真・恋姫?無双 悠久の追憶・第十二話 〜〜意地という名の誇り〜〜
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第十二話 〜〜意地という名の誇り〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “ザンッ!!” ―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 「ぐぁ゛っ・・・ああ゛ぁ゛ぁぁっーーーーーーーーー!!!」

 

 「御遣い様っ!!」

 

刹那の静寂の後、洞窟にこだまするのは一刀の悲鳴にも似た悲痛の叫び。

 

それと同時に、ふき出した血が周りの岩肌に飛び散る不快な音。

 

そしてそれをただ黙って見つめる、踏頓(とうとつ)の冷たい瞳。

 

 

 

そんな光景を、翠は一瞬の間に何度も頭の中で思い浮かべていた。―――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

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耳を貫くような鋭い音が響いた後、洞窟の中は静寂に包まれた。

 

翠はしばらく、目を覆ったままだった。

 

すぐにこの静寂を破って、激痛に苦しむ一刀の悲鳴が耳に響くのだろうか・・・

 

それとも、それを見て笑う踏頓の甲高い声が鼓膜を揺らすのか・・・

 

手で覆った暗い視界の中で、もう何度も想像した光景がもう一度頭をよぎる。

 

しかしそんな翠の想像を裏切るように、その静寂はなかなか破られることは無かった。

 

 

 

そしていまだに続く静寂の中、一刀はゆっくりと目を開けた。

 

 「・・・どういうつもりだ? 踏頓・・・・」

 

開いた瞳は静かに揺れたまま、傍に立つ踏頓を真っ直ぐに見つめていた。

 

自分の右腕が一瞬風に吹かれたのは確かに感じた。

 

しかし、同時に襲ってくるはずの痛みはいつまでたっても感じない。

 

 「・・・・え?」

 

一刀の声を聞いて、翠もおそるおそる目を覆っていた両手を下ろす。

 

するとそこには、地面に落ちているはずの一刀の右腕も、傷口から吹きだした血も無く、あるのは地面に突き刺さった踏頓の剣だけだった。

 

 「ク・・・・ハッハッハッハッハッ!」

 

 「・・・・・・?」

 

突然踏頓は笑い出したかと思うと、一刀に背を向けて歩き出した。

 

そして引き抜いた剣を鞘に収め、さっきと同じように石造りの椅子に腰かけた踏頓は、不思議そうに自分を見つめる一刀に目を向け、笑いをこらえるようにして口を開いた。

 

 「いや、わりぃわりぃ・・・ちょっとお前を試しただけだ。」

 

 「試した・・・・って?」

 

 「そのまんまの意味さ北郷。 お前が、お前の言う大切な仲間とやらのためにどこまでできるのか試したかったんだよ。 ま、さすがの私もまさか自分の腕を差し出すなんて思わなかったけどな。」

 

そう言う踏頓の顔は相変わらず笑っているが、それはさっきまでのような人を馬鹿にしたようなものではなく、ただ純粋に楽しんでいるようだった。

 

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 「それじゃあ・・・最初から斬るつもりはなかったって言うのか?」

 

いまだに腕を切られなかったという事実に戸惑いながらも、一刀は笑みを浮かべる踏頓に問いかけた。

 

しかし踏頓は笑みを浮かべたまま、小さく首を横に振った。

 

 「いいや、それに関しては、私の中で勝手に賭けをさせてもらった。」

 

 「賭け・・・?」

 

踏頓の不可解な言葉に、一刀は眉をひそめる。

 

 「そうだ。 さっき、もしお前が少しでも逃げるような素振りを見せたら、そのまま腕を飛ばしてやるつもりだったんだが・・・お前は逃げるどころか少しも動こうとしなかっただろ?」

 

 「・・・・・・・」

 

正直言って、自分ではどうだったのか覚えていない。

 

本当に潔く腕を斬られるつもりだったのか。

 

それともただ単純に、逃げようと考える余裕すらなかっただけなのか・・・

 

 

だが理由はどうあれ、あの時動かなかったおかげで今右手がつながっているということは確かなようだ。

 

 「だから賭けはお前の勝ちだ北郷。 女は連れて行け。」

 

 「・・・・え?」

 

 「どうした?」

 

いきなりの申し出に戸惑う一刀の顔を、踏頓は不思議そうに見ている。

 

だが一刀が戸惑うのも当然だ。

 

先ほどまで自分の片腕をかけてまで助けようとしていた愛紗を、踏頓はあっさり返すと言うのだ。

 

 「だって、俺はまだ何も・・・」

 

 「だからぁ〜、賭けだって言ってんだろ? 賭けってのはな、勝った方はなにも払わなくていいモンなんだよ!」

 

『まだ何も差し出していない』そう言いかけた一刀の言葉をさえぎって、踏頓は少し苛立ったように言った。

 

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 「・・・本当にいいのか?」

 

踏頓の言い分は一見筋が通っているような気もするが、どこかメチャクチャだ。

 

せっかくの申し出も、素直に受ける気になれない。

 

 「まぁどうしても気が済まねぇってんなら、お前が差し出したのはその『勇気』ってことにしときな。 それで私は満足だ。」

 

 「勇気・・・・」

 

自分の勇気などが愛紗の命に代わるとはとても思えないが、踏頓は本気でそれでいいと思っているようだ。

 

彼女の眼は笑ってはいるが、冗談を言っているようには見えない。

 

 「ほら、早く連れていけ。 私の気が変わらないうちにな。」

 

 「・・・・ああ!」

 

少し考えたが一刀は強く頷き、横たわる愛紗のもとへと駆けだした。

 

 

近づいてみると、愛紗の胸は静かに上下していて・・・つまり彼女は呼吸をしていて、彼女が生きているということを教えてくれている。

 

彼女が無事だという踏頓の言葉を疑っていたわけではない。

 

しかし実際にそれを目の当たりにした瞬間、一刀の胸に温かいものが溢れだした。

 

 「愛紗・・・無事でよかった。」

 

愛紗の手足を縛る縄をほどきながら、傷一つない彼女の顔を見て心からの安堵の表情を浮かべる。

 

 「よかったな、御遣い様!」

 

 「ああ、ありがとう翠。」

 

翠もすぐに駆け寄ってきて、愛紗が無事であることに笑顔を向けてくれる。

 

 

愛紗を助け出せたのは、翠のおかげでもある。

 

もし自分ひとりだったら、こうはいかなかったはず・・・

 

彼女が一緒にいてくれたからこそ、逃げ出さずに覚悟を決めることができたのだ。

 

 「おっと・・・そうだ北郷。」

 

 「?」

 

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踏頓は、まだ喜びに浸っている一刀の名を呼んだ。

 

そして笑っていた彼女は表情を変え、鋭い目で一刀を見つめている。

 

 「一つだけ言っておくぞ。 今回はお前の勝ちだが・・・この次、戦場で会うときは容赦しねぇ。

決着はその時に着けてやる。」

 

 「!・・・・」

 

その言葉に、一刀はまるで夢から覚めたように目を見開いた。

 

そうだ・・・今のやりとりで全てが終わったよな気がしていたが、根本的な問題は何一つ解決していない。

 

今目の前にいる女は、まぎれもなく敵なのだ。

 

ここを去って次に会ったときには戦わなければならない・・・敵。

 

それは現状、どうやっても変えられない事実だ。

 

 

それをもう一度理解し、一刀はゆっくりと口を開いた。

 

 「なぁ、踏頓・・・俺が賭けに勝ったって言うんなら、勝ちついでにもう一つだけ・・・俺の頼みをきいてくれないか?」

 

 「何・・・?」

 

一刀の一言で、踏頓の表情はさらに険しくなる。

 

 「頼む・・・っ!」

 

だが踏頓の目線にひるむことなく、一刀は一歩前に出た。

 

それを見た踏頓は少し諦めたように小さくため息を吐いた。

 

 「はぁ〜、思ったよりも欲張りな奴だな・・・聞くだけ聞いてやる。 言ってみな。」

 

一刀は静かに“コクリ”と頷いて、かみしめるような声で言う・・・

 

 「もしか叶うなら、街を・・・・もう、翠たちの街を襲わないで欲しい!」

 

 「!?・・・・っ」

 

 「み、御遣い様っ! 何言って・・・っ」

 

 「頼む踏頓! もうこれ以上、翠たちと争わないでくれ! 翠や街の皆は、ただ平和に暮らしたいだけなんだっ!」

 

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一刀は地面に手をつき、必死に叫ぶ。

 

その目はただ真っ直ぐに、椅子に座る踏頓を見つめていた。

 

 「やめろよ御遣い様っ! そんなの無理に決まってるだろ!?」

 

 「嬢ちゃんの言うとおりだぜ北郷・・・今更、私たちの戦いは終わらねぇよ。」

 

翠と踏頓は一刀を気にしつつもお互いににらみ合い、一刀の言葉を否定する。

 

しかし一刀は二人の言葉は意に介さず、目線は踏頓からはずさないまま・・・

 

 「・・・本当にそう思ってるのか?」

 

 「・・・どういう意味だ?」

 

踏頓は相変わらずの鋭い視線で、地面に手をついたままの一刀を見下す。

 

 「戦いは終わらないって、本気でそう思ってるのかって聞いてるんだ! 踏頓・・・あんたはきっと、俺たちが思ってるようなひどい人間じゃない!」

 

 「・・・どうしてそう思う?」

 

 「だってあんたは、俺の腕を斬ることなく、こうして愛紗を返してくれたじゃないかっ!」

 

 「だから、それは賭けだと・・・」

 

 「いや違う! あんたは最初から愛紗を殺すつもりも、俺の腕を斬るつもりもなかった。

それぐらい俺にだって分かる。 戦いたくて戦ってる人間なんてそうはいやしない、誰も傷つかなくて済むならそれが一番良いに決まってるんだ! あんただって、本心ではそう思ってるんじゃないのかっ!?」

 

 「・・・・・」

 

一刀の必死の訴えに、踏頓は饒舌だった口を閉じた。

 

その目に、さっきまでの険しさはない。

 

そして、一刀の隣にいる翠へと目を向ける。

 

 「・・・お前はどう思う? 嬢ちゃん。」

 

 「え・・・っ?」

 

急に話を振られ、翠は慌てたように口ごもった。

 

そんな翠に、踏頓はさらに問いかける。

 

 「お前も北郷の言うように、私たちとは戦いたくないと思うか?」

 

 「・・・・・・・」

 

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翠はしばらく困ったように目を泳がせていたが、意を決したように拳を握り、口を開いた。

 

 「・・・私には、御遣い様が言ってるような難しいことは分からない・・・だけど、戦わずに済むんなら、それが一番良いと思う!」

 

 「・・・そうか。」

 

踏頓は翠の答えを聞いて少しの間目を閉じ、ゆっくりと開いた。

 

 「・・・わかった。 もう街は襲わない。」

 

 「え!?」

 

 「本当かっ!? 踏頓!」

 

 「あぁ。 ただし、二つほど条件がある。 まず一つ目は・・・」

 

 「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

 

 「なんだ?」

 

踏頓の言葉を遮って、翠が声を上げた。

 

 「何で・・・何でそんなに簡単に頷くんだっ?」

 

 「おかしな事を聞くんだな・・・そうやって私に頼んだのはそっちだろ?」

 

踏頓は呆れたように眉をひそめ、翠を見る。

 

 「そ、そりゃあそうだけど、でも・・・あんたは、あたしが生まれる前からずっと母さまと戦ってきたんだろ!? それなのに・・・」

 

 「ふん、まぁお前の言いたいことも分かる。 そうだなぁ・・・北郷の言葉を借りるとすりゃあ、戦いたくて戦ってるヤツなんざそうはいないってことさ。」

 

 「・・・?」

 

 「お前、どうして私たちが街を襲うのか、考えたことがあるか?」

 

 「え?・・・いや、私は・・・」

 

踏頓の質問に、翠は言葉を詰まらせた。

 

そんな事、考えたこともなかった。

 

ただ、烏丸族は街を襲う敵・・・・

 

それだけを考えて、今まで戦ってきたのだ。

 

踏頓は翠の答えを待たず、そのまま話し始めた。

 

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 「まぁ、ないだろうな・・・この辺りはなぁ、豊かな森に囲まれちゃあいるが、その割に食料が少ねぇんだよ。 だがお前も知ってる通り、私たちは数が多いからな・・・とてもじゃないがこの辺の食料だけじゃ生きていけねぇ。 だから私たちは、食料を奪う為に街を襲うのさ。 まぁ、どんな理由があろうと褒められた事じゃねぇけどな。」

 

 「・・・・・・」

 

翠は、踏頓の話をただじっと聞いていた。

 

言われてみれば、いつも烏丸族が街を襲ってきても、不思議と街の人々が傷つくことはほとんどなかった。

 

そして、それほど多くない食料だけを奪って去っていた事に、今初めて気がついた。

 

 「でも、それなら食料が無いって母さまに言えば・・・」

 

 「そうだな・・・馬騰に言えば、何も言わずに食料を分けてくれただろうさ。 あいつはそういう奴だ。 だけどそうしなかったのは・・・言ってみりゃ意地だ。」

 

 「意地・・・?」

 

 「ああ。 私たち烏丸族はずっと昔からいろんな場所を転々としてきたが、その度にその国の討伐隊に追いまわされた。 まるで・・・そこいらの山賊どもと同じ扱いでな・・・」

 

 「・・・・・・」

 

一刀は、翠から烏丸族の話を聞いた時、朱里と雛里が言っていたことを思い出した。

 

『昔の諸侯たちとの戦いで滅んだ・・・・』

 

そう思わせるほど、烏丸族は一度衰退したのだろう。

 

彼女たちは山賊でも盗賊でもない・・・れっきとした一つの民族なのだ。

 

だが周りの諸侯はそんな事は考えず、ただいたずらに彼女たちを攻撃した。

 

それは、彼女たちにとってどれほど屈辱だったことだろう・・・・

 

 

踏頓はそんな悔しさをかみしめるように、話をつづけた。

 

 「そんな訳で命からがら逃げ周り、やっとの思いで私たちは西涼までたどり着いた。

そしてもう盗賊にでも身を堕とすしかないと決意した私たちが最初に襲ったのが、馬騰の街だったのさ。」

 

そこで、踏頓は少しだけ笑顔になった。

 

まるで、親しい友人との思い出話をするように・・・

 

 「今思い出しても笑っちまうくらいボッコボコにされたよ。 あの女、容赦なくてなぁ・・・そんでもう立つのがやっとの私の前に立って、あいつはこう言ったんだ・・・」

 

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―――――― 『ワシは西涼当主、馬騰寿成! お主らがどこの誰かは知らぬが、もうこちらからは手はださんっ! だが、もし気が済まぬというなら何度でもかかってくるがいい、このワシが相手になってやる!』 ―――――――――――――――――

 

 

 「まったく・・・ここまで人をボロボロにしといて良く言うモンだと呆れたよ。 だがあいつは、

今までの国の当主のように私たちを追いだそうとはせず、真っ正面からかかって来いと言ったんだ。 なんだか、初めて自分たちの存在を認められた気がしてうれしくてなぁ・・・それから事あるごとにあいつにケンカを売った。 もちろん、食料目的でな。」

 

語る踏頓の顔は本当に楽しそうで、今まで言い争っていた事など忘れいるようにさえ見えた。

 

 「それからはもうただの意地の張り合いさ。 少し頭を下げりゃあ済む話だってのに、私たちは絶対に馬騰の手を借りようとしなかった。 馬騰の奴も、決して戦いに手を抜いたりはしなかった。 お互いがお互いを認めながら否定して・・・なんだかおかしなもんだったよ。」

 

 「でも・・・母さまは一度もあたしにそんな事言わなかったぞ?」

 

 「そりゃそうさ。 さすがのあいつも、まさか意地の張り合いで戦ってるなんて実の娘に言ったりしねぇよ。」

 

 「そんな・・・じゃあお前と母さまは、そんな理由で戦ってたのか・・・?」

 

 「ああ。 まったくくだらねぇだろ? 大の大人が二人して、そんなガキみてぇな理由でもう二十年近くも戦ってたんだから。 だけど、馬騰はもういねぇ・・・相手がいなきゃケンカする理由もねぇしな。 だからって娘のお前と続きをやるってのも筋違いだ。 北郷の言葉で、踏ん切りがついたよ。」

 

 「踏頓・・・」

 

 今まで知ることのなかった、母親の違う一面を聞いた気がして、翠は少し感動にも似た感覚だった。

 

自分が今までただの敵だと思っていた相手は、今は亡き母の事をまるで友人のように話している。

 

おそらく母の方も、踏頓の事を認め、どこかそんな風に思っていたのだろう。

 

お互いに意地という名の誇りをぶつけ合い、相手にぶつかっていたのだろう。

 

だからこそ、今まで烏丸族を西涼からおいだそうとはせず、ずっと戦い続けてきたのだろうと翠は思った。

 

 「だから、私たちが必要な最低限の食料さえ分けてくれるなら、もう街は襲わないと約束する。 もちろん、畑を耕したり、私たちにできることは協力する。 これがさっき言った一つ目の条件だ・・・どうだい譲ちゃん?」

 

 「え?・・・そりゃあ、そんなことでいいなら・・・」

 

 「よし。 それじゃあ二つ目の条件だが・・・」

 

少しの感動に浸る翠とは違い、踏頓は昔話に浸りたいとは思っていないらしい。

 

正確に言えば、昔の事を話すのは少し気恥かしいのだろう。

 

ならばこの話はここまでだ、とでも言うように踏頓は短く頷いて、今度は一刀に目を向けた。

 

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 「二つ目の条件は・・・北郷、お前が西涼を治めることだ。」

 

 「え!?」

 

 「な、なんだって!?」

 

驚く二人を見つめる踏頓の顔は真剣だ。

 

どうやら冗談で言っている訳ではなさそうだった。

 

 「ま、待てよ踏頓! そんなことできるわけ・・・」

 

踏頓がもう街を襲わないと約束してくれるなら、ある程度の条件は飲むつもりだったが、それはあくまでも他の人を巻き込まない範囲での話だ。

 

西涼を治めていたのは馬騰で、彼女が亡き今は娘である翠がその役割を担うことになる。

 

一刀が西涼を治めるということは、そんな翠の席を潰してしまうということだ。

 

 「まぁ落ち着け・・・何も本当に西涼を傘下にしろって言ってるわけじゃねぇよ。 普段は譲ちゃんが君主のままで、何かあった時にお前の指示がすぐに伝わればいいってだけの話だ。」

 

 「・・・でも、何で俺なんだ?」

 

わざわざ正当な当主になるであろう翠の上に立てと言う踏頓の言葉の意味が、一刀にはいまいち理解できなかった。

 

 「知ってのとおり、今は群雄割拠の時代だ。 馬騰という柱が失くなった今、このままじゃ西涼は周りの大国に喰われちまうのがオチだ。 それを防ぐためには、馬騰に代わる新しい柱が必要になる・・・残念だが、そこの譲ちゃんにはまだ荷が重い。」

 

 「・・・・・」

 

踏頓はそう言って、チラリと翠の方を見る。

 

翠はその言葉を否定するでもなく、だまって話を聞いていた。

 

 「俺に・・・その柱になれっていうのか?」

 

 「そうだ。 北郷、お前は自分の部下を仲間と呼び、その仲間のために自分を犠牲にしようとした。 そんだけの器がありゃあ、一国を治める主としちゃあ十分だ。 お前になら、馬騰の代わりを任せらる。」

 

 「・・・翠は、それでいいのか?」

 

踏頓の言葉は素直にうれしいが、やはりこれは翠にとって大きな問題だ。

 

彼女が嫌だと言うなら、無理強いするわけにはいかない。

 

 「・・・あぁ。 私も御遣い様なら、母さまが守り続けたこの国を守れると思う。」

 

 「翠・・・」

 

 「悔しいけど踏頓の言うとおりだ・・・今のあたしじゃあ、到底母さまの代わりなんて務まりそうにない・・・だから、御遣い様に西涼をたくすよ。」

 

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翠にとって、それはどれほど勇気のいる決断だっただろう・・・

 

そんな彼女の決意を、一刀はしっかりと受け取った。

 

 「・・・わかった。 俺が必ず、西涼を守る。」

 

一刀はゆっくりと、力強く頷いた。

 

一人の英雄が守り続けたこの国を、これからも守ると誓って。

 

 「よし! それじゃあこれで一件落着だ。 女を連れてさっさと帰りな。 きっとお仲間も心配してるぜ?」

 

 「あぁ。 踏頓・・・本当にありがとう。」

 

 「何言ってんだ、私の方こそ感謝してるさ。 お前のおかげで、もう変な意地をはらないで済む。」

 

 「・・・そうだな。」

 

一刀と踏頓は互いに見つめ合い、小さく笑った。

 

 「・・・・踏頓。」

 

 「ん? どうした譲ちゃん?」

 

すると今度は翠が、踏頓の前へと歩み出た。

 

 「あたしは・・・ずっとお前の事を、ただの敵だとしか思ってなかった。 だけど・・・」

 

きっと翠は、今まで誤解していたことを謝りたかったのだろう・・・

 

だがなかなか言えずに、言葉を詰まらせている。

 

そんな翠の気持ちが伝わったのか、踏頓は翠に微笑んだ。

 

 「気にすることはねぇさ。 どんな理由があろうと、私たちが街を襲ってたのは事実だ。

お前さんはまだ未熟だが、きっといつか母親のような立派な武人になれる。 それまでがんばれよ・・・・馬超孟起!」

 

 「!・・・・ああっ!」

 

翠はうつむいていた顔を上げ、力強く頷いた。

 

初めて自分の名前を呼ばれ、なんだか母の友人に少しだけ認められたような気がして。

 

 「ほら、早く行け。 いそがねーと日が暮れちまうぞ?」

 

 「ああ。 行こう、翠。」

 

 「うん。」

 

一刀はまだ眠ったままの愛紗を抱え上げ、踏頓に背を向けて歩き出した。

 

翠もうなずいて、一刀の後を追う。

 

 「おっと、そうだ・・・二人ともちょっと待て。」

 

 「?」

 

再びかけられて踏頓の声に、二人は足をとめた。

 

振り向いた二人に、踏頓は“ニカッ”と笑顔を向けた。

 

 「私の真名は夕羅(ゆうら)だ。 しっかり覚えておけよ?」

 

 「ああ・・・覚えておくよ、夕羅。」

 

 「あたしは翠だ・・・ありがとうな。」

 

 「フッ、それじゃあまた会おうぜ・・・北郷、翠。」 ―――――――――――――――――――――

―――――――――――――――――――――

 

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 〜〜一応あとがき〜〜

 

はい、というわけで十二話でした。

 

ちょっとお盆は忙しくて、少し更新が遅れてしまい申し訳ありません (汗

 

 

本編の方ですが、もっと刺激的な戦闘シーンとかを期待していた方にはがっかりな展開だったと思います。

 

しかし個人的には最初からこういう展開を予定していたので、満足してますww

 

思いのほか長くなったこの西涼編も次回で最後となります。

 

では、また次回も読んでやってください ノシ

説明
少し更新が遅れましたが十二話目です (汗

愛紗を助けるために自分の腕を差し出した一刀の運命は・・・・

踏頓との戦い決着です。
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コメント
砂のお城さん=ありがとうございます。 せっかく和解できた夕羅さんですが、この先出番あるのかな・・・(汗 どこかで出せたらいいなと思いますww(jes)
はりまえさん=ありがとうございます。 婿になれっていうのも面白いですねww でもそうすると愛紗さんの氷の視線が怖そうですww(jes)
はらはらしたけど、結果的に良かった、最後の二つ条件、婿になれっていうのかと思った。(黄昏☆ハリマエ)
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真・恋姫?無双 悠久の追憶 一刀 愛紗  踏頓 

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