真・恋姫†無双〜愛雛恋華伝〜 05:この世の定め |
◆真・恋姫†無双〜愛雛恋華伝〜
05:この世の定め
酒家の手伝いに奔走する、愛紗、雛里、恋、華雄の四人。
その姿は非常に絵になり、かつ愛らしいものだと、一刀は思う。
だが。
彼女たちは本来、知将かつ武将だ。
なんの因果か、群雄割拠の時代を終えた時代から、黄巾党の乱が本格的になっていない時代へとやって来た
つまり彼女たちは、いち時代を駆け抜け生き抜いた、生え抜きの猛者たちなのだ。
経験と実践に裏打ちされたその武力や知力は、相当なものであろう。
この時代の関羽、鳳統、呂布、華雄と比べても、かなりの開きがあるだろうことは想像に難くない。
一刀は基本的に、自分やその周りに危害が及ばないのであれば争いなどしたくない、という姿勢を持っている。
そんな彼でも、彼女たちが一地方の酒家で働いているだけというのは、もったいない、と考えてしまう。
とはいえ、彼女たちは一度すべての戦いを終わらせているのだ。その上で、また同じ戦いを繰り返すという選択も酷だと思う。
結局のところ、彼女たち自身が、道を決め、場所を決め、進み方を決める他ないという結論に落ち着く。
いまのこの生活に満足を感じるなら、それでもいい。
やはり己の武を発揮できる場を求めるというのなら、それもいいだろう。
結局、必要だと思ったときに、例え気休めでも自分なりに手を差し伸べることくらいしか出来そうにない。
一刀がそんなことを考えていたころ。ひとりの女性が、関羽たちに興味を示す。
彼女の名は、趙子龍。
一刀が住む陽楽を治める公孫?の元で、客将を務めている人物である。
分かる人には、やはり分かってしまうのだろう。武人同士が惹き合う、とでもいうのだろうか。
普通の民草には分からないような、達人同士にしか分からないようななにかが、あるに違いない。
ことの起こりは、一刀の勤める酒家へ、趙雲が久方ぶりに顔を出したこと。
関羽たち四人が働きだしてからは初めての来店、ということになる。
「ほぉ……」
店の中をのぞくなり、つい声を漏らした趙雲。
彼女の視線は、給仕に奔走する関羽の姿を捉えていた。
佇まいや立ち居振る舞い、そして雰囲気を見れば、その人となりや本質は把握できる。
かねてから趙雲は考えていたし、実際にそれが間違っていたことはまずなかった。
ゆえに、彼女は疑わない。関羽の持つ武力の程を感じ取った、自分の目と直感を。
「おや、趙雲さん。お久しぶりです」
「北郷殿、ご無沙汰しております」
一刀は久しく見なかった客の姿をを目にし、声をかけた。趙雲も同じように挨拶を返す。
「随分長いこと見なかった気がしますね。烏丸対策あたりで、遠出でもされてましたか」
「遠出をしていたの事実ですが、むしろ不在にしていたのは貴方の方でしょう?」
何度無駄足を踏まされたことか。自分のせいにされているようで心外だ、と、彼女はわざとらしく溜め息をついた。
確かにそうだ。そのの返しに、彼は思わず苦笑いをする。
「そうですね。仕入れやら護衛やらで、店を空けていたのは俺の方だ」
「貴殿の料理は不思議とクセになりますからな。下手に店を不在にされると苦しくて苦しくて」
知らないだろうが不在の間に、同じように中毒で苦しむ輩が何人も店の前に転がっていた。などといわれては、さすがに大げさに過ぎる。どうせホラを吹いているだけだと、一刀は本気にしたりはしない。もっとも、似たようなことは実際に起こっていたのは彼のあずかり知らないところである。
「クセになるといっても、貴女はメンマさえあれば満足なんでしょう? 持ち歩き用に、小瓶に入れて用意してあげたじゃないですか」
「そんなものはとうに平らげております」
「いやそんな風に威張られても」
「それだけ美味だった、ということですよ」
そういわれれば、料理人として悪い気はしない。
「そういわれると悪い気はしませんね。大人しくおだてられておくことにしましょう」
「割と本心なのですが」
「それなら尚更ですよ」
ありがとうございます、と素直に頭を下げる一刀。
それを受けて、趙雲は少しばかり相好を崩す。料理ばかりではなく、彼のそんな素直なところも好んでいた。
「なので、新しくメンマを調達したいのですが」
「ちなみに、メンマ以外にきちんと食べているんですか?」
「それはもちろん。メンマがなければ、他のものを食べざるを得ないでないか」
「……そうですか」
そんな得意げにいわれても。
彼はもうそれ以上追及することをやめた。
「……なにかいいたげな顔ですな」
「気にしないでください。裏でメンマジャンキーとかいったりはしていませんから」
「じゃんきー?」
「狂おしいほど愛している人、って意味でしょうかね」
「……まぁ、よろしいでしょう」
一刀のセリフに思うところはあるようだが、趙雲は追求するのをやめておく。
「それよりも、新しく人が入ったようですな」
「えぇ。おかげさまで大分ラクになりましたし、お客さんの数も増えましたよ」
「彼女たち目当て、ですかな」
「まぁそうですね」
否定はしません、と、彼はおどけてみせる。
事実、彼女たちがやってきてから客足は格段に伸びている。
可愛い女の子や綺麗な女性が給仕をしてくれる、それを目当てに客が店を訪れる。
そんな心理を彼は否定はしないが、これほどの効果があるとは、と、正直なところ驚きを禁じ得ない。
前にいた世界でも、制服の可愛いレストランやらメイド喫茶やらが持て囃されていた。その理由がよく分かる。
まさか経営者サイドからその理由を噛み締めることになるとは思わなかったが。
そんな一刀であった。
「どうですか。趙雲さんから見て、こういうのは」
「いいですな。眼福とはこのことをいうのでしょう」
「おぉ、分かってもらえますか」
「えぇ。見目麗しい女性の働く姿、そしてそれは誰でも良いというわけではなく、洗練されていなければいけない。北郷殿こだわりのが見て取れます」
随分と過大な評価。しかし狙っていた部分は分かってもらえたようで、一刀はその同志の言葉に心強さを感じた。ふたりは互いに腕を取り合い、想い(趣味)のほどを共有する。
「しかし。料理を作る者として、そういった客は気に入らないのでは?」
「別に。構いませんよ」
趙雲の、からかうような言葉。それを聞いても、一刀は気にした風もなく受け流す。
「最初は女の子目当てでも、その後、俺の料理の味で引き止めて見せればいいんです。問題ありません」
「ふ、いいますな」
「現にこうして、通ってくださる方が目の前にいますからね」
メンマだけですけど。
そんな言葉に、彼女はおどけて、メンマだけではないというのに、と嘆いてみせる。
「まったく心外ですな、足繁く、わざわざ貴方に会いに来ているというのに」
「そんなことをいっても、メンマの量は変わりませんよ」
「……割と本心なのですが?」
「名もない民草相手に、太守のいち将軍がそこまでいいますか?」
「なに、武将といってもひとりの人間ですからな」
腹も減れば恋もする。そういって趙雲は笑う。
光栄なことで、と、それに合わせて一刀もまた笑ってみせる。
一刀と趙雲。
真名こそ交わしていないが、ふたりの仲は非常に良好だ。
もともと客将として、公孫?の元に身を寄せた彼女。それから程なくして、太守自らお勧めの場所だと連れてこられたのが、一刀のいる酒家である。
そこで出された付け合せ料理のひとつ、メンマ。それに趙雲は激しく反応した。
周囲も省みず、いかにこのメンマが素晴らしいかを力説し出したときは、一刀もどう反応したものか困ったものだ。
公孫?もそんな彼女に対し呆然としていたが、やがてその熱弁に一刀も加わってしまう。
あまりのメンマ賛歌に、彼女は他の料理を蔑ろにしている、と、彼はその熱弁を受け取ったのだ。
その後は数刻に渡り、公孫?が頭を抱えるのも意に解さず。互いに熱弁を繰り広げた。
長きに渡った料理トークは、その場はひとまず痛み分け、ということで収められた。
それからというもの、一度腹を割ったこのふたりは、なにかとふざけあったり軽口を叩き合ったりするようになった。
精神的な嗜好が似ている、というのが、ふたりを引き合わせたのかもしれない。
相手が武将だというのに、その態度が変わらないという一刀を、趙雲が気に入ったというのもある。
そしてなにより、彼の作る料理(メンマ)に絆された。これが大きい。
相手を胃袋で釣る、という手法を実演されたといってもいいだろう。
「まぁそれはいいとして」
趙雲はおもむろに話を変えてみせる。
「あの給仕の女性は、どういった御仁で?」
店の中を立ち回る関羽に視線を定めながら、彼女は尋ねる。
本題に来たな、と、一刀。
彼は素直に答える。
商隊の護衛で方々を巡っていた際、行き倒れていた彼女を保護したこと。
記憶が混乱しているようで、どうしてそんな境遇になったのか分からないこと。
この先どうするかは分からないが、どうするかを決めるまで働いてもらうことになったこと。
いろいろと鋭い趙雲を前にして、そんなことを口にしてみせる。
嘘はいっていない。本当のことすべてを口にしていないだけ。
ちなみに今日働いている面子は、関羽、鳳統、華雄。
呂布は今日はお休み。家かどこかで転寝をしているのかもしれない。
客席の間を駆け回るのは、関羽と鳳統。華雄は厨房に引っ込んでいるので姿は見えない。
「ほほう、難儀な境遇ですな」
「まったくです。俺も似たようなもんだったから、他人事だと思えなかったんですよね」
趙雲も、彼がこの地にやって来た経緯は知っている。それを思えば、そんな彼の気持ちもさもありなん、と、彼女は納得することが出来た。
「なにものなのかは、具体的には分からない、と?」
「えぇ。少なくとも今のところは」
少し、嘘を混ぜる。
分からないこともあるが、分かっていることもある。けれどそれはあまりに荒唐無稽過ぎて、説明の仕様がない。
もっとも、説明しようにも理解できるものか。
だから、一刀は強引に話を切った。趙雲も一先ず、それに乗ってみせた。
「では、彼女の武に関しては、どうなのです?」
「……分かるもんなんですか?」
「ある一定以上の力量を持つ者であれば、相手を見るだけでそれなりに推し量れるものですよ」
「一度、手合わせをお願いしたことがあります」
手加減をしてもらった状態でも、三合も持たなかった。
そのときのことを思い出したのか、彼はそういってうなだれてみせる。
「ほう、北郷殿を相手に瞬殺とは。少なくともそんじょそこらの輩というわけではなさそうで」
「ただの料理人を基準にして、なにが見えるっていうんです?」
「そのただの料理人が、武将である私を相手に十合持つのです。自信を持って良いですぞ?」
「そもそも料理人に手合わせを願い出る武将ってのが有り得ないでしょう」
「まぁあのときは確かに、伯珪殿も苦笑していましたな」
性分なのだから仕方がない。そういって彼女は悪びれない。
その点はよく分かっているので、彼もそれ以上はなにもいわない。
「いずれは手合わせをお願いしたいですな。北郷殿も来なさるといい」
「随分と入れ込んで見えますよ?」
「なに。私の目には、彼女は相当の使い手に見える。ひょっとすると私も敵わないかも知れないほどに」
「それなのに、いや、だからこそ、気になる?」
「そういうことです。武人としての性、でしょうな」
そういって、趙雲は食事もせずに店を後にした。
関羽の武人としての雰囲気を察して、食事どころではなくなったのかもしれない。
武人っていうのは、厄介な人種だよなぁ。
一刀は思う。
それでもメンマの催促だけは忘れなかったのには苦笑せざるを得なかったが。
四人にも揃って、このことをこれからのことを少し考えてもらわなきゃいけないかな。
前の世界でも知り合いだろうし、間違って真名とか呼んだら厄介だしな。
趙雲の態度を見て、そう考えざるを得ない。
まったく関わらずに過ごすことはもう無理、ということは、痛いほど理解できた一刀だった。
・あとがき
気が付いたら、「趙雲」を「しょううん」って読んでいました。駄目だろオレ。
槇村です。御機嫌如何。
熱くて頭イタイ。誤字じゃないよ。頭熱い。なんとかしてくれ。
まぁそれは置いておいて(え?)
趙雲(ちょううん)さん登場。
でも一刀との世間話で終わってしまった。でも軽口を叩き合える仲っていいよね。
さーて、この先どうするかな。
説明 | ||
槇村です。御機嫌如何。 これは『真・恋姫無双』の二次創作小説(SS)です。 『萌将伝』に関連する4人をフィーチャーした話を思いついたので書いてみた。 上記原作をベースとしていますが、原作の雰囲気、キャラクターの性格などを損ねる場合があるかもしれません。 物語そのものも、槇村の解釈で改変される予定です。 そんなことは我慢ならん、という方は「回れ右」を推奨いたします。 感想・ご意見及びご批評などありましたら大歓迎。 取り入れると面白そうなところは、貪欲に噛み砕いてモノにしていく所存。叩いて叩いて強くなる。 でも中傷はご勘弁を。悪口はなにも生み出しません。 気に入らないものは無視が一番いいと思う。お互い平和でいられますし。 読むに堪えられるモノを書けるよう精進していきます。 少しでも楽しんでいただければコレ幸い。 よろしくお願いします。 また「Arcadia」にも同内容のものを投稿しております。 |
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コメント | ||
性格や能力もそうですが、やはり胃袋を制する者は強いんだな^^;(深緑) それはともかく、少しでも楽しんでいただければ幸いです。(makimura) よかった、読み間違いって結構あるんだ。ちなみに私は“ちょうぜん”って以下略。(makimura) 槇村です。御機嫌如何。 書き込みありがとうございます。(makimura) 俺はチョウクンをチョウケと呼んでましたね(ZERO&ファルサ) 無双のころは『何進』→なんしんって読んだなぁ・・・ということはさておき、すっごい面白いっすw続き待ってますww(月千一夜) こういう知り合いっておもしろいよねwww(ペンギン) メンマで、満足するしかねぇ!(ヒトヤ) この後もがんばってください!(スーシャン) 大丈夫です、自分はしばらく貂蝉(ちょうせん)→ひょうせん とよんでましたからw(よーぜふ) |
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