真・恋姫無双 刀香譚 〜双天王記〜 第三十六話 |
新野での戦で一刀に敗北し、曹操が宛に戻ったその数日後。一人の人物がその元を訪れていた。
「……春蘭たち六人を返還する代わりに、占領した宛県をそちらに返還する。条件はそれだけでいいのね?」
玉座に脚を組んで座り、目の前の人物に問いかける曹操。
「はい。わが主はそう申しております。出来うる事ならば、不戦の協定も結びたいとも、おっしゃっておりましたが、いかがでしょうか?」
曹操にそう答え返す、真白な眉がとても特徴的なその人物。
「悪いけどそれは無理ね。貴方達が漢に従わない以上、手を取り合うことはない、と。一刀には伝えて頂戴。馬季常」
世に『馬家の五常、白眉最も良し』と言われるその人、馬良、字を季常に、そうきっぱりと言い切る曹操。
「左様ですか。本当に残念です。……あの、先ほどから気になっているんですが。何故、私の脚ばかりごらんになっておられるので?」
会見が始まって以降、曹操の視線は唯一露になっている、馬良のすらりと伸びた脚に集中していた。
「あら。美しいものに目がいくのは、人として当然でしょう?どうせなら、もっと大胆な格好のほうが、あなたには似合うと思うのだけれど?」
にやにやと微笑む曹操。
「曹操どの。戯れはそれ位にしていただけまいか。今は正式な会見の場ですぞ」
馬良の後ろに控えていた華雄が、たまりかねて口を挟む。
「私は一般論を言ったまでよ?それでも気に障ったのなら謝るわ。ごめんなさいね?」
(どこの一般論だ、どこの)
そう思っても、口には出さない馬良と華雄であった。
「冗談はこれくらいにしておいて、春蘭たちは元気にしているかしら?」
「はい。皆様とてもお元気です」
「そう。それは良かったわ。……で、交換の場には、一刀が直接来るのかしら?」
「はい」
「わかったわ。再会を楽しみにしてると、一刀には伝えて頂戴。あ、今度は変装は無しで、ってね」
笑顔で言う曹操であった。
「報告は以上です」
「ん。ご苦労様、舞さん。華雄も護衛役、お疲れ様」
新野の玉座の間にて、戻ってきた馬良と華雄を労い、微笑む一刀。
「いえ。お仕えしてすぐにお役に立てたこと、とても嬉しく思っております」
「私はただ付き添っただけさ。特に何もしてはいない。だから気にしないでくれ」
頬をほんのりと赤らめながら、一刀に答える馬良と華雄。
「今後も期待させてもらいます、舞さん。もちろん華雄もね」
『は、はい!』
嬉々として返事をする二人だった。
「ところで朱里、夏侯惇さんたちはどうしてる?」
「お言いつけどおり、牢ではなく、客間のほうでくつろいで頂いています。一応、監視として恋さんとねねちゃんについていてもらっています」
一刀に答える諸葛亮。
「客間は六人部屋のあそこ?」
「は、はい。窓もしっかり補強してありますから、たとえ夏侯惇さんでも、破る事はむりでしゅ。あわわ」
劉備の問いに答えるのは?統。
「(いつもながら雛里はかわいいのぉ〜)一刀おじよ。捕虜交換は良いが、その後宛はどうするのだ?久遠はもう、太守としての激務には耐えられまい?(なでこなでこ)」
「あわわ〜」
?統の頭をなでながら、一刀にそう尋ねる劉封。
「そうだね。……朱里の意見は?」
「一郡の太守を努められる人物となると、必然的に限られてきます。桃香さまか、愛紗さんのどちらかになるかと」
「う〜。お兄ちゃんと離れるのはやだな〜」
「桃香さま、私心を挟んではいけません。宛と襄陽ならば目と鼻の先。二日あれば行き来できます」
「それはそうだけど〜」
兄と離れることに難色を示す劉備と、それをたしなめる関羽。
「……そなたら、誰かもう一人、忘れてはおらんか?」
そこに声を上げる劉封。
「……忘れていたわけじゃないけど、でもいいのかい?もう目立つ気は無いって言っていたのに」
「……先日の孟徳の覚悟を聞いて思い知ったのだ。自分は既に死人だなどとは、単なる逃げでしか無いとな(なでなで)」
「あわわ、あわわ〜」
「じゃから叔父上、遠慮なく妾に命じてくれ。あ、出来るならば雛を補佐につけてくれると、嬉しいんじゃがの」
(ぎゅう〜)
「あわわわわわ〜!」
最後に、?統を後ろから抱きしめながら、一刀に言う劉封。
「(もう離しません、って目が言ってるし)……分かった。命、君に宛県の太守を任せる。雛里、命の補佐、頼めるかい?」
「は、はい!が、頑張りましゅ!あわわ」
(雛里ちゃん、何か嬉しそう)
(そうだね。いいお姉さんが出来たって感じかな)
劉封にもみくちゃにされる?統を見ながら、そんなことを思う劉備と諸葛亮であった。
そのほぼ同時刻。同城内の一室では。
「こんのおー!!」
どご!!
「……くぅ〜〜。なんて硬い窓なんだ!」
「春蘭さま〜。いい加減あきらめるの〜。」
「せやで〜。体力の無駄使いやと、うちは思いますけど〜?」
何とか窓を破ろうとする夏侯惇と、それを半ばあきれつつ、制止しようとする李典と于禁。
「何をのんきなことを言っているのだ、お前たちは!一刻も早く華琳さまの下へ帰りたいとは思わんのか!」
「そうだぞお前たち!早いとこ姉上にお会いして、今回の失態を謝らなければならないというのに!」
「それでもお前たちは、誇りある魏の将か?!」
寝台に寝そべったり、座って本を読んだりしている于禁たちを、そう叱責する夏侯惇と、曹仁・曹洪の三人。
「お前たちさっきから五月蝿いですぞ!もう少し捕虜らしく静かにしているです!」
同じ室内に、監視役としている陳宮が、三人をそう叱咤する。
「黙れチビ助!こうなればやはり、お前を人質にして」
「……ねねに何する気?」
陳宮の後ろにいた呂布が、一歩踏み出そうとした曹洪をにらみつける。
「う……。い、いや。なんでも」
その一にらみで、すごすごと引き下がる曹洪。
「曹洪さま。残念ですが、ここにいるわれら五人がかりでも、呂布が相手ではどうにもなりません。ましてや、われらは全員素手なのですから」
曹洪を諭す楽進。
「それに〜。沙和たちは捕虜の割には厚遇されているの〜。三度のご飯とお風呂まで貰ってるの〜」
「せやな〜。正直、このままここに残ってもええかも知れへんな〜」
そんなことを言う李典と于禁に、
「お前たち!まさか華琳さまを裏切るつもりか!」
夏侯惇が鬼のような形相で迫る。そのときだった。
「恋〜、ねね〜?俺だよ。入るよ〜?」
「一刀」
『何?』
扉を開け、部屋の中に入ってくる、一刀と劉備、関羽の三人。
「や。気分はどうかな?何か不都合はないかい?」
「ふん!大有りに決まっているだろう!いい加減私たちをここから開放したらどうだ!」
「し、春蘭さま。いくらなんでもそれは」
「それについて話をしにきたの。明後日、貴女たち六人を、華琳ちゃんのところに返すことになったから」
『……は?』
思わず呆然とする六人。
「あれ?嬉しくないの?華琳のところに帰れるっていうのに」
「い、いや。それはもちろん嬉しいが、なんで」
「もちろんただじゃないさ。夏侯惇さんが占領した宛県を、こっちに返してもらうのが条件。要するに交換だよ」
「な、なるほど。それならば合点がいくな」
あっさりと納得する夏侯惇。
「ただその前に、あなたたちに頼みたいことがあるんだ」
「なんでしょうか?」
「……華琳を守ってやってほしい」
「そんなことは当たり前だ!貴様などに言われずとも」
「春蘭まて。……劉翔、それはどういう意味だ?」
夏侯惇を制し、曹仁が一刀に問う。
「……俺自身も、確たる証があって言えるわけじゃないけどね。けど、あなた達もうすうす感じてはいるはずだ。あの連中の危うさを」
「……虎豹騎、か」
コクリと、頷く一刀。
「正直、あの連中が何を考えているのか、現時点では何も分からない。けど、その目的が何であれ、華琳や協陛下のためになることとは、到底思えない」
真剣な眼差しで六人を見据え、自身の考えを語る一刀。
「……もしや、それが理由なのか?そなた達が姉上や、漢に従わないのは」
「……」
再び、こく、と。頷く一刀。
『……』
互いに顔を見合わせる、夏侯惇たち。
そして、それから二日後。
「今日は入れ替わってないようね?」
「いつもいつもやってるわけじゃないって。……久しぶりだな、華琳」
「そうね。先日は見事にやられたわ。まさか地面に隠れるとはね」
宛城の近郊。
捕虜交換のため、互いにわずかの兵だけを連れて対峙する、一刀と曹操。
「他人(ひと)がまさかと思うところをついてこその計略。そう言ってたのは華琳だよ?」
「そうね。……ふふ。どうやら今回も、私の過信が過ぎたみたいね。けど、今度はそうは行かないわよ?」
にやりと笑う曹操。
「……次が無いことを祈りたいけどね。桃香、彼女たちを」
「うん」
一刀に促され、劉備が後ろにいる夏侯惇たちの縄を解く。
「さ、行っていいよ。……元気で、ね」
「う、うむ」
「……ああ」
「おいしいご飯、どうもありがとうなの〜」
「今度会うたら、うちの自慢の発明、いろいろ見せたるさかいな〜」
「……失礼、します」
「……」
曹操の下へ歩いていく六人。そして、
『姉上……』
『華琳さま……』
「……お帰り」
『!!は、はい!!』
にこりと笑顔で、六人を迎える曹操だった。
「さてと。今度は私が約束を守る番ね。城内の兵は既に引き上げさせてあるわ。それと、次はきちんと、宣戦布告の上で、仕掛けて上げる」
「そりゃどうも。……命?どうかした?」
「一刀おじ、妾からも孟徳に一言いいか?」
一刀の隣に並んでくる劉封。
「俺は構わないけど」
「すまぬ。……孟徳公」
「なにかしら?”劉封”さん?」
「……協を、よろしく頼む」
ス、と。一言だけ言って、曹操に頭を下げる劉封。
「……私は漢の帝に仕える魏王。……何があってもお守りするわ。当たり前でしょう?」
それだけ言って、馬首を翻す曹操。
(……感謝する、曹孟徳)
頭を下げたまま、涙をこぼす劉封。
そして、去っていく曹操たちを見送る一刀は、
(……気をつけてな、華琳。頼んだよ、莉流さん、流莉さん、春蘭、沙和、真桜、凪)
そう、心の中で願うのだった。
「久々のあとがきコーナー!の、お時間です」
「進行はうち、孟達こと由やで〜!みなさんおひさしゅう〜!!」
「徐庶元直こと、輝里でーす。やっほー!」
「けど輝里?しばらく見んうちに、なんかちっこくなってへん?」
「うっさい。これが今の役だもん。仕方ないでしょうが」
「そんでもええやん。うちなんかいまだに本編での出番が回って来いひんのやし」
あれ?一回出したと思ったけど?あ、作者です。ども。
「確かに出番あったけど、二役でちょい役、しかもゆーれいやん」
まあ、もう少し辛抱して。益州編から出番が回ってくるから。
「ほんまやろな?」
ほんとほんと。だからそれまでに、その関西弁、直しておくようにね。
「標準語?」
そ。標準語。
さて、物語はこれにて、一応中盤まで進みました。次回からはいくつか拠点をお送りします。
「カズくん、なんか一大決心するみたいなことを、前回書いていたけど、そのあたり?」
それもある。
「あとは?あ、呉組のはなし?」
それもある。
「……あとは?」
……考え中。
「会いもかわらず、いい加減やね」
うっせい。
「ところで、今回の最後の部分についてなんだけど」
なに?
「いつの間に許したわけ?あの六人」
あ〜、あれね。あえてその場面ははずしたの。後々これをネタに、一刀がいじられる話を書くつもり。誰にかって?それは、
『それは?』
ひ・み・つ。
『……』
あ、待てお前ら!そ、その手のモノは何?!よせ!やめr、アッーーーーーー!!
「さて、作者が強制退場となりましたので、私たちで占めさせていただきます」
「ほな、いろいろとコメントなどなど、待ってるでな〜」
「あ、気が向いたら支援ボタンのクリックも、してやってください」
「それではみなさま」
『再見〜!』
説明 | ||
刀香譚の三十六話めでございます。 本当は今回から拠点の予定だったんですが、 よく考えたら、春蘭たちを華琳のところに返していないな〜と。 というわけで、急遽もう一話はさむことに^^。 では、お付き合いくださいませ。 |
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コメント | ||
あわあわとなんて和む風景がwそろそろ桃香の甘えたがりがでそうだったので次回の拠点では甘え倒しですかね?^^;(深緑) 砂のお城様、さ、まずはどこからいきましょうか^^。(狭乃 狼) hokuhinさま、ご期待に応えましょー!(狭乃 狼) 捕虜交換で宛を取り返して、これで一息つけますな。今度は拠点話ということは、桃香と愛紗の嫉妬が来るー?(hokuhin) 東方武神さま、命もわりとちまっ子なんですけどね。鈴々とそんなに変わんないぐらいです。このコンビの拠点も書く予定ですので、お楽しみにww(狭乃 狼) 更新乙です♪雛里と命の組み合わせはGOODですね〜(東方武神) ZEROさま、正確には中盤まで終了、ですけどね。拠点はまあ、お楽しみにってことでww(狭乃 狼) 中盤になりましたかあ。 拠点では誰が活躍するか楽しみです。(ZERO&ファルサ) 天覧の傍観者さま、いろいろと大変ですねー、一刀はwもっと大変にしてやる^^。<ドSww(狭乃 狼) わぉ!波乱の(破嵐?)の予感…(天覧の傍観者) 紫電さま、ちまっ子大好きなんですw命はwwけど朱里やねねには興味が沸かないそうです。なんででしょうね?^^。(狭乃 狼) よーぜふさま、命の本音は、「後はこれで鈴々がおったらもっと良いがの〜」だそうですwww(狭乃 狼) A☆HA☆HA☆HA☆HA! なんという2pのあわわ祭りw 拠点楽しみにしてますぞー・・・にやにやw(よーぜふ) |
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