ある4人の会話
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・荒井…気さくな男性。三十路にかかっている。

・佐藤…理系タイプの眼鏡男。荒井と同輩。

・今川…負けん気の強いビジネスウーマン。やはり荒井達と同輩。

・四郎丸…一同の中で最年少。5年前は素直な少年だった。

 

 ある日、4人は5年ぶりに集まることになった。

 

○起

「よう、久しぶりだなみんな。こうして集まるのは……5年前以来だな」

「おお、荒井さん! 久しぶりですね。僕ですよ、佐藤ですよ。覚えてますか?」

「忘れるわけがないだろう、お前みたいな濃い奴をよ。……今川も、久しぶりだな」

「そうね。5年ぶりね。……少し、お腹が緩んだんじゃない?」

「言ってくれるな。今川は……くそっ、あまり変わってないじゃないか。何も言えん」

「褒め言葉として受け取っておくわ」

「――遅れました、すんません! 会合場所は、ここで合ってますよね?」

「あら、四郎丸君! 合ってるも何も、現に私達がこうして集まってるからここでいいのよ。……君、背が伸びたわねえ」

「そうっすかね? ははは……」

「体つきも逞しくなりましたね。流石、若い人は違います」

「ははは、俺達だってまだ若いと言わせてくれよ。会社じゃ、年配の奴らがごまんといるんだ」

「荒井さん、就職したんですってね。風の噂で聞きました、おめでとうございます」

「彼も数年前までは立派なフリーターだったんですけどね。多趣味な人でしたから、見ているこっちも心配だったものです」

「やかましい。大学出て早々に就職した貴様に、俺の苦労が分かってたまるか」

「でもこうして一同に会するのも、本当に久しいわね。懐かしいわ、昔は私達4人で作者相手にくだを巻いたり」

「そうそう、山奥のペンションに旅行に行った事もありましたねえ」

「俺のボードゲームで遊んだりな。……どうだ、久しぶりに集まったんだ。また何か遊んでみないか? 一応、それなりに用意してきたぞ」

「わあっ、楽しみですね! 是非やりましょうよ!」

「四郎丸君は輪をかけて活発になったなあ」

「俺、高校ではサッカー部に入ったんですよ」

「『俺』、かぁ。そうだよな、いつまでも昔のままの純朴少年でいられないよなあ」

「恥ずかしいですから止めて下さいよ、もう……」

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○承

「――よし、ゲオルグの『破砕』で4ダメージ! これで荒井さんのヴァンパイアのHPは0ですね」

「くそっ、また負けた! 四郎丸君のゲームの才能、何だかどんどん神懸ってきてないか?」

「久しぶりですからね、まだまだ本調子じゃないっすよ!」

「またさらりと恐ろしい事言いますねこの子」

「……ねえ、ゲームもいいけど。そろそろ、落ち着いて話さない? 私達、せっかく5年ぶりに再会したのよ?」

「そうだな、悪い。はしゃぎすぎた。……俺はまあ、佐藤も言ってたけどあれから何とか就職して、食い詰めないよう生きてるよ。しがないサラリーマンだけどな」

「謙遜ですね。職場が近いから荒井さんの評判も僕は知ってるんですが、悪くないですよ。下手な大卒の新入社員よりガッツがあって、人当たりもいいので人気があります」

「へえ、やるじゃない」

「い、いや。そんな評判、俺もたった今聞いたんだが……そうなのか、佐藤?」

「ちょっとは考えて下さいよ。風評が、面と向かって言われるわけないでしょう。荒井さんはその辺鈍いから、教えてあげたんですよ」

「そうか、恩に着る。……佐藤の方は、どうなんだ?」

「僕はぼちぼちですね。どうにか業績積んでる最中で、同僚と抜きつ抜かれつですよ。あ、そうだ。来月結婚するので、皆さん良かったら式に来て下さい」

「え、ええええぇぇ!? 結婚!? お前が!?」

「女っ気ゼロだったのに!? 初耳よ!」

「おめでとうございます、佐藤さん」

「若干二名から失礼な感想を受けたけど、四郎丸君は彼らとは違いますねえ。ありがとう」

「で、で。佐藤、相手の女性は一体どんな奴なんだ?」

「そうそう。包み隠さず教えなさい、この場で今すぐに」

「そんなせっつかないで下さいよ……。和美さんというんですけどね、いい人ですよ。僕がこんな性格ですけど、リードしたり合わせてくれたりするんです。尻に敷かれてるとも言いますけどね。そのくせ、嫉妬深い可愛い一面もあったりしますし」

「幸せオーラ全開だな。まあ、結婚おめでとう」

「ありがとうございます。でも、結婚する段になって色々葛藤やら何やら胸中を占めましてね。これがマリッジブルーという奴ですか、ははは」

「贅沢な悩みよ、それは。……あら、四郎丸君? そんなにこいつを見つめても、何も出てこないわよ?」

「いや、その……。実は、俺にも彼女がいて、参考にしたいなと……」

「おおお、そうだったのか!」

「いや、いるんですけど……。最近、どうにも仲が悪くて。あっちに言わせりゃ俺が悪いらしいんですけどね、俺にはとてもそうは思えなくて……。でもこのままじゃいけないと思うし、もういっその事別れるべきなのかどうか」

「いかん、いかんぞ四郎丸君! うじうじ悩むのが一番いかん! 男だったらここ、ハートで勝負だ! 嫌われてもいいから、自分の主張を通し続けるんだ!」

「馬鹿ね、荒井さん。あなた女の事、何も分かっちゃいないわよ。その子がそう言うんなら、それなりの理屈はあるわけでしょ? まぁ、大抵は理屈というよりも感情の問題なんだけどね。そんな時は変に正論を振りかざされるよりも、こっちの主張を認めてくれる方が嬉しいのよ」

「いやいや、男にも譲れん一線というのがあってだな」

「じゃあ、女にもあるわよ。大体ね、昔からあなたは……」

「……四郎丸君、四郎丸君。あの二人はしばらく置いておきましょう」

「あ、佐藤さん」

「君は、その子の事がやっぱり大切なんでしょう?」

「――はい」

「じゃあ、仲直りすべきです。付き合って、喧嘩しない方がおかしいですよ。どんどんおやりなさい。大切なのは、その後の歩み寄りです。お互いに意地を張り続けるのが一番よろしくない。仲直りのきっかけになるなら、頭なんかいくらでも下げちゃいましょ? 男の甲斐性って、多分そんなもんですよ。その後に話せば、案外分かってくれるものです」

「佐藤さん……ありがとうございます」

「うふふ、伊達に結婚控えているわけじゃないですよ。……それにしても、あの二人はまだやってますね。変に子供っぽいというか……逆にあれだけ理論を戦わせられるのは、少し羨ましくもあります」

「あ、そうだ佐藤さん。俺、前から気になってたんですけど……あの二人、付き合ってるんですか?」

「うん? ああ。5年前なら『子供にはまだ早い』ってかわせましたけど……君も成長しましたねえ。結論から言うと……付き合ってませんよ、今はね」

「今は、というと昔は付き合ってたんですか?」

「そうですねえ……。苦い思い出ですけど、随分昔に荒井さんと彼女を取り合った事があったんですよ。とは言っても、僕が今川さんに振られて、彼女がそのまま荒井さんとくっ付いたという、三角関係にもならない話でしたけど。それを知った晩、荒井さんと二人きりで飲み明かしたもんです」

「………………」

「ですが時の流れは残酷なのか、それから1年程して二人が別れたと小耳に挟みました。彼らがなぜ別れたのか、真相は怖くて僕にも聞けません。それっきり」

「……でも、あの人達はあんなに楽しそうに会話してますよ?」

「それが大人ってもんです。ははは、君はやっぱりまだ子供ですね」

「ははっ。今日はそう言われない様、頑張るつもりだったのになぁ。残念!」

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○転

「じゃ、今日はお疲れ様! みんなと会えて楽しかった。また、いつか集まれるといいな!」

「ええ、お疲れ様でした。あ……式には呼びますので、是非どうぞ」

「ちょっと早いけど、楽しみにしてるわ。お幸せに」

「今日はみなさん、ありがとうございました。……佐藤さんも、ありがとうございました。お幸せに。じゃあ、さようなら!」

「じゃあな!」

「失礼します」

「元気でね」

「…………。みんな、行っちまったな。残ったのは、俺と今川だけか。……どうする? 酒ならあるが」

「頂くわ。何があるの?」

「まあ、色々と取り揃えてきた。お前が好きだったのは……ラム酒のゴールドだったよな」

「あら嬉しい、覚えていてくれたのね」

「俺よりもザルだった女なんて、そういないからな。……しっかし、驚いたよ。四郎丸君に彼女が出来ていたなんてな」

「それよりも、私は佐藤さんの結婚にびっくりよ。あいつ、私達に一言も話してなかったもの」

「奴曰く、とんとん拍子に話が進んだからという理由らしいが……どっちにしろ、許せんな! 式では精々冷やかしてやる」

「ふふふ、同感。……5年、かあ。長いようで、あっという間だったわ。いつの間にか、私達も三十路に差し掛かろうとしているし。時が経つのって早いわよね」

「そうだな……」

「ねえ。荒井さんはいい人、いるの? 佐藤さんの話だと、会社の評判はいいという事だったけど」

「だから、その評判は初耳なんだよ。もちろん、恋人だっていないさ。あー、くそっ。まさか佐藤に先越されちまうとはなあ。……お前はどうなんだ? 聞いていいか?」

「ふふ、どう思う?」

「……どうだって、構わん」

「嘘。だったら尋ねたりしないもの。……あー、そんな顔しないで。ちょっと意地悪だったわね、悪かった。……いないわ、フリーよ。この性格だから、会社じゃミス・オールドで通り始めてるわ。親がまだせっついてきて色々と煩わしいんだけどね」

「そうか、聞いて悪かった。すまん」

「どうしてあなたが謝るの? 私が喋りたいから喋ったんだし。……昔の事を気にかけてるなら、もういいのよ」

「いや、あれは俺のトラウマの一つだよ。そうそう忘れられる事じゃない。プロポーズを蹴られた過去は、いつ思い出しても汗が滲むね」

「あれは、私達がまだ“子供”だったからよ。四郎丸君じゃないけど、『子供にはまだ早い』って事。色々あったけど結局、あなたも最後には納得してくれたでしょ?」

「ああ、今は別に恨んじゃいないさ。……でも、今、俺達は文句無しに大人だ。そうだろう?」

「………………」

「あの青春をもう一度、とはお互いもう言えない年だけど。……また、やり直してみないか?」

「それは……」

「………………」

「………………」

「……ああ、いや。忘れてくれ。恥ずかしいな、年甲斐もない、という程年は取ってないけども。まあ、お前が旧来の大切な友人という事には違いない。あまり会う機会もないけれど、今後も何かあったら連絡をくれ。きっと力になってやる」

「健吾。……あなた、大人になったのね」

「よせよ、そんな立派なもんじゃない。……酒ならまだあるが、そろそろお開きにするか」

「そうね、これ以上ここにいると悲しくなるわ。昔を思い出すから」

「洋子、会えてよかった」

「私もよ。……さよなら」

「さようなら……洋子」

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○結

「やあ、荒井さん。また会ったね」

「作者……。お前だな、俺達を久々に再会させた黒幕は」

「そう、懐かしかったでしょ。どうだった?」

「最高だった」

「そりゃ、良かった」

「嘘だよ。最低だ」

「…………」

「また振られたよ、今川に。……あいつ、男がいるんだろうな。一見『大人の女』だが、昔から感情の見せ方は不器用な奴だった」

「荒井さんにもいずれ、いい人ができるって」

「それ、作者のお前次第なんだが……。でもな、何でだろう。今日、あいつらと他愛も無い話をしていて、不意に泣きたくなった時がある。俺達がよく集まって馬鹿やってた頃から、5年。5年は短いようで、重い。俺達はもうあの頃の俺達とは違う。重なっていたレールは少しずつずれていって、やがて完全に交わらなくなる。在りし日の淡い思い出、それはもう手の届かない遥か遠くへ。……そんな事を漫然と感じて、涙腺が緩んだ」

「それが人間だよ」

「だとしたら、人間って寂しいよな」

「だからこそ美しいんじゃない」

「……分かったような口利きやがって。おら、飲むぞ! お前と飲むのも久しぶりだからな!」

「僕が下戸なの知ってるくせに〜」

「うわはは、やかましい! 今晩は付き合ってもらうぞ!」

「はいはい、分かりました……」

 

 おしまい

説明
昔よく遊んだ4人が、久しぶりに集合した。
楽しくも切ない時間は、すぐ過ぎて行く……。
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