雲の向こう、君に会いに-魏伝- 二十九章【誓い-3-】
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揺れる・・・揺れる

頭の中、心の奥

天秤が、揺れ動く

 

 

【世界】を

 

【彼】を

 

 

それぞれを左右に乗せ、天秤は揺れている

 

 

【世界】か

 

【彼】か

 

 

救えるのは・・・どちらか一つ

 

 

 

ゆらゆらと、ゆらゆらと揺れるソレを

私は・・・ただ、黙って見つめることしかできない

 

 

 

「一刀・・・」

 

 

呟く名

彼の名前

天秤に乗せられた、愛しい人の名前

 

 

私は選ばなくてはならない

 

 

 

この世界・・・自分達の命か

 

 

 

 

それとも・・・

 

 

 

 

 

「一刀・・・っ」

 

 

 

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最期の選択・・・私は、答えを出す事が出来ないでいた

 

 

 

 

 

《雲の向こう、君に会いに-魏伝-》

二十九章【最終章・誓い編〜3〜】

 †最期の選択、彼方の笑顔†

 

 

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「こんな・・・こんなことって」

 

 

呟き、私は手に持ったソレを抱きしめる

一刀が私達のもとへ来た切欠となったソレを

 

一見すれば、ソレはただの古ぼけた銅鏡

だがコレには、一刀を救う為の力がある

彼の笑顔を、もといた世界に帰すことができる

 

だけど・・・

 

 

「代償は、この世界・・・私達の命」

 

 

抱きしめた銅鏡を見つめ、私は呟く

そう・・・これには、一刀を救う力がある

だけど、その為に私は・・・

 

 

「他に、何か方法はないんですか!?」

 

「ハッキリ言うけども・・・もう、これ以外には方法はないわ」

 

「そんな・・・」

 

 

チョウセンの言葉

流琉はガックリと項垂れて、力なく床に座り込んだ

その様子に、私もそうなってしまいそうになる

 

 

「曹操殿、残酷なようだが・・・もう、あまり悩んでいる時間はないぞ」

 

 

そんな中、声をあげたのは赤髪の医師・・・華佗だった

彼は神妙な顔つきで、私のもとへと歩み寄ってくると深い溜め息をついた

 

 

 

「今診てきたのだが

一刀の体は・・・もう限界だ」

 

「な・・・んですって?」

 

「明日の朝まで、もつかどうかといったところか」

 

「嘘でしょ・・・」

 

 

 

彼の口から出たのは・・・残酷な現実

 

もう時間はないんだと、そう言っているのだ

 

もう、悩んでいる時間はないのだと

 

でも・・・

 

 

 

「そんなにすぐ・・・決められるわけないじゃないっ!!」

 

 

 

叫び、私は再び銅鏡を抱きしめる

これがきっと、私達が彼の為に出来る・・・最期のこと

そう思うと、ますます決められなくなる

 

こんなことって・・・

 

 

 

「まぁいい・・・俺は今日、一刀をずっと診ている

もしソレを使うつもりなら、今夜中に一刀の部屋に来てくれ

もし使わないというのならば・・・今日は誰も、一刀の部屋には入るなよ」

 

「なっ・・・貴様!

いったい何様のつもりだ!!

何故貴様に、そのようなことを決められなければならないのだっ!!」

 

春蘭が殺気を込めた声で言う

彼はそれに対し、キッと目を細め呆れたよう息を吐いた

 

 

「俺には、約束があるんだ

俺と一刀、二人の男の約束がな

それに、今の君達を見ていると・・・非常にハラがたって仕方がない

そんな『中途半端』なままで一刀の部屋に入るなど、俺は許せそうもないのでな」

 

「華佗・・・」

 

「すまない・・・俺はもう行く」

 

 

そう言って、彼は玉座から出て行った

その後に続くように、雪蓮が立ち上がる

 

 

「なら、私も行こうかしら」

 

「雪蓮っ!?」

 

 

突然のことに、周瑜さえもが驚き声をあげる

だが雪蓮は気にすることもなく、ツカツカと出口まで歩いていく

そんな彼女に、呉の者達は慌ててついて行こうと一斉に立ち上がっていた

 

 

「華琳」

 

 

ピタリと・・・足を止め、雪蓮は私の名前を呼んだ

その声に、私は一瞬身構えてしまう

 

 

「私達は【王】よ・・・それだけは、忘れないでちょうだいね」

 

 

苦笑しながら、雪蓮はそう言って出て行った

その後ろに、呉の者達はついて行った

 

残されたのは、私達魏と蜀・・・そして、チョウセンと卑弥呼

 

 

「あ、あの・・・華琳さん?

大丈夫ですか?」

 

そんな中、オドオドとしながら桃香が声をかけてきた

私は・・・『大丈夫よ』の一言も、言えないでいた

 

 

やがて出たのは・・・

 

 

 

 

 

「ごめんなさい・・・しばらく、一人にしてちょうだい」

 

 

 

 

 

力ない・・・この一言だけだった

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

「雪蓮・・・いったいどういうつもりなの?」

 

「ん〜?」

 

廊下を歩いていた私に、冥琳が呆れたように声をかけてきた

私は、一度足を止める

 

 

「もし曹操がこの世界を代償に、御遣いを救うことを選んだらどうするつもりだ?」

 

「別にいいんじゃない?」

 

「雪蓮っ!」

 

「もう、冗談よ冗談

冥琳ったら、少しは落ち着いてよ」

 

 

そう言って、私は空を見上げた

見上げた空は青く、とても気持ちのいいものだ

 

だけど・・・彼女にはきっと、この空の青が憎く見えてしまうことだろう

そう思うと、胸が苦しくなった

 

 

「全く・・・天も、残酷なことをするわ」

 

「そうだな・・・天は、そこまでして奴を消し去りたいのか?」

 

 

冥琳が頷き、私の隣に立つ

 

本当に、世界は残酷だ

あんな優しい子が、どうしてあそこまで酷い目に合わなくちゃならないのだろう?

 

 

敵だったはずの冥琳のことを心配し、亞莎のことを勇気づけてくれた

そんな優しい人間が、何故・・・

 

 

「ホント、残酷ね」

 

 

いっそのこと、雨でも降ってくれればいいのに

 

そう心の中で悪態をつき、私はその場をあとにした

 

 

 

彼女の想いに、かすかに涙を滲ませながら・・・

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

「なんだか、大変なことになっちゃったね・・・」

 

「そうですね・・・」

 

 

私の呟きに、愛紗ちゃんも暗い表情のままこたえる

本当に、大変なことになったなぁ

 

 

「天の御遣い様、かぁ」

 

 

天の御遣い

乱世を終わらせるために舞い降りたとされる、天よりの遣い

 

 

そして・・・華琳さんにとって、魏の皆にとって大切な人

 

 

「華琳さんのあんな顔、初めて見たなぁ・・・」

 

「あの覇王が、一人の男の為に涙を流す

確かに、あのような表情は初めてみました」

 

「それくらい、御遣い様のことが好きなんだよね」

 

 

愛してる

華琳さんは、あの時そう言っていた

 

涙を流せるほどに

悩めるほどに

 

華琳さんは、御遣いさんのことが・・・本当に好きなんだ

 

そんな人が、目の前から消えようとしている

そんなの、耐えられるのかな?

 

 

「私には、無理だよ・・・」

 

 

この世界か

愛紗ちゃん達か

 

そんなの、私には選べないよ

 

 

「華琳さん・・・」

 

 

この先にいったい、何が待っているのか・・・私には、想像することすらできない

 

けど、できることなら神様

 

 

 

 

「華琳さん達から・・・奪わないであげてください」

 

 

 

大切な人を・・・持って行かないでください

 

 

「お願いします・・・」

 

 

御遣い様・・・華琳さん

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

「華琳様・・・」

 

歩きながら、呟いた名前

ピタリと・・・その場にいた皆の足が止まる

 

 

「華琳様は、いったい・・・どうするのかしら」

 

「桂花・・・」

 

 

私のこの一言に、再び暗くなった空気

だけど、気になるじゃない

 

あの馬鹿か、この世界か

 

助かるのは・・・どちらか一つ

 

そんなの・・・華琳様に、選べるの?

 

 

「桂花ちゃん・・・」

 

 

そんな私に声をかけてきたのは、風だった

風はしっかりとした目で、私を見つめたあと・・・ふっと微笑む

 

 

「大丈夫なのです、桂花ちゃん

華琳様ならきっと、気づくはずなのですよ」

 

「気づく・・・って、何よ?」

 

「簡単なことです」

 

言って、風は歩き出した

面食らったよう固まっていた私達だが、すぐに慌ててその後について歩き出す

 

 

「ちょっと、今のはどういうことよ!?」

 

「お〜?

桂花ちゃんはわからないんですか?

風たちがすべきことが」

 

「わからないから、聞いてるんじゃない!」

 

「・・・ぐ〜」

 

「寝るなっ!」

 

「おぉ!

言うのがめんどくさくなって、眠ってしまったのですよ」

 

 

そう言って、ニヤリと笑う風に・・・苛立ちを覚えた

だけどそんな私とは裏腹に、風はさっきよりも笑顔が明るくなった気がした

 

 

「これは、教えられてなんとかなるもんじゃね〜ぞ」

 

「おぉ、宝慧の言うとおりなのですよ

これは、自分で気づかないと意味がないのです

けれど、あえて言うなれば・・・風は今日、明日に備えてぐっすり眠るとするのです」

 

「何を言って・・・る・・」

 

 

笑い、言った風の言葉

私は、その意味に気づいた

 

その場にいた皆も、気づいたようだった

 

 

私達がアイツの為にできることが・・・

 

 

それは、とても単純で簡単で

 

何よりも、難しいことだった

 

 

だけどきっと、今の私達にできる・・・最善の手段

 

 

そう・・・そうだったのね

 

 

私達は・・・

 

 

 

 

 

 

 

「私達は、アイツのことを・・・」

 

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

「お邪魔するわねん・・・」

 

 

それは、俺が一刀のことを診ている時のことだった

 

ふいに開いた扉

そこに、チョウセンが立っていた

 

俺は一刀から目を離し、溜め息をつく

 

 

「チョウセンか・・・立ち入り禁止と言ったはずだが?」

 

「んもう、そんな固いこといわないノン」

 

「はぁ・・・好きにしてくれ」

 

 

再び、零れ出る溜め息

普段なら何とも思わないが、今だけは耐えられそうもなかった

 

 

「御主人様の容態はどう?」

 

「見てのとおりだよ

さっき言ったとおり、明日の朝までギリギリもつくらいだろうな」

 

「そう・・・」

 

 

そこで、途切れる会話

開け放たれた窓から入る風が、少し冷たく感じた

 

 

「大した【悪役】っぷりだったな・・・」

 

「あらん、なんのことかしらん?」

 

「はは、なんのことだろうな」

 

 

言って、お互いに笑いあう

 

 

 

俺には・・・わかっていた

チョウセンの、本当に伝えたかったことが

彼女達に、本当に必要なことが

 

いったい何なのか・・・わかっていたんだ

 

 

だからこそ・・・

 

 

 

 

「俺は・・・俺にできる事を、全力でやってやる」

 

 

 

 

俺も、頑張らなくてはならない

 

たとえ、彼女達がどんな選択をしたとしても

 

 

俺は・・・ただ、応えるだけだ

アイツの、一刀の『笑顔』に・・・想いに

 

 

 

俺は、絶対に応えてみせる

 

 

絶対に、俺が【繋げて】みせる!!

 

 

 

 

 

「いくぞ・・・華佗元化、一世一代の大仕事だっ!!!」

 

 

 

見据えるのは・・・眠る一刀

 

その奥に、さらに奥に

俺は、意識を集中させていく

 

すると広がっていく視界の中、俺は・・・確かに視た

 

 

黒い不気味な氣

その中に、僅かに残る・・・温かな氣を

 

 

 

『俺の氣・・・もともとあった【白い氣】

ここなら、まだこの世界の力を受け付けるはずなんだ』

 

『そこに、俺の鍼を打ち込めばいいんだな?』

 

『うん・・・だけど、ただ打ち込むだけじゃ駄目だと思う』

 

『と、いうと?』

 

『俺の氣が・・・その白い氣が、俺の存在が消えるその瞬間

本当に、最期の瞬間

その直前、きっと・・・強い光を放つはずだから

その瞬間に、華佗の氣を受け止める

そこしかない、その瞬間しかないんだ』

 

『消える、直前だとっ!?

それじゃぁ、下手したら・・・っ!』

 

『大丈夫だよ

俺は、自分を信じてる・・・そして、華佗のことを信じてるから』

 

『っ・・・御遣い殿、いや一刀

わかった、俺に任せてくれ』

 

『はは、頼りにしてるよ』

 

 

 

 

 

 

「ふっ・・・」

 

思い出すのは、あの日・・・俺に、全てを賭けてくれた一刀の笑顔

温かな、太陽のような笑顔

 

あぁ、そうだな一刀

 

 

 

 

「炎は消える直前、強く最期の輝きを放つ

その瞬間に、俺の氣を送り込み・・・その輝きをさらに、もっと強く輝かせるっ!」

 

 

 

呟き、見逃すまいと見つめ続ける

この状態のまま、その瞬間を待ち続けるのは・・・至難の業

 

だが・・・やれないはずはない

 

何故なら、俺は信じているからだ

 

自分を、そして・・・アイツの笑顔をっ!

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおっ!!!!」

 

 

 

 

 

待っていろ、一刀っ!

 

俺が・・・お前に、届けてやるからな

 

 

 

 

 

【お前の望む、最期の瞬間】を!!

 

 

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「ここは・・・?」

 

 

気づいた時、私は・・・見知らぬ場所にいた

 

 

見たこともない美しい『草原』

 

見上げれば、青く澄んだ空

 

ここは・・・

 

 

 

「どうかな?

ここ、結構いい場所だろ?」

 

「え?」

 

 

ふと、聞こえた声

聞き覚えのある、とても優しい声

 

見つめる先・・・そこに、彼はいた

 

 

 

「一刀・・・なの?」

 

「やぁ」

 

 

私の言葉に、彼は笑って手を振った

その瞬間、気づいた

 

 

「そういうこと、ね・・・」

 

 

あぁ、これは・・・きっと夢ね

 

だって一刀は今、深い眠りの中にいるのだから

覚めることのない眠りの中にいるのだから

 

 

だからきっとこれは、私が見ている夢なんだろう

 

 

だけど、それでもいい

それでも私は、嬉しかった

たとえ夢の中のことだとしても・・・こうやって私のことを、彼が見てくれている

 

それだけで、私は嬉しかった

 

 

「一刀っ!!」

 

 

声をあげ、私は駆け出す

向かうのは、愛しい彼のもと

 

 

だけど・・・

 

 

 

 

「来るなっ!!」

 

 

 

返ってきたのは、予想もしていなかった一言

 

ハッキリとした、彼からの拒絶の言葉だった

 

 

 

「かず・・・と?」

 

 

 

そのあまりに残酷な言葉に、私は足を止めてしまう

そして、その場から動けなくなってしまった

 

 

「どうして?」

 

 

どうして、受け止めてくれないの?

どうして、私を遠ざけるの?

 

 

「今の君を、【北郷一刀】は愛せない・・・【曹操】」

 

「っ・・・!」

 

 

そんな私に向けられたのは・・・さらなる拒絶の言葉

目頭が、熱くなった

 

どうして、そんな・・・

 

 

「わからないか?」

 

「わかるわけ・・・ないじゃないっ!」

 

 

叫び、私は泣いた

とめどなく溢れる涙・・・情けないと思いながらも、私はそれを止めることができないでいた

 

あの覇王が、曹孟徳が

なんて情けないのだろうか

 

だけど、止められるわけがない

 

だって・・・

 

 

 

「好きなの・・・大好きなのよ」

 

 

 

愛している

 

私は、一刀のことを・・・本当に愛している

 

なのに、なのに・・・

 

 

 

 

「こんなの・・・選べるわけないじゃないっ!!」

 

 

 

 

私は【曹操】で

大陸を治める覇王で

 

だけど・・・私は【華琳】

この大陸に住む、一人の人間だ

 

だけど・・・

 

 

 

「ごめんなさい

私には・・・貴方を救えない」

 

 

私には・・・一刀を救えない

私には・・・【曹孟徳】には、彼を選べない

 

 

それが悔しくて

 

情けなくて

 

ただ・・・悲しくて

 

 

私はまた、泣いた

 

そんな時だった・・・

 

 

 

 

 

「それで、いいんだよ」

 

「っ・・・」

 

 

耳に入ってきたのは、彼の声

優しくて温かな、一刀の声

 

彼は短くそう呟くと・・・私に向って微笑んでくれた

 

 

「君は、それでいいんだ」

 

 

そう言って、彼はまた笑う

 

でも・・・なんで?

 

 

「だったら、なんで・・・っ!」

 

「俺が言いたいのは、そこじゃないよ

もう一度、よく思い出してみてほしい」

 

「思い・・・だす?」

 

「ああ、皆の言葉を

想いを、思い出してくれ」

 

「ぁ・・・」

 

 

微笑みと共に、言われた言葉

 

私は、その瞬間・・・思い出した

 

ああ、そうだ

 

あの時・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰一人・・・一刀のことを、諦めろなんて・・・言っていなかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ

チョウセンも、華佗も雪蓮も・・・私に、諦めろとは言わなかった

 

そして、何より・・・

 

 

 

「一刀も・・・一刀自身も、諦めてはいなかったじゃない」

 

 

言って、見つめる先

目の前に立つ、【北郷一刀】が微笑む

 

 

「やっと、気づいたみたいだね」

 

「ええ、わかったわ」

 

 

可能性は、零に近いなんてものじゃない

 

もう、殆ど無いに等しい

 

 

 

でも・・・零じゃない

 

だったら私は

 

 

私には・・・

 

 

 

 

 

「こんなもの・・・必要ない」

 

 

ピシリと・・・いつの間にか持っていた『ソレ』にひびが入る

 

チョウセンから渡された【銅鏡】

 

コレには確かに、一刀を救う力があるのかもしれない

 

もう、これしか方法はないのかもしれない

 

でも、それよりも私は・・・信じてみたかった

 

一刀が信じて、私たちが信じる

 

新たなる可能性を・・・

 

 

「私にできること・・・私たちにできること

それは、信じることだったのね」

 

「ああ」

 

 

 

【信じる】

 

それは、言葉にするのはとても簡単で

だけど・・・何よりも難しいこと

 

私たちはいつだって、迷ってしまう

 

決めたはずの事が

目指したはずの場所が

 

いつだって揺らぎ、変わってしまうことがある

 

 

それでも、私は口にしよう

この気持ちを、この想いを

 

改めて、貴方に伝えよう

 

 

 

私は・・・

 

 

 

 

 

 

 

「私は・・・一刀を信じてる」

 

 

 

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真っ直ぐと、彼を見つめたまま口にした言葉

彼は、『そっか』と言い微笑んだ

 

その視線が、空へと向けられる

空は相変わらず青く、雲の向こうには・・・美しく輝く太陽が見えた

 

 

「もう【俺】は、必要ないみたいだな」

 

 

そう言って、彼は笑う

その体が、徐々に・・・透き通っていくのが見えた

 

そう、もう【帰るのね】

 

 

「貴方のこと、今ならわかるわ

思い出したの・・・この間見た、夢のことを」

 

「はは、それはよかった」

 

「貴方は・・・いいえ、やめましょう

今の私たちには、貴方は【無縁】の存在だもの」

 

「冷たいなぁ・・・」

 

「事実よ」

 

「・・・さいですか

まったく、やっぱ【何処の君】も変わらないのかな」

 

「そして・・・【貴方】も変わらないわ

相変わらず、おせっかいなのね」

 

 

お互いに顔を見合わせ、私達は笑った

そうだ、今ならわかる

彼のことが・・・自分のことが

 

 

「それじゃ、もうお別れだ

君達なら、きっと・・・届くはずだよ」

 

「当たり前よ

誰にものを言っているのかしら?」

 

「はは、本当に変わらないな」

 

 

変わらない

 

何処にいようが

何をしていようが

 

きっと、私達はこんな感じなのだろう

 

薄れゆく彼を見つめ、ふとそう思った

 

 

「それじゃ、もう・・・いくよ」

 

 

 

だからこそ、私は聞いたんだと思う

 

 

 

「貴方は、これからどうするの?」

 

 

それは私たちの物語には、全く関係のないこと

彼とはもう、会う事はないのだから

それでも、私は聞いた

 

 

何処にいても変わらない、彼の答えが聞きたかったから

 

 

「これから・・・か」

 

 

私の言葉に、彼は再び空を見上げる

その先に、何か見えたのかもしれない

 

彼は私のことを見つめ、ニッと笑って見せたのだ

 

 

「・・・よ」

 

「ぁ・・・」

 

 

そして、彼は消えてしまった

 

最期に、笑顔でこう言葉を残して・・・

 

 

 

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〜遥か彼方、蒼天の向こうへ

 

 

忘れてきた大切なモノ

 

 

取り戻してくるよ・・・華琳〜

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

「ん・・・」

 

 

眩い光に目を細めながら、私は体をゆっくりと起こした

窓の向こう・・・キラキラと輝く太陽に、苦笑してしまう

 

私は、気づかぬうちに自分の部屋まで戻ってきていたようだ

 

 

「昨日の悩みが・・・嘘のようね」

 

昨日の苦悩が、苦しみが・・・今は全くない

そのことがおかしくて、私は笑ってしまう

 

「華琳様、いらっしゃいますか?」

 

そんな時、扉の向こうから聞こえてきたのは・・・秋蘭の声だった

 

「少し、待っていてちょうだい」

 

私は寝台から出ると、衣服を整える

それから、椅子に座り小さく笑った

 

「いいわよ・・・『皆』、入ってらっしゃい」

 

「っ、はい」

 

開かれる扉

そこにいたのは、秋蘭だけじゃない

流琉を除く、魏の者達が皆揃っていたのだ

 

私はその光景に、ふっと微笑んだ

 

「流琉は一刀の部屋にいったのね」

 

「はい、様子を見てもらいに・・・しかし、よくわかりましたね

それに、随分と落ち着いていらっしゃる」

 

「ふふ、どうかしらね」

 

 

最期の朝

そう、わかっているつもりだ

けれど私の心は、随分と落ち着いている

 

理由は・・・わかっていた

 

 

「思い出したの・・・以前見た、夢のことを」

 

「夢・・・ですか?」

 

「そうよ

とびっきりの悪夢を、ね」

 

 

言って、私は笑う

 

思い出した

あの日・・・会議当日に見た、夢の内容を

 

思い出した今ならわかる

あれは、確かに悪夢だった

 

本当に、酷い夢だった

あんな・・・【情けない自分】、許せなかった

 

 

だから、私は後悔したくない

彼に、後悔させたくない

 

 

 

「いきましょう、一刀のところへ」

 

「は、はいっ!」

 

 

そう言って、ふと見つめた机の上

ソコにのるモノを見て、私は頬が緩んでしまう

 

「いってくるわね・・・【一刀】」

 

そこにある、『ひび』のはいった・・・古ぼけた銅鏡に言葉を残して

私は、部屋をあとにした

 

 

 

 

 

『いってらっしゃい・・・』

 

 

 

 

 

温かな想いを、その背に受けながら・・・

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

「華琳様っ!」

 

 

一刀の部屋へと向かい、歩いている時のこと

向かいから走ってくる、流琉の姿を見て・・・私達は、足を止める

よく見れば、彼女は赤髪の医師

華佗をおぶっている

 

・・・相変わらず、すごい力ね

 

 

「流琉、どうかしたのかしら?」

 

「それが、部屋に兄様がいないんですっ!!」

 

「そう・・・やっぱりね」

 

「か、華琳様!?」

 

 

私のこの返事に、隣を歩いていた桂花の顔が驚愕に染まる

そんな彼女の様子に、私は小さく笑ってしまう

 

 

「当然でしょう・・・信じていたんだから

そうでしょ、華佗」

 

「流石は・・・曹操殿、だな」

 

 

見つめた先、流琉の背中から降りてフラフラとする華佗が・・・ニッ笑った

 

 

「繋いだぞ、曹操殿

あとは・・・君達に任せる」

 

「そう・・・礼を言うわ、華佗」

 

「いらないよ

俺はただ、友との約束を守っただけだ」

 

 

壁に寄りかかり、笑いながら言う彼

彼はそれから、空を見上げながらその場に座り込む

 

 

 

 

「一刀は・・・【忘れられない景色】が見える場所にいる

君ならわかると、そう言っていたよ」

 

「そう、なら・・・もう行くわ」

 

「ああ、俺は少し休ませてもらうよ

ははは、もう氣も・・・殆ど空っぽなんだ」

 

「本当に・・・ありがとう」

 

「気にするな・・・」

 

 

直後、聞こえてきたのは・・・彼の寝息

私は眠る彼に頭を下げ、静かにその場から歩みだす

 

 

向かうのは、あの場所・・・

 

 

見渡す街並み

そこに生きる、人々の笑顔

 

この景色を忘れるなと・・・彼に言った、あの場所

 

 

そこに、彼はいる

 

 

 

 

 

 

あの・・・城壁の上に

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

「来たか・・・」

 

 

辿り着いた、城壁の上へと向かうための階段の下

一人の女性が、立ち上がり微笑んだ

 

彼女は・・・黄蓋

 

彼女はジッと私の事を見つめたあとに、意味ありげに笑った

それから、ぽんと・・・私の肩を叩く

 

 

 

「うむ、良い目をしておる」

 

「当たり前よ」

 

「はは、言いよるわ」

 

 

そう言って、黄蓋は再び笑った

だがその表情もすぐに、真剣なものへと変わる

 

 

「この先に、あやつはいる

覚悟は・・・」

 

「そう、なら行くわね」

 

「なっ・・・!?」

 

 

彼女の言葉

その途中で歩き出した私に、黄蓋ばかりか周りの者は皆驚いていた

 

その光景に、私は・・・ふっと微笑んで見せた

 

 

「覚悟なんて、もう必要ないわ

私は、私として・・・一刀に会うだけよ」

 

「曹操殿・・・」

 

「それで、まだ何か言う事があるのかしら?」

 

「ふ・・・いや、もう何もない」

 

 

腕を組み、彼女は・・・満足げに頷く

それから彼女は、空を見上げた

 

 

「よかったな北郷・・・」

 

 

呟き、笑う彼女

その顔を見ればわかる

彼女は、黄蓋はきっと・・・

 

 

「貴女も、一刀のことが・・・」

 

「はは、もう行くがいい

ワシは、見届けるだけじゃ」

 

「黄蓋・・・ありがとう

一刀を、支えてくれて」

 

「祭じゃ・・・」

 

「ふふ、ありがとう祭」

 

 

彼女もきっと、一刀のことを愛していたのだ

彼と触れ合ううちに、きっと・・・

 

相変わらず、種馬ね・・・あの馬鹿は

 

 

 

「それじゃ、いくとしましょう

あの馬鹿のところに、ね」

 

「うむ、行くがいい

お主の・・・いや、お主らの物語

このワシが、しかと見届けようっ!!」

 

 

 

 

黄蓋・・・祭の言葉に、背を押された気がした

体が、さらに軽くなった

 

 

駆け上がる階段

 

吹き抜ける風が、とても心地良い

 

この先に、一刀が・・・

 

 

「一刀っ!」

 

 

そして、階段を上りきった私

 

 

その先に・・・

 

 

 

 

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「やぁ・・・おはよう、華琳」

 

 

「ぁ・・・」

 

 

 

いつものように笑う・・・彼がいた

 

温かな笑顔の、彼の姿があった

 

それを見て、私も微笑んだ

 

 

 

「おはよう、一刀」

 

 

 

 

 

これが・・・最期

 

 

私と彼が話した、最期の時間

 

 

北郷一刀が、この世界で生きた・・・最期の日

 

 

-15ページ-

 

 

 

物語は、ついに終わりを迎えるのだ・・・

 

 

 

 

-16ページ-

★あとがき★

はい、二十九章・・・公開ですw

絵もようやく、レベルが上がってきたかなと・・・いや、全然ですねorz

やっぱり、上手くいきません

それでも今回はちょっと頑張って、背景的なのや色などもつけたりと・・・おかげで、こんなに時間がかかったんですがww

 

今回のお話

わかった人もいるかもしれませんが、『アイツ=北郷一刀』の詳しい正体が判明していますww

まぁこのお話には直接関係してはいませんがwwww

 

ていうか、すごい長くなった気がww

もっと短く纏められなかったの!?=むりですww

サーセンww

そして、野郎の絵ばっかでサーセンww

最後はちゃんと、女の子も描くからww

 

 

次回はいよいよ最終章

挿絵も最大数まで載せる予定なんで、しばらくかかると思いますが・・・お待ちいただけたら嬉しいですw

込み上げる想い

溢れる感情

その全てを、ぶちまけます!!

 

 

 

 

 

 

 

・・・超、余談

1・こんなお話も考えていた

 

 

『何でこんな奴に、お墓なんて作ってあげるのさ』

 

『同じ男を・・・愛した女だからよ』

 

 

『貴女はもう・・・イっている』

 

『あぁぁぁぁあああ・・・あふんっ!!』

 

 

『奴の名は【流琉】

私の・・・姉よ』

 

 

『一刀・・・天へとかえるときがきたみたいね』

 

『天へとかえるのに、人の手は借りんっ!!』

 

 

 

 

 

 

・・・カオスすぎて、没になりましたwwwww

 

 

 

2・仕事中に・・・

 

ボクの船には、『ブロアポンプ』というものがある

え?オチが見えたって?

そんなこと言わずに、最期まで聞いてくださいよw

 

 

とにかく・・・これの作動を確認して、ボクは上司に無線で報告するのですが

先日のことです

 

 

 

 

 

『はい、【ぶるぁあポンプ】作動確認しま・・・した』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっちまったwwwwwwwwwwwwwチョウセンの書きすぎで、えらいことしてもうたwww

 

無線の向こうから、『ぶるあww』って笑い声聞こえるしww

もういっそのこと、怒ってくれたほうがありがたいですww

肩叩いて、『疲れてんだな』って慰めんのもやめてww

恥かしくて、死にたくなるwwwwww

 

 

それでは、またお会いしましょうww

説明
大変、お待たせいたしました
二十九・・・投稿します
眠かったから、誤字があるかもです
すいません
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コメント
全てを託せる友や仲間、そして大好きな女の子・・・一刀は本当に幸せ者ですね・・・だから辛く、そして信じたいです。(深緑)
もう・・・私の涙が枯れてしまいそうだ・・・頑張れ一刀!華琳!(シクルレイ)
例え終わると解っていても、足掻かずにはいられない。納得出来るはずもない。さぁ、一世一代の大輪花、咲かせてやろうじゃないか。(峠崎丈二)
FALANDIAさん<使いたくないwwww(月千一夜)
サイトさん<はいw楽しみに待っていてくださいww(月千一夜)
poyyさん<いい意味で、皆さんの期待を裏切れればなと思いますw(月千一夜)
よーぜふさん<何を汲み上げるのか、自分に問い詰めたくなりましたww(月千一夜)
平成あるまじろさん<実話ですw(月千一夜)
水上桜花さん<世界に対して、一刀が最後にすること・・・是非とも、ご覧下さいw(月千一夜)
ZEROさん<御祓いに行ってきますw(月千一夜)
十狼佐さん<このネタ、結構わかる人いると思うんですwそして気づいてください・・・流琉の配役がカオスなことにww(月千一夜)
mightyさん<悪夢ww(月千一夜)
ルーデルさん<ボクも、そう思いますww(月千一夜)
天覧の傍観者さん<oh!Yes(月千一夜)
samidareさん<やっちまったんですw悪気はなかったんですww(月千一夜)
悠なるかなさん<さぁて、いよいよフィナーレですw(月千一夜)
それはアレですかね。ポンプ汲み上げるたびに「ぶるぁああ」「ぶるぁああ」「ぶるぁあああああ!!!」っていうんですかねw(FALANDIA)
何も言えません、ただ次回を楽しみにしています。(サイト)
ついに最後…。(poyy)
あんたついにやっちまったな・・・せめて、せめて作品として分けると思ったのに・・・ぶるぁあぽんぷて・・・ww(よーぜふ)
最後がぱねぇwww(平成あるまじろ)
想いと願い。微かに繋がる細い細い糸。希望を繋ぎ、心を繋ぎ、世界に一つの孔を穿つ。すぐに塞がり逝くけれど、想いは途切れる事はなく。一世一代の大勝負。世界に対して突きつける。(水上桜花)
最後にどんな物語が来るか楽しみですね。 ぶるぁあて言ったのはアレに取り付かれたんでしょう。(ZERO&ファルサ)
うわぁ、作品はすごいのに、最後の没ネタがひでーwww(十狼佐)
一夜さん、お疲れ様 (ノ_・。)ヾ(・ω・*)ナデナデ ちなみに自分はチョウセンに永遠に追いかけられてる夢を見た事があります _ト ̄|O (mighty)
最後のページはねえべwww(ルーデル)
Oh!Nooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooooo!(天覧の傍観者)
ちょっとジーンときてたのに最後に【ぶるぁあポンプ】ってww(samidare)
訪れた最後の刻 愛する者の為に存在を賭けた青年と己を見つけることができた少女 二人が交わす言葉(想い)は風となり天(そら)へと昇る 此処に舞台は整った 役者は天の御使いに覇王とその忠臣 演じるは悲劇か、喜劇か、それとも・・・ さぁ、閉幕(カーテン・フォール)を始めよう・・・(悠なるかな)
宗茂さん<まじで凹みますww(月千一夜)
疲れてんだなwww(宗茂)
kashinさん<まさかの、医者王ですww(月千一夜)
2828さん<やっちまいましたwwww(月千一夜)
砂のお城さん<一刀、最後の頑張りですww(月千一夜)
poreさん<医者王大好きなんですw(月千一夜)
クラスターさん<新たな可能性ってやつですかねw(月千一夜)
ryuさん<あざっすwいましばらくお待ちくださいww(月千一夜)
はりまえさん<光は、きっと・・・(月千一夜)
カズトさん<どぅふふふふwどうなることやら(月千一夜)
scotchさん<ありがとうございますw(月千一夜)
盛り塩さん<灯火・・・医者王特製灯火ですねw(月千一夜)
今回のヒーローは間違いなく医者王!!(kashin)
ぶるあぁぁぁぁwww(2828)
さすが我らが医者王!ありがとう!!(pore)
運命の時がやってきてしまったか…。さて、第三の選択肢は結実するか?(クラスター・ジャドウ)
どのような終端を迎えるのか、楽しみに更新をお待ちしております。(ryu)
最後をどうつなぐか、光は満ちるかな・・・・(黄昏☆ハリマエ)
工工工エエエエエエェェェェェェ(゚Д゚)ェェェェェェエエエエエエ工工工最後ってことはまさか!?(スーシャン)
更新お疲れ様です。ラストまで頑張ってください!(scotch)
一刀最期の灯火かな・・・(盛り塩)
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