とある時空の並行旅人〜パラレルトラベラー〜V
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T19 黒髪の女

 

 

ふぅ、と話し終えた司は深く息を吐いた。全員の顔は少しばかりこわばって見える。並行世界の話、仁科の今までの話、そして美琴が死んだという話。すべてをその場で理解できるほど人間はできてない。それはわかっている。ただ今起きている事件を知る上での元凶、そして自分の能力の事。伝えるべき事は伝えた・・・あとは

「ほんと常軌を逸してるわね」

美琴が沈黙を破る。

「にわかには信じ固いですわ」

「並行世界と急に言われても・・・

「ほんとですわ。お姉さまがやられるなんて・・・私は、お姉さまをお守ぐぇ」

美琴に飛び掛る直前に、美琴が黒子を制した

「ひどいですのお姉様」

「今はあたしが倒されたかなんてどーでもいいでしょう」

「だめですわ。お姉様がいなくなったら黒子は・・黒子は」

「あーはいはい」

半分あきらめたのか美琴は相手をするのをやめた。それでも抱きつく黒子にたいし、剥がそうと抵抗する。

「私は、仁科さんが嘘をついてるとは思えません。佐天さんもそうおも」

同意を求めようとした初春の目には、キラキラと目を輝かせた満面の笑みの涙子の姿が映る

「並行世界・・パラレルワールド、すごい・・まさしく不思議がここに終結してる。初春〜どうしよう。私たちとんでもない事の中心いるんだね」

「うわ〜佐天さんのスイッチ入っちゃった」

露骨に嫌そうな、引き気味の表情で体を気持ち涙子から話す。

「えっと・・」

四者四様の姿に司の方が戸惑ってしまった。全員いつもの雰囲気で、先ほどまでの雰囲気とは一変している。とても居心地のいい、自分の世界でこの四人と過ごした日々を思い出す。

「とりあえず、その誘拐犯てのを捕まえる事が先決よ」

「そうですわね、誘拐された人達の安否がわかりませんと」

美琴の胸の間で黒子が言う。

「あんたは離れなさい」

「黒子とスキンシップとってくださいまし」

「あんた過剰なのよ」

本日2度目のゲンコツでしぶしぶ美琴から離れた黒子は頭をさする。

「それで・やつらの場所はわかってるの?」

「みなさんが知ってる場所です・・・捨てられた23学区のとある研究所ですよ」

そこはこちらの世界でテレスティーナがレベル6を作ろうとした研究所、最下層にはその設備がある。

「絶対みんなを助けよう」

「湾内さんに誘拐された人も全員」

「みんな・・ありがとう」

「何言ってんの?これが終わったら本気で勝負しなさい」

「え?えええ。こっちの御坂さんもあっちも同じですね」

「どこのあたしも、そうそう変わらないわよ」

そんな話をしている内に、面会時間の終わりが近づいていた。そとは橙いろから紺が空のほとんどを覆っている。

「今日はそろそろ帰りましょう。続きはまた明日・・・って事で」

「そうですわね・・・」

「あんたは寝てなさい。明日迎えに来るから、今日はここで大人しくしてんのよ」

「そうですよ。私、白井さんの分まで頑張ります」

「初春」

黒子が初春のほっぺをよこに引き伸ばす。

「いふぁい、いひゃいです。しらいひゃん」

悪い笑みを浮かべている黒子、反対に初春は涙目になっている。

「それじゃあね黒子」

そういって司を含めた黒子以外の全員がぞろぞろと部屋から出て行った。一人残された病室のベッドに再び横りなり、目を閉じるといつもより耳が鮮明に聞こえてくる。全員の足音が小さくなるのと入れ違いにカツカツと硬い靴底の音が大きくなる。司の話の整理とまだ体に残る痛みにより、ベッドへ沈むように意識も落ちていく。ただ先ほどから聞こえる足音が黒子の意識を現実と夢の間をさまよわせる。その靴音が黒子の部屋の前で消えた。消えたというよりも止まった。黒子は急いで起きあがき、来訪者の出現を待つ。

 

ガラララ

 

ドアがゆっくりと開く音が聞こえる。キャスターがクルクルと回り開かれる。

入ってきた人物は黒子がふと頭によぎった相手、膝に届きそうな黒髪の女性。自分をこんな目に合わせた相手。その手に持つ電子端末の画面には、後ろ手に拘束され気絶した少女が映し出される。何かにぶつかったように頬が赤く腫れあがっていた。

「あなた、私の級友をどうするおつもりですの」

「白井黒子・・お前の返事しだ・・うう・・・ああああ」

突然女が頭を抱え出し苦しみ出す。目が見開かれ口からは涎もたれ流れている。

「ちょっと・・あなた?・・・」

「ごめんね、・・・****・・・・」

声にならない言葉を唇の動きで、最後の無音の言葉を聞いた黒子は、相手の顔を凝視する。しかし・・・

「きゃっ」

直後女から放たれた例の能力の衝撃により壁に叩きつけられる。

「うっはっは。うぜぇ・・うぜぇ。引っ込んでろよぉ」

叩きつけられ気絶した黒子を執拗に何度も叩きつける。ベッドは変な形に曲がり、部屋の壁には無痛の傷やへこみが出来ていた。

 

美琴達が連絡を受けた病院でみたのは、別室に運ばれ傷つき意識を失ってベットに寝ている黒子の姿だった。美琴の頼みで司と初春と涙子は明日に備え帰宅する事にした。

「黒子・・・」

そういって傷つき眠っている黒子の手を握る。

「2度も危険な目に合わせてごめん・・・。仇はあたしがとる。絶対ゆるさない」

固い決意とぶつけようの無い怒り、無意識に額の部分でバチバチと発電する。

「お・ね・・」

黒子の唇がかすかに動く。震えながらゆっくりと。うっすらと目を開きその瞳は美琴をとらえる。

「黒子!ちょっと先生を・・」

ぐっと美琴の手を握る。

「お姉様・・あの女性も・・きっと被害者なんですの」

「黒子・・・」

「仁科さんの・・・話通りなら、・・彼女を助けてくだ・・・」

再び黒子は目を閉じた。美琴に託し安心したのか、少しだけ笑みを浮かべるような表情で。ナースコールでやってきた看護婦に状況を説明し、その場を任せた美琴は病院を後にした。自分の不甲斐なさ、そして相手への怒り・・・しかし黒子の言葉でそれを押しとどめる。決着をつけるために、黒子に託された思いを拳に秘め、彼女は病院に背を向け歩き出した。

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T20 武舞台へ

 

 

「アンタ・・」

病院の門のに背を預け星を眺めている司の姿がそこにあった。先ほど初春と涙子を送るようにお願いし、帰るよう促していた。

「もしかしたら、一人で殴りこみに行ってしまうんじゃないかと思ってね」

司は視線だけを美琴へ向けた。その表情は怒りとも悲しみとも、両方取れるようで端から見れば無表情に近い。だが震える拳から彼女の感情が溢れている。

「ほっといて。これはあたし個人の問題だから」

「ほっとけません。御坂さんだけじゃなく、白井さんの仇を討ちたいのは私も同じです」

頬を上気させ司の影からひょいっと初春が顔をのぞかせる。

「そーですよ」

そういって後ろから美琴の手が握られる。強い瞳を輝かせた佐天がまっすぐに美琴を見つめる。

「怒っているのは御坂だけじゃないんです。わたしも・・・。わたしも初春も仁科さんも」

「みんな・・・うん。ごめん」

「それじゃ、行きましょうか・・・」

司の言葉に全員が頷く。幸いまだ公共機関は動いているため、23区へ向かうのには問題なかった。

彼らがこの病院を出発して、23区の研究施設へ辿り着くときには、病室から黒子の姿が消えていた。

 

 

 

 

 

「あんたさぁ、あの女の能力・・・知ってるんでしょ」

23区へ向かう途中、電車の中で美琴は司へ問いただす。その言葉を肯定するように、司は頷いた。

「能力は時空歪曲場を発生させる能力です。ディストーションヴェール、もしくはディストーションフィールドといいます」

「時空歪曲・・」

「どっかで聞いたような・・えーと」

初春が額に人差し指を当てて唸っている。

「そうです。この発生させた周囲の空間をゆがませて、攻撃をそらしてしまう。いわゆるバリアみたいなものです。電撃やプラズマ、光学系の能力者や兵器に対しての効果は絶大で、相手に当たる前にそれてしまいます」

「だからあの時」

美琴は女と対峙した時の事を思い出した。何度放っても横へそれてしまう電撃。

「ですがだからこそ御坂さんが必要なのです」

「あたしが?でもさっきも言ったように全然当たらなくて」

「たしかに電撃は逸らされますが、あなたにはもう一つ必殺があるじゃないですか。時空歪曲場は物質攻撃には弱いんです。たしかに生半可な物理攻撃では、歪曲場を発するときの空間を歪ませるときに生まれる、衝撃ではじかれたり粉々にされたりするかもしれません。ですが、電磁的な音速をも越える速度の超電磁砲(レールガン)なら、あれを突き破れます」

「・・・わかったわ。それにあの時押しつぶされそうになったのって、重力の重さではなく歪曲場が発生した際の衝撃でってわかったし。あたしは2度も負けないわ」

「あれ?負けを認めるんですね」

「ちが・・負けてないわよ。今度こそ決着をつけるの」

「わ、わわ御坂さん。今電撃放ったら電車止まっちゃいますって」

慌てて涙子が止めに入る。初春もあわあわと二人をなだめようとしていた。

 

 

 

 

 

「見張りいませんね」

通路は電気が通っていないのか、真っ暗なため涙子は転びそうになる。

「いい?あいつはあたしがやるから・・・あんたは邪魔しないで」

「はいはい」

やれやれといったように司は返事をした。

「初春さんと佐天さんは、誘拐された人たちを助け出してください。恐らく眠らされてますから、慌てず首輪をはずしてください」

「わかりました」

「まかせてくださいよ、お二人が戦っている間に全員助けてみせます」

そんな会話をしていると目的の中央制御室に到着した。通路と違い電力は供給されていて、室内の光がまぶしくも感じた。

「やっぱり、下の階に電力供給を集中させてますね」

メインシステムを操作する初春は、的確に必要な情報をモニタに表示させていく。

「最下層・・モニタにでます」

映し出されたモニタには、例の女がカメラのほうに向いていた。視線は明らかにはっきりとカメラを捕らえている。人差し指を上に突き出し、顔のほうへ2度3度と倒す。その行為に美琴の目が徐々に血走っていく。

「あちらさん、こちらに気づいているみたいですよ」

「上等じゃない・・・。後悔させてやる」

走り出そうとした美琴の手を司は掴む。

「なによ」

「殺さないでくださいね」

「さあ・・どうだか」

「あなたはきっと殺せません。御坂さんは優しいですから」

「な・・・」

突然の台詞に赤面する御坂をよそに、司は話を続ける。

「彼女も被害者ですから、助けましょう。それと・・チャンスを逃さないで」

言い終えた司の手を振りほどき、ものすごいはやさで中央制御室から飛び出していった。

「もしかして・・仁科さんて御坂さんの事」

「うーむ、でも話を聞く上ではむこうの白井さんといい雰囲気なんじゃ?」

「でも途中ででてきた女の子も気になり」

初春と涙子は背後からの刺されるような視線を感じ振り向く。

「ご、ごめんなさい」

「いえ、いいんです。向こうのお二人と同じなら・・・」

そういって初春と涙子にそれぞれ耳打ちをする。

「な、なななん」

「仁科さん、どうしてそれを」

あわてふためく二人を見ながら司は笑っていた。

「そうだ、佐天さん」

「はい?」

これを預かっていてください。そういって四角いケースを佐天に手渡した。

「これはなんですか?」

司は少しだけ微笑んだ。

「お守り・・ですかね。最後の切り札みたいな?なんてね」

そういって手をひらひらさせながら制御室から出て行った。

「なんだろう・・・」

「それよりも、戦いが始まったら私達で誘拐された人たちを助けましょう」

「そうだね・・今回は金属バットないけど」

「大丈夫です」

そういって初春が指をさす。その先には鉄パイプが転がっていた。

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T21 決戦

 

 

薄れ行く意識の中で思い描くのは親友の笑顔。

 

真っ暗な世界でただ一人・・・

 

孤独の中で後悔と親友の声

 

いつここから抜け出せるかもわからず彷徨い・・

 

ただ願うは今は遠い親友と会えたらと・・・

 

目の前には少し息を切らせた少女が立っている

 

こちらへ向けられた視線には怒りや殺気がこめられている

 

きっと断罪されるべきなのだろう・・ただ今はとまらない

 

きっと断罪されたいのだろう・・・あいまいな記憶の中

 

ただただ私は目を瞑る・・・すべてをあきらめるために

 

 

 

 

「あんた・・・黒子の仇とらせてもらうわよ」

美琴は対峙している女へ向けて怒りをぶつける。殺気だった彼女の目は今まで見たこと無いくらい、鋭くなっている。

「なめられたものだ・・・。ドッペルならいざ知らず、電撃如き」

「如きかどうか、受けてみろぉぉ」

放たれた電撃は、バチバチと音を立てて床を這いながら向かっていく。

「ワンパターンだ」

彼女を中心に時空歪曲場を半球体に展開する。電撃は彼女をそれ後方の壁を破壊する。

「歪曲場・・ほんと嫌な能力ね」

「ほう・・・あの男に聞いたか」

ふん、と右手を美琴へ突き出す。前に戦った時の事を思い出し、美琴は今いる場所から急いで右へ移動する。直後に美琴のいた場所の床が半球体上にへこんだ。歪曲場、空間を捻じ曲げる際に生じた衝撃を使い相手を攻撃する際にも強力な能力。以前それに押しつぶされそうになった事、そして司の説明で相手の手の動きに注意を払う。

「あんたの能力はお見通しなのよ」

「能力がわかった所でそれだけではないぞ」

美琴の電撃を放つ前に女は美琴へ向けて走り出す。鍛えられているのか、一歩の移動距離が大きい。あっと言う間に迫ってきた彼女の一撃を見極め、横方向へ飛ぶ。すかさず右手に電撃を溜め一気に放つ。女は美琴との中間の距離に歪曲場を発生させる。へこんだ床の通過する電撃は、やはり直線での動きを強制的に逸らされる。

「くっ・・やば」

攻撃の間を取らせないように、女の攻撃が始まる。女の右手の動きを見つつ、回避する方向を考える。歪曲場を遠距離に発生させる際、小さい球体が大きく膨らむような形で現れるため、美琴は遠距離で攻撃をされたさいは、歪曲場の発生をなんとなく感知し反対側へ避けていかわしていく。

「こんのぉぉ」

近電流を流しくにあった床の破片を、電磁の網で掴んむ。そのまま勢いよく女の方へ投げ飛ばす。

「器用だな」

飛んできたそれを避けるために、体をよこへずらす。右手の動きに合わせて受ける美琴の動きに一瞬にやりと笑う。

「まだま・ぐっ」

不意にお腹に衝撃を受け、美琴は後方へ弾き飛ばされる。顔をしかめつつも、相手に隙を与えない様にすぐさま起き上がる。

「そんな・・・」

「ふふ・・右手だけかと思ったかい?」

そういって左手を美琴の方へ向けていた。

「そ・んな」

「甘いな・・・」

「しまっ」

自分の右方向にそれを感じ急いで横へ飛ぶ。しかし先ほどのダメージがあるため、思った以上に体が思い。

「きゃっ」

思い切り歪曲場の衝撃で左方向へ吹き飛ばされた。派手に床に衝突するが、勢いはとまらず転がっていく。息はしているものの、美琴はその場から動かない。

「これで目的は・・」

そう言いかけて女は入り口のほうへ目を向ける。入り口の影からは、ゆっくりとこちらへ近づく足跡が響いている。

「仁科・・・司・・・君がまだ残っていたねぇ」

「木原の残りカス・・・ここで除去してやる」

入り口から入ってきた司は、美琴の姿を一瞥する。

「御坂美琴は・・我々が連れて行くよ・・仁科君」

声は普通の女の声・・しかし話し方は司の良く知る人物。仁科の世界の幻想御手(レベルアッパー)事件の張本人、木原の話し方と・・。

「あんたは死んでも・・・迷惑な意思を残しやがって

「ふっふっふ・・・私の行動はすべて高みのためだ」

「必ず助ける。だからそこで待ってろ」

「やって見るがいい・・歪曲場は君の能力でもコピーはできないぞ。それは以前実証されているだろうに」

「コピーできなくても・・・・倒せばいいんだよ」

うおおおと女へ向けて走り出す。女の生み出す歪曲場の衝撃を、コピーして無効化しつつ相手に迫る。

 

ドン

 

先ほどの衝撃を足から放つ。衝撃は通常より遥かに高い加速力を生み出し、女への間合いを一気に詰める。司の蹴りを女は掌で威力を受け流すように捌く。そのまま間髪いれずに司へ蹴りを放つも。うまく司の右腕で受け止める。

「このぉ」

「はああぁぁぁ」

司が攻撃する瞬間に、女は自分を中心に半球体に歪曲場を展開する。それをコピー状態で衝撃すべてを無効化する。すかさず衝撃を拳に転写させ女へ拳を突き出す。女もその突きに会わせ、歪曲場を発生させる。歪曲場を発生させた外側は、はじかれた空間が生み出した衝撃の膜があるため、直接能力に触れない司ではコピーができないのである。そのためその衝撃の威力だけをコピーしかできないため、女との戦闘の相性は悪い。それでも司は退かない。それは助けると約束した思い。

「しつこい」

衝撃を載せた拳と歪曲場を展開した衝撃がぶつかる。

「ぐっ」

歪曲場の衝撃が司の衝撃を上回り、カウンターの要領ではじかれる。

「ふっふっふ」

そういって倒れている司は背中を強打し、咳き込んでいる姿を見て、女は愉悦の表情を浮かべる。

「ふん」

自分を中心に歪曲場を展開させる。直後に青白い電撃が横へそれていった。その方向へ視線を向けると、息を乱しながらもこちらをにらんでいる少女が立っていた。

「よそ見するんじゃないわよ。はぁ・・はぁ・・・まだまだこれからぁ」

方膝をがくっと折りながらも、ゆっくりと姿勢を整える。

「何度やっても無駄だ・・・二人もいてこの程度とは」

「さぁ・・・行くわよ」

美琴の言葉が響き渡る。

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T22 決着

 

 

何度目かの電撃も歪曲場によりすべてそらされる。電撃と電撃の間に、瓦礫を電磁石の要領で掴みそれを投げ飛ばす。

「苦し紛れはやめにしたまえ」

「あたしの電撃以外は、あんたの能力じゃ防げないんでしょうが」

「だからなんだ?超電磁砲(レールガン)を打たせる暇は与えないぞ」

そういって女は言葉通り、休む間も攻撃させる間も与えないようなテンポで、歪曲場を展開させる。

「くっ」

コインを取り出し指で上へ打ち上げる。

「無駄だと言ったはずだが」

コインは歪曲場の衝撃で後方へ吹き飛ばされる。

「隙ありぃぃ」

コインを囮とし溜めていた電撃をそのまま放つ。ふぅと息を放ち歪曲場を発生させる。

「そろそろあきらめろ」

歪曲場を解く。その瞬間背後で床を蹴る音が聞こえる。振り向く事無く自分の周囲に歪曲場を展開させる。

「中に入ったらいいんだろ」

声と同時にわき腹に鈍い衝撃が走る。

「ぐぶっ」

司がコピーしておいた衝撃を拳に転写し、わき腹を殴り飛ばす。歪曲場が消失した隙に司と美琴は視線を一瞬重ね美琴はコインを跳ね上げる。司は美琴の直線上から外れるよう動く。バチバチとなった青い電撃が腕に絡みつく。

「おの・れぇ」

左右の手をそれぞれに向けて突き出し、両方向同時に歪曲場の衝撃を発生させる。

「きゃっ」

「がっ」

不意をついた攻撃に防御も受身の余裕も無く吹き飛ばされる。しかし攻撃した女も片膝をつき、息を乱している。

「はぁ・・はぁ・・。ごほっ」

左手で左わき腹を押さえる。骨は折れてないとなんとなくわかっているが、思いのほかダメージが大きいのか、体をゆっくりと立ち上げる。

「ぐ・・うう・・あぁぁぁ」

女は右手で頭を押さえだし、身を屈める。ふらふらと立ち上がり、まるでよっぱらいのように、赤子のようにふらふらとよろける。押さえた指に力が入る。

「ジャマダァァァ」

そういって誰とも知れぬものへ叫ぶ。左手で頭を押さえ、右手を突き出し、歪曲場を発生させる。照準はあいまいで、まるで女にしか見えない相手に向けている。やみくもに能力を乱射し、フロア内を破壊していく。

「キエロォォ」

右手の照準が美琴と重なる。よろよろと起き上がり掛けている美琴も、その右手の照準が向いている事を確認しているも、思うように体が動かない。

「くっ」

「ガァァァ」

「お姉様」

ふいに美琴の隣に相棒の姿が現れ、美琴は少し驚きの表情を浮かべる。本来はここではなく病院のベッドに寝ているべきはずの・・・

「黒子、あんた」

次の瞬間に黒子に触れられた美琴は、今いる場所から転移し女の側面方向に姿を移した。

直後美琴のいた場所に歪曲場の小さな歪みが発生する。美琴を移動させたので力を使い果たしたのか、その場に黒子は横たわったまま動かない。

ドン、という音の直後に周囲を衝撃で吹き飛ばす。

「黒子ぉ」

美琴の目に入ったのは吹き飛ばされた黒子、ではなく黒子をかばうように腕の中に抱きとめたまま、吹き飛ばされた司の姿だった。そのまま連続で衝撃もすべて司の背中で受け止めている。

「今です」

そういって司は叫ぶ。

「言われなくても」

いつもの如く滑らかな動きでゲームセンターのコインを上に上げる。

「ぐ・・・う・・・」

正気を取り戻したのか、女は能力の乱射がとまる。バチチィと右手に雷撃を宿す。雷撃を纏いう少女の元へ、くるくると回るコインが落下を始める。

「これで終わらせる。誘拐した人たちも・・すべて返してもらうわ」

「お・・のれ・・」

落下して来たコインを親指ではじきだす。電磁的加速を得たコインが、音速を超え電磁線を描きレールガンが打ち出される。女が歪曲場を生み出すより早く打ち出されたコインは、女が発生させた歪曲場のシールドに電磁的な力を削り取るも、圧倒的加速度得たコインはそのシールドを突き破り女へ直撃をする。コインの速度に吹き飛ばされ床をすべり、後方の壁にぶつかり運動力はようやく0になった。

「く・・・う・・・」

苦痛に顔を歪め、ぐったりと体を床に預け静かに気を失った。

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T23 解放〜リベレイション〜

 

 

「だ、大丈夫ですか」

誘拐された人たちを救出・解放していた涙子と初春が下に降りて来ていた。

「あ、初春さんに佐天さん。誘拐された人たちは?」

美琴はそう言って二人の方へ歩いてくる。女は完全に気を失っているらしく、先ほどの場所に倒れたままでいる。司は預けておいた四角いケースを涙子から受け取り、女のとなりに座り込んでいた。

「今アンチスキルの方達と一緒に、救急車へ搬送をしています。」

「そう。全員無事だったの?」

「ええ。誘拐にされていた人の名簿と一致してますし、全員大丈夫だと思います。中にはすぐに病院に搬送しなければならない人もいますけど」

「なら湾内さんも無事だったんだ・・・よかった」

美琴はほっと胸を撫で下ろした。

「上で警備員(アンチスキル)を呼んで来ます。白井さんを運ばなければいけませんし」

「あ、初春。あたしも手伝うよ」

そういってまた上の階へと登って行く。

「黒子・・・」

黒子は目を閉じたまま壁を背もたれにして座っている。女の攻撃をかばった司が、黒子を今の場所へ運んでいた。美琴は黒子の頬を優しくなでる。

「こんな状態なのに・・。ありがとう」

そういって美琴は微笑んだ。背後でパカと言う音が聞こえ振り向くと、司が四角いケースを開け何かを取り出している。

「あんた、何するつもり」

司の背後から声を掛ける。司は振り向く事無く、赤い液体が入った小さい試験管のようなものを女の腕にあてがう。

「これは脳波を安定させるもの。病院で話したけれど、幻想御手(レベルアッパー)の際に埋め込まれた脳波のノイズを除去するためのモノなんさ」

そういって強めに腕に押し付けると、プシュっという音と共に中の液体がどんどん減っていく。話を聞くとこれは勝手に血管を探してくれる機能があるという。液体が無くなったそれをケースにしまい、女の表情を伺う。

「ん・・・」

目がぴくりと動き薄く開かれる。司の存在に気づいたのか、瞳が司の方へ動く。

「あ・・れ?仁科さん?」

声はかすれ力なく発せられる。

「そうだ。おはよう」

「あ・・た・し・・」

そう言って女は目の端からぽろぽろと涙がこぼれる。

「ご・めんね。みんな・・迷惑・・・かけて」

ポロポロと彼女は無心でつぶやきだす。誰に言うでもなく、ただただ彼女は呟く。

「みんな・・ありがとう・・」

「この人助かった・・・の?」

「ええ、やっと解放されたんです。幻想御手から・・木原という呪縛から・・・」

ただただ見えない誰かに謝る女を美琴は見つめる。目の端から涙を流している彼女を。

「彼女・・・まさか・・」

美琴何かに気づいたように表情が驚きに変わり、声が詰まる。

「ご・・めん・・ね。・・御坂さん・・白井さん仁科さん」

そして何かに触れようとして手を伸ばす。

「ごめん・・ごめんね・・・初春」

そう言って彼女の手は床へと落ちた。

「美坂さん、だまっててごめん」

そういって司は彼女を抱き上げる。その直後、轟という音と共にこのフロアに強風が吹く。手をかざしつつ美琴がみたのは、円形に青白い線が浮かびその内側がブレて歪んだような空間が見える。それに向かって司は歩いていく。

「ちょっと」

美琴の言葉に司は振り向き笑顔を向ける。

「美坂さん・・ごめんね・・・ありがとう」

そういって司の姿は、歪んだ空間が消えたと同時に消えてしまった。

 

 

後日、誘拐された被害者を無事救出、犯人逮捕というニュースが報道された。

この件に関し、警備員(アンチスキル)等各方面には緘口令が布かれた。

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T24 それぞれの日常 司のそれから

 

あの誘拐事件から数週間・・・

 

 

 

 

兄・清隆への報告も終わり今では日常生活をおくっている。学校生活、風紀委員も復帰し司本来の世界で、本来の日常。司は帰ってきたんだと、これで木原にまつわるものは終わったのだと実感していた。

「司ちゃーん」

司が振り向くと手を振りながら前髪をカチューシャで上げた少女が走ってくる。

「絆理か。今日もバイトか?」

走ってきた彼女は、息を切らせながら司の服の袖をつまむ

「んーん、違うよ。今日は休みだから司ちゃんと遊ぼうと思って」

そういってまっすぐなまでの笑顔で見つめてくる。そんな笑顔を見ると成長した幼馴染?の少女の事を可愛いなと思ってしまう。絆理は結構キレイな顔立ちをしている、性格も明るいため割とよってくる男は多そうな感じがするが、以前そんな話をした時は女子高に通っているため全然無いらしい。下校中や休日は声を掛けてくる男はいるらしいが、本人は無自覚だがふわふわしているため、男はすべて撃沈されているという噂も聞く。

(ちょっと・・・天然・・なんだよ)

そんな失礼な事を思いつつ、ちょっとにやけつつ彼女の頭を撫でる。

「えへへ」

うれしそうに顔を赤くして、司へ抱きつく。ちょっと驚きつつも少しはうれしい司だったが、前方からの強烈な殺気に一気に血の気が引いた。

「あらあらまぁまぁ。学校帰りにかわいい女の子とデートとは・・・、いいご身分ですこと」

背後から聞こえてくる独特ある口調の声に、恐怖を抱きつつゆっくりと後ろを振り向く。

「や、やぁ・・・白井さん」

「白井さん?」

その単語に不機嫌な顔になる。暫く別の世界にいたため、黒子の事をずっと白井さんと呼び続けた癖が出てしまった。慌てて訂正するも鋭いナイフのような黒子の表情に変化はない。

「まあまあずいぶん他人行儀ですこと」

「あ、黒子ちゃんこんにちは」

そう言って絆理は黒子が不機嫌とも夢にも思わず、ふんわりと挨拶をする。

「枝先さん、ごきげんよう」

司は黒子のパーフェクトスマイルをみて、確実に怒りのメーターがMAXに近い事を悟った。

(まずい・・・こ・・こは・・・)

一瞬の隙を突いて、走り出す。

「あ、司ちゃーん」

「あ、司さんおまちなさい」

黒子と絆理は司の後を追いかける。

「捕まえましたわ」

黒子の空間移動(テレポート)で司を背中側から抱き止めるように捕まえる。

「あたしも捕まえた」

そういって絆理も司に抱きつく。

「ちょっと、私のが先ですのよ」

「えー、だって昔司ちゃんが、あたしとずっと一緒にいるって言ってくれたもん」

「過去の話は今は関係ないんですの。でもそんな事を・・・司さんどうなんですの」

左右に抱きつかれてギャーギャー騒いでいる二人の少女に呆れながらも、周りの視線が痛いこの場を一刻も離れたいと司は思っていた。

「楽しそうですね」

初春と涙子がいつのまにか三人のそばに来ていた。

「そ、そう見える??」

「三人とも仲良いいですね」

「まぁ、なんかやっと日常を取り戻せた〜って気がします。」

二人はいつもの調子で笑っている。司も二人を見て笑う。現在涙子は清隆の施設にて、リハビリを受けている。そして止まっていた二人の時間を取り戻そうと、よく初春は涙子と街を散策している。

「私もまざっちゃおー」

そういって涙子も司の腰の辺りに手を回す。

「ちょ、佐天さんて」

「いや〜あたしを助けてくれた恩人ですから。惚れて当然です」

そういって一人の男性に三人の少女が抱きつく姿を見た初春は、あははと引き気味に笑うしかなかった。涙子は二人をからかうように、ただじゃれ付いてるだけなのだが・・。

「佐天さん、離れなさい。こんなほかの女性に抱きつかれる男性は、佐天さんにはよくないんですの」

「えー私は司ちゃんなら大丈夫だよ」

「あなたには聞いてませんの」

「あ、あたしも平気です。それくらいの方が」

自分の周りでワーギャー騒いでる彼女達の一瞬の隙を突いて振りほどく。彼女達の拘束から逃れた司は、すぐさま初春の後ろに隠れる。初春の肩越しに顔をのぞかせると、思った以上の黒いオーラが。

「初春・・・あなた・・・」

「うーいーはーるー」

「かざりん・・・ライバルが増えた」

「えっと・・あの・・私は・・」

困惑する初春に迫る三人。すでにその背後から司は走り出していた。

「あ、こらまちなさい」

後ろから聞こえる声をよそに、鳴り出した携帯に出る。

「もしもし、こちら仁科」

「司さん、通報がありましたので現場へ行ってください。と美里は楽しそうに騒いでいるあなたに、無常なまでに仕事を押し付けます」

「今は助かった・・」

本気で安堵した司。後ろから黒子が追いかけてくる。

「司さん、明日・・わかってますの?」

わかってる、というように拳を突き上げる。

「わかってるさ・・・」

そういって明日の準備の事を頭によぎらせる。

 

どんな言葉を交わそうか・・・。

 

どんなゲコ太を贈ろうか・・・。

 

そんな事を考えながら、今日もみんなは生活し(いき)ていく。

-7ページ-

T Finale それぞれの日常 美琴達のそれから

 

 

あの誘拐事件から数週間・・・

 

 

 

 

仁科司がいなくなったこと、誘拐事件がひとまず終わりを告げたこと。

ニュースでは誘拐事件の事など無かったかのように、芸能人の結婚のニュースを伝える。

「あ、そうだ。」

「今度またクレープの限定マスコットのプレゼントあるらしいですよ」

「えええ、ゲコ太の?」

ものすごい勢いで目を輝かせて涙子の顔に、急接近する。

「え、ええ。今度の日曜日なんですけど」

「お姉様・・またそんな」

「い、いいじゃないのよ」

赤面する美琴を黒子がいつものように窘める。

「まあまあ」

多少いつものやり取りに苦笑しつつも、いつも通りの日常が帰ってきた事を4人は実感する。

「それだからお姉様は・・」

そう言いかけた黒子の顔を、美琴を思い切り至近距離で見つめる。

「な、なんですの」

(こ、これはもしかして・・・。き、ききき、キスする合図なんですのね)

黒子は顔を赤らめて、目を閉じる。

「お・ね・え・さ・・」

その口を美琴は手で塞ぐ。

「くぅろぉこぉ」

「うぉぼべぇうば」

いつもであればここで怒った美琴が、黒子へ電撃でお仕置きする・・はずなのだが、今日の美琴の顔はにやりとしていた。いつもは黒子が担当のはずなのだが。

「昨日の黒子の寝言・・・ばらすわよ」

「な・・・」

さらに黒子は顔を真っ赤にさせる。

「あんたからまさかねぇ」

そういって美琴は仕返しとばかりに口撃してくる。

「えー、白井さんどんな寝言を言ったんです?」

初春は興味津々といった表情で目を輝かさせる。いつぞやのリミッター解除状態のような・・・。

「あたしも聞きたいです。どんな寝言だったんですか?」

涙子も聞きたそうに手を挙げる。

「あ、あな・・あなたたち」

怒っているのか恥ずかしいのか、わからないくらい真っ赤な黒子。

「実はねぇ・・・」

「あわわわ、お姉様」

そういって黒子は美琴と一緒に消えてしまった。

「あ、逃げた」

「空間移動(テレポート)はずるいですよ、白井さぁぁん」

初春の声がドラ●もんの映画の時の、の●太ばりに叫んだ。

 

 

「あの時、気づいてたんでしょ?あいつがあんたをかばった時。あいつの腕の中でさ」

「おお、お姉様。何を言ってますの」

「隠さなくっていいじゃない。昨日のあんたの寝顔・・・すっごく幸せそうだったわよ」

「そそ、それはお姉様とあんなことやこんなことを」

「司さんありがとう・・・もう少しこのままで」

美琴のその言葉に左手で書いた漫画のように表情が崩れ去る。

「あ、あの・・え・・・ええっと」

黒子は慌てふためきしどろもどろになっている。

「いいじゃない隠さなくても。今の感情も素直な黒子の気持ちでしょ」

下を向き顔を真っ赤にさせ、何を言っているかわからないくらい小さい声で何か言っている。

「きっとさ」

「え?」

「きっとまた会えるわよ」

そういって美琴は黒子へ微笑む。

「そうですわね。その時は、きちんとお礼をお伝えするんですの」

「うん」

そういって今いる高層階のビルの屋上から街を見下ろす。人々が生活し、いろんな人が集まっている。その中に彼はもういない事を頭では理解している。それでもどうにもならない感情が、確かに黒子の中に存在していた。どんな気持ちか黒子にはまだわからない。ただたしかに昨日は彼の傍にいた・・夢の中で。

(いつかまた・・会えますわよね)

そんな事を考えていた黒子を穏やかな時間から日常へ引き戻すかのように携帯が鳴る。

「白井ですの」

「白井さん事件です」

「どうしましたの?初春」

「襲撃事件が起きたと固法先輩から」

「襲撃事件とは物騒ですわね」

「黒子・・行こう」

「はい、お姉様」

黒子は美琴の手を取り、街の中へと飛んでいった。

「ねぇ、お姉様」

「なに?」

「ほんと、退屈しませんわね」

「うん」

美琴と黒子の言葉が重なりあう。

 

 

「「この街は」」

 

説明
とある騒ぎの現場の道路に残った一筋の線。これはまぎれもない学園都市230万人の頂点、レベル5の能力者第3位、御坂美琴の超電磁砲(レールガン)と同じ能力を使うものが居るということだった。そしてこのころを境に、能力者誘拐事件が発生する。
犯人の目的は?その能力者の正体は?

パクリにパクッタ2次小説(笑)

作者処女作最終巻(笑)
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とある科学の超電磁砲

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