とある科学の幻曲奏者〜シンフォニスト〜U |
S9 Seventh mist
「オマエ、それナンパされてんだよ」
校門の前で呆れ顔で目の前にいるエレナに言う。
「はい、わかってますよ」
そういって微笑んだエレナの表情に、天成は小悪魔属性を感じずにはいられなかった。
「とりあえずお前の服でも買ってくか」
「はい」
そう言って目を輝かせたエレナは、天成の腕に絡みつく。エレナが意図的になのか無自覚なのか不明だが、天成は悪い気はしない・・のだが、周りの目が痛い。今はわりと真面目になったとはいえ、一時期はやんちゃなのは知られているし、しかも絡みついている女の子はどうみても年下に見える・・しかも中学生に。実際にまだ中学生なのだが。
この二人が買い物とう外出しているのには理由がある。黒子たちが確認した捜索依頼は風紀委員にはおりてきていない。依頼をした学校側から事件性があるという事から、警備員(アンチスキル)だけでこの件に関しては当たっている。もちろん初春の力を持ってすれば、そんな情報も簡単に閲覧できてしまうのだが。まだこの時点では、二人はその事を知らないのである。
そんな二人は第7学区の洋服店、『Seventh mist』へ向かうことにした。この店には子供から大人までさまざまな種類の洋服が置いてある。黒子の派手な下着も、何点かはここで購入したものだ。ほとんどの学生や社会人ご用達なのである。
「今着てるのは俺のだから、ずいぶんダボダボだなぁ・・・」
エレナと初めて出会ったときに来ていた学校指定の制服は、赤い血が染み付いていたため女将さんに預けている。その間の服として天性の服を着せている。スカートは無事だったため、今はそれを履いている。
『Seventh mist』についた二人は、とりあえず下の階から見て行こうという事になった。様々な系統のショップがあり、エレナは目を輝かせている。天成は女の買い物には慣れているため、エレナに臆する事無くエレナに似合いそうな服を探していく。
「天成さんて女の人の服選ぶのなれてますね」
天成が選んできた服を試着しながら、カーテン越しに伝える。えーと、と言葉につまる天成は顔を引きつらせる。そんな表情はお見通しとばかりにエレナは笑う。
「あら、天成君じゃない」
試着室にいるエレナからは見えないが、天性にスタイルのいい女性が近づいてくる。
「あ、ちわーっす」
「今日は買い物?」
「そうですよ」
「もしかして・・・コレ」
そう言って女性は右手の小指を、左手の人差し指でさす。慌てて天成は否定するも、入店時から見られていたため、こっそり耳元で「ずいぶん年下ね」とささやかれた。
「からかわないでくださいよ」
「あはは、ごめんね。これからもウチの店をひいきにしてねー・・・お安くしとくから」
そう言って天成にウインクして、別のお客の接客を始めた。
「相変わらずだなぁ」
そういって試着室の方へ向き直ると、カーテンからジトーっとした真一文字にほっそり開かれた目で、顔だけ出したエレナが天成を見つめていた。ものすごいドス黒いオーラが見えたのは言うまでもない。
「え・・えと・・エレナさん?どないしはりました?」
変な方言のような口調になったが、相変わらずエレナの表情は変わらない。
「天成さん、さっきの女性と仲よさそうですね」
そういってぷいっと目線を天成からはずす。あきらかに拗ねているというのがわかるしぐさに、天成は苦笑いを浮かべた。
(こ、これはあれか?やきもちという・・あれか?)
「いやぁ、ここのお店の店長さんだしね。何度も来てると・」
言いかけたところで、しまったと気づいたが遅かった。「何度も・・何度も・・」とぶつぶついい、ますます恐ろしくなるエレナに気づいた天成。
「とりあえず、服・・試着はどうかね」
少し棒読みっぽくなったが、今の状況を打破するべくエレナに聞いて見る。やっぱり拗ねているのか顔はふくれているが、エレナはカーテンを開いた。黒の3WAY仕様のワンピース、中に黒のペチワンピースを着て、薄いグレーの少し透かしのあるベスト、前を開けて羽織っている。
「どう・・ですか?」
さっきまで拗ねていた表情が、少し頬を赤らめ下を向いている。
「おお、すごく似合ってんなー」
それを聞いたエレナはさらに顔を赤くさせて、勢いよくカーテンを閉じた。その後何点か試着したエレナは、着こなしを先ほど天成と話していた女性に教わり、一番最初に来たワンピース等に着替えた。
「天成くんは、相変わらずね。かわいい女の子だしね」
「まぁ、かわいいは認める」
「年下となんて初めてだから・・・あとでみんなに言っとくね」
天成がやめてという言う間もなく、「いらっしゃいませー」と接客モードになっていた。
「こう改めて見ると、お前・・・結構かわいいのな」
「ほんと?」
潤ませた瞳で天成に上目遣いで見る。
「おう」
そういって頭をぽんぽんと叩くと、そのまま叩いた腕に自分の腕を絡ませた。
「さ、他のお店もみましょうよ」
そういってこの後もエレナの喜怒哀楽が激しかったのは言うまでもない。
S10 標的
部屋に乱雑に置かれた服を拾い集めつつ、布団でぐっすり寝ている少女へ目を向ける。この少女と一緒に住むようになってすでに2週間以上が経過していた。学校の事も心配だが、今のまま帰すのは非常に危険と考えまだ匿うつもりでいる。天成が住み込みしている酒屋の女将さんがいうには、家の事を手伝ってもらえるからこのままうちに居続けてもいい、なんて事を晩飯時にいうもんだからこの少女は目を輝かせながら喜んでいた。
「のんきなもんだ・・・ったく、着たもん位片付けろってぇの」
『Seventh mist』でわりと大量に購入した服を、飽きもせずいろいろ組み合わせて一人ファッションショーをしているらしいと聞いていた。もちろん女将さんも娘が新しくできたって事で、女将さんもいろいろ買って着ては着せて見てるのだが。天成が学校や風紀委員(ジャッジメント)の活動をしている間は、もっぱら店の手伝いをしている。自分が狙われている事は理解している分、物分りが良いのはありがたい事だと天成は感じていた。
(いつまでも・・このままってわけにはいかねーが)
寝顔を見ながらそんな事を思っていると、天成の携帯が振動を始めた。もちろんエレナが寝ているため、起こさないようにサイレントモードで振動(バイブ)機能をONにしていたが、意外とうるさい事に焦ったがエレナは気持ちよさそうに寝息をたてたままだった。
「もしもし」
「天成さん、4人組の件ですが・・・」
電話越しの相手は淡々と天成に用件を伝える。
「わかった。俺の名前出してもそこから帰らないやつはほっとけ。囮にする」
「わかりました。彼も待機してますから」
「あれは忘れるなよ」
「はい、ちゃんと準備してありますよ」
「さすがだね、夏菜実(ななみ)上出来♪」
「い、いえ。それでは」
少し上ずったような感じの声だったが、天成が指摘する前に通話が切れた。それを確認した天成は携帯をテーブルの上に置き、先ほど集めた洋服を折り畳んでいく。気持ちよさそうに寝ている彼女のそばに置き、そっと髪をなでる。
「ちょっと行ってくる」
テーブルの上の携帯をとり、部屋の電気を消した。ドアを開けると雲ひとつない夜空で、月明かりが一段と明るい。さて、と気を引き締めて第10学区・・・スキルアウト達のたまり場となっているストレンジと呼ばれている場所へ向かった。
「なんだおまえら」
廃れたビルの中に座っていた三人の男は、目の前に現れた人影に視線を上げる。人数は四人、声の感じからすればまだ幼さが残る少女の声。その人物の一人から差し出されたのは、一枚の写真。明らかに隠し撮りと思われるアングルではあるが、はっきりと映し出されている。
「これは・・・」
「知っているのね」
「え・・・ん〜」
「はっきりしてほしいんだけど」
「タダでは教えられないなぁ」
その言葉に、聞き飽きたと言わんばかりにため息を吐く。
「同じ事しか言わない・・・お前らは馬鹿なのか?」
男達はそれに対し頭にきたのか立ち上がり、男の一人が目の前の少女の胸ぐらを掴む。
「体に教え込まなきゃならねぇなぁ」
「何を教えてくれるのかしら?見た感じ馬鹿そうだけど」
その言葉を聞き男は少女を殴り飛ばした。実際には男の拳を手で受け止めたのだが、それには気づいていないようで、なにかわーわーと罵声を浴びせる。
「う・・うう」
男達は頭を押さえて辺りを見回す。
「なんか・・聞こえねぇか?」
「ああ、たしかに」
そして少女たちの方を見ると、まるで楽器を弾いているような動きをしている。その動きと共に、聞こえてくる音色もどんどん変化して行く。
「私を殴った・・・幻覚じゃなくて、直接消してあげるわ」
四人がそれぞれのパートで刺激を与える。四人のアンサンブルにより、AIM拡散力場が反応変化して行く。
「う・・うわ・・・」
男たちと少女体の間に一つの質量をもった拡散力場が形成して行く。黒いフードをまとり骸骨の顔をのぞかせ、その赤い瞳に男たちを映し出す。そして手には死神の鎌(デスサイズ)と呼ばれる鎌をもち、カシャンと音を立ててアスファルトの上に立つ。口からは白い靄を吐き、より恐ろしさや奇妙さを醸し出す。
「う・・ああ・・あああ」
この世にあらざるモノ、がくがくと震え出す体が言うことを聞かない。なんとか搾り出した言葉で、生きながらえようと必死にすがる。
「答える・・答えるから・・・まってくれ」
掌を前に出しまってくれと体全体で訴える彼らに、呆れたように見下しながら淡々と同じ問いを少女は繰り返した。
「こいつは最上(もがみ)。ここらへんじゃ剛拳のサイジョウって言われてる」
「どこにいる?」
「ここだよ」
背後からの声に少女は振り返る。ビルの入り口に人影が一つたっていた。
「お前ら、もう逃げとけ」
少女の後ろで震えている男達に向けて言った。男達は「はやくはやく」と震える声で立ち上がり、少女からいそいそと離れるように走り出す。
「だめよ」
その少女の言葉の直後、上半身を無くした下半身だけが入り口へ向かって走る。うめき声を上げながら下半身を失った彼らは、その場でもがいているがやがて力をなくしそのまま肉の塊となった。下半身のほうも同じように地面に倒れていた。
「お前ら・・・」
目の前の行為に・・無残な仕打ちに怒りを込めた敵意を少女達へ向けた。
「あなたが最上か」
その敵意を知ってか知らずか、たんたんと話す口調は相変わらずだった。
「剛拳のサイジョウだ。ま、今は風紀委員をしてるんだけど」
そういって腕をパキポキっとマギノギっと鳴らす。準備運動というように手首や足をぷらぷらさせる。最後に首を鳴らし彼女達にこう告げた
「風紀委員だ。ジャッジメント襲撃犯の容疑者として、お前らを拘束する」
「ハープを返してもらう。行け断罪者(エクスキューショナー)」
人間には出来ぬ動きで、目の前にソレは現れる。エレナに聞いていたものの、間近で見ると不気味さが余計に増して見える。勘が天成を動かし自身を後方へステップさせる。と同時に鎌が振り払われる。天成がいた場所に横一文字にコンクリートの床に標を刻む。あと一寸遅れたら、切断された彼らの二の舞になっていたであろうタイミング。カシャンという不思議な足音を鳴らし床に立っているも、移動時には浮いているような動きで、近づいてくる。
「ふぅぅぅぅ」
その剛拳の名にふさわしい隆々とした筋肉を纏う腕。今来ているTシャツがぴっちりと彼のボディラインを描く。鎌の攻撃を避けつつタイミングを計る。間合いと呼吸を合わせ一気に飛び込む。刃の内側に入り込んだ天成は、そのまま人間で言う鳩尾の部分へ拳を叩き込む。人と同じように叩き込んだ威力によってソレは少し後方へ下がった。エレナの時もそうだが元となるのはAIM拡散力場、手ごたえはあるがなんともいえぬ感触しかないため、手ごたえがあまり感じられなかった。そもそもソレに打撃等の攻撃が有効なのかさえ、わからない部分である。カタカタカタと骸骨の口が音を鳴らしつつ、ふわりふわりと近づいてくる。鎌を振り上げた状態でじりじりと間合いを計ってくる。完全に鎌に集中していた天成は横から伸びたソレの2本目の鎌に気づくのが遅れた。天成に向かって鎌の刃が向かってくる。
「1本じゃないのよ」
「くっ」
「夏菜実」
天成は叫ぶ。
「はーい」
いつの間にいたのか天成と横からくる鎌の間に割ってはいる。彼女は赤く黒く輝く右手を刃へ向ける。ドドンという音と共に右手から発せられた振動波が鎌の刃を受け止める。
「くっ」
天成めがけて鎌を振り下ろすも塚の部分を左手で受け取る。
「お嬢さんたち」
いつの間に少女達の左側に、Tシャツにジーンズというラフな格好の少年が立っていた。驚きで動揺を隠せない彼女達が見たのは、赤と青のオッドアイの眼。やがて両目が紫に変わる。
「いやあああ」
「やめてやめてやめてやめて」
おのおのが頭を抱え叫び出す。床に倒れのたうちまわり、眼は思い切り見開かれている。ひぃ、と視点が定まらず口が震えている少女。他の少女も似たように座り込んだまま叫ぶ。縮こまりおびえるように震える少女。それぞれが様々に、ただ怯えているのだけははっきりとわかる。
「煌・・・お前何 幻覚(みせ) たんだ?」
「一番嫌な事」
「煌君えげつなーい」
天成は肩を竦ませた。
「天成さん、この子達はどうしましょう」
やがて気絶したのか、おとなしくなった少女達をみて、夏菜実は天成に伺う。
「そうだな・・・」
携帯を取り出したところで、青い回転灯を光らせよく見る車が近づいてきていた。
「警備員か・・・」
三人は少女達をひきずりながら、建物の外へ出る。ちょうど目の前に止まった車から数名の警備員の防護服を来た者が数名降りてきた。話を聞くとちょうど警戒中だったらしい。ただその中に黄泉川愛穂は居なかった。
「こいつらが襲撃事件の犯人です」
そういって渡した少女達を警備員が車へ乗せていく。天成は風紀委員として、現場状況の説明と遺体の処理等を依頼し、帰宅することにした。煌と夏菜実とは途中で別れた。
「とりあえず・・・ひと段落着いたか・・・」
そう思い見上げた夜空は、星一つ空一つ見えない曇り空だった。天成が抱いた一抹の不安を映すように。
やがてその不安は事態を最悪の方向へと動き出すした。
S11 理性とモラルと欲望の狭間で
「ただいまぁ」
4人の少女達を警備員に渡し、これでスキルアウト襲撃事件も終わりを見せるだろうという安心感から急激に睡魔に襲われ、自宅へ帰ってきた天成は脱力でそのまま靴を脱ぎ床に倒れこむ。布団まではなんとか行こうと、そのまま下半身の動かし芋虫のように進んでいく。玄関についている窓から月明かりが差し込むが、部屋の奥へは届いてないので見えにくい。部屋の窓のところには厚いカーテンが閉じられており夜の外光をほぼ遮断している。同居人が寝ているのは知っているが、それより今日は布団で寝たい気分に襲われたので、こっそり布団へ忍び込んだ。いつもはたたみにタオルケットを敷いただけの簡易布団で寝ていたため、久々の布団に意識ごと吸い込まれるようだった。
ちゅ・・・・ちゅ・・ちゅぱ・・・
「ん?」
卑猥な効果音が聞こえ、皮膚や顔になんか触れられてるような違和感を感じる。眼を開けた先には一つの渓谷・・・谷間が。トップとアンダーの差が割りとあり、細みな体のせいで余計強調される。来ているTシャツがぴっちりなのも有り、艶かしさが増して見える。少し開かれた部分から胸の谷間が顔を見せており、無意識にそこに飛び込んだ。柔らかな感触が両頬骨をやさしく受け止める。頭の後ろに回された手が、そっと何度も撫でてくる。谷間から脱出させ顔を上に向けると隣で寝ていたはずの同居人が微笑んでいる。そのまま体を下にずらし同居人が自分の顔の位置までさがって視線が絡みある。そのまま唇を重ね、ゆっくりと舌を絡ませる。お互いの舌先で唇を刺激し、お互いの手がお互いの体を愛しく撫でていく。強調された胸に手を這わせ、呼吸と同じように一定のリズムで指を動かす。同居人の口から呼吸以外の声が小さく漏れる。感覚が高まり胸に突起が現れソレをわざと刺激するように指を滑らせる。指が通過するごとに体をびくっと反応させ息を荒く熱くさせていく。目がとろけたように潤みをおび、天成を見つめる。そのまま再度唇を重ね、天成の指の動きで体を反応させられる。今の同居人は完全に天成に身を委ね、そしてそれを望んでいる。やがて激しくなる手の動きに、エレナの口から発せられる声が大きくなり、そして・・・・
「ぬああああああ」
荒い息を整えるように何度も酸素を肺に送り、額の汗を近くにたたんで置いたタオルで拭う。そしてついでに体の汗も拭き布団からでる。隣で規則正しい寝息を立てて寝ているエレナを見て、台所へ向かう。寝汗を流すためとりあえず顔を洗った天成はある事に気づいた。
「あれ?・・・なんで全・・・裸?」
慌てて布団へ振り向くと布団の外に投げ出された二人分の下着が・・・・。
(いやいやいやいや、落ち着け俺・・・。昨日は帰ってきてすぐ寝たよね・・うん。寝た。いやどうみてもあれは寝たでしょう。でもなんか感触が残・・・、待て待て待て。おいおい相手は中学生だよ。たしかに3年生ともなれば、高校生っぽく大人びてくる子もいるし、そりゃぁスタイルも良くなったりかわいい子も居るよ。でも中学生って・・どんだけ餓えてるの?いや餓えてないし。ていうか年下には興味ないし反応しないよね・・うん、俺はロリコン属性はない・・断じてない。もちろん妹属性もないしどっかの漫画の金髪サングラス野郎みたいに、義妹に手を出したり青髪ピアスみたいに幼女に怒られたいってのもないよ。だって・・・そう俺は年上のお姉様属性じゃん?よく考えたら今まで付き合ってきたのって年上だし一番下でも同級生だよ。うんうん。年下に告白されることはあっても俺はいつも断ってたじゃん?それに煌みたいに幼馴染的な存在も居ないし、ましてあいつらは中学生同士じゃん?だから大丈夫なのであって・・・いやおかしい。どんなに疲れていても餓えていても、年下には何の魅力も感じないぞ。たしかに巨乳フェチの俺にとってはCカップは範囲外、Dカップ以上しか認めない。たしかにエレナのは細身の体がCカップ以上に魅せているのは否めない。確かにつんと張りのある胸だが、いくらなんでもそれはないそれはない。おちつけ、俺は・・ってあれ鏡越しに見える体にある赤いのなんでしょう・・。そうだよね蚊だよね、蚊が居たんだよね。痒くないけどさ。うん、そうそう結構昨日暑かったし、だからこの汗も納得いくよね。そうそうだって万が一にそんな行為はしてない。そう、俺の属性からすると絶対)
「天成さん」
(なkじゃちうちへべれけ)
突然背後から不適な笑みを浮かべ鏡越しに見えるエレナの顔が、にやりと笑っていて驚き以上に寒気を覚えた。
「オ、オオオ、オハヨウゴザイマシタ」
片言で体がガチガチになり、一気に思考停止状態までに達した天成は、エレナの胸元に見える赤い点に気づく・・・。
(お、おいおい。もしかして)
「エレナ・・その赤いの」
その言葉にエレナは顔を赤らめて下を向く。そしてごにょごにょと何か言いながら、体をもじもじとさせる。その姿に天成はゴクリと喉を鳴らした。もちろん、悪い意味でである。
「いっぱい・・・つけるんだもん」
「グハ・・」
今までのどんなケンカより、能力者との戦いより威力のある一発を精神的に受けた天成は、一瞬どっかのジョーの様に真っ白と化す。さらに追い討ちをかけるように腕に絡みつく。タオルケットを巻いてるとはいえ、谷間が腕を挟んで捕らえる。
「ちょ、ちょまって・・」
その手を解き部屋のほうへと歩いていく。それを後ろから憑いてくるエレナが以上に怖い。今の天成にはエレナがこの世でもっとも恐ろしい人物へ昇格した。下着に足を滑らせ布団の上に倒れた天成は、慌てて振り返る。そこにはタオルケットの前を開かせ徐々に迫り来るエレナが見下ろしている。素敵なボディラインに胸が主張し、そんな事よりも今のエレナの威圧が半端なく、天成は押され後ろに後ずさりするも壁がそれを邪魔をする。
「捕まえた♪」
そういってぺたりと天成の足の上に馬乗りに座る。足の上をすりながら近づいてくるエレナの感触がとても生々しく、さらに表情が中学生とは思えないほどの妖艶さを醸し出す。
「ま、まてまてまて」
いそいで枕元にあった自分の携帯を手に取り、電話をかける。
♪〜〜♪〜♪
頭の上から聞こえる着信音。直後「やべ」という声と同時に通話を切られる。天成はわなわなと振るえ再度同じ番号へ電話する。
「さ、サイジョウさんどうも〜」
「やっぱりてめぇの仕業か・・・」
今にも携帯を握りつぶしそうなくらい力が入るが、ギリギリで声を押し殺し堪える。
「てめぇ、寝ている俺に幻覚(ゆめ)見せやがったなぁ・・・・しかも・・・かなりのやつを・・・」
「はっはっは、最初だけですよ。あとの行為は天成さんが自分からエレナちゃんに・・・ぁ」
(ん?かすかに聞こえた今の声は夏菜実か・・まずいこんな状況は)
「天成さぁん、責任・・・とってくださいね」
胸元で上目遣いでエレナが見つめてくる。
(やめろ・・まぶしい・・・俺の穢れた魂が浄化させられる・・・み、みるなぁぁ)
「はっはっは、最初だけですよ。あとの行為は天成さんが自分からエレナちゃんに・・・ぁ」
屋根の上でケラケラと笑っていた煌だったが、背後からものすごい殺気を感じ声が止まる。振り向かずとも頭の上にかざされた右手を感じ取る。これは相当に殺気立っている。背中の汗が尋常じゃない。
「えっと・・・」
「テンセイサンニナニヲシタ」
「ねぇさん、片言やめてくだ・・」
「3・2・1」
「ちょ、死んじ」
「0」
直後にドンという衝撃が空間を振動させるも、間一髪で横に飛び退ける。その後を夏菜実はおいかける。
「ま、これには」
「・・・・・」
「うわぁぁぁ」
天成の家のドアノブに手をかけるも鍵が掛かってて開かない。そのまま何度もガチャガチャとするも開く気配はない。そして近づいてくる鬼神。まさに彼女の異名『紅蓮の女王』にふさわしいオーラが見える。
「はじけろぉぉぉ一ノ瀬ぇ」
ドンという音と共に天成の家のドアが振動の影響で外れ飛ぶ。急いで中に入った夏菜実は玄関の靴に躓き、そのまま部屋の中まで片足ケンケンしつつ最後はエレナを押しのける形で天成の上に倒れこんだ。
「いたたた。はっ、すいま・・・・」
天成の上に倒れこんだことに気づいた夏菜実は急いで起き上がろうとするも、天成のあれが目に入る。それをじーっと凝視し頬を赤らめる。
「これが・・・天成さんの」
なぜか忍び寄る手、その手をエレナが叩く。
「私の天成さんのに何しようとしてるの」
ギロリと睨みつける。それに対し目尻をひくひくさせ睨み返す夏菜実。ひくひくさせているところをみると夏菜実は相当頭に来ているのがわかる。
「一度じっくり話し合わないといけないようね」
そういって夏菜実は右手を赤黒く光を帯びていく。
「ええ、本当に」
エレナはAIM拡散力場を刺激し、反応変化させていく。そして暫くの間・・・
「はぁぁぁ弾けろぉ」
「覚悟ぉ」
「ぬああああああ」
荒い息を整えるように何度も酸素を肺に送り、額の汗を近くにたたんで置いたタオルで拭う。そしてついでに体の汗も拭き布団からでる。規則正しい寝息を立てて寝ているエレナが隣に居る。
「あ、あれ?夏菜実は?戦いは?」
周りを見ても天成の手に絡み付いているエレナが一人。
「夢か」
ふぅと安堵のため息を漏らす。べっとりと書いた汗を拭おうと、とりあえず台所へ向かう。顔を洗いこれからシャワーでもと思い、ふと何気なしに体を見る。
「赤い・・・点?」
先ほど洗ったのに顔に汗が浮かび上がる。
(あれ?デ、デジャヴ?)
「天成さん」
「ひっ」
びくぅっと身を竦めた天成の腰元に手が回され、エレナが抱きついている。よく見ると足が小刻みに震えている。
「足に・・力入らないの。・・・責任・・・とってね」
「ぬああああああああ」
「えへへ♪」
天成の叫び声をよそに、幸せそうに抱きつくエレナの顔があった。
S12 穏やかな日常はいつも一瞬で過ぎて行く
「天成〜女の子と同棲してるってのはほんとか」
エレナは酒屋のお手伝い、といっても主に家事炊事洗濯と女将さんの手伝いをしているので、天成は平日は普通に学校へ登校してきている。いつもぼけーっとしている休み時間なのだが、今日はいつもと違って自分の席を囲むように数人の男子と女子が集まっている。男は冷ややかな目、女子はキラキラと好奇心に満ちた目を輝かせている。まぁ、いろいろ思うことはあるが、まず天成がしなければならない事・・・それは
「おい・・誰の情報だ」
そう、この情報の源を知る事だ。一応笑顔を浮かべているが、それなりに付き合いのある人間なら、その笑顔が仮面だということに気がつくだろう。
「それは・・・」
少なからず黒いオーラを感じた男子は言葉を詰まらせ目を泳がせる。そしてその視線の先には一人の女子、このクラスの中で女子からも男子からも好かれている女子が控えめに手を上げる。
「はーい、それは・・・あたしなのです」
セミロングの左右の髪を一握りだけおろし、それ以外を耳にかけた女子がにやーりと笑っている。悪意は感じないのだが、これは根掘り葉掘り聞かれるなという予感をさせる笑顔である。
「この間『Seventh mist』でみたんだ〜」
「よくやった三津草(みつぐさ)」
まわりのクラスメイトがひゃっほーと盛り上がる。そんなに俺の情報が知りたいのか、などと暢気に考えていたが、おそらく男子の目的はそこではない。
「どんな子だった」
そっちか・・と半ば呆れ顔で三津草の話を聞く。一部始終を見られていたらしい。三津草は友達と一緒に来ていたので逃れようが無い。なんかいろいろ特徴を聞き男子が勝手に盛り上がる。そしてにやりとした目つきでこちらをチラチラと確認するように視線を投げる。
「な・・・なんだよ」
「・・・・・・・・」
じろーっと数人の男子と女子に見られて居心地が悪い。まぁ、なんとなく聞かれる内容が、想像できないわけではないが・・・、さすがに俺にそんな質問はしてこないだろうと高をくくっていたのだが思惑通りに行かないのが世の常。
「同棲ってことは・・もうヤっちゃったのか?」
その一言で封印していた記憶がよみがえり、体にとてつもなくぶっとい稲妻が落ちたような衝撃が走る。脳内で必死に記憶を処理し始めるがその心の声が外にまる聞こえだったらしい。
「いや・・そんな事はない。だって相手は中学生だよ。だしかにもう15だし来年は高校生だし、そりゃ多少体つきもいいだろうけど。俺は年下よりお姉様属性だし、どちらかというとショップで働いているお姉さんとかが好みなわけで、Seventh mistの店員さんとは別れてからも今も友達というか微妙な距離感の関係を保ちつつではあるが、それでも年下はちょっと・・でもやっぱりアレは夢でなく確実に現実・・リアル・・・そんなわけで・・はっ」
刺すような視線を感じまわりのクラスメイトを見る。男子は目と頬をひくひくさせ、女子は顔を赤くしながら両手で頬を押させて、なにかごにゅごにゅ言っている。
「お前ら・・・・」
天成は両手をわなわなと震わせてゆっくりと席を立つ。その姿に異様な悪寒を感じた周囲の三津草を含むクラスメイトは・・ゆっくりと後ずさりをはじめ教室のドアの方へと移動開始する。
「今すぐ記憶を消させろやーーーー」
「きゃー」
「うお・・逃げろぉ」
「まずは三津草・・・きさぁまからだぁぁ」
「やぁだよ」
舌をぺろっと出し廊下を走り出す。負けじと天成もその姿を追いかける。しばらくダダダダと廊下を走る足音が響いていたが、授業開始ぎりぎりで天成は教室へ戻ってきた。指をにょきにょき動かしながら不敵な笑みを浮かべ席に着いた。その数分後授業のチャイムが鳴ると同時によろよろと歩きながら、三津草は自分の席へついた。
「なぁ」
隣の席の男子が「何をしたんだ?」とこっそり聞いてきたが、想像に任せると言うと「ちぇっ」と再び視線を教科書へ戻した。
授業がちょうど半分くらいを過ぎた頃、ポケットの携帯が振動を始める。さっと携帯を取り出し画面を確認するとメールのマークが表示されていた。なんとなく送信者はわかっているが念のため確認する。先ほどの休み時間渦中になっていた人物・・・エレナからであった。
(了解・・っと)
学校終わったら遊び行きたいとの内容だったため、授業中と言う事もあり簡単に返事を送信する。ふと自分がなんとなく笑っているという事に気づくと同時に、三津草を含め数名が天成の方を見て、ほくそ笑んでいた。もちろん次の休み時間も追いかけ回された三津草であった。
S13 天成を確保せよ
ビルの一角の扉を開ける。そこはソファやテーブル、机が数個にPCがその机分だけ配置されている。奥には給湯室等が見える。灰色の金属の棚は上半分がガラスの引き戸になっており、資料が綺麗に並べられているここは第7学区にある風紀委員の支部の一つ、一七七支部である。
「今日もがんばりましょう」
そう言って頭に造花の花飾りをつけた初春飾利はドアを開けた。一緒に来ていたツインテールの白井黒子も中へと入る。
「固法先輩早いですわね・・って、どうしたんですの?険しい顔をして」
セミロングにメガネをかけた女性、高校生の固法はPCのモニタを険しい表情で見つめていた。初春と白井も固法の後ろから覗くように、モニタの表示されているものを確認する。
「これって」
「ついに・・ってことですわね」
後ろで呟く二人を他所に、固法は微動だせず見つめたまま・・・。
「最上君が・・・指名手配・・・」
固法はそう呟くとそのまま画面を下にスクロールさせていく。そこには容疑の内容が記載されていた。
「讃陽音楽学校中等部3年・・三橋(みつはし)エレナの誘拐・監禁容疑。見つけ次第警備委員(アンチスキル)へ連絡せよ・・・」
暫く見つめた後、固法は席を立ち上がり入り口の方へ向かう。
「固法先輩?」
ポケットから携帯を取り出した彼女を、白井が制止に入る。
「いけません、固法先輩。それは風紀委員として、容疑者に情報提供は・・・」
「・・・・ええ。そうね、ごめんなさい」
強く握り締められた携帯を再びポケットへとしまう。
「これ・・ちょっと危なくないですか」
初春はそのデータをさらに読み進めていた。
「抵抗する場合は銃器の使用を許可、エレナの身柄救出を最優先て書いてあります」
「銃器って・・彼は無能力者ですわよね。何か・・裏がありそうですわね」
「最近、スキルアウト襲撃も落ち着いたと思ったら、今度は同じ風紀委員を捕まえなきゃなんて」
「一体・・・どうなってるのかしら・・。最上君・・・」
「どうしたの黄泉川ちゃん」
学校の屋上の作に寄りかかり、空を見上げながら電話の向こうの声に応える。向こうは学校の教員をしていて、同じように人目のつかない所から電話をしているらしい。いつもより声を抑え気味で小さい。
「どうしたじゃないじゃん。あんたに三橋エレナって子を誘拐した容疑で、アンタの確保要請きたじゃん」
「は?」
一瞬理解できずにいたが、すぐさまなんとなくの事態を把握する。
「エレナって子の捜索依頼は2週間前にきていたじゃん」
「ちょっと待て。一昨日の夜捕まえた4人の少女からとか、引き渡した警備員にエレナの事情とか説明したんだけど・・・何も聞いていないのか」
不安、嫌な予感が脳裏を過ぎる。
「何言ってんじゃん。一昨日に警備員が出動なんかしてないじゃん。そんな報告も私は聞いてないし」
天成の予感は的中した。一抹の不安、それが確実になっていく。
(てことは、この間の警備員は・・・作磨の偽装か)
「おい、聞いてるじゃ・・」
黄泉川の話を強制的に終わらせ、電話帳からエレナを呼び出す。
「出てくれよ」
急いで校内の階段を駆け下りる。教室に置きっぱなしの鞄は放置しそのまま下駄箱へ走る。
『ルスバンデンワニセツゾ・・』
「くそ」
再度携帯が振動を始める。急いで出ると
「エレナか」
「はぁ?何言ってんじゃん。さっき突然」
黄泉川は少しだけ声を荒げた様子で、少しだけ耳が痛い。
「ごめん、今はエレナが危ない」
「だからどういうわけか」
「黄泉川ちゃん・・・アンタに迷惑はかけない。・・・黄泉川ちゃんは黄泉川ちゃんの仕事をしてくれ」
「お前・・・」
「ごめん」
そういって天成は通話を切った。
「意味わかんないじゃん」
通話を切られ肝心の本質は聞かされず、通話の切れた携帯に向かって愚痴を漏らす。すぐさま別の番号からコールが鳴る。
「はい、黄泉川・・・三橋エレナらしき人物を発見した?・・・わかったじゃん。・・ああ、いや確保は慌てるな。私が行くまで・・そうだ・・それじゃ」
電話を切った黄泉川は、一呼吸ついてその場を後にした。
「煌・・エレナが危ない」
エレナとの合流場所まで走って向かっている天成は、煌へ事情を説明していた。
「わかってますよ。こちらもその情報は手に入ってるんで、夏菜実ちゃんもすでに動いてます」
「助かる。エレナは電話通じないし」
「了解〜」
「一つだけ・・夏菜実にも伝えといてくれ。もし・・・・」
「わかりましたよ。その際はエレナちゃんの事は任せてください」
「ああ。最悪の場合は・・・・」
「俺と夏菜実ちゃんは指示通りに動きます」
「それじゃ」
その後、再度エレナへかけてみたが、留守番電話の機械音が流れる。通話を切った携帯をポケットへしまい、エレナとの待ち合わせの場所へ向かう。店が集まっているモールのように開けた場所があり、自販機に軽食店が並び椅子やテーブルが綺麗に並べられているその場所へ。
同日15:45
野次馬等の取り巻き、黄泉川達警備員、そして白井達の風紀委員の中心に、天成とエレナの姿があった。
S14 葛藤
「あ、もしもし」
女の子の明るい声が電話越しから聞こえてくる。まだ何も知らない、彼女はいつも通りの口調で。
「エレナ、今どこに」
「今はいつものモールの所って、息荒いね。走ってるの?」
受話器越しに聞こえる聞きなれた声は、少しだけ息が荒く短めのテンポで呼吸している音が聞こえている。
「ああ、ちょっとな。周囲に人は」
「んー学生がたくさん・・・あー、女の子観察する気なんですね」
もー、と電話越しにすねる反応をしているエレナを、天成は電話でなだめる。また子供扱いしてー、とさらに口撃してくるが、天成の電話越しの様子から何かを感じたようで、
「なにかあったの?」
心配そうに問いかける。
「この間4人を警備員に渡したと言ったけど、あれは作磨の偽装・・・まんまと騙された」
「え?そんな・・」
「今エレナを誘拐容疑で、俺にたいして手配書が出されてる」
「誘拐って・・・まさか」
「恐らく作磨だろうな。だから今日の買い物は」
そこまで話した天成は、最後の言葉はエレナの肩を背後から叩き
「無しだ」
そう伝えた。突然の声だったためエレナは肩を竦めたが、天成だとわかると体の緊張を解いた。そして手を取り走り出そうとしたとき、目の前には風紀委員の腕章をつけた少女が立ちはだかる。
「風紀委員(ジャッジメント)ですの。そちらの女性をこちらへ引き渡し、大人しくお縄につきなさい」
ツインテールの少女が腕章を示す。そして隣の、
「固法」
「最上君」
「それに・・一七七支部の空間移動(テレポーター)の白井黒子とは・・・」
エレナを天成の服の裾を掴み、体半分身を隠す。それを守るようにエレナの体の前に天成は手を伸ばす。その二人を見る限り、明らかにエレナが天成を頼っていることが伺える光景。
「最上君、大人しく一緒に来てもらえないかしら。事情を説明して欲しい」
「こ、固法先輩・・」
「白井さん、わかってるわ。だけど、どうみてもこの二人を見ると・・・、誘拐というのは腑に落ちないし」
「それは・・・そうですけれど」
固法の言葉と考えている事は同じであるのだが、風紀委員という立場上職務という事もあり、白井は固法と同じように行動しあぐねている。見るからにエレナは無理やりではなく、自らの意思で彼の傍にいるのは二人の目からしても明らかであった。
「固法・・」
「今のあなた達を見ていたら、誘拐だなんて見えないもの」
そう言って固法はゆっくりと歩き出す。天成は警戒は解かないものの、何もせずただ固法が近づくのを待っている。白井もそれを止めようとせずその場で静止している。
「天成さん」
小さく、天成にしか聞こえないくらい小さな声で、エレナは呼ぶ。それに答えるように腕にそっと触れなだめるようにさする。それに安心したのか、天成の服の裾を掴んでいる手が少しだけ緩んだ。
「最上君」
天成の前に来て少し微笑みを浮かべた固法だが、次の瞬間に天成は固法へ裏拳を放つ。
「すまん」
「え?・・・・きゃっ」
当たりこそしなかったが、固法は地面にお尻から倒れた。
「固法先輩」
その行為にすぐ様臨戦体制をとる白井だったが、直後に警備員の車が道に停車する。車の中から警備員が降りて、天成達の前に隊をとる。
「最上天成・・・」
「黄泉川ちゃん・・・」
お互い顔を見知った仲。対峙するのはコレで2度目。
「誘拐の被疑者として・・・・拘留する・・」
「そうは・・いかないんだよね」
天成は右手を指をゴキゴキと鳴らす。天成の戦闘前の準備であり、相手への威嚇でもある。
「エレナ・・逃げろ」
「え・・嫌だよ」
「言ったろ?お前を守ってやるって・・だから必ず助けに行くから、今はここから逃げろ」
「でも」
天成は顔を少し横にむけ、エレナへ視線を送る。
「わかった・・・必ずだからね」
「ああ」
エレナが走って行く音が徐々に小さくなる。それでもこの場はそれが最良の選択、天成はそう思っていた。しかし警備員は保護対象が被疑者から離れたとして、銃を構え照準を天成へと向ける。
(天成・・・お前は何を抱えてんじゃん。あの時みたいに・・・お前を汚させたくないじゃんよ)
天成は掌を上に向け前に突き出し、手の関節をまげ指で相手を挑発する。何度も警備員へ向けて。
「ああ、これが気になるのか」
ポケットから出した盾のマークが入った腕章を放り投げる。ふわりと固法の前へと落ちる。それを手にとった固法は、なぜコレを投げた理由をなんとなく察した。
「固法先輩」
空間移動した白井が固法の体に触れ、警備員の後方へと移動する。辺りは警備員の後ろや横に野次馬が集まっている。集まっていると言っても警備員によって安全のため遠ざけられているが。
「無能力者(LEVEL0)でしかも素手のやつ相手に、銃器とは軟弱な警備員だな」
「お前の実力は知っている。だからこれは当然の装備じゃん」
「ふん」
じりじりと警備員は前へと進んでくる。少しずつ縮まる天成との間合い。
「いくらお前でも、警備ロボットもいれば隙ができる。だから大人しく投降するじゃん」
「それはどうかな」
天成はにやりと笑う。ふっと地面に1つの影が増え、上から警備ロボットの上へと降下する。飛び込みのように頭をしたにしてロボットに対し掌を突き出す。
ドン
という音と共に赤黒く光る右手から発生した衝撃が振動を生み、その振動が警備ロボットにの物質内部から、膨大な熱量が発生する。まるで泡のようにぼこぼこと膨らんだ表面、やがてその熱によって警備ロボットは爆発する。それに連鎖しとなりの警備ロボットも不能にする。
「くっ」
「ま・・まて、落ち着くじゃん」
ドタタタと銃口から連続で銃弾が発射されるが、先ほどと同じように右手を突き出し空間を振動させる。その振動により銃弾がすべて受け止められている。やがて加速度がなくなった玉は地面へとぽろぽろと落ちて行く。この能力者はフルフェイスのメットを装着し、ライダースーツに身をつつんでいる。
「天成・・・」
「この装備、武装なら・・・俺を簡単に捕まえられると思ったのかい」
天成は不敵に笑う。
その天成の後姿を物影から見ているエレナ。
その背後に卑しく荒い息をした男が、静かに静かに歩み寄って来ていた。
S15 予期せぬ別れ
「くっ」
「ま・・まて、落ち着くじゃん」
ドタタタと銃口から連続で銃弾が発射されるが、先ほどと同じように右手を突き出し空間を振動させる。その振動により銃弾がすべて受け止められている。やがて加速度がなくなった玉は地面へとぽろぽろと落ちて行く。フルフェイスのメットを装着し、ライダースーツに身をつつんだ能力者は赤黒く輝く右手を警備員の方に突き出したままその場から微動だしない。
「天成・・・」
「この装備、武装なら・・・俺を簡単に捕まえられると思ったのかい」
不敵に笑う。その笑みを黄泉川は一度見た事があった。複数の警備員を前に、まるで楽しむかのように笑う天成。以前の時は両手を血で染め、まるで鬼のような。
「無駄な抵抗は止めるじゃん。いくらお前でも・・・銃弾は防げないだろう」
「あの時とは違う・・・銃弾はコイツがすべて打ち落とす」
「・・・あの時と・・同じじゃんよ」
そう呟いた黄泉川の言葉は誰の耳にも届く事無く、じわりじわりと警備員達が歩みを進める。ただ一人表情の曇った黄泉川以外、彼を拘束拘留する事になんの疑問も抱いていない。その分躊躇が無い。
「ん?」
自分に向かってくる何かを感じ取り、その方向へ天成は手をかざす。何かが触れた感触を感じた瞬間手を握る。手の中には小さなスピーカーの様なモノが手の中に・・・。
「天せ・・・きゃ」
聞こえた声は先ほどまで一緒にいた――
「エレナ」
天成の顔が強張る。というより今までに無いほどの焦りを感じているような表情。
(天成・・・どうしたじゃん)
その表情に驚いたのは黄泉川だった。今の天成の表情を初めて見た黄泉川は、さらに攻撃の合図をする事に戸惑いを覚える。
「君がこの子を誘拐していた最上天成かね」
見知らぬ男性の声。男の声の後ろから、口を塞がれた状態で声を上げているエレナの声が聞こえる。そして男は卑しげに声を発する。
「君のおかげで・・・この子は・・、いい女になった」
一層声をあげるエレナ。そしてそれの反応を楽しむように笑う男。
「てめぇ・・・」
「今の君を見れないのは残念だが・・・、拘留所の中で悔しがるがいい。エレナを・・・手放した事を・・な」
ブツと音声が途絶えた。そのスピーカを握りつぶす。その破片で手の平から赤い血が流れる。そしてその残骸を地面へ
投げ捨てる。
「あいつに合流しろ」
天成は静かに・・・押し殺すように抑揚の無い声でライダースーツの人物へ告げる。少し驚いたように一瞬視線を後ろへ向ける。その表情は背筋が凍るほど冷たく恐ろしい表情。その表情を見るに耐えれず正面へ視線を戻す。
「いいから・・・行け」
一度だけ頷き、天成の方へ走り出す。能力者の牽制が無くなり警備員が二人を目掛けて照準を合わせる。しかしそれより早く天成が警備員へ向かって、唸りをあげつつ突っ込んでいく。
「うおおおお」
無能力者(LEVEL0)だとわかっていても、今の接近してくる相手の表情から本能が後ずさりをしている。
パァ・・ン
一発の銃声。放たれた銃弾が天成の右足に命中する。一瞬その衝撃と激痛によろけるもかまわず突進をしてくる。そして2発目の銃声。左足に命中し天成はこらえ切れず大勢を崩し地面に倒れる。
「うう・・ぐ」
足を痙攣させそれでも立ち上がろうとする天成の気迫、拘束に近づいた警備員を一瞬すくませる。
「うごおおお」
ゴツという音と共に、腕で地面を叩きつけた反動で体を浮かせ足を立たせる。ブシュっと銃弾の傷口から血が飛び出る。苦痛に顔を歪ませること無く咆哮だけで堪える。
「はぁ・・はぁ・・・。悪いが・・後ろへは行かせ・・ぐっ」
一瞬で空間移動した黒子が、天成を上下逆さまに空間移動させ頭から地面へ叩き落とす。
「ぐ・・」
黄泉川は、すかさず起き上がろうとする天成に近づきスプレーを噴きかける。
「な・・よみか・・」
くらりとなる体を手を伸ばし何かを必死に掴む。
「痛っ」
白井は痛みに顔を歪ませる。白井の腕を天成が今の最大の力で掴んでいる。100%の力じゃないにしても中学生の女子にしたら相当力が強い。
「た・・のむ。・・エ・・レ・・ナを・・・・たすけ・・・・たの・・」
そこで意識が途絶えた天成は地面へついに力無く横たわった。目から流れた数的の涙。白井も黄泉川もそれが見えていた。お互いに歯がゆい思いを感じながら、それでも天成を車へ乗せる事を止める事はできない。拘留する前に病院で治療の必要があるため、まずは病院へ搬送・・その後拘留施設へと搬送される。黄泉川は車へ乗り込んだ。この場を去っていく車を、白井はただただ見ている事しかできなかった。
「離して・・・・これを解いて」
研究所のような天井に球状の電灯。室内はコンクリートの灰色一触。中央にある台に寝かされ手足を四隅に繋がれ身動き1つ出来ない。近くには実験器具や機械が置かれている。頭に装着するようのコードがたくさんついたメット。注射器に謎の液体。香奈の担当になる前の事を思い出させる今の周囲の風景。少しだけ体が震える。その震えるのを必死で押さえるように下唇を噛む。そしてもう1つ気づけば、服が病院の患者が着る患者衣に変わっていた。
「やあ・・気づいたようだね」
部屋に入ってきたのは白衣を着たオールバックの男。メガネのブリッジを中指であげる。一瞬キラっと電灯が反射する。
「さ、作磨」
目を見開きいろいろな感情がこみ上げてくる。しかし四隅に手足を繋がれ、手は握らされたまま袋を被せられて固定されている為、能力も使えない。
「ついに・・・私の元へ」
君の悪いニヤついた笑みを浮かべエレナの横に立つ。そのまま手をエレナの顔に添える。嫌がるように顔を反対側へ向けるも、指で耳を撫でられ体をびくつかせた。
「いい・・反応だ。彼の元にいて・・・いい女になった・・・」
頬からゆっくり首筋へと指を這わせ徐々に下へと移動していく。やがて体のラインが徐々に山を向かえその頂上へ向けて指進める。
「い・・いや!」
睨みつけるも男はただほくそ笑んでいる。やがて頂上付近へ近づくとその周縁に円を書くように指を動かす。それに対し体を時折びくつかせ、声を押し殺すが自分の意思とは無関係に体が反応してしまう。
「だ・・ぁあ」
山頂へ指をはじくと声をあげ一段と体をびくつかせる。そして左手は足の先から腿へゆっくりと指を走らせながら、右手は山頂を攻める。エレナの反応を楽しみながら、じわりじわりと指を動かす。そして徐に腰の辺りで結ばれた紐に手を掛けた。
「うそ・・やだ。やめ」
しゅるしゅると生地が擦れる音、そして完全に結びがとかれ不意にばさりと左右に患者衣をはだけさせられる。そのエレナを眺め彼は満足げな表情を浮かべた。
「ふふ、私好みだ。ふはははは、これからたっぷりと君を味わいつつ・・・お前を実験し(いじ)ってあげよう」
「い・・いや」
精一杯の声を押し出すも震えは隠せない。
「次第にあの男の事も忘れていくさ・・・」
「やめて!それだけは・・・消さないで」
「もうあの男とは会えないんだ・・今頃は拘留されている。それに・・・この場所は誰にもわからないさ。はっはっはっは、はーっはっはっは」
「天成さん・・・助けて」
「そうだ!助けを請え・・その男を呼び続けろ。そんなお前を落とすのは楽しそうだ」
そう言って作磨は注射器等が置かれている台から1つを取り出す。真ん中に卓球球より少し大きめの穴が開いた玉を中心に、左右にベルトが伸びている。その左右の先にそれぞれフックと金属製のリングがついている。
「いや・・・ふぐ」
玉を無理やり口に押し込められ、左右のベルトを頭の後ろに回されて、カチっというと子が聞こえる。
「うぐぅ・・・うぐ・・」
「舌を噛まれたらめんどうだからな。ははははは、さあ楽しもうじゃないか」
そう言って作磨はエレナの足の方へ移動した。
「う・・うう・・うううう」
両手足を動かしても頑丈に繋がれていてやはり動かせない。
(天成さん・・・天成さん天成さん・・・てん・・せい・・さ・・ん)
気づけばエレナの目から涙がこぼれていた。それを見た作磨は、また1つ笑みを浮かべた。
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総人口230万人の8割が学生の学園都市。そこでは学生全員を対象にした超能力開発実験が行われており、全ての学生はレベル0(無能力者)からレベル5(超能力者)の6段階に分けられた、超能力が科学的に証明された世界。その学園都市のとある学校兼研究機関にて、AIM拡散力場を刺激・反応変化させる能力者が現れた。三橋エレナ・・それが彼女の名前である。彼女の担当者の死、逃げ出した彼女が出会ったのは一人の無能力者だった。 調子に乗って2作品目(汗) 第2巻(笑) |
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