真・恋姫無双〜君を忘れない〜 三話
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一刀視点

 

 俺がこの世界に来てから、数日が経過した。その間に、この世界が俺の知っている三国志の世界とは異なっている点がいくつかあることがわかった。

 

 まずは、真名の存在だ。この間、厳顔さん達が来た時に、厳顔さんのことを桔梗、黄忠さんのことを紫苑と呼んでいたのが、真名というものらしい。とても神聖なもので、勝手に呼んでしまったら、首を刎ねられても文句は言えないほどらしい。

 

 今は、従者になったということで、紫苑さんにも真名を許してもらったが、厳顔さん達が帰った後に、紫苑さんの真名を勝手に呼ぼうとして、めちゃくちゃ怒られた。知らなかったとは言え、今後は気を付けないとな。それにしても、紫苑さん、めちゃくちゃ怖かったな……。もう怒らせないようにしないと。

 

 それから、紫苑さん、厳顔さんを見ればわかる通り、有名な武将が女性のようだ。年齢なんかも、異なるみたいだしな。俺の知っている黄忠が老将だって、紫苑さんに言った時の表情、今思い出しただけで、背筋が震えそうだ。もう二度とあの人の前で、年齢のことは口に出さないぞ!

 

 そして、歴史的にも異なっている点が見られた。まず、紫苑さん自体、ずっと、ここ益州で、劉璋に仕えているみたいだけど、黄忠が仕えているのって、劉璋じゃなくて、劉表のはずだったよな。

 

 些細な違い。確かに今の俺は、明日生きていけるかどうかも分からないような身だから、気にしなくても良いのだが、なぜか心に引っ掛かる。そんな些細な違和感も水面に水滴が落ちたように、波紋が広がるのではないかと。

 

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 結局、俺は紫苑さんの従者として、紫苑さんの屋敷に住まわせてもらっているわけだが、この屋敷には元から三人の侍女がいるため、俺がしなければならないような仕事はあまりなかった。

 

「ほら、お兄ちゃん、手が止まってるよー!」

 

 俺の横に座っているのは璃々ちゃんだ。まず、紫苑さんが俺に従者として求めた事が、文字の読み書きだった。言葉は通じるのに、何で文字は現代語じゃないんだよ。

 

 しかも、璃々ちゃんが俺の先生だなんて。確かに璃々ちゃんは、すでにほとんどの読み書きは出来るようだけど。

 

「しかも、ここの字、また違うよ!」

 

 璃々ちゃん先生、すいません。この年になって、また一から字を習うというのは非常に難しいわけで。

 

 高校の授業で漢文を学んではいたけど、もちろん極めていたわけでもなく、成績は中の上程度の俺では、幼児が読むような稚拙な本ですら読めなかった。それでも、早く紫苑さんの役に立ちたいと、必死に勉強をして、読むだけであれば、大概の本は読むことが出来るようになった。

 

 しかし、自分で書きたいことを書くというのは、非常に難しく、ニュアンスが掴めなかった。今も璃々ちゃん先生と一緒にひたすら書き取りの練習をしている。

 

「一刀くん、いるかしら?」

 

 すると、背後の扉が開いて、俺の主である紫苑さんが姿を現した。

 

「はい、紫苑さん。」

 

「あのね、買い物を頼まれてくれないかしら?空いている人が一刀くんしかいなくて……。」

 

「はい、承知しました。」

 

 紫苑さんから買うものを聞いていると、璃々ちゃんが俺の腰から顔をひょっこり出すような形で、紫苑さんを見つめていた。

 

「あら、璃々も行きたいの?」

 

「うん!」

 

「仕方ないわね。一刀くん、璃々のこともお願いできるかしら。」

 

「もちろんです。では、お嬢様、参りましょうか?」

 

 俺が彼女に、執事のようなポーズをしながら、手を差し出すと、顎を前に出して、腕を組みながら、うむ!と言って、出口に向かって歩き出した。

 

 俺は紫苑さんと苦笑しながら、言って参りますと言って、璃々お嬢様の後を追った。

 

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 この時間帯の市内はとても人で賑わっていた。俺は璃々ちゃんと逸れないように、彼女としっかり手を繋いだ。彼女はそこから抜け出さんばかりの勢いで、周囲をキラキラした瞳で見回していた。

 

 考えてもみたら、彼女は、益州・永安の太守である紫苑さんの娘。そんな簡単に外出なんて出来るはずはない。

 

 ほら、あんまりキョロキョロしていると迷子になっちゃうぞ、と頭をくしゃっと撫でる。ぱぁ、と笑う璃々ちゃん、あーもう、可愛いな!

 

 買い物自体は簡単なものだったので、すぐに終わってしまった。しかし、璃々ちゃんは何やら物足りなさそうな表情をしていたので、

 

「お嬢様、大分歩いたのでお疲れになったでしょう。向こうの小川でお休みになりませんか?」

 

 と、仰々しく彼女の手を取って小川へと向かった。ニコニコしながら、璃々ちゃんはついて来た。この執事ノリは気に入ってくれたようだ。

 

 小川の側の岩の上に二人で座り、足だけを水に浸けた。

 

「うわぁ、冷たくて気持ちぃ!」

 

 璃々ちゃんはバチャバチャと足で水を蹴る。今日は日差しが強く、少し汗ばむくらい暑いため、小川の冷たさが心地よかった。

 

 同じように涼みに来ている親子の姿もあった。父親と娘が楽しそうに水遊びをしている。璃々ちゃんの足が止まり、じっとそれを見つめていた。

 

 まだ幼い璃々ちゃんはお父さんが恋しいに違いない。璃々ちゃんのお父さん、つまり、紫苑さんの旦那さんは数年前に戦で亡くなったらしい。侍女さんの話だと、璃々ちゃんは人前で、お父さんがいなくて寂しいと言ったことはないようだけど、そんなはずはない。

 

 きっと、紫苑さんを悲しませたくなくて、そんな事を言って困らせたくなくて、言わないだけだろう。何て、健気で、良い子なんだろう。そんな事を思っていると、自然に璃々ちゃんの頭を撫でてしまった。

 

 「璃々ね、寂しくないよ。お母さんがいるもん。焔耶お姉ちゃんも遊んでくれるもん。」

 

 俺の気持ちを察したかのように、いつも通りに明るい笑顔を俺に見せてくれながら言った。この子は強い子だ。俺なんかでは、もちろん無理だろうけど、彼女の父親代りになってあげたい。

 

「よし、俺たちも遊ぶか!」

 

 ズボンの裾を折り曲げて、川の中に入り、璃々ちゃんを抱き上げて、浅い所に下ろしてあげる。急に川の中に入れられて、ビックリしたみたいだけど、すぐに顔を輝かせて、水面に手を突っ込んだ。

 

「それ!」

 

 璃々ちゃんは、そのまま水を俺にぶっかけた。

 

「うぉ!やったな!」

 

 俺もお返しとばかりに、水を璃々ちゃんにかけた。俺みたいな奴に父親代わりは無理でも、こうやって、彼女を笑顔にすることくらいなら出来る。

 

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 結局、夕方くらいまで璃々ちゃんと小川で遊んでしまった。さすがに帰らないと、紫苑さんに心配をかけてしまう、と思っていると、

 

「あ、こんなところにいたのね。」

 

 紫苑さん本人が後ろに来ていた。

 

「一刀くん、私、確か、あなたにお遣いを頼んだはずだけど。」

 

 やばい!すっかり忘れてた!少し前に、紫苑さんを怒らせないと誓ったばかりなのに。俺は川から急いで戻ると、そのままダイビング土下座で謝った。

 

「お兄ちゃんは、璃々と遊んでくれたの。だから叱らないで。」

 

 その光景を見ていた璃々ちゃんが俺を庇うように、紫苑さんと俺の間に立った。紫苑さんは、ため息を吐きながら、急ぎのものじゃないから平気だけど、と許してくれた。さすがの紫苑さんも璃々ちゃんに弱いらしい。

 

「さぁ、日が暮れないうちに帰りましょう。」

 

「うん!」

 

「はい。」

 

 そのまま、俺たちは三人で帰宅した。璃々ちゃんの左手を紫苑さんと、右手を俺と繋いで。他人が見たら、どう見えるんだろ?親子に見えるのかな?璃々ちゃんの笑顔のために、少しでもお父さんらしく出来たらいいな。

 

 ん?もし、俺たちが親子に見えたら……。紫苑さんが俺の奥さん!?そんなアホのような事を考えてしまい、ちらりと紫苑さんの方を向くと、目が合ってしまい、なーに?と笑顔で尋ねてきた。

 

 顔が赤くなるのを見られたくなくて、顔を背けたまま、何でもないです、と紛らわしたけど、ホント馬鹿だな、俺。

 

 三人で帰りながら、家族って良いものだなって思った。俺は幼いころに両親が事故で死んでから、じいちゃんに引き取られて、ずっと二人で暮らしていたから、こういう温かみを知らなかった。

 

 ずっと、こんな平和が続けば良いな。

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あとがき

 

第三話の投稿でした。

 

今回は一刀視点のみで、一刀と璃々ちゃんの話を書きました。

 

璃々ちゃんがお父さんのことを寂しがっているけど、それを口にしないとかのくだりは、

 

俺の妄想です。

 

小さい子供なので、恋しいのは当然かなと。

 

今回は皆さんの胸がほっこりするような物であればいいなと思います。

 

次回は焔耶をメインにしたいなーとか思ってます。

 

紫苑√なのに、紫苑さんの出番がww

 

もちろん、紫苑さんと一刀のことも書きますよ。

 

今日では休みが終わり、明日からまたバイトばかりの生活に戻るので、

 

更新が遅れるかもしれません。

 

頑張って書くので、お待ちください!

 

誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。

説明
第三話の投稿です。
今回は、一刀と璃々ちゃんをメインに書きました。
支援してくださった方、コメントしてくれた方、本当にありがとうございます!

誰か一人でもおもしろいと思ってくれたら嬉しいです。
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コメント
深緑様 まさかの璃々ちゃんに視点を当てた話にしてみました(笑)ほんわかしてもらえたら、作者の狙いどおりなので非常に嬉しいです。(マスター)
親子のほのぼのな休日?wまったりほんわかしてしまいました^^b(深緑)
流狼人様 長沙郡は元々劉表の支配下なので、主君は劉表だったかと。韓玄も太守の一人で、劉表に仕えていたと記憶しております。(マスター)
黄忠は劉表というより韓玄に仕えているのでは?(流狼人)
よしお。様 コメントありがとうございます!この平和が続くことを俺も願ってます。(マスター)
tanpopo様 コメントありがとうございます!ご期待に応えられるように頑張ります!(マスター)
320i様 ほっこりされたのなら、非常に嬉しいです!(マスター)
クロスEX様 和んでいただけたなら、非常に嬉しいです!(マスター)
よーぜふ様 お気に入り登録ありがとうございます!よーぜふ様の満足できるような、焔耶のデレを書きたいと思います!(マスター)
平和ですね〜(よしお)
平和でいいですね〜。続きをぜひ希望します。(tanpopo)
か・・・かわいい 和みますなw(クロスEX)
老w黄w忠w うわ紫苑さん冗談d・・・ げふっ、4pあたり紫苑さん視点だと面白そうですねw 焔耶がデレるだと・・・?これはもうお気に入りにせざるを得ないw(よーぜふ)
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真・恋姫無双 君を忘れない 北郷一刀 紫苑 璃々 

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