それがあなたの望むことならば~雛から凰まで~八歩 |
一成side
「水鏡先生……」
「……」
水鏡先生は何も言わずに私に紙一枚をくれました。
手紙のようでした。
「……」
送った人は現在大将軍何進。
内容はこの乱世で民たちの心を惑わす天の御使いという名の『反逆者』がここに居ることを知っていてるので、その人を渡せとのことだった。
これは公式な檄文であった。
もし逆らったら、水鏡先生は国に逆らった罪をもらうことになる。
そしてその罪は……
「ごめんなさい」
水鏡先生はそういいました。
「…何がですか?」
「私も、あの子たちも、あなたについてあまりあまく考えていた。私が見てきたあなたは優しくていい子で、ただ…子供でしたから」
でも、民たちは私を天の御使いとしてみていた。
そして、民たちが自分たちの代わりに私を仰向いているのを見て、漢皇室は私を殺そうとする。
「私は…これからどうすればいいのですか?」
「…百合に頼んで、蘆植さんのところにいけるように頼んできました。近いうちにそちらへお逃げください」
蘆植さん…
確か劉玄徳と公孫賛の師匠の……
「そしたら、水鏡先生は…大丈夫なんですか」
「私のことは大丈夫です。私を殺すことは、今のあなたを殺すこと以上に危険なことですから」
「じゃあ、鳳統お姉ちゃんや孔明お姉ちゃんは…」
「……彼女たちも大丈夫です。でも…」
「……」
蘆植という人がいる場所は確か河北。荊州からは凄く遠い。
そうなったら、鳳統お姉ちゃんともう一緒に居られなくなる。
「これって、他に誰が知ってますか?」
「あなたと私以外には、百合しか知りません」
「…私、ちょっと鳳統お姉ちゃんのところに行ってきます」
「雛里ちゃんならもうそろそろ…」
水鏡先生の声が聞こえたけど、私の足はもう部屋の外へ向かっていた。
水鏡先生side
がらり
「……」
一成ちゃん…
ごめんなさい。
私がもう少し力があったら…
がらり
「水鏡先生、ただ今戻りました」
一成ちゃんが部屋を出た後、百合ちゃんが間もなく入ってきました。
「先廊下で一成ちゃんと会いました。…話したのですか?一成ちゃんに」
「…ええ。一成君には本当に酷いことをしてしまいましたわ」
あまく考えていた。
いいえ、もしくは私の欲張りだったのかも知れません。
あの子がこの後乱世を静めるような人、天の御使いという者を、この私の手で育てて見たいという、私の欲張り。
それがあの子にこんな辛い思い出を作らせてしまった。
「先生のせいではありません。結局は、彼がどこに行ってもこんな風に噂が広まることは決められていることでした」
「けど、私という存在がそれを早くしたという事実は変わりません」
少なくとも、私ではなく、ただ普通の家で安全に育てられていたら、あの子がこんな早く皇室にその存在をばれることもなかった。
「蘆植さんはどのように…」
「許してくれました。ただ、あちらからここまで動くことはあまりお勧めできないと…」
あまり白々しく動いたら、朝廷にも意図を気づかれてしまう。
「百合、手間をかけさせて悪いけど、もう一度お願いします。一成ちゃんを連れて、蘆植さんのいるところまで行ってください」
「はい」
できたことに嘆いても仕方のないこと。
あの子のためにも、私にできることをしなければ……
一成side
鳳統お姉ちゃんを初めてあった時は闇が支配していた真夜中だった。
鳳統お姉ちゃんは私から逃げていた。私が熊か狼みたいな猛獣だと勘違いしていた。
闇の中で初めて出会った鳳統お姉ちゃんは、とっても綺麗な人で、一瞬見とれていて、時間と状況が許してくれたらその気絶している姿をいつまでも見続けていたかった。
一緒にいる時の鳳統お姉ちゃんは、実はすごく恥ずかしがりやさんで怖がりやさんだったのに、私の前にだけはとても頼もしいお姉ちゃんで居ようとしていた。
私はよかった。お姉ちゃんに甘えることができたから。
楽しかった。
お父さんとお母さんには本当に申し訳ないけど、とても楽しかった。
鳳統お姉ちゃんを含めて沢山のお姉ちゃんたちが私のことを見守ってくれているこの場所が、例えそんなに長い時間ではなかったとしても、私にとっては生きていて一番楽しい時だった。
でも、それがもう終わるかもしれない。
「嫌」
ドン
ドン…ドン
「?!」
雛里side
「誰か…いませんか……」
ずっと閉じられた蔵の中で扉を叩き続ける。
でも、外は静かで、誰もいないようです。
「……」
蔵の中はとても暗いです。
「…」
このまま夜まで誰も来なかったら……
「誰か…早く来て…せんせー、朱里ちゃん…一成ちゃん……」
ガタン
その時、
「!」
ギィイー
扉が開かれました。そしてそこに立っていたのは
「鳳統お姉ちゃん?」
「…一成ちゃん?」
いきなり光が入ってきてよく見えませんけど、声で一成ちゃんだって解りました。
「もう…閉じられちゃうから気をつけなきゃダメって言ったの鳳統お姉ちゃんだったのに……」
「…あ、あわわ…そうだったね、ごめんね」
はっ、いけない。泣いてように見られたら…
「鳳統お姉ちゃん」
ぎしっ
「ひゃっ」
袖で涙を拭こうとした私に、一成ちゃんは急に抱き付いてきました。
あまり近くまで来て、私と一成ちゃんの帽子がぶつかって両方とも蔵の地面に落ちました。
「ど、どうしたの?一成ちゃん?」
「……」
「一成ちゃん?」
私に抱きついた一成ちゃんは震えていました。
「どうしたの?何かあったの?」
「…ヤダ…」
「え?」
「嫌だよ……鳳統お姉ちゃんと離れたくないよ……」
一成ちゃん、どうしちゃったの?
何があったの?
聞きたくても、私に強く抱きついて震えている一成ちゃんに、それ以上何も言えませんでした。
ずっと闇の中にいた私もあなたを見て泣きたい気分たのに……
無言に私を求める一成ちゃんに、私は何も言わずにその頭を撫でてくれる他何もできませんでした。
扉が開いてある蔵の中で、二人で抱きついて暫く経ちました。
体に伝わる震えが止まる頃、私は一成ちゃんの頭から手を離しました。
「落ち着いた?」
「……」
「教えて?何があったの?」
「…官軍が、私を捕まえに来るって」
顔を合わせずに、私の腰を包んだ両腕も離さず、顔を俯いていた一成ちゃんの口から出てきた言葉が、私は一瞬どういう意味が解りませんでした。
「官軍が、私が居るということを聞いて、天の御使いが本当に来たって噂を聞いて私を捕まえに来るって」
「!」
そうか。
この乱世に来ると言った天の御使い。
荊州に落ちた流星。
そして、女の子だけの学院なはずのこの水鏡女学院にいる一人の男の子。
この全てが、民たちに期待を持たせるに十分な噂を作り出す。
そして、今この時代、乱世を静める天の御使いという存在は、漢皇室を威嚇するに十分な力を持っている。
だから、まだ相手が動かないうちに自分たちの手に入れさせるか、あるいは…
殺す。
まだ子供な一成ちゃんにはあまりにも酷い現実。
「大丈夫だよ。水鏡先生も何か考えがあるはずだから…きっと何か手を…」
「だから、水鏡先生が私に蘆植先生のところに行けって」
他の先生のところに行く。
確か蘆植先生なら、男女不問で弟子を入れている。
まだ顔が知らされてないはずの一成ちゃんが捕まる可能性は低い。
それじゃあ、
「じゃあ大丈夫じゃない。一成ちゃんは安心だよ。蘆植先生のところに行ったらきっと一成ちゃんも無事だから」
「でも、鳳統お姉ちゃんと…一緒に居られなくなる」
「え?」
一成ちゃん何言って、
「そんなのやだ…鳳統お姉ちゃんと一緒に居られないなんて、そんなのやだよ……」
「でも、行かないと一成ちゃん死んじゃうかも知れないよ」
「鳳統お姉ちゃんと一緒に居なくても私死んじゃうよ。だったら一秒でも鳳統お姉ちゃんと一緒に居たい」
「一成ちゃん…」
あなたは自分が死んじゃうことより、私と離れるのが怖いの?そうなの?
だから…
「一成ちゃんは、私がどうして欲しい?」
一成side
一緒に来て。
私と一緒に逃げて。
心の中の私がそう叫んでいて。
鳳統お姉ちゃんと離れたくないから。ずっと一緒にいたいから。
でも、それってただのワガママじゃない?
一緒に居たいから一緒にそんな遠いとこまできてって。
それってただのワガママにもほどがあるよ。
鳳統お姉ちゃんの全てがここにある。友たち、親と代わった家族。
鳳統お姉ちゃんは長い日々をここにいた。ここは鳳統お姉ちゃんの第二の故郷に等しい。
それに比べて私は、いきなり現れた手間かかる男の子で、会った日々も浅い。
鳳統お姉ちゃんがそんなに欲しがった塾の妹も、私がいたせいで作れなかった。
時に孔明お姉ちゃんと元直お姉ちゃんが一緒に笑っていたり、いざこざしていたら、鳳統お姉ちゃんは側でうらやましそうな笑顔をしていた。
私さえ側に居なかったら、鳳統お姉ちゃんもきっと普通にこの塾で居て、塾姉妹できて、それで、
それで…
「一成ちゃん?」
鳳統お姉ちゃんから離れた。
「…一成ちゃん?」
泣きたい。
目から涙が落ちそうでもう耐え切れない。泣きたい。
答えは出ている。
もう鳳統お姉ちゃんと離れなくちゃいけない。
だから、
「さようなら、鳳統お姉ちゃん」
雛里side
「さようなら、鳳統お姉ちゃん」
それだけ残して、一成ちゃんは後ろも振り向かずに走って行ってしまいました。
「一成ちゃん!」
呼んでも振り向かず、一成ちゃんは居なくなっちゃいました。
「……」
蔵の床には、お互いにぶつかって落ちてしまった、瓜二つの帽子がありました。
一成ちゃんがどうしても欲しいって言った、私のとそっくりのお帽子。
あの帽子を初めて被った時、一成ちゃんはすごく喜んでいました。
「一成ちゃん……」
一成side
抜け出した水鏡先生の部屋になお立ちました。
がらり
「先生」
「あ、一成君」
「蘆植先生のところに行くって、いつ頃から出来ますか?」
「え?ええ、準備はとっくに出来てるからいつでも…」
「じゃあ、明日直ぐに行きましょう」
「でも、雛里と朱里たちに話は…」
「いいです。お姉ちゃんたちには…話さないほうがいいです。会ったら、また行きたくないと言ってしまいそうですから」
「…一成君…」
ここから逃げ出す。
まるで最初からこの場所にいなかったのように、
ここでの縁って、最初からそんなもの存在しなかったのように。
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子供がワガママをはけなくなったら、 それはもう子供じゃなくなるのでしょうか それともその事さえもまだ子供だからそうなのでしょうか |
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