それがあなたの望むことならば~雛から凰まで~九歩
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雛里side

 

 

「…雛里ちゃん、寝ないの?」

 

「うん?うん…先に寝てって」

 

「うん…じゃあね」

 

朱里ちゃんを先に寝るように言わせて、私は自分の寝台の隣にある小さな灯りだけ残して部屋の火を全て消しました。

 

寝る時はいつも帽子をかけておく寝台のへりの飾りが、今夜は左右の両方とも使用中です。

 

「……」

 

何がいけなかったのだろう。

 

私は、あの時一成ちゃんになんと言えば良かったのかな。

 

解りません。

 

一成ちゃんが、私に何を期待していたのか。

 

 

何か

 

「軍師なる資格ないね、私って」

 

 

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水鏡先生side

 

 

「……」

 

一人で、普段は飲まないお酒を少々飲んでいました。

 

どうも、ただでは眠れそうになかったので。

 

がらり

 

「あ」

 

「水鏡先生、お酒ですか?珍しいですね―」

 

突然門を開いたのは、この前私が朱里と一緒に連れてきて、今は朱里ちゃんの塾の妹になっている奏里こと元直ちゃんでした」

 

「奏里」

 

「奏でいいですよー。母様もそう呼んでいましたし。皆にもそういいましたから、先生も奏でいいのですよー」

 

「え、ええ……」

 

奏はそう行って部屋に入って門を閉めました。

 

そして、私が座っていた反対側の椅子に座りました。

 

「キャハー」

 

「何か用事があるのですか?それとも、朱里と何か問題でも…」

 

「ううん、そんなことないですよー。孔明ちゃん優しい子だし、泡ちゃんと一成ちゃんも面白い子たちだし、結構ここの生活にも慣れてますよー」

 

「そうですか。それは良かったですね。最初にあなたを見た時は、どうなるものかとも思いましたけど」

 

「キャハー」

 

奏は、何も言わずにまるで子供が無邪気に笑っているような笑いをしていました。

 

けど、その笑いの中には彼女の不幸や暗い過去が染まっていて、とっても恐ろしく、悲しく聞こえるのでした。

 

奏のことをあまり知らない他の子たちは、奏のこの笑い声が凄く気に入らないようで、そしたら奏はまた、そんな子たちにもっと聞けのように笑い続けていました。

 

 

 

「一成ちゃん、どこに行かせるのですか?」

 

「!!」

 

それを何故…

 

「解りますよー。だって、一成ちゃんも泡ちゃんもすごく優れない顔だったし、それが先生のところから一成ちゃんが出た後だということ、そして、最近塾の中に広がっている風聞とかを集めたら、そういうお台本しか思い出せないじゃないですかー」

 

「奏、あなたは…一体」

 

「奏はそういうのお上手なのですよー。人たちの感情、そしてありったけの情報、それたちを全部集めたら世界なんてたった一つの道しかないのですから」

 

「奏…あなたという子は…」

 

「奏がどんな子なのかはこの際どうでもよろしいのですよー。それより、一成ちゃんはどうなるのですか?」

 

その時、

 

私はあの子を初めて見たあの時以来に初めてその目を見ました。

 

その黒い瞳、

 

何もかもを飲み込んでしまいそうなその暗い瞳を…

 

 

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雛里side

 

 

もう何時ぐらいだろう。

 

眠れずに考え続けていて、ふと気づいたら月は下がり道を進み始めていました。

 

「…話、してみよう」

 

もう寝ているだろう。

 

起こしては悪いけど、聞かないといけない気がした。

 

明日なら、きっと遅くなってしまう。

 

あの子が「さようなら」と言ったのだから…

 

私は片方の帽子を被って、片方の帽子は手に握って朱里ちゃんが起きないように気をつけて部屋を出て行きました。

 

・・・

 

・・

 

 

一成ちゃんと水鏡先生の部屋が一緒にある塾の一番奥の建物。

 

水鏡先生の部屋は灯りがつけてありました。

 

一成ちゃんの部屋は案の定真っ暗。

 

でも、

 

 

 

「行っちゃダメだよ」

 

 

「奏ちゃん」

 

「ここからは通さないわよ、泡ちゃん」

 

建物まで後何歩という場所に、奏ちゃんはその場所を守る門番のように立っていました。

 

「どうしてここに?」

 

「泡ちゃんが来るのを待っていたよ。泡ちゃんが、一成ちゃんに行こうとするのを邪魔しようと思って」

 

「そんな…どうして?」

 

「キャハー、お休みしている子供の部屋に夜這いに行く悪いお姉ちゃんからかわいい弟を守る義務とかー?」

 

「茶化さないで」

 

「……」

 

奏ちゃんは笑っていました。

 

暗い夜中でも、その笑っている顔の瞳が月の光に反射して黒く輝いていました。

 

「どうして行かせないようとするの?」

 

「どうして行こうとするの?」

 

「行って確かめるよ、あの子が私に何を望んでいるかって」

 

 

 

「……士元

 

 

 

あの子を壊すつもり?」

 

「!!」

 

「今士元が行ったら、きっとあの子は壊れてしまうよ。天の御使いとかあったもんじゃないわよー。あの子を、この大陸を壊すつもりだったら、今奏を通ってあの部屋に入るといいよー」

 

「どうして…」

 

「士元がそれを知らないから、あの子の気持ちを解ってくれないから、士元ははあの子を壊してしまう。奏が母様を、そして奏を壊してしまったように…」

 

それを言う奏ちゃんの顔は、もう笑っていませんでした。

 

その顔は、

 

まるでこの世界の全てを知ったような顔。

 

 

 

 

「帰りなさい。自分で考えるといいわ。士元、あなたがあの子の何なのかを……」

 

「私が、私は、一成ちゃんの……」

 

何?

 

・・・

 

・・

 

 

 

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奏side

 

泡ちゃんが戻った後も、奏はずっとそこに立っていた。

 

今日はここで夜明かそうかな。泡ちゃん、気の弱い子だからまた来ちゃうかも知れないし…

 

 

 

かわいそうな子。

 

一人は幼い時に親と逸れて、その愛を知らない子。

 

一人は親の愛を一杯もらう最中で、突然変な場所に落ちて、人の愛が恋しくてたまらない子。

 

 

 

かわいそうなの。

 

ここに居る皆かわいそうなの。

 

でも、この乱世で、幸せなんてありゃしない。

 

あの子たちもそれをわかるといいわ。

 

その苦しさを知らずに、乱世の皆を救えることはできないのだから…

 

 

「へっくしょ!」

 

 

キャハー、でも、泡ちゃんが正解当たったらいいな……

 

朱里ちゃんはきっと悲しむだろうけど…それは嫌だけど……

 

ちょっと複雑かな。

 

 

 

「キャハー」

 

キャハー

 

キャハハ

 

 

 

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『さようなら、鳳統お姉ちゃん』

 

そう言った。

 

一成ちゃんは、私から離れないようとした。

 

そして今は、離れようとしている。

 

それは、

 

 

 

それは本当は、

 

実は私と離れたくないから。

 

一緒にいたいから。

 

ずっと一緒にいたいから

 

 

 

『鳳統お姉ちゃんと一緒に居られないなんて、そんなのやだよ……』

 

 

 

でも、どうやって……

 

「雛里ちゃん?」

 

あ、

 

「朱里ちゃん。ごめんね、起きちゃった?」

 

「ううん、ちょっと、厠に行こうと思って…もしかして雛里ちゃん、ずっと起きてたの?」

 

「う、うん……」

 

「…」

 

朱里ちゃんは何も言わずに私たちの寝台の真ん中にある灯りをつけました。

 

「何かあったの?」

 

「……」

 

朱里ちゃんとは、何の内緒もない。

 

私たちは、そういう友達だから。

 

「実はね、朱里ちゃん」

 

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朱里side

 

雛里ちゃんの話を全部聞いた私は、

 

「はわわ……」

 

驚く一方、戸惑いました。

 

答えは、一つしかありませんでした。

 

そして、その答えはきっと間違っています。

 

少なくとも私には……

 

でも、雛里ちゃんは私の大事な友達です。そして、私たちの間には、秘密も、嘘もありません。

 

私たちは、そういう友達ですから。

 

 

 

はわわ…とても複雑な気分です。

 

諸葛孔明、この年になった人生最大の難題に立ち向かいました。

 

「雛里ちゃんは、一成ちゃんが行っちゃったら、どうなるの?」

 

それが友を失うと知っていても、答えに導いてしまうのは、きっと軍師になる者の悲しい習性なのです。

 

 

 

 

 

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雛里side

 

私?

 

私は……

 

「私は……」

 

一成ちゃんが行っちゃっても、

 

私に変わることは何も…

 

『やだよ……』

 

 

「あ」

 

 

『鳳統お姉ちゃんと一緒に居なくても私死んじゃうよ。だったら一秒でも鳳統お姉ちゃんと一緒に居たい』

 

 

あの子は、死んでも私と一緒に居ることを選ぼうとしていました。

 

でも、それは現実には通用しないワガママ。

 

だったら、

 

「私は…」

 

あの子は、私に一緒に来て欲しいの?

 

でも、どうして

 

 

 

「我儘だから」

 

「!」

 

朱里ちゃんはそう呟きました。

 

「そのことが、雛里ちゃんにあまりにも迷惑な我儘だからだよ、雛里ちゃん」

 

迷惑って…

 

私が一成ちゃんのところについて行ったら…

 

 

 

……

 

 

「…ごめんね、朱里ちゃん、私……ちょっと、一人で考えさせて」

 

 

私は、

 

一成ちゃんは、

 

 

 

 

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一成side

 

久しぶりに、

 

お母さんとお父さんと一緒に街のお祭りに行ったことがあった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

お母さんは、輪投げがとてもお上手で、何回か投げていたら屋台のおじさんが泣いていた。お母さんは欲しいものはなんとしても手に入れる人だった。

 

お父さんは、何十回か銃を打ってお母さんに似合いそうだって変な骸骨の飾りをとっていた。

 

お母さんはため息しながらも喜んでいた。

 

「一成、あなたはこんな男になったらダメよ」

 

「それはないだろ?……、ねぇ、一成も大きくなったら私のようになるよね?」

 

「やめなさい、……、私の息子をあなたのように育てたら、この先、この子の未来に良くないわよ。色とか、色とか」

 

「おいおい」

 

色々だけに……

 

お父さんはでも、私が見る限りお母さん一直線の人だった。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

お母さんとお父さんはとても仲がいい人だった。

 

 

 

夫婦だから当然だと言ったら当然だけど。

 

ちょっと羨ましかった。

 

私にもそんな友たちが欲しかった。

 

己の全てを曝け出しても恥ずかしいと思わないような友たちが…好きな人が、

 

いたらいいなぁと思っていた。

 

 

 

お母さんは欲しいものは何でも手に入れられる人だった。

 

お父さんは、欲しがっているものを手に入れて一生が幸せな人だった。

 

私は……

 

 

 

欲しいものが手から離れていても、何もできなかった。

 

 

 

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コンコン

 

「一成ちゃん、起きてる?」

 

子瑜お姉さんだ。

 

……

 

がらり

 

「はい」

 

「…おはよう、一成ちゃん」

 

おはよう?

 

……そうか。

 

もう、朝なんだ。

 

「おはようございます、子瑜お姉さん」

 

「…昨日、寝ていないの?」

 

「ちょっと……眠れませんでした」

 

「大丈夫なの?」

 

「大丈夫です。ほら、早く行きましょ?他の皆起きちゃいますから」

 

そうなったら私行かなくなっちゃうから。

 

「…ふふっ」

 

「?」

 

子瑜お姉さんは一瞬、笑っていた。

 

何が可笑しいの?

 

 

・・・

 

・・

 

 

 

 

 

「あ」

 

「…おはよう、一成ちゃん」

 

「…鳳統…お姉…ちゃん」

 

そこには、鞄を背中に背負っている、鳳統お姉ちゃんが立っていました。

 

「お姉ちゃん?…な、何で?」

 

「…一成ちゃん、雛里ちゃんも一緒に行くの」

 

「!」

 

子瑜お姉さん、それってどういう意味ですか?

 

「鳳統お姉ちゃん」

 

「一成ちゃん、私ね。昨日の夜からずっと考えたの」

 

「あ」

 

ひしっ

 

「…一成ちゃん、私ね、一成ちゃんと会って、本当に楽しかったの」

 

「だから……一成ちゃんが泣くことは、見たくないよ」

 

「わ、…私は……」

 

「一成ちゃん、いつも笑っていたから、笑顔が一番かわいいから、いつも笑っていて欲しいの。だから……見守っていたい。ずっと」

 

「でも、孔明お姉ちゃんは?水鏡先生に、それに、それに…全部ここに」

 

「いつかはね、一成ちゃん。皆ここから離れるの。ここは、そういう場所だから」

 

「私は、それが少し早くなるだけだよ…」

 

……

 

 

「鳳統お姉ちゃん、私、

 

 

 

 

 

 

 

泣いていい?」

 

「ダーメ」

 

「うれし泣きでも?」

 

「ダーメ」

 

「あぶっ」

 

鳳統お姉ちゃんは、笑いながら私の頭に「その帽子」を被らせました。

 

遠くで見たら、誰か区別がつかないほど、瓜二つな帽子を…

 

 

 

 

 

 

説明
アレです。

離れたくないです、はい。

…いや、マジで。

………我儘です、はい、ごめんなさい。
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コメント
骸骨・・・?まさか母親は華r (≪粛清≫(FALANDIA)
ptxさん>>面白く読んでくださってありがとうございます。これからも頑張りますので見守ってください(TAPEt)
一気に読みました!なかなか面白いかったです!次回を楽しみにしてます!!(ptx)
タグ
真・恋姫無双 恋姫 雛里 一成  朱里 水鏡先生 百合 韓国人 

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