真・恋姫†無双‐天遣伝‐(18)
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・Caution!!・

 

この作品は、真・恋姫†無双の二次創作小説です。

 

オリジナルキャラにオリジナル設定が大量に出てくる上、ネタやパロディも多分に含む予定です。

 

また、投稿者本人が余り恋姫をやりこんでいない事もあり、原作崩壊や、キャラ崩壊を引き起こしている可能性があります。

 

ですので、そういった事が許容できない方々は、大変申し訳ございませんが、ブラウザのバックボタンを押して戻って下さい。

 

それでは、初めます。

 

 

 

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―――戦後の戦場

 

そこで、溜息を吐いて辺りを見回すのは曹孟徳―華琳。

そして華琳の命に従って、瓦礫等が散乱したあちこちを引っくり返す部下達。

時々桂花や春蘭の怒号が上がっている他は、殆ど何も聞こえないし、見えない。

黄巾残党は悉く狩り尽くしたのだ。

・・・華琳の思惑と違って。

華琳が求める最上の結末は、張三姉妹を抑える事による戦の終息。

しかし、戦場には張三姉妹と思しき人間は見当たらず、結局黄巾中で最高の錬度を見せて魅せたあの部隊は退く事も無く、一人残らずここで倒れて死んだ。

 

 

「・・・・・・ままならないわ、本当に」

 

「どうした」

 

「華蘭、貴女の方は・・・聞くまでも無いわね」

 

「ああ、見付からなかったよ、骸一つとしてな」

 

 

華蘭からの報告を聞き、華琳は再び溜息を吐いた。

華蘭ならば、決して手を抜く事無くこの場を調べ尽くした筈だ。

その程度の信頼をするに足る者だからこそ、自分の目論見がここに至って木端微塵に粉砕された事を理解してしまった。

だが。

 

 

「仕方、無いわね」

 

 

その表情は先程とは打って変わって、楽し気に綻んでいたのだった。

華琳が張三姉妹を求めた理由は、唯一つ。

 

『これから徴兵等をする時に使える駒があった方が良い』

 

という事のみ。

それが得られなかったならば、別の方法を探せばいいだけの事。

思い通りにいかなかったからと言って、それが一体何だと言うのか。

この世は思い通りにならない事の方がよっぽど多い。

華琳とて、それをしっかり理解している。

だから華琳には、ここで思い通りに行かなかった程度で落ち込む理由が全くもって見当たらない。

 

華琳は覇王だ。

今はそうで無くとも、後には自身の覇道でもって世界を斬って開く。

その意思を持つ、英雄の器。

起こった事は否定せず、唯受け入れるだけ。

だからこそ。

 

 

「さて、私と違って、絶対に張角等を救いたいと願っていた孫堅はどうしている事かしら?」

 

 

自分の事で思い悩む必要は、最早何処にも無かった。

 

クックッと短くサディスティックに笑んでから、華琳は焼け跡を後にする。

無論、華蘭に自軍の者達の回収を任せてから。

 

 

 

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大蓮は辺りに覇気と不機嫌オーラを撒き散らしながら、自身の座に座っていた。

少しでも大蓮の前で気分を損なえば、確実に殺されるだろうと言う雰囲気さえある。

苛々と貧乏揺すりを繰り返し、怒鳴った。

 

 

「まだか、祭!!!!!」

 

 

背景に猛虎が吼えるエフェクトが発現しそうな勢いである。

それは見事に、天幕内へと祭を招く効果を発揮した。

 

 

「堅殿、そこまで怒鳴らずとも聞こえておる。

それと、昭殿に謝ってやるべきではないか?」

 

「む?」

 

「〜〜〜っ!」

 

 

大蓮が傍らに目を落とせば、そこには両耳を押さえて大蓮を睨む涙目の湊が。

大蓮の後頭部に巨大な冷汗が浮かぶ。

 

 

「プッ! “ヒュン! ゴッ!!” あ痛っ!!」

 

 

思わず笑いを零した雪蓮の額中央に、大蓮愛用の大杯が命中した。

投げ手は勿論湊である。

 

 

「いった〜〜、笑ったのは悪かったけど、幾らなんでも母様の杯は無いでしょ!?

首がいかれるかと思ったわ!」

 

「私の様な非力に投げて貰えて、まだ幸せだったと思うべきですね」

 

「怖っ!? 何気に殺る気満々!?」

 

 

恐れ戦く雪蓮を無視し、祭は言葉を告げる。

 

 

「官軍総出で張角等の探索を行いましたが、彼女達の発見は・・・出来んかった。

骸の一つもそれらしい物は、確認出来んかったよ」

 

「そう、か・・・」

 

 

祭の報告を聞き、ガクリと力無く項垂れる大蓮。

だが、何かを思いついた様に顔を上げた。

 

 

「待て、確か此度の戦勲は先手を取った者の物だった筈だな?」

 

「ええ、確かに。

ならば、張三姉妹がどこかの諸侯の手に落ちた場合、「討ち取った」との報告がなされていなければ、戦勲に変わり得ません」

 

「つまり、張三姉妹は生きている可能性が高いって事?」

 

「・・・・・・何処かで野垂れ死んでいなければ、ですね」

 

 

最後の湊の言葉で、皆一様に気落ちしてしまう。

 

 

「昭殿、何故その様な事を言うんじゃ」

 

「楽観的観測は無意味に等しい。

軍師は常に最悪に備える生き物ですから。

恨むならば、この世の軍師全てを恨んで下さい」

 

「さっすが冥琳のお師匠様だわ・・・」

 

 

呆れた様に言う雪蓮、自身は所謂お手上げポーズだ。

 

黄巾の乱は終わったも同然。

ただし、諸侯同士の戦いは終わってはいない。

それを理解し、溜息を吐かざるを得ない孫呉の首脳陣だった。

 

 

 

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真・恋姫†無双

―天遣伝―

第十七話「終決」

 

 

――官軍本陣

 

そこにおいて行われている事、それは。

 

 

「こんっのド阿呆!

家臣は上司に従う物だって、両親に習わなかったのかい!?」

 

「痛たたた!! な、何でお説教なのに、私は極められているんですの!?」

 

 

大将軍何進―美里による袁紹の粛清だ。

と言っても、具体的には唯説教と共に、美里のかなりキレの良いプロレス技モドキが麗羽に次々と叩き込まれている。

最も一刀は目を塞がれていて、その光景を見られないのだが。

因みに言っておくと、一刀の目を塞いでいるのは、左が桃香、右が風によってである。

美里と麗羽。

二人とも立派過ぎるプロポーションと美貌を兼ね備えている。

そんな二人がくんずほぐれつ。

一刀を強力に慕う桃香と風からしてみれば、絶対に見せる訳にはいかなかった。

だが、一刀としてもこの光景を見ようとは思っていなかった。

自分が言いたい事は全部美里に言われてしまっていて、やる事が無いのだ。

いや、たった今思い付いた。

一刀は風に耳打ちして、未だに技を繋ぎ続ける美里を尻目に席を立つ。

途中、斗詩の肩に手を置いて、付いて来るようにとの意を伝えて。

 

斗詩を伴って軍議用の天幕を後にし、一刀は自分用の天幕に入った。

斗詩の心臓が大きく跳ねる。

まさか、という思いが斗詩に湧き起こるが、その感情は嫌悪や驚愕よりも、寧ろ期待や歓喜寄りであったと言う事を、ここに記しておく。

 

ただし、斗詩の思うようにはならなかった。

一刀は天幕に入ってすぐに座卓を引っ張り出し、何も書いていない木簡と筆を用意したのだから。

そして口を開いた。

 

 

「斗詩、今回の袁紹の行為は流石に目に余る。

総大将の命を聞かないだけでなく、あろう事か大勢を見極めずに兵を無駄に突撃させて自軍だけでなく、官軍の兵も大量に討ち死にさせた。

正直、彼女は処刑されたって文句さえ言えない立場にある。

諸侯の内でも、彼女に責任を取らせろ、処刑しろ、っていう声は多々上がっているんだ」

 

 

これはまごう事無き事実だ。

それどころか、一刀はこれでもソフトに噛み砕いている位だ。

本当はもっと過激な意見が上がっている。

特に戦場で、彼女の命で実際に戦っていた兵達から。

斗詩が息を飲む。

 

 

「だが、俺はそんな事はしたくない。

彼女だって、この地に住まう一人なんだ」

 

「一刀さん・・・」

 

 

斗詩は感激した。

フッと、この人の下で戦いたいと言う欲求が鎌首を擡げる。

しかし慌ててその考えを打ち消す。

今でこそ麗羽に仕えねばならないが、斗詩は袁家に大恩がある。

それを裏切る等以っての外だ。

 

 

「だから、彼女にとって死罪に並んで受け入れ難い罰を考えなきゃ、今諸侯の間で高まっている怒りは収まらないんだ。

済まないけど、協力して欲しい。

君にとっては主君を裏切る行為かもしれないけれど、俺にはこれ位しか思い付かないんだ」

 

 

そう言って、深く頭を下げる一刀。

斗詩は再度感激していた。

自分達は最早全てから見放されてもおかしくない所業を行った大罪人だと言うのに。

それでも一刀は自分達を助けようとしてくれている。

それが堪らなく斗詩には嬉しかった。

 

 

「どうか頭を上げて下さい、私程度で良ければ、幾らでも協力させて貰います」

 

「斗詩、ありがとう」

 

 

顔を上げた一刀の泣き崩れた様な表情に、斗詩の心臓が今までにない程跳ね上がった。

いや、ここまでくれば最早飛翔に近い。

 

 

「(まずいなぁ・・・本気になっちゃう)」

 

「・・・斗詩、どうした?」

 

「な、なんでもありません!」

 

 

急に顔を赤くした斗詩を心配そうに見る一刀に対し、慌てて態度を取り繕う斗詩。

普通ここまであからさまならば、気付いてもおかしくは無いのだが。

それが、一刀クオリティである。

 

 

 

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一刀と斗詩が天幕に籠って麗羽への罰を考えている頃。

 

戦場で一人、呂布―恋が焼け跡を見回っていた。

普段、その傍には音々音か真理がいるのだが、今は一人だった。

恋は何度もおかしな感覚を味わっていた。

まるで、戦場そのものを何かに見張られていた様な。

それを確かめる為に戦場に戻って来たのだが、結果は芳しくない。

既に調べ切った結果しか見当たらない。

少し気落ちしてしまう。

 

 

「おや、呂布殿じゃないか」

 

「・・・誰?」

 

「いやはや、名前も覚えて貰えていないとは。

些末な自信とは言え来る物があるな。

私は曹仁と言う、付いて行ってもよろしいか?」

 

「構わない」

 

 

短く言葉を交わし、二人して歩き始める。

恋は時折り辺りを見回し、時に足を止めて瓦礫を引っ返しつつ歩く。

華蘭はそれを唯見ているだけだ。

 

 

「・・・不思議」

 

「む、何がだ?」

 

「お前、強くないのに強い。

一刀と同じ」

 

「それは嬉しいな!」

 

「・・・?」

 

 

いきなり満面の笑顔となった華蘭に怪訝な目を向ける。

だが、次の言葉でその疑問は氷解した。

 

 

「かの呂布殿に強いと評されるのは光栄の至り。

されど、一刀と同類と言われるのは更に嬉しいものがある!」

 

 

その言葉で、恋は気付いた。

目の前にいる女は一刀が好きなのだと。

それが何故か、恋は無性に面白くなかった。

しかも、恋は自身の感情を取り繕うのが下手な為に、それが態度に出た。

要するに不機嫌になったのである。

 

 

「ふむ、そう言う事か。

呂布殿、貴女も一刀を愛しているのだな」

 

「愛・・・?」

 

「おや、いきなり愛は分かり辛かったか。

・・・そうだな、例えば、一刀が傍にいてくれると胸が高鳴るとか」

 

「! ・・・"コクコク”」

 

「例えば、一刀と一緒に戦えると何時も以上に身体が軽いとか」

 

「"コクコク!”」

 

「一刀の事を考える度に、会いたいと思うとか」

 

「”コクコクコクコクッ!!"」

 

「決まりだな、それが愛と言う物なのだよ、呂布殿」

 

「・・・愛・・・恋は一刀が好き・・・・・・」

 

 

そう口に出すと、じんわりと胸が温かくなるのが感じられる。

それを見る華蘭は笑顔だ。

 

 

「呂布殿、いや、呂布。

私の真名は華蘭と言う、受け取って貰いたい」

 

「!? 何で?」

 

「同じ男を愛する恋敵(とも)同士、そこに何の遠慮が必要か?」

 

 

その威風堂々とした佇まいに、恋は思わず押された。

自分には無い強さだ。

自分にはここまで余裕ある者にはなれない。

 

 

「・・・分かった・・・華蘭」

 

「ああ、これからは一人の男を想う女であり同志だ、呂布」

 

「”フルフル” 恋でいい・・・」

 

「分かった、恋」

 

 

そう言い、互いに視線を交わす。

互いに一人の男を愛する者同士、その間には確かに友情が生まれていた。

 

 

 

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―――官軍本陣

 

美里による麗羽の粛清は一応の終わりを見せ、今から軍議が開かれようとしていた。

その渦中の人物は、当然だが麗羽である。

諸侯の面々より、呪詛が籠っていそうな強い視線が麗羽に注がれる。

唯我独尊気質の麗羽も、ここに至れば流石に気付く。

 

 

「あー、それでは袁本初の罪に対する罰を発表する為に集まって貰った訳だが」

 

「待った!」

 

「はいよ、朱儁」

 

「何進将軍、ここは死罪が妥当かと。

本初殿はあろう事か御遣い様の命を聞かず、兵の命を、ひいては民の命を軽んじた大罪人ですぞ!」

 

 

そうだそうだと周囲よりも同意の声が上がる。

やっぱりこうなったか、と美里は溜息を吐いた。

予想通りの展開だ。

しかも、朱儁は自己の損益等考えてはいない。

朱儁将軍は、良くも悪くも漢に絶対の忠義を誓った忠臣であり、一刀に真っ先に心酔した将でもある。

だから、麗羽を死罪に処すのは彼の内では当然の帰結と言える。

朱儁にとってすれば、麗羽は到底許し難い愚人だ。

 

 

「だから、そこんとこも含めて御遣い様が罰を下すんだよ。

分かったら黙って聞きな」

 

「・・・・・・分かり申した」

 

 

渋々と言った様子で席に付く朱儁将軍。

美里はそれからぐるりと一同を見渡す。

が、大抵の相手は目が逢った瞬間に目を逸らすばかり。

心中で呆れる。

だが、このままでは進まないので、一刀に発言を促した。

 

 

「それじゃあ、俺の意見を言わせて貰う」

 

 

皆がゴクリと息を呑む音が、聞こえた様だった。

誰も彼もが、一刀の言葉を聞き洩らさぬように留意している。

口元だけで苦笑を漏らしてから、一刀は口を開いた。

 

 

「袁紹を死罪にはしない」

 

 

ざわめきが広がる。

華琳は少し失望した様な色を浮かべた。

しかし。

 

 

「但し! その代わり、袁紹の所領を約三分(30%)召し上げる事とする!」

 

 

その罰の部分で、一気に転換した。

華琳の口元が大いに歪む。

そして、当の麗羽もここに至って口を出した。

 

 

「ちょちょちょ、ちょっとお待ちなさいな!

我が所領は皇帝陛下より賜った先祖代々袁家の土地ですのよ!?

それを高が命令違反程度で召し上げられるなんて、納得行きませんわ!!」

 

 

何処までも己の罪を弁えない麗羽が見当外れの反論をする。

周囲から「何言ってんだコイツ」とでも言いたげな視線が麗羽に集中している事さえも、麗羽は全く気付かない。

それを間近で聞き、味わっている斗詩としては堪った物では無く、心中で悲鳴を上げていた。

更に麗羽が口を開こうとした所で、美里がわざとらしく拳をパキパキと鳴らし、麗羽は青褪めて口を噤んだ。

一刀は睨みを利かせながら言う。

 

 

「はっきり言おう、これ以外の罰は死罪位しかない」

 

「んなっ!?」

 

 

周りの人々が、「その通り」と言う意味を籠めて、次々と頷く。

目に見えて狼狽する麗羽を放り、一刀は更に言葉を続ける。

 

 

「そもそも、俺は皇帝陛下に全権を任された身だ。

それを軽んじたと言う事は、君は陛下を軽んじたも同義だと分からないかい?」

 

「ですので、代々の所領を皇帝に返還するという罰は適当です」

 

「寧ろ、それですら甘い裁定に入りますねー。

本来ならば、全領土の返還、もしくは袁紹さんの死罪でもおかしくないのですよ」

 

 

一刀付きの軍師二名の援護も入り、更に言葉に詰まる麗羽。

周りは、今度はいい気味だと言わんばかりに、ニヤニヤとしている。

 

麗羽からしてみれば、これは相当な屈辱だ。

家柄も出自もはっきりとしない怪しい男の言う事を聞かなかっただけで、先祖代々の所領を召し上げられる。

唇を強く噛み締め、俯いたままに。

一刀はそれを見て、最終判断を下した。

これで麗羽の領地は、黄巾の乱が始まる前の七分(70%)程度に減る事になる。

今は遠征中故、ここで決定して領地を減らす手続きをするのは無理だ。

よって、洛陽に戻って皇帝陛下の印を貰わねばならない。

それでも、諸侯の間に漂っていた不信感は結構解消された。

残りは一刀の裁定を甘いと断じる者達だけだ。

 

この十分程後、軍議は終結を迎えた。

麗羽はその間もずっと、ギリギリと悔しそうに口中で歯軋りを続けていたのであった。

 

 

 

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「ッキィーーーーー!! 何で、あんな下男に由緒正しき袁家の領土を奪われねばなりませんの!?」

 

 

自軍の陣に戻った麗羽は、天幕中で奇声を上げた。

ここに至っても尚、自身の非を認めようとしない辺り、最早感嘆にすら値する。

最も、それを善しと考える人間はここには麗羽しか存在しないのだが。

 

 

「姫ー、幾らなんでもあれは無いっす」

 

「麗羽様〜、この上で更に駄々捏ねたら、今度こそ処刑されちゃいますから、どうか抑えて下さい・・・」

 

「ぐぬぬ・・・・・・」

 

 

猪々子と斗詩にも諫められ、麗羽はやり場の無い怒りに歯噛みする。

そして、いい事を思い付いたのか、軽い足取りで自陣を後にした。

慌てて麗羽を追う二人。

 

 

「麗羽様!? 一体どちらへ?」

 

「美羽さんの所ですわ!」

 

 

まさか、と斗詩は思う。

そしてそれはその通りだった。

 

 

「美羽さんは、私と同じ袁家の出。

ならば、その所領を奪うと言う行為が如何程に愚の骨頂であるかを理解出来るに決まっていますわ!

そして、袁家の者が揃って異を唱えれば、あのような愚策を撤回せざるを得ないに決まっているでしょう?

我ながら、自身の知略が恐ろしいですわ!

おーほっほっほっほっほっほっほ!!!」

 

 

斗詩は愕然とした。

そんな事をすれば、麗羽だけならまだしも、下手をすれば美羽すら処罰対象になる。

だが、麗羽は如何な正論を唱えた所で止まる筈が無い。

高笑いをしながら去って行く麗羽を追いながら、斗詩は心中で美羽に祈った。

どうか、冷静に判断してくれますように、と。

 

 

 

袁術軍の陣に辿り着いた麗羽は、咲と七乃の制止を物ともせずに突き進み、美羽の天幕に一直線に到着した。

その途中で、到底武将とは縁遠そうな三人の女性とすれ違ったのだが、麗羽の目には入って来なかった。

最も、斗詩は首を傾げたのだが。

あんな女性達は、袁術軍にいなかった筈だと。

咲と特別親しい身だけあって、互いの内情を知り合っているからこそ感じた違和感であった。

だが、麗羽はそんな斗詩の違和感を気にもせず、一気に天幕の入り口を潜った。

そこには確かに美羽がおり、杯から茶を飲んでいる所だった。

しかし、麗羽の突然の出現に驚き、杯を取り落としそうになってしまうものの、何とか持ち直した。

そして、嫌な物を見る目で麗羽を見た。

麗羽は気にせず、美羽の真正面に座る。

そして。

 

 

「美羽さん、行きますわよ!」

 

「・・・・・? 何処へじゃ?」

 

「当然、あの『天の御遣い』を名乗る身の程弁えぬ凡愚の許へですわ!!」

 

 

その言葉に、美羽の目尻がピクリと動き吊り上がった。

それを、自分と同じ様にあの仕打ちに怒っているのだと勘違いし、気を良くした麗羽は更に捲し立てる。

 

 

「先祖代々袁家が継いできた所領を奪う等、決して許されるべきでない愚行ですわ!

美羽さんも分かるでしょう!? 高が命令を一度無視しただけでこの仕打ち、今に至るまで漢王朝に尽くしてきた名族袁家にする事とは思えませんわ!」

 

「・・・・・・」

 

「しかもそれが皇帝陛下直々ならばともかく、あんな素性も何も分からぬ凡愚に「もう良い、その汚い口を閉じるのじゃ」・・・へっ? 美羽さん・・・?」

 

 

強力に吊り上がった目で麗羽を睨みながら、懐刀を向ける美羽。

麗羽の方は、信じられぬ物を見る目で美羽を見ていた。

 

 

「最初に言っておく、妾はあの仕打ちに全くもって怒りを感じなかったぞ。

寧ろ、お主の無様さに殺意が湧いたわ」

 

「んなっ!?」

 

「そもそも、妾やお主の所領は、妾達に与えられた物では無い。

あれは、妾達の御先祖様の偉業に対して贈られた物。

それを守るのが妾達、子孫の使命なのじゃ。

麗羽、お主はそれを守る事が出来なかっただけじゃと、何故分からぬ!?」

 

 

矢継ぎ早に麗羽を罵倒する美羽。

自身の同類と思っていた美羽にここまで言われる事に驚愕し、唖然とせざるを得ない麗羽一同。

 

 

「だから、もう良い。

御遣い様への数々の暴言は忘れた事にしておく、じゃからさっさと帰れ。

但し、次は無いぞ」

 

「み、美羽さ・・・"ジャキ"」

 

「美羽様はもう御就寝のお時間です、これ以上の狼藉は捨て置けませぬ。

どうか、御自分の足でお帰りなされるよう。

我等としても、袁家の同門を力尽くで追い出す真似はしたくありませんので」

 

「親しき仲にも礼儀ありですよ? 麗羽様。

私達には、美羽様の命は絶対ですからね。

命令されれば・・・麗羽様だって敵ですよ?」

 

 

玉龍を構えた咲と七乃を始めとする、袁術軍の兵が三人の後ろに立っていた。

麗羽は苦虫を噛み潰した様な表情となり、無言でその場を立つ。

そして、のしのしと天幕を後にした。

それを慌てて追う猪々子。

そして、周りにペコペコと申し訳なさそうに頭を下げてから、斗詩が退出した。

 

麗羽達がいなくなり、美羽の吊り上がった眦がすとんと落ちる。

そして、途端に涙目となって懐刀を取り落とし。

 

 

「咲〜、七乃〜、怖かったのじゃ〜」

 

 

咲と七乃に抱き付いた。

 

 

「よーしよしよし、美羽様頑張りましたね〜」

 

「あの毅然とした態度、咲は、咲は感動いたしました!」

 

 

美羽の精一杯のハッタリ。

美羽が今まで経験した内で最も恐ろしかった、一刀の怒りの瞬間を真似た物である。

効果は覿面だった、そして見事に麗羽を追い払った。

その成長は、世話役二名からしてみれば感涙ものだ。

抱き合って喜び合う三名を、兵達も感動の涙で見守り、それを天幕の外から覗く三人の女性も揃って感涙を流しながら見守っていたのであった。

 

 

 

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―――西涼軍。

 

パチパチと薪が爆ぜる音が聞こえる中、右腕を吊った碧と葵、そして朔夜の姿がある。

 

 

「どうですか、碧様?」

 

「・・・いかん、問題無く動くのだが、力が入らない」

 

「葵の医学知識のみでは足らないか・・・これは、早い所腕の良い医者に見せねばならないな」

 

「そう言えば、洛陽には今代最高の腕を持つ五斗米道の医師様がいらっしゃると言う話です」

 

 

何処からか、「ごとべいどうではない、ゴットヴェイドーだ!!」という絶叫が聞こえて来た気もしたが、生憎と三人には届かなかった。

 

 

「そうだな、その方に見せるべきだろう」

 

「・・・戦いから退く訳にはいかないんだ。

あたしゃまだ、一刀の力になれたと胸を張って言えない」

 

 

その独白に、葵も朔夜も頷いた。

三人とも、一刀の力になりたいと思っている。

それ故に、二人とも碧の想いは良く分かった。

 

 

「董卓様がいらっしゃいました!」

 

「通せ」

 

「はっ!」

 

 

駆けて来た伝令の言葉にあっさりと許可を出し、三人は月を待つ。

暫くして、月は詠と護衛と思われる霞と華雄を伴って現れた。

朔夜はそれに溜息を吐いて言う。

 

 

「いいのか? 恋殿が陣にいるとは言え、主と筆頭軍師と将の二人が同時に留守にして」

 

「将ならば、恋と真理がいる。

軍師ならば、ちょっとばかり不安は残るけど、ねねがいるわ」

 

「ねねの行き過ぎた恋崇拝は真理がちゃんと抑えてくれるしな。

あの三人、やっぱ丁度良く釣合が取れとるわ」

 

 

ニャハハと笑いながら言うのは霞。

 

 

「しかし・・・呂布は何処かおかしかったな、一人で戦場跡から帰って来てからは呆けている事が多くなっていたし、急に表情を変えるようになっていたな」

 

 

思案顔で不安を語るのは華雄。

 

 

「ま、恋にも色々あるんやろ、戦になれば何時も通りやろ」

 

「確かに、例え顔見知りと言えど、敵ならば手心を加えぬが故の飛将軍だからな」

 

 

二人の将軍は、揃って笑う。

その笑いが終わってから、月が口を開いた。

 

 

「碧さん、この度の戦い、どうお考えですか?」

 

「どう、とは?」

 

「張角は討たれたのでしょうか、それとも誰かが匿っているのでしょうか?」

 

 

碧の目付きが鋭くなる。

それに押されず、月は詠から一枚の紙を受け取った。

 

 

「これを見て下さい」

 

「・・・何々、曹操:髭面の男、袁紹:天を衝く大男、袁術:人とは思えぬ姿をした妖術師、孫堅:妖の類としか思えぬ異形。

・・・・・・何だこれは? 何となしに想像はつくが」

 

「各諸侯における、張角の想像の姿形よ。

そして、正しい姿と思われる物は無い」

 

「・・・成程、確かに、唯の人を連想する様な物は一つとしてありませんね。

これを討ったと言えば、必ずしや人々は興味を持つ。

討たれた後の躯を見せろ、と言う者も少なくは無いでしょうね」

 

「はい、ですから、何処かに匿われているのではないかと思うのです。

この様な場では、特にそう言った証拠を見せる事が求められるでしょうから」

 

「確かにね、普通敵将を討ち取ったとすれば、頸を差し出せがまかり通るし」

 

 

うむむ、と考え込む一同。

 

 

「ならば、何処にいるのか、だな」

 

 

華雄が発言する。

その発言に、更に深く考え込む。

そう思ってしまうと、誰も彼も怪しく思えてきてしまうのだ。

 

結局、答えは出ず。

その答えは、これより数カ月後になって判明するのだが、ここでは語るまい。

 

 

 

 

第十七話:了

 

 

 

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後書きの様なもの

 

何時の間にやら一刀君が空気になっていないか・・・?

と、感じて読み直してみたのですが、然程でもありませんでした、良かった良かった。

さて、5日ぶりの投稿です。

今回も駆け足かつ何処か妥協した感アリアリですが、読んで楽しんで頂けたら幸いです。

 

レス返し

 

 

・はりまえ様:ある意味今回両方の答えが出ました。

 

・悠なるかな様:麗羽と美羽は逆ベクトルに走らせ続けるつもりで。

 

・poyy様:実際に殴ったらモニターがお釈迦になっちゃうので、止めた方が・・・

 

・うたまる様:すいません、メタですが無理です。

 

・瓜月様:其方に関しては御心配無く、と言っておきます。

 

・2828様:真のバカにはそれすら効かないかも・・・

 

・F97様:露骨なエコ贔屓が目に付くかもです。

 

・takewayall様:・・・ノーコメントで!

 

・FALANDIA様:逆に言うと、家の悠は誰かと触れ合っている時しか生の実感が得られないんです、それが例え殺し合いの場であろうと。

 

・mighty様:華蘭との甘い話は、「反〇〇連合編」終了頃までお待ち下さい、出来る限り甘々展開を考えて書きます。

 

・砂のお城様:おっぱい!!(返答) さ〜て、どうしようかな?

 

・hapines18様:初めまして、感想感謝です!

 

 

さてと、ここからは結構露骨なエコ贔屓とかも出て来ますが、どうかご容赦の程を・・・では、次回の更新でまた会いましょう!!

 

 

 

 

説明
今回は繋ぎ的な意味合いを持たせた回です。

何かしら、納得いかない部分もあるでしょうが、生温い目で見て貰えると幸いです。

具体的には、作者が涙流して喜びます。
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コメント
麗羽が駄目過ぎる……。(readman )
恋も自分の気持ちに気が付きましたね。甘えてくる恋・・・ぐはぁ!・・・凄まじすぎる^^; 言うべきを言い否定すべき事を否定し伝えるべき事を伝える。美羽は着実に成長してますね、袁術家一同感動したくもなりますよね^^b・・・斗詩の気持ちの推移にこっそり期待したりw(深緑)
俺も美羽の成長に涙した!兵の気持ちがよく分かる・・・(btbam)
美羽の成長に感激しすぎました!!(poyy)
美羽の成長には涙が出そうですよwそして麗羽はどこまでもあのままですかww(ルーデル)
美羽・・・ようやったw(2828)
恋と華蘭の一刀争奪戦が見たいぞ〜〜〜!!あぁ、でも華蘭の甘々話も見たい!!!そして美羽、成長したね(;ω;)(mighty)
美羽さまよくぞ、ここまで成長なされましたな(涙。これからも、期待させてもらっていいのでしょうか?応援しています。これからも頑張ってください。(F97)
初めまして 通しで全話見てきました 美羽の成長に思わず吃驚した次第です 問題のドリルは・・・自暴自棄起こしそうでw最悪残った7割全て使って何か仕掛けてきそうな 次回も楽しみに待っております(村主7)
美羽ちゃん成長したね、おいちゃん涙が止まらんよ(aoirann)
美羽がかっこいいですねぇ そしてその後の泣き顔が想像できてなお良いです♪  これで、麗羽の不満が、一刀を甘いと声を上げた者達が、一刀とその陣営に向けられなければ良いのですが・・・・・・次回の更新楽しみにしております(うたまる)
美羽、良い子に!麗羽はもう救いようがないですねw一刀の采配に不満を持つとは。(よしお)
美羽!美羽!!美羽!!!美羽!!!!美羽!!!!!美羽!!!!!!美羽!!!!!!!美羽!!!!!!!!     今作もとても楽しませていただきました!そして麗羽とっとと退場しろ(悠なるかな)
投稿乙です、待ってました!!いやぁ見事な采配、これ領土30%摂られると戦力ガタ落ちだからな、それ以前に兵の信頼もガタ落ちだよな。反乱に出ても逆に自軍の兵に捕らえられるかも、そうなった場合自業自得だな。(黄昏☆ハリマエ)
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真・恋姫†無双 オリキャラ 北郷一刀  華蘭 美羽 

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