恋姫?無双:異聞伝〜五胡の王・3〜 |
秋も深まり、稲穂の刈り入れも終わった頃。
一人の女が龍志に面会を求めた。
「おやおや、女一人に随分と物々しい事……」
会議場に入るなり、名も名乗らずにそう言った女に険悪な雰囲気が流れる。
龍志は将の(特に臧雄の)顔色に冷汗をかきながらも、女に話しかけた。
「これは失礼。先程まで軍議を開いていたもので。気を悪くしたら申し訳ない」
「軍議…足元も定まらぬというに攻めるのは涼州かえ?」
カラカラと笑う女。一歩一歩踊るように龍志の元へと近づきながら、長い着物の裾を優雅にたゆたわせる。
「ほう。何故涼州と思ったのだ?」
「そのようなこと…董卓軍と貴軍、そして涼州の関係を考えればすぐに解る事」
ホホホと女は口元を袖で抑え笑う。
「確かに…では、足元も固まらぬ、とは?この長安は民政も備蓄も充分。涼州に攻め入るには充分だが?」
「おや、賢しい顔をして解らぬのか?」
「貴様!!言うこと欠いて若君を愚弄するか!!」
ついに激昂した臧雄が剣の柄に手をかけたのを、隣の郭仁が慌てて押さえる。
「他の者も解らぬのか?いや、解ってはおるが当面の解決策が無いと言うところかの……」
カラカラと笑いクルクルと笑う。その時龍志は女の着物の背が尾てい骨辺りまで無い事に気付いた。
「ふむ…では貴女のお話をお聞きしたい」
「何、簡単な事で……龍志殿。貴殿はこの天下に屈指の傑物。されど世の人々は貴殿に心を寄せませぬ……何故でしょう?」
「……続けろ」
「知れた事…貴殿が異民族の出自であり、貴殿の側近の多くが異民族だからです……異民族ばかり愛する狭量。それをどうにかしなくては、天下どころか涼州一つ落とせぬだろう」
「貴様!!私を愚弄するか!!」
突然龍志は立ち上がり抜き打ちに剣を放つ。周囲の者たちも驚く中、その切っ先は女ののど元にピタリと添えられた。
女は笑ったまま先程と変わらずそこに立っている。
「……貴様の名は?」
「司馬懿と申す」
「ほう、名門司馬家の次女が何故ここに?」
「何、曹操殿の強引な勧誘にいささか疲れての。ふと、長安に面白い方がいらっしゃると聞いて訪ねたまでの事……」
「そして言う事が、まず司馬より始めよ…と言ったところか?」
龍志の言葉に、女−司馬懿はクスリと笑い。
「御明察…じゃな」
「く…くくく。面白い。司馬懿!!その言葉通り俺に仕えろ!!俺は君が是非とも欲しくなった!!」
「まあ…情熱的な方」
笑いあう二人を見ながら、臧雄は傍らの郭仁の袖を引く。
「なあ兄者…まず司馬より始めよとはどういう事じゃ?」
「なんだ臧雄。まず隗より始めよという言葉を知らんのか?」
「うむむ…残念ながら」
かつて燕の昭王が天下の賢者を集める方法を食客の郭隗に聞いたところ、郭隗はまず隗より始めよと答えた。曰く、自分のような人間ですら丁重に扱うと天下の人々が聞けば必ず有能な人材が集まるであろうと。
「ただ今回は少し違う。司馬家と言えば漢の中でも著名な一族。それが我軍に味方したとなると、漢の名士達の我軍への評価もおのずと変わってくる。今まで手に入れられなかった漢からの支持を得られるだろう」
「ふむ…。俺は漢人は嫌いだが、若君や兄者がそちらが良いというならそうなのだろうな」
「漢で生き残る以上、漢人の協力は不可欠だ。それに漢人全てが悪人ではないことはお主も知っておろう」
「まあの。それにどれだけ漢人が増えようと俺達の忠義に敵う訳も無い。俺は若君の隣でこの武を揮えれば充分じゃ」
「………」
「なんじゃ兄者?」
「いや、すこしお前がうらやましくなってな」
そう言って郭仁が口の端を釣り上げた。
「さあ司馬懿…まずは軍才を見せて貰おうか」
龍志の言葉に、司馬懿は恭しく頭を垂れた。
風が吹いている。
ここ涼州は決して豊かな地では無い。しかし、この地に住む人々は誇りを持ち中原とは違った独自の文化を築きながらこの大地に立っていた。
「兄様!こっちです」
「月…まったくお前は馬だけは扱いが巧いな」
「はう…酷いです」
拗ねる月の頭をポンポンと撫で、龍志は眼前に広がる光景を見た。
「凄いな…まるでこの世の果てまで続いているようだ」
丘に立つ二人の前には、遮るもの無き大地が広がっている。黄土に塗られた大地は不毛だが、故に人類の及ぶ事の出来ない圧倒的な何かを感じさせた。
「この大地の前では…人など取るに足らない存在。そう思えてしまうな」
思わずそう漏らした龍志に、月は静かに頷き。
「はい。ですが私達は争いを止めません。領土、食糧、生存…あらゆるものをかけて争いを続けます」
ふう、と月が吐いた息は大地をかける風に流れて消えた。
「それどころか、文化が違うというだけで憎しみ合うものたちもいます」
「………」
龍志は何も答えない。彼自身、その渦中で国を家族を失ったのだ。
「……兄様。私の夢、聞いてくれますか?とても大それた、でも大切な夢を」
「……何だい?それは」
龍志の問いに、月は暮れなずむ夕日に照らされながら笑いながら小さな口を動かした………。
「主殿!」
自分を呼ぶ声に、馬上で目を閉じていた龍志はパチリとその目を開いた。
「これは失礼…お眠りでしたか」
「ああ。良いところだったと言うのに」
悪戯っぽく龍志は趙雲に笑いかける。趙雲はそれに笑って答え。
「それは失礼…ですが物見が帰ってきましてな。涼州軍はここから四十里の所に陣を構えているとのことです」
司馬懿を得てすぐ、龍志軍は董卓の旧領・涼州の奪還の為に軍を動かした。
それをうけて涼州の諸軍閥も連合し迎撃の態勢を整え、幾度かの小競り合いを挟みながら龍志軍は涼州最大の軍閥であり現涼州刺史・馬騰の居城を目指していた。
「ふむ…ひとまずは躑躅の読み通りか」
傍らに控える黒髪の軍師・司馬懿こと躑躅に目をやると、彼女はさも当然と言うように妖しく微笑んだ。
今回の遠征にあたり、龍志は筆頭軍師の魏擁と次席軍師の結を長安の守りに残すという大胆な決断をした。
その理由は二つ。自分の不在の間に長安方面の総司令官を任せられる将は郭仁と魏擁しかいない事。そして新規参入した躑躅にたてさせ軍中での地位を確固たるものにする事。
涼州は広い。もしも奥まで逃げられたら戦いは泥沼と化す。故に緒戦で決着をつけるべしという躑躅の提案は魏擁の目にかない。速戦即決を胸に龍志軍・三万は進軍を続けてきた。
「仕込みは上々…後は仕上げをごろうじろ……か」
「おやおや。まずは緒戦で圧倒されぬようせねばなりませんぞ」
「子竜…君は俺達が負けるとでも?」
「まさか…我らの前に勝ちしかない事は。明白。疑う余地もありますまい」
驕りでは無く確信。事もなげに言い放つ趙雲に、龍志は肩をすくめてみせた。
それから少し後、龍志軍三万と涼州軍五万は荒野にて対峙していた。
鮮やかな。それでいて派手でなくむしろ爽やかな薄緑の鎧に身を包み、龍志は白馬を陣頭に進める。
それに答えるかのように、一人の女将が馬騰軍から姿を現した。
深緑の装束に後ろで纏めた長い栗色の髪。手には大ぶりな十文字槍。噂に名高き錦馬超であろうと当たりを付け、龍志は両軍の中ほどでその女将を待ちうける。
「お初にお目にかかる。錦馬超殿とお見受けする」
「いかにも。この度は我が母・馬騰の名代として参った」
その言葉に馬騰が病に伏せっていると言う報告は本当であったと龍志は確信する。
「そう言う貴殿は何者か?」
「龍志…この軍の司令官でござる」
「ならば話は早い。今すぐ大義なき軍を率いて長安に帰られよ。そうすればあたし達も追撃はしない」
「大義なき…とは笑止。董卓様亡きあとの涼州をかすめ取ったこそ泥が大きな口を叩いたものだ」
龍志の言葉に、馬超の顔がピクリと引きつる。
「涼州刺史など名乗っておるが、漢帝亡き今それは自称であろう。自らの欲望で涼州を奪った逆賊を正式な涼州刺史の旗下が誅するのに何の不義がある」
「野郎…何が正式だ!董卓はもう死んでるだろうが!!」
「だからどうした。それは何らお前らの正統性を示す事にはならん。まあ、これ以上馴れぬ舌戦に時間を費やさぬ事だ。そうでなくては頭が沸騰してしまうぞ」
そう言って龍志は馬首を返す。錦馬超は武将でありこのような場には向いていないと判断しての事だ。そのような相手に理論を説いても感情で返されたらきりがない。
「てめえ…良い度胸だ!!」
十文字槍を手に馬超は龍志めがけて馬を飛ばす。龍志はそれを承知の上で馬超をギリギリまで引きつけて鞍にかけた槍を握り突き出した。
ギィィィン!!
鋭い音と共に槍が交差する。方や十文字、方や大身。白銀の刃が陽光に煌めき若き二人の将の顔を照らす。
それが合図であった。龍志軍、涼州軍。同時に鼓を打ち鳴らし敵方めがけて馬蹄を鳴らす。
龍志軍の先陣は炎の豪将・臧雄。二頭立ての戦車に乗り、手にした大偃月刀を構える。
馬騰軍の先手は涼州軍閥の二角・成宜と李堪。各々大刀を手に敵を喰い破らんと差し迫る。
それをめがけて猛然と戦車をかける臧雄。李堪がそれに気付き大刀を構えた時にはすでに、臧雄の偃月刀は彼の首を跳ね飛ばしていた。
おのれと戦友の死に馬をかける成宜。臧雄は悠然と馬首をそちらに向けるや、突き出される大刀を偃月刀の柄で防ぎ、すかさず振り下ろした一刀で成宜を唐竹割に切って捨てた。
なんという圧倒的な武勇。董卓軍旗下にあった時、唯一呂布と互角に刃を交えたその腕は衰えてはいない。
瞬く間に先陣の将を討たれ動揺する涼州軍。それを埋めるべく後陣の楊秋と程銀が上がってくる。
それに対し、再び臧雄が戦車を走らせる。それだけではない。火の旗を掲げた騎馬兵が猛然と涼州兵に襲いかかる。
同時に左翼では、趙雲が二又の槍を手に激闘を繰り広げていた。立ちふさがるは馬騰の片腕・鳳徳。朴刀を手に激しい一撃を趙雲へと放つ。
「見事な腕前…その朴刀、その白馬。さては貴殿が涼州の白馬将軍・鳳徳殿か!!」
「如何にも。我こそが鳳令明!!」
そう言って朴刀を揮う鳳徳。その一撃の重さに、微かながら眉間に皺を寄せながらも趙雲は隙を見て鋭い槍の一撃を繰り出す。
「我が名は趙子竜。天下を揺るがす雷龍・龍志殿と共に天に昇らんとする龍の一人!!我が槍は無双…我が槍は無敵……その身に覚えよ、鳳徳よ!!」
「ち…さっさとあのじゃじゃ馬を連れ戻しに行きたい所を……」
ギリリと歯噛みする鳳徳めがけて、趙雲の槍が襲いかかった。
同じく左翼。ここでは郭仁率いる軍勢が、馬岱・候選率いる軍勢と戦闘を開始していた。
「があああ!!」
郭仁の鉤鎌槍が候選を貫く。
涼州人の気質から言って、おそらく一騎打ちを仕掛けてくるだろう。その躑躅の予想通り、面白いように一騎打ちの相手が釣れていた。
「やれやれ…己が力量すら読めぬとは。誰かわしを倒せるものはおらぬのか」
「ここにいるぞ!!」
叫びと共に郭仁の脇めがけて繰り出される一閃。それを郭仁は鉤鎌槍で軽く払って見せる。
「……どこにいると?」
「う〜嫌な奴」
片刃の槍を構える少女に、郭仁は鉤鎌槍の切っ先を天へと向けたまま問いかける。
「娘…名は?」
「馬岱!!馬超の族弟!!」
「我が名は郭仁……我が刃は女人に向けるものではない。去れ」
「そうはいかないよ…馬一族の意地を見せてやる!!」
「……そうか」
ただそれだけ答えて郭仁は静かに槍を馬岱に向けた。
全軍が混戦の模様を呈する中、龍志は馬超との激闘を続けていた。お互いに総大将同士、負ければそれは戦の負けに繋がる。
それだけに両者一歩も譲らず、その華麗にして冷酷な武技を重ねていく。
「龍志殿!!御命頂戴!!」
槍を扱いて涼州軍閥の一人、張横が龍志へ襲いかかる。そうはさせじと鉄の槍を手にした候伯が自慢の鯰髭を揺らしてそれを防いだ。
「若君には一歩も触れさせん!!」
その気迫に張横がたじろいだところに候伯の鉄槍が振り下ろされ、張横は脳漿をぶちまけて馬から落ちた。
「候伯!!こちらには手を出すなよ!!」
「解っておりますとも!某の役目は若君の露払いにございます」
風車の如く鉄槍を振り回す候伯に、涼州兵は次々と地に身を沈めて行く。それを横目に馬超はぎりりと歯を噛んだ。
数の上ではこちらが有利。しかしこの戦況は何だ。自軍の主要な将は次々と討たれ、涼州軍は龍志軍に圧倒され続けている。
「如何した馬超。槍先が鈍って来たぞ」
額に汗を滲ませながらも龍志が笑う。
数に劣る龍志軍が優位に戦を進めるために、躑躅が提案したのは涼州人の武の気質を利用した一騎打ち戦法だった。血気盛んな涼州人は一騎打ちを好む。なればこそ、そこに付け入るべきだ。
躑躅の案は的中し、一騎打ちを利用して龍志軍は優位に戦を進めている。
(だが…)
龍志は思う。長期戦になり敵が態勢を立て直せばこちらが不利。また自分が今刃を交えている錦馬超。その腕も彼の予想を上回っていた。
かつて人馬一体の将に出会った事は幾度かある。恋こと呂布のそれはまさしくこちらを焼き尽くさんとする業火であったし、張遼は瀑布の如き様であった。
しかし馬超はそのいずれとも違う。例えるなら竜巻。近づく全てを吹き飛ばさんとする激情の槍。
だが、それは馬超も同じ。馬と共に襲い来る龍志の槍はまさに雷光。風を裂き、彼女ののど元を引き裂かんと襲い来る。
両者全くの互角。しかしそうであるが故に、戦の勝敗は他の将に委ねられる。
ドンドンドンドンドン……!!
不意に鼓が鳴り響いた。龍志軍の側面。そこにあった小高い丘を越えて姿を現したのは韓の旗と馬の旗。
涼州軍閥の中でも馬騰に次ぐ力を持つ韓遂と馬玩、粱興。
目指すは本陣。龍志軍の中枢を討つべく騎馬軍を走らせる。
龍志に代わり全軍の指揮を取る自分めがけて押し寄せる軍勢。それを見てクスリと躑躅は笑った。
「さあ…そなたの出番ぞ。雄を振るい、過去の屈辱を払うが良い……」
迎撃の為に飛び出す後曲の軍勢、その先頭に立つは長剣を手に外套に身を包んだ将。
「何だ貴様!!そのいじけた姿で俺に勝てると思うてか!!」
その将を見るや、馬玩が馬を飛ばし襲いかかる。今までの展開を聞いている韓遂がそれを止めようとするがその間もなく馬玩は外套の将に襲いかかった。
ズドッ
響く鈍い音。馬玩は自らの胸に突き立ったものが信じられないというように目を見開いてゆるやかに空を仰いでいく。
「よくも馬玩を!!」
激した粱興が外套の将に襲いかかる。将の剣は馬玩に刺さっており、将に反撃の手段は無い。
「死ねぇ…い?」
そう、無い筈であった。外套に隠された手から二本目の長剣が飛び出すまでは。
「馬…鹿な……」
喉を貫かれ崩れ落ちる粱興。その手が外套にかかる。剥ぎ取られる外套。そこから姿を現した将は、憐みを持って今自分が倒した二人の将を見つめていた。
「一歩間違えれば…私もこうであったのだろうな」
呟き剣から血を払う。肩上の銀髪、刃物のように鋭い眼。旧董卓軍の勇将・華雄はそう呟いた。
龍志達が旧董卓軍の残党を受け入れる過程で彼女もまた長安へと辿りついていた。しかし初戦で敗退を期した彼女の自責の念は深く、今まで表舞台に出る事は無かった。
故に龍志はこの戦に彼女を随行させた。
新たなる始まりとするために。
「ふ…やはり私には戦しかないということだな」
苦笑いを浮かべ、華雄は右手の剣を掲げる。過去の自身と共に失った斧。その代わりに龍志より与えられた新たな相棒。
「いいか!!ここをしのげば敵に次の手は無い!!全軍死力を尽くせ!!」
「きゃん!!」
馬上より引きずり落とされ馬岱は悲鳴を上げて地面に落ちた。
郭仁は静かに、彼女の服の裾に引っかけた鉤鎌槍を外し切っ先を彼女の喉元に向ける。
こと捕縛に関して郭仁の右に出る者はいない。その妙技の一端を見せただけである。
「神妙にせよ。すでにお主等の帰る場所は無い」
「え?それはどういう……」
馬岱が言い切るより早く、中軍の交戦地域より声が上がった。
馬超を捉えた。全軍降伏せよ。という龍志軍の声が。
どうしてこうなったのか。馬超は自問を重ねる。龍志との一騎打ちの最中、居城より駈けてきた伝令の報告に気を取られた瞬間、彼女はしたたかに龍志の槍を受け地に伏していた。
一瞬の隙。それが達人同士の戦いでは致命的であると知りながらも、かわす事が出来なかった。
居城が落とされ、母・馬騰が捕らえられたなどと聞いたら。
馬騰の居城。その会議場に今回の戦いで主だったものが集められていた。
中央上座の椅子に座るは勝者・龍志。その傍らに控えるは郭仁を始めとした龍志軍の将。
そして馬超達は縄目の辱めを受けて、龍志の前に膝をついていた。
屈辱に身を震わせながらも、馬超はきっと龍志を見据える。
それを龍志は穏やかな瞳で受け止めた。
戦闘に先立って、龍志は張戯率いる風車衆とよばれる工作部隊を商人や旅人に化けさせて馬騰の居城に侵入させていた。
そして龍志本隊との戦いの為に城が手薄になった時を見計らって、一気に城主・馬騰の身柄を拘束したのだ。
潜入した少数の兵で城を完全に制圧することは難しい。しかし病んだ馬騰一人の身柄を押さえ城兵の動きを抑えることは風車衆にとって難しくない。
結果。馬騰は捕まり、その報に混乱した馬超軍も龍志本隊に蹴散らされた。
完膚なきまでの敗北であった。
そして今勝者と敗者と言う形に明確に分かたれ、馬超はここにいる。
「………馬騰殿」
龍志が口を開き立ち上がる。そのまま、馬騰の元へと静かに歩み行く。
白刃を抜き放ちながら。
「!?待て、手前何を!!」
「静まれ!!」
郭仁の一括に馬騰の配下の者達も口を噤む。龍志はそんなことは歯牙にもとめず馬騰の後ろに立った。
そして……。
ブツッ
彼女の縄を切った。
「……どういうことですかな?」
「深い意味は無い。俺達は涼州を取り戻せればいいだけであって、そこに住む君達をどうこうするつもりは無い」
「ほう…では我等を許すと?」
「許す許さないなんてのは問題じゃない。そもそも、お互いに思うところあって刃を交えただけ。しかしその目的は同じだろう」
剣を収めながら小さく笑う龍志。馬騰は穏やかな目のままそれを見つめる。
「涼州の安泰。それは俺も君達も同じく求めている。ただ俺達は旧主・董卓の為にこの地が欲しく、君達は自分達の独立の為に欲しかった…しかし今、戦を持って我等の序列は決した。なればこそ、今ここに我等は涼州を愛する同士として手を取るべきだと思うのだが?」
「……随分と都合のいい話だな」
「承知の上さ。しかし、今の君達の状況を考えると破格の条件だと思うが?」
「確かに…しかし、我らが再び裏切るとは考えないのかね?」
「今度は一族を根絶やしにされたいのかい?」
威嚇も何もすることなくさらりと龍志が言った言葉に、馬超は背中に冷たいものが流れるのを感じる。実際にそうなったら目の前の男は躊躇うことなく自分達を殲滅するよう命を下すだろう。
そしてそれを実現するだけの実力も持っている。
「……解り申した。こうなっては是非も無い。私はあなたに従おう」
そう言って馬騰は頭を下げた。それを残る軍閥、韓遂、程銀、楊秋の三人は黙って見つめていたが、観念したかのように頭を下げる。
それは涼州が再び董卓軍の傘下に入ったことを意味していた。尤も今は龍志軍と言った方が良いかもしれないが。
「ただ、一つ条件がございます」
「何かな?」
顔を上げた馬騰はちらりと傍らの馬超を見た後、龍志を見つめ。
「我が娘、馬超を貴殿の嫁にしていただきたい」
「…………」
「…………」
しばし沈黙。
「「何いいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!!!!???」」
ほぼ同時に龍志と馬超は叫んでいた。
「そうすれば、貴殿と我々の繋がりも強くなり貴殿は我等の裏切りを気にしないでよく、我々も貴殿と娘の間に子が生まれれば地位も安泰。悪い話ではないかと思いますが?」
なにより。と馬騰は言葉を続け。
「そろそろこの子も男を知らなければならぬ歳です。生きているうちに私は孫の顔が見れるのでしょうか……」
よよよと泣き崩れながら母親の顔でそう言った。
「ま、待て馬騰殿。そのようなこと重臣と相談せねば……」
「良いのではないですかな?」
「良いと思いますぞ」
「良いんじゃないですか〜」
「うむ。めでたい事じゃ」
「悪い話では無いのう」
「何を言っているんだお前達はああぁぁぁ!!!!!!!!」
宿将達と軍師の反応に思わず声を上げる龍志。
「しかし、龍志様ももう女を知っていても可笑しくない御歳」
「妻の一人もいないと格好付きませんよ〜」
「龍志様の婿姿を見るまでは爺も安心して死ねませんぞ」
「そうと決まれば宴じゃぁ!!」
「まあ、わらわは側室でもかまわぬし……」
「いやいやそう簡単な話じゃないだろう。というか、候伯にはまだ死なれちゃ困るし、臧雄も気が早すぎる!!」
ふとそこで、救いを見るような眼で黙している趙雲を見ると。
「……良いのではないですかな?」
満面の笑みで返された。何故かその笑顔に背筋が寒くなり龍志は小さく体を震わせる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!!あたしの意見は無いのか!?」
「おめでとう姉様〜お幸せに〜」
「このような形で先に行かれるとは…姉代わりとして喜べばいいのか嘆けばいいのか……」
「そうと決まれば準備もいるのう」
「どうする楊秋。祝いの言葉は考えたか?」
「侮るな程銀。何ならお前の分も考えてやろうか?」
「お前らもかああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
馬超の悲痛な叫びが響く。
先程とは打って変わって賑やかな会議場。その中で外套に身を包んだ華雄は小さく溜息を吐いてこう漏らした。
「まったく…先が思いやられる」
黄昏の中、月の小さな口から凛とした言葉が漏れる。
「わたしは、文化とか民族とか……そういう垣根の無い世界を。漢の人達も騎馬の民達も共に暮らせる……そんな国を作りたいんです」
その言葉に、龍志はただ聞き入っていた。
夕日に照らされた少女の顔を、ただ見つめる事しかできなかった。
ここは涼州。
月と龍志の始まりの大地。
あとがき
翠可愛いよ翠。
説明 | ||
これは、真・恋姫?無双の二次創作の皮を被った、オリジナル小説もどきです。 恋姫を心から愛する人や、主人公は一刀主義の方、自慰小説乙wwなかたは絶対に読まないでください。 警告を無視して読まれて不快な思いをされても私は一切の責任を負いかねます。 |
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コメント | ||
執筆お疲れ様です。まさかの婿(嫁の座)争奪戦に翠参戦?!まぁ、涼州軍に負けるとは思って居ませんでしたが、嫁入りまでしてしまうとは・・・やはり、一刀=種馬ではなく、主人公=種馬なのか?!リア充めぇぇぇぇぇ 次作期待(クォーツ) ナニコレwww(リョウ流) ハリポさん→厳密には6名ですね。その辺りの補足も次回あたりに入れようかと思います。強引なのは否めませんが(宵闇の賢者) 馬騰の方は主だった将が2人戦死しているために、4ページ目からがかなり強引な展開だと感じられました(ハリボ) |
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