真・恋姫無双〜君を忘れない〜 二話
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紫苑視点

 

 璃々が私の元に駆けてきて、あの青年が起きたことを知らせてくれた。あれから丸一日昏睡状態だった。念のため、医者にも見せたが、特に身体に異常は見られないようだ。昏睡状態の原因はわからないらしい。

 

 侍女にお粥を作るように指示を出して、すぐに青年のいる部屋に向かった。

 

 実際に青年と話してみると、ますますあの人と似ていた。戸惑ったような表情も、顔を赤くしている時の仕草も、あの人を髣髴させた。心が動揺しそうになるが、それを必死に堪える。

 

 しかし、侍女がお粥を持ってきて、私が自己紹介をすると、彼の表情が一変した。目が暗く曇り、身体が震え始めた。

 

 私は同じような状況に陥った人間を数多く見ている。戦争中に、恐怖のあまり壊れそうになる兵は、誰もが同じような状態になる。

 

 どこの部隊でも、そうなった兵士に対する処置は一つだった。完全に壊れ、視界に入った者を全て殺そうとする前に、その兵士を殺す。

 

 しかし、私の部隊では、殺すことはしない。兵士の心の闇を取り除いてあげれば、救う事が出来る。取り除くためには、こうすれば良い。

 

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一刀視点

 

「うぁ……。」

 

 頭の中で何か黒く巨大な生き物が暴れまわっているようだった。そいつは俺の暗い感情を全て引きずり出そうとしている。視界がどんどん暗くなっていった。

 

 寒い。暗い。怖い。

 

身体の震えが激しくなった。頭の中の黒く巨大な生き物が、俺の頭蓋を断ち割り、外へ出て、あらゆるものを破壊するだろう、そんな事を考えていた。

 

「大丈夫。」

 

 不意に、暗くなって何も見えなくなった視界に、一筋の光が見え、声が聞こえた。凍えるような寒さが和らぎ、何か温かいものに包まれたような気がした。光はどんどん強くなり、頭の中の黒く巨大な生き物が消えていくのが分かった。

 

 意識が徐々に正常に戻ると、黄忠さんが俺を抱きしめていることに気付いた。女性特有の甘い香りと、温もりが俺の体を包み込んだ。壊れかけていた俺の心も癒しているようだ。

 

「大丈夫。怖くない。」

 

 子供をあやすかのように、俺の頭を優しく撫でてくれた。俺は自分の恐怖の根源をすべて彼女に話した。ここが俺の住んでいた世界とは違う世界だということ。黄忠、厳顔が有名な男の武将であること。俺の頬には自然と涙が流れていた。

 

 黄忠さんは俺の話を何も言わずに聞いてくれた。ずっと俺を抱きしめながら。それで、かなり心が安らかになった。恐怖もかなりの部分が無くなっていた。どうやら俺は壊れずに済みそうだ……、落ち着いたら、何だか眠くなって……きたな……。

 

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紫苑視点

 

 彼の恐怖はどうやら取り除くことが出来たようだ。今は、精神的な安定したからだろう。眠ってしまった。

 

 彼は信じられないような事を口にした。自分がこの世界とは別の世界に住んでいるという。この世界より、1800年も先の未来で、私や桔梗が男性であるという。とても、信じられるような内容ではなかった。

 

 しかし、恐怖で壊れそうになっている人間が、この状態で、嘘を言うとは思えない。嘘ではないのなら、自分の言っていることが、本当に真実だと信じている狂人だとしか思えない。

 

 しかし、この青年の眼は狂人のそれとは違っていた。それでは、この青年が言っていることは本当に真実だとでも言うのか。

 

 いや、この青年は嘘をついていない。こんな真っ直ぐな瞳を持っている子が簡単に嘘なんかつくはずはない。信じよう。この子のことを。頬に流れる涙を拭いてあげながら、そう決めた。

 

「ほう、お楽しみ中じゃったか?」

 

 扉が開いて現れ、ニヤニヤしながら、声を掛けてきたのは、私の古くからの友人である、桔梗こと厳顔と、彼女の部下の焔耶こと魏延だった。

 

「これがお楽しみ中に見える?」

 

 友人の軽口に溜息交じりに答えると、桔梗と焔耶ちゃんは彼の顔をじっと見つめた。

 

「そいつが話に出た男か?まだ、孺子ではないか。」

 

「紫苑様、こいつは一体何者なのですか?」

 

 焔耶ちゃんの質問に、私はさっきこの子が言っていた話を聞かせてあげた。二人とも真剣な表情で考え込んでいる。私と同じで、あの状態でこの子が嘘を言えるはずがないと思っているようだ。

 

「ふむ……。都で妙な噂が流れておった。菅輅とか言う占師が、『天より舞い落ちる流星、天の御使いを運び、乱世から大陸を救わん』などと吹聴しているらしい。もし、この孺子の話が本当だとしたら、こいつこそ、天の御使い……。」

 

「桔梗様!あんな得体の知れない占師の言うことを信じるのですか!?」

 

「なに、天の御使いの器であれば、儂らが保護し、そうでなければ、五胡の妖術使いとして斬ればよいだけのことよ。」

 

 全く本人が寝ている隙に何を言っているのかしら。いくら、中央から遠い辺境のここ、益州で毎日退屈に過ごしているからって、この子を出しに使って楽しもうって肚ね。

 

「おっ、言ってるそばから、この孺子が目覚めるぞ。」

 

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一刀視点

 

 俺は目覚めてから徐々にさっきまでに起こったことの記憶を取り戻しつつあった。異世界に来てしまったという、訳のわからない状況に、恐怖で自分が潰れそうになったこと。それを黄忠さんが救ってくれたこと。

 

 ここまでは思い出せたけど、どうして、俺はこんな状況にいるんだ?

 

 黄忠さん、あなたのその露出度の高い服は、そうやって男の顔を挟むことを目的に作られているのですか!?

 

 断じて、俺は所謂おっぱい星人ではないが、この状況で何が出来ようか!いや、何も出来はしない!

 

 いや、ごめんなさい!嘘です!俺はおっぱいが大好きです!嘘をついたことを謝りますから、微妙に体を動かすのは止めてください!これ以上はもう限界です!その凶器から俺を解放してください!

 

 やっと、凶器から解放された俺は、いつの間にか、黄忠さんの横に立っていた別の二人の女性と、向き合っていた。

 

 一人はいかにも豪快そうな女性で、黄忠さんと同じ凶器を持っている。どうして、この人もこんな服を着ているんだ……。

 

 もう一人はショートカットの女性で、どちらかというと、ボーイッシュな感じがする。でも、どうして、そんな鋭い眼差しで俺を睨みつけているのでしょう。

 

「起きたか、孺子。儂は厳顔と申す。」

 

「私は桔梗様の部下の魏延だ。」

 

 桔梗?さっき厳顔だって自己紹介したのに。というか、この人が厳顔と魏延か。今までのイメージとは全く違うな。

 

「さて、単刀直入に聞くが、お主は天の御使いか?」

 

 はい?単刀直入に聞くがって、単刀直入すぎて、言っている意味がわからないな。天の御使い?天使的な存在で正しいのだろうか。

 

「いえ、俺は普通の高校生です。」

 

「コーコーセー?」

 

 ああ、この時代にはそんなものは存在しないのか。魏延は、何それ、うまいの?と言わんばかりに首を傾げている。

 

「ふむ、紫苑から話を聞いてはいるが、本当にこの国の人間ではないようじゃな。では、質問を変えよう。お主はこれからどうするのじゃ?」

 

 その質問には答えられなかった。これからどうする?ここには俺の知り合いなんて、もちろんいない。俺の常識も通用しない世界で、一人で生きていくなんて、可能なのか?どう考えても無理であろう。

 

「そうか。どうすることも出来んのじゃな。だったら紫苑、お主が引き取ってやったらどうじゃ?」

 

「そうね。璃々の世話をしてもらう人もちょうど欲しかったし。」

 

 え?いいんですか?倒れているところを助けてもらった上に、このまま済ませてくれるなんて、都合が良すぎないかな。

 

 そんなことを考えているうちに、俺が黄忠さんの従者として、この家に住むということが決定してしまった。

 

「孺子、そういえば、お主の名前を聞いていなかったな。」

 

「あ、はい。俺は北郷一刀と言います。これからよろしくお願いします。」

 

 そうして、俺と黄忠さんと璃々ちゃんの三人の生活が始まった。この時はまだ、これからどんなことが起こるのかを全く予想出来なかった。

 

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あとがき

 

第二話の投稿です。

 

まず、休みを利用して、ガンガン話を進めようと思っていたのですが、予想以上にこの二話をどうするかで、悩んでしまい、進めることが出来ませんでした。

 

また、この二話自体も、おそらく皆さんの期待に応えられるようなものではない気が><

 

あぁ、荒らさないでくださいね!次の話は粉骨砕身の気持ちで頑張るので!

 

今回は桔梗さんと焔耶の登場です。

 

焔耶は萌将伝で、めちゃんこ好きになりました。上手い具合に可愛く表現したいですね。

 

次回は璃々ちゃんに焦点を当てて、話を進めたいなと思います。

 

まさか、一瞬でもルーキーランキングにランクインするという奇跡が起こるとは!

 

今でも信じられません。

 

今後ともお目汚しの作品をよろしくお願いします!

 

誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。

説明
第二話の投稿です。
前回の続きで、一刀が恐怖を克服する場面です。桔梗、焔耶も登場します。

誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです、
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コメント
深緑様 紫苑さんの包容力というか、温もりは反則技ですね。男であれば誰でも甘えたくなりますよ。(マスター)
どんなに強く賢くてもやはり弱ってる時は人の・・・異性の温もりを求めてしましたくなりますからね。そんな時に紫苑に優しく抱かれたら色々吐露したくもなりますよ^^;次回も楽しみです!(深緑)
320i様 ありがとうございます!頑張って書き続けたいと思います!(マスター)
yu-ji-n様 零話からみていただいてありがとうございます!一刀の強さは物語の中で明らかにしたいと思います。(マスター)
クロスEX様 楽しみにしていただいて光栄です!ありがとうございます!(マスター)
よーぜふ様 焔耶がいつデレるか見ていてくださいww(マスター)
りばーす様 わかってくれた方がいて嬉しいですww(マスター)
poyy様 あれはまさに凶器としか呼びようがないです!w(マスター)
零話からいっきに読みました とても続きが気になります ところで一刀の強さはどれくらいなんでしょうか?できたら原作より強いほうが私的にはうれしいです(yu-ji-n)
ここから始まる√は初めてみるので 展開が読めなくて次が楽しみです!(クロスEX)
しばらく焔耶に邪険にされるんでしょうなぁ・・・はっはっw それにしてもあいかわらず桔梗さんは物騒ですなぁw(よーぜふ)
何が出来ようか!いや、何も出来はしない!>中国らしく反語ですね。わかります。(りばーす)
俺も紫苑の胸に埋もれたい!!(poyy)
タグ
真・恋姫無双 君を忘れない 北郷一刀 紫苑 桔梗 焔耶 

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