多岐にわたる。異常なまでの木原の自我を、非公式ではあるが木原ウィルスと医者達の間では名づけられている。それがどのルートを通ったのか不明だが、ネット掲示板にも書き込まれたりし一般人にも名前だけは広まって言った。

それとは別に使用者のまだ半数以上が目覚めない状況で、具体的な目覚めさせる方法や、木原ウィルスを駆除するワクチン的なものも見つからずまだまだこの事件は終わらないことを告げている。その目覚めない使用者の中に佐天涙子の名前も上がっていた。

 

「そうか・・・」

そんな式の話を病院のベットの上で、お見舞いに来ていた初春から聞かされた。

「はい、仁科さん・・・これは現実なんでしょうか・・・」

そういって初春は視線を落とす。

「私・・まだ信じられません・・あの御坂さんが」

言葉の途中で初春はまた何度目かの涙を流した。司は初春の頭をそっと撫でる。誰もが信じられない

学校指定のセーターの左胸の部分から、赤い染みがその面積を広げていく。左胸を通過した白光の砲線はセーターの部分を黒く焦がした。黒子と初春がいくら叫んでも、いつものように「大丈夫よ」と返事を返してはくれないその美琴の体は、すーっと体温を感じなくなっていく。警備員(アンチスキル)が救護を呼ぶもすでに・・・。すこし半狂乱気味な取り乱し方をした黒子は、警備員(アンチスキル)の隊長によって押さえられそのまま美琴と一緒に搬送されていった。そのまま警備員は現場の後処理を、初春は仁科の救護を行った。そしてその日から1週間が経っていた。

「仁科さんすいません」

目をハンカチで拭きながらまだ赤く腫れた目で司を見つめる。

「風紀委員(ジャッジメント)のお仕事がありますので」

「そうか・・・無理しないように」

「それは・・お互い様ですよ」

そういって最後は少しだけ微笑んでこの部屋を出て行った。

「式・・・最後の挨拶いけなかったな・・」

司はまだ青い空を見ながら、雲の動きを目で追った。あの後、テレポートをコピーし高速での連続移動の反動で意識を失い、その3日後に目が覚めた。医者からはまだ安静にするようにといわれ、結局美琴の式には参列できなかった。

(御坂さん・・俺は泣きませんよ。あなたが守ったこの学園都市は・・・俺が・・・俺たちみんなが・・あなたの代わりに守ります。だから安心して・・・)

口に出さず静かに誓った司は、ゆっくりと瞼を閉じた。次に目を開けた時には室内はオレンジ色の光が差し込み、先ほど青かった空には綺麗な橙が広がっていた。

「寝てた・・・のか・・」

時計を見ると先ほどから短針が結構動いていた。寝たのにもかかわらずまだ自分を覆う眠気に、再び目を閉じようとした司は視線を感じそちらへ視線を投げる。

「うおっ」

いつからいたのか、いつのまに入ってきたのかベッドの右側には黒子が立っていた。顔を下に向け前髪で表情が見えづらいが、唇が震えているのがわかった。

「白井さん・・座ったら?」

そういって黒子へ微笑む。しばらく微動だしない黒子だったが、近くの椅子を引き寄せてそっと腰を降ろした。黒子は中々口を開かないでいた。黒子の言葉を待とうと司は天井の一転を見つめる。時計の針の音がやけに鮮明に聞こえる。

「わたくし・・・」

黒子がポツリポツリと話し出す。

「これからも・・・風紀委員(ジャッジメント)として・・・」

震える唇をかみ締め、感情を押し殺す。

「お姉様が・・・守ったこの都市を・・・お姉様との思い出を・・・」

黒子は司の布団の中へそっと手を忍ばせる。司は右手の指先を何かにそっと触れられた感覚に少しだけ体を強張らせたが、それが何が気づきその触れたものと同じようにそっと触れ返す。

「だから・・・今だけは・・・」

そういって黒子は顔を静かに布団にうずめた。誰にも表情を見られないように、ただ司の手に触れる力だけが少しだけ増した。司のちょうど右手の二の腕の所に顔をうずめ、体は小さく震えている。少し体を横に向け左手でそっと黒子の頭に触れる。子供をあやすように撫でた。そして黒子は我慢していた言葉を・・・嗚咽と共に吐き出した。

 

すっかり日も暮れ、そろそろ黒子の寮の門限の時間危ないなーと思いつつも、規則正しい寝息をジャマするのも気が引けるのでどうしようかベッドの上で司はうーむと考え込む。そろそろ見舞い等の面会時間が迫る頃だが、廊下が少し騒がしい。

「ンだァ?さっさと行けば良いだろォが・・ったくメンドクセェ」

ガラガラと引き戸のドアを乱雑に開けられ、その音で寝息を立てていた黒子は体制に気づいたらしく、ガバッと起き上がる。入り口の方へ目をやると知っている顔が一人と・・初めて会う気がしないような顔が・・・二つ。

「お姉様」

そういって黒子は飛びつく。無理もない、一人は御坂美琴にそっくりでもう一人は幼いが顔は美琴にそっくりなのだから。

「って・・・お姉様にしては胸が・・・・腰も前よりも細・・・」

そこまで言って、慌ててそこから飛び離れる。その勢いで椅子にひっかかり黒子がしりもちをついた。

「いたたた」

お尻をさすりながら立ち上がった黒子は、クスクスと笑いをこらえる司をみてそっぽを向く。

「白井黒子さんはじめまして、と美里は飛び切りの笑顔をあなたに向けます」

そういって黒子の手を掴みとっても激しい握手をする。

「えと・・・あの・・・」

「私は美琴お姉様の妹です。御坂家次女御坂美里です、と激しくあなたに抱きつきます」

「うぐぇ・・ちょ・・・苦しいですわ」

「わー楽しそう、と美都は美都はまけずに一方通行(あなた)に飛びついてみたり」

「うっとうしい」

「一方通行(アクセラレータ)・・・おまえ・・・ロリコンに・・」

そういう司の顔に零距離近くまで顔を付け、ものすごい形相で睨みつける。ただ近すぎて司にはその形相が見えない。ただものすごい殺意を感じたので、とりあえず謝っておいた。

美琴そっくりな二人によると美琴の妹であり、次女の御坂美里は美琴の1つ年下で黒子と同学年。三女の御坂美都は10歳で小学4年生との事だった。美琴から黒子の話を聞いていた美里は、やっと実物にあえて興奮。そのやりとりに影響され美都は一方通行にじゃれつく。美都と一方通行の馴れ初めを聞いてみたり。やっとレベル4になったので、常盤台で美琴と一緒に通えるのを楽しみにしていたと美里は言った。そんなやりとりをしつつ、もうすっかり夜も更け三人は突風のように帰っていった。二人きりになった室内はふただび静寂を取り戻した。

「妹さん達は・・・きっと私以上に悲しい思いをしてますわね」

「二人とも御坂さんの事大好きだったんだね」

「わたくし・・立ち止まってなんていられませんわ。わたくしもお姉様のように・・誰かの希望になれるように・・・」

そういって鞄を手に取り部屋の入り口へと黒子は歩き出した。それでは、と告げてこの部屋のドアを開ける。

「そうですわ・・さっきの事・・・ばらしたら承知しませんわよ」

「さっきの・・・?」

ああ、と先ほどの姉妹の話じゃなく泣いている事だと理解した司は、返答しようと黒子をみようとするがその頭すれすれに鉄矢が壁に突き刺さる・・・

「し・ら・い・さ・ん・わ・か・り・ま・し・た」

少し震えつつ答えると満足したように黒子は微笑を浮かべ部屋を後にした。司は額を伝ってくる液体に恐怖を覚えつつナースコールを鳴らした。

 

相変わらず風紀委員の仕事に多忙されつつ、新たに配属となった御坂美里に手を焼きつつ、あれから2年が経った。そして秘密裏に行われていた木原の精神を受けついたプロジェクトKIHARAにより、多才能力システム実用化の為、能力者の確保をするために並行世界への干渉が始まった。それを阻止すべく司の兄、仁科清隆により風紀委員と警備員の精鋭を選抜し各世界へと送り込んだ。

 

仁科清隆のチームにより、一部の脳波ノイズ「木原ウィルス」を除去するワクチンソフトが完成し、昏睡していた「幻想御手(レベルアッパー)の使用者達は無事に目覚めており、今ではほとんどの昏睡者を回復させている。暴れ出した者達にも効果があり症状は改善されている。

 

ただ回復者の中にも、昏睡者の中にも佐天涙子の姿は無かった。

失踪・・・彼女のデータは失踪者リストへ移動されていた。

 

 

季節はすっかり春、入学の時期を一月ずれてその彼は黒板に自分の名前を書いた。ここ荒八戸高校はそんなにレベルの高い学校ではないが、他校よりも自由な校風が人気でそれなりに学生の数は多い。

「今日転校してきました仁科司です。みなさん、よろしく」

 

 

そしてここから始まった。

 

説明
とある騒ぎの現場の道路に残った一筋の線。これはまぎれもない学園都市230万人の頂点、レベル5の能力者第3位、御坂美琴の超電磁砲(レールガン)と同じ能力を使うものが居るということだった。そしてこのころを境に、能力者誘拐事件が発生する。
犯人の目的は?その能力者の正体は?

パクリにパクッタ2次小説(笑)
作者処女作第2巻(笑)

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とある科学の超電磁砲

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