ロリータは間違ってアクマと踊る |
ストリートでロリータ少女とドクロが遭遇
ドクロ:こんにちは。
女の子:こんばんわ。
ドクロ:夜だからこんばんわでしたか。失敬失敬。
女の子:どちらでもいいよ。
ドクロ:涼しい夜風が心地よい。ストリートに通る車の雑音がすばらしい。そして満月の夜にステキなドレスのお嬢さん。私は今にも天を昇る気分です。
女の子:ばっかみたい。それにあたし、お嬢さんって呼ばれるほど若くないよ。
ドクロ:そうですか? 私はてっきり18歳くらいの高校生かと。
女の子:すごーい。10も若くみられた。
ドクロ:おどろいた。でも10代にみえちゃうくらいかわいらしい。
女の子:それって、褒め言葉?
ドクロ:もちろん。
女の子:もしかして、衣装に魅せられてあたしに話かけたの?
ドクロ:いや。君に魅せられてさ。
女の子:うそつき。
ドクロ:ばれたました?
女の子:ええ。
ドクロ:でもどうして?
女の子:男ってそうだからよ。
ドクロ:そうって?
女の子:テレビで出てくるアイドルとか思い浮かべてよ。アイドルってはじめはかわいいからって何度もでるけど、すぐに飽きられていなくなる。
ドクロ:ああ、そうだね。アイドルの名前も顔もすぐに忘れちゃう。
女の子:あたし、ロリータ好きで街中でもよく着て歩いちゃう。でも話しかけてくる男はあたしじゃなくて洋服に興味を持ってなの。見せ物じゃないのに。
ドクロ:君自身じゃなくて、洋服に。
女の子:うん。
ドクロ:でも、君がロリータ服を着るのは目立ちたいからでしょ?
女の子:たぶん。でも、それだけじゃない。
ドクロ:なに?
女の子:うまく言えない。大切な戦闘服って感じ。
ドクロ:戦闘服? なんとなくわかるかもですね。
女の子:あんたに?
ドクロ:ロリータ服を着ると、いつもの自分と違って生まれ変わった気がする。違いますか?
女の子:間違えてないけど、間違えてる。
ドクロ:いつもそんな華やかなドレスを着てるの?
女の子:黒くてシックのも好きだよ。けど一回、通りかかった男にメイドさんだとか言われたことがあってね。
ドクロ:メイドじゃ問題あるの?
女の子:大問題よ! メイドじゃ使用人じゃないの! その着てた黒ロリだけど、ライターで火葬してやったわ!
ドクロ:他にもゴスロリ服を持ってるの?
女の子:うん。ヴィクトリアメイデンのが一番のお気に入りかな。かわいらしいけどシックでキリってしてて。メタモルフォーゼとかは派手であからさまだけど嫌いじゃないね。あとは大御所だけどミルク。デザインセンスが半端じゃない。
ドクロ:お金はあるの?
女の子:フリーター。生活費削って買ってる。
ドクロ:君にとってロリータ服が重要なのはわかったよ。でもちょっと言いづらいんだけどね。
女の子:なによ?
ドクロ:少女って感じで子供っぽい。
女の子:それは褒め言葉よ。
ドクロ:え、そうなの?
女の子:大人になりたくないの。せめて、ロリータに身をまとってるときくらい、お嬢様でいたい。
ドクロ:現実で嫌なことばっかり?
女の子:ばっかり。ファミレスでバイトしてるけどヤなやつばっか。チーフは小言がうるさい。他のバイト連中は子供っぽくてついていけない。客は時間をもてあましてるようにみえてなんかムカつく。
ドクロ:子供っぽいのは君の方だよ。
女の子:そう?
ドクロ:うん。心を閉ざしたままで、社会にとけ込めていないって感じ。
女の子:とけ込みたくても、とけ込めないのよ。
ドクロ:そういえば、まだ自己紹介してなかったね。私の名前は……。
女の子:アクマでいいわ。
ドクロ:あんまりだね。たしかにアクマなんだけど。
女の子:あら、当たってた? でもあんたがどんな名前だろうとどうでもいいわ。
ドクロ:で、君の名前は?
女の子:……。カレン……。
ドクロ:カレン?
女の子:華に、恋って書くの。
ドクロ:すてきな名前だね。でもホントの名前じゃないんでしょ?
女の子:そんなの、どうでもいい。
ドクロ:なぜだい? 親から付けてもらった大事な名前じゃないのかい?
女の子:だからどうでもいいのよ。ださいもん。
ドクロ:そうですか……。
女の子:でも滑稽よ。自分で華恋って名付けておいて、恋なんてしてないもん。
ドクロ:いい男がいないから?
女の子:そうね。誰ひとり。
ドクロ:誰ひとり?
女の子:ええ。……。苦手なの。
ドクロ:余程嫌なことがあったんだね。
女の子:そう。パパがね……。
ドクロ:パパ?
女の子:洋服ばかり与えられてた。思えば、かわいい女の子という願望ばかりでいっぱいだったのね。
ドクロ:父親とはそんなもんじゃない?
女の子:そういえば、人形も与えられてたね。自分でカスタマイズするやつ。
ドクロ:着せ替えできるやつだね。
女の子:そうそう。お気に入りなの。フランス人形のぱっちり目を見開いたちょっとこわいやつ。
ドクロ:そんなパパがなにか?
女の子:そうやってかわいいものばかり与えられてたから、今ロリータばかり集めてる。それがパパの望みとも思ってたところもあった。でもいい歳してやめろと言ってきやがった。
ドクロ:……。
女の子:人形も部屋いっぱいにしたら怒られた。ぎったぎたに、壊しちゃった。
ドクロ:ヒステリーだね。
女の子:なんでだろうね。パパの望みだと思ってた。子供のときだけだったのかな? かわいい服を与えて着飾ってたのは。人形みたいにあたしを飽きちゃったのかな? それとも大人になったから別のことを望んだのかな? どちらにしろもうあたしは見捨てられた。
ドクロ:友達はいないの?
女の子:いた……。
ドクロ:過去形?
女の子:お茶会で知り合った友達。インターネットで知り合ったゴスロリ仲間なんだけどね。ケバイとか言ってきやがったの。
ドクロ:まさか、それで?
女の子:その友達の家に行って、服奪って逃げた。ケラショップの着物みたいなヤバイやつ! でもあの女が着てる服だと思うとね、着るのも嫌になって焼き捨てたよ。
ドクロ:ずっと気になっていたんだけどね……。
女の子:なに?
ドクロ:その手首、なに?
女の子:え? ああ、このリスカ?
ドクロ:自分で切っちゃったの? なんで?
女の子:気がついたら。自分がクズに思えてどんどん切ってた。切ってるときってけっこうスカっとするのよ
ドクロ:そのあとで、ひどく後悔しない?
女の子:する。死にたくなるくらいに……。
女の子:あたしね。人形に憧れてるの。自分にとっても、他の人に対しても。
ドクロ:もしかして、物言わないから?
女の子:物言わない、傷ついても無反応になれたらなと思う。同時に、物言わない理解者を支配したい気持ちが正直強い。
ドクロ:ああ、なんとなくわかる。
女の子:なにが?
ドクロ:意のままにあやつりたいってところ。だから君のその欲求は理解できる。
女の子:だからなに?
ドクロ:君が自分を責めて苦しむことはない。
女の子:言ってる意味がよくわからない。
ドクロ:君は自分が価値のない人間だと思いこんでいる。だからリストカットなんかしたりして、自分を苦しめている。孤独なんだ。寂しがっているわりには、その孤独に甘えてもいる。
女の子:うざいよあんた。
ドクロ:図星でしょ?
女の子:ぶつよ。
ドクロ:どうぞ。
ぱーん
ドクロ:フフフ。骨だけの私でも痛みますね。
女の子:あんた、よくわからないわ。
ドクロ:スカっとしたでしょ?
女の子:まあね。
ドクロ:罪悪感は?
女の子:……。少し……。
ドクロ:でも、気にすることはないですよ。私が殴ればいいと言ったのですから。それに……。
女の子:なに?
ドクロ:みんな同じですよ。殴りたいと思うことも、殴ったあとで後悔することも。あなたがリスカして、しているときに高揚感にかられるのも、リスカしたあとで死にたくなるのもそう。みんな、傷つけたり傷ついたりで、今を生きている。
女の子:……。
ドクロ:そう。みんな生きているのです。生きていることはすばらしい。嫌なことたくさん体験しても、あなたはロリータ服着てたくましく生きている。
女の子:……。
ドクロ:私はそんなあなたが好きです。そして、ロリータ服を着ているあなたはとてつもなくすてきです。
女の子:すてきとは?
ドクロ:かわいくて、かっこいい。
女の子:あんた、わかっているわね。
ドクロ:そりゃどうも。
女の子:あたしね、ホントは恋をしてみたいの。
ドクロ:やっぱり?
女の子:すてきな王子様……いや、ドラキュラや執事とかの方が好みね。あたしを好きになってくれる人、いるかしら?
ドクロ:いますとも。私が惚れましたほどですから。
女の子:ふふ、なら期待できないね。
ドクロ:今、笑いました?
女の子:え?
ドクロ:いい笑顔でした。
女の子:このまま、あたしたち恋人になっちゃおうか?
ドクロ:残念。アクマは人間と添い遂げちゃいけないんですよ。
女の子:結婚するとまでは言ってないじゃん。
ドクロ:ジョークですよ。でも恋人になれないのはホント。そしてもう二度と会うことが許されない。
女の子:どうして?
ドクロ:アクマのルールですから。
女の子:ひどいルールね。
ドクロ:ルールとは理不尽なものなんですよ。でもね、私は補償しますよ。
女の子:なにを?
ドクロ:すてきな恋人ができることを。それも、君を救ってくれる運命の人。
女の子:物好きな人がいるのかしらね。
ドクロ:いますとも。
女の子:でも不思議。アクマがあたしをおだててくれるなんて。
ドクロ:そんなアクマもいるんですよ。
女の子:ふふふ……。
ドクロ:どうしたのです? 手を差し出したりして。
女の子:おどりましょ…………。
ドクロ:……。いつまで踊り続けるのですか?
女の子:夢から覚めるまで。
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ロリータ少女をアクマがあやすという微笑ましい話 ロリータ少女とアクマ二人の短い声劇となってます |
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