レベル1なんてもういない 1−5 |
「アメリカではこんなもの持っていて当たり前と言ったのはそちらのお子様ですか」
話の腰を折る者がいた。
「なに?」
振り向くと
その銃の持ち主がこちらに話しかけてきた。
あの中にいたのは全員男だと思っていたが、1人だけ女が混じっていた。
その顔立ちこそ女だが、服装を含めた全体の景観は細身の男と見間違えてもおかしくない。
いやよく見ると女としても細い。
それに眼鏡が光で反射していてその目は確認できない。
女は銃口から流れ出る煙をガンマンよろしくフッと息を吹きかけてクルクルと回しホルスターにしまい込んだ。
動作の一連が様になっているのを見るとよっぽど銃の扱いに慣れているのだろう。
あの速度の剣捌きを見切って弾丸を当てられる腕のなら当然か…
勿論見切って当てていたらの話でもあるが。
「そういうあんたは?」
「そうですね。
先に質問をしたのは私の方ですが、そちらの質問からお答えしましょう」
回りくどい嫌味を言われた。
先に答えておくべきだった。
「私はその箱を追ってこの方達の中に潜入していたのです。
その箱の中身の主に取り返してくれと頼まれましてね、機を探っている最中にあなた方が現れたという訳です」
「その辺は機をくれたあなた方に感謝しています」
「中には何が入っているの」
「それは業務上の秘密です」
ここでも出た。
大人は何も教えたがらない。
「でも、その箱を手に入れたのはあなたですから、私がここで横取りするわけにも行きません。
その箱ごとそのまま持っていってください」
「え?
でもウチらが持っててもしょうがないじゃん
いいよ、あげるよ」
「ただし、
箱はそのまま開けない事をお勧めします。
後ろの方では手に負えないかもしれませんから」
ラフォードを指して言い切った。
「それに…
あなた方が持っていた方が好都合のようです」
「それってどういう…」
「そろそろ私から質問にも答えて欲しいものですが?」
いかにも大人らしい回りくどい答え方をする。
…それに知りたいのはこの先にもあると言うのに…
テレビで言うCMに回されたみたいだ。
はぐらかされた感じはあるが先にはぐらかしたのはこちらというのもある。
「…何が聞きたいんだっけ?」
「私が持つこれについて知っているようですね」
ホルスターに収められた銃を指している。
「知ってる。
でも実際に見るのは初めてだよ。
テレビの映画や漫画に出てくる銃でしょ」
「そうです。
銃は魔法でも何でもない。
あなたはこれをどうして知ってるのですか?」
「だから映画や漫画に出てくるんだって」
「エイガヤマンガ?
なんですかそれは」
「銃を知っていてこっちを知らない方がおかしいよ。
本気で言っているの?」
「この辺は初めてなものでしてね」
異世界というのは不便な所だ。
いちいち文化まで異なるらしい。
会話もいまいち成立してこない
「フフフ」
「どうしたの?」
急に笑われた。
「これからどこかに向かっているのですか?」
「ウチらもこの辺は初めてなんだけどさ
ちょっとその辺まで世界を救いにね」
「貴方達が…そうですか」
これこそ笑いを取る冗談を言ったつもりだったのに真に受け止められてしまった。
ギャグのセンスも世界共通ではないらしい。
決してこちらのタイミングに非があるとは思えない。
…はず。
「だとしたらあちらに向かって行くと街があります。
あちらに向かうといいですよ
その箱の持ち主も今はその街にいるはずです」
「う、うん」
「それとこの方達に行っていた言葉、勇者、あの街では絶対に勇者を名乗らないで下さい
街にいられなくなります」
「え?なんで?
勇者ってそんなに嫌われてるの?」
「そんなところです
自分がそうだとしたとしても
その名を名乗った所で争いの種になってしまうだけです。
でしゃばって言い出す必要はありません。」
「そっか…さっきはウチのせいでケンカに巻き込んじゃったもんね」
「勇者の戦いだから世界を削っても仕方なかった、
の一言で終われるほど世界は上手に出来ていません。
今は全てのヒトが勇者を嫌っているとそう捉えたほうが言いと思います」
「うん…」
真剣に聞き入ってしまう。
この人の言っている事は間違ってない事はわかる。
だけど…それじゃ本当に世界を救い出した勇者は世界を救わないべきだったのだろうか。
そんな事はない。
勇者のおかげで世界はここに存在して、ヒトは生きている事を実感してるわけではないのか。
本当に勇者は必要ないのだろうか。
世界の日常を救う為に1人、悪口を叩かれながら戦いに赴くなんて…
「そのうちに解る時が来ます」
その事が多分解る時はこない、
そう思った。
「お説教が長くなってしまいましたね
今から行けば日が暮れるまでには到着するでしょう」
「あんたはどうするの?」
「私はこの人らを連れてあちらの街へ行きます
この方達は私の仲間でもありますからね
馬車もありますし」
別の方向を指した。
「だって怪我人の手当てとかするには近い方がいいんじゃないの?」
「この方達はあの街には居られない身」
「それって悪いヒトって事?」
「それはあなたの知る所ではありません」
……
「エル、どちらの街に行くの?」
ラフォードが聞いてきた。
ラフォードはこの話を聞いて何か思う事はあったのだろうか。
「ウチらは近い方にの街に行こうよ
この箱もあるし」
「それでは。
申し遅れました。
私、フミと言います。
あなた達も旅を続けていくのであればまた会うことになるかもしれません」
この広い世界で約束も連絡もなしに再び会う可能性なんてほぼゼロだろう。
それでも会うことがあったらそれこそ奇跡だ。
それでも……再び会える感じがしてならない。
「ウチはエル。
エル=マリーゴールド
こっちは葵」
「違う。私ラフォード」
「ラフォードさんに
マリーゴールド、ですか。
フフフ
ではまた…」
足止めはされたものの、そのお陰で少し、この世界に触れることが出来きた。
…
考えさせられる事も増えてきた。
街までもう少し。
街に着いたら服をどうにかしてもらうようにラフォードに言っておこう。
だけどそれよりも…
「でも葵、あの時のアレは絶対にウチを狙ってたんだろ」
「その話は終わった。
あれはエルを狙っていたあのフミという男っぽい女を狙ったもの」
「それは確かに同じ場所にいたけれど
…本当?」
「そこだけはルールを破った
あの男っぽい女は確実にエルを狙っていた」
声を出す者のみ攻撃するあのルールか。
それにしても男っぽい女とは…どこを見て言っているのだろう。
「それとさ葵、あれが必殺技だったの?」
「あれが必殺技
間違いない」
「本当に?
あれが必殺技でいいのね?」
「あれが必殺技」
ジッとラフォードを見る。
すると観念したのか
「必殺技って何?」
その概念から知らなかったようだ。
「えーと、改めて聞かれるとそうだな…
自分自身特有の自信ある技って所かな
まあ実際に殺す技って事じゃないんだけどさ。
でもね、勿論その必殺技の上もなくちゃ駄目!
それを必殺技を越えた超必殺技って言うの」
ちょっと興奮染みてしまった。
出来る事なら自分で戦ってやりたいが何度も何度も何度も戦っては駄目だと言われているからそれは出来ないだろう。
なのでそんな自慢できる技の1つや2つでもないと戦いを見続けなければならないこちらも盛り上がらない。
「エル単純」
「世間がそういう風に言い出したんだもん
ウチが単純なんじゃないよ」
「ならあれは必殺技にはならない
耳を使う事はそれほど労力にならない」
「そうなんだ。
でもさ、一度ウチに攻撃が向いてきたことで少しだけ解った
葵さ、その包帯に巻かれた中の剣を高速で近付いて鞘から抜いてるのかとはじめ思っていた。」
「…」
「でもさっきの戦いでは一度も剣は抜いていないんじゃないのかなって」
少しだけラフォードがこちらを向いた。
そしてすぐ前を向きなおした。
このラフォードの反応から察するにあながち間違いでもないらしい。
「いや、逆に葵の動き自体が見えなかったんだよ。
音を聞く、相手に近寄る、剣を抜いて攻撃する、剣を鞘に治めて元の位置に戻る
この一連の動作の全てを目で追えないなんて出来るものじゃないじゃない」
「エル単純」
また言われた。
確かに1つも確信できるものはないし1つも解決していない。
競馬の予想で1着に馬が来るんじゃないかと言い出したような単調すぎる推理だ。
「エルはエルだからちょっとだけ教える」
「うんうん 教えて」
…
………
「…全然解らない」
見る物をそのまま捕らえない事が大事。
本当にちょっとだけでヒントにもならなかった。
「エル、あそこ」
「何?
わあ。」
この世界の夕日は何度か見てきたが
今日のそれにはこの世界で初めて見る建造物がついていた。
ヒトのいる街に着いたようだ。
地面を見るといつからか奇妙な砂地はなくなり、この星本来の大地を踏んでいる。
目新しいものを見ると疲れなんか忘れ去ってしまえる。
今まで積み重ねたものがこの新しい景色を送ってくれたようでテンションも上がる。
「綺麗だね…」
「そうでもない」
…一蹴された。
綺麗な景色の感動は分かち合えるという自慢の理論はラフォードには通用しなかった。
「もっと綺麗な場所、沢山ある」
「ここよりも…かぁ
それは楽しみだよ」
街に着いたらどうしよう。
まずは服屋に行こう。
その前にお腹も減ったし食事かな。
その前に街の情報を仕入れに広場かな。
その前に身なりを整える服屋かな。
…ループしたなこれ。。
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とりあえずここまで第一章みたい感じです。 | ||
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