Phantasy Star Universe-L・O・V・E EP01 |
薄暗い室内に響く荒い呼吸。
耳の中に脈打つ血流の鼓動。
震える銃口。
その下で無垢な顔のまま眠りにつく白い少女。
「……俺は……何をやっている……」
ヘイゼルは銃を下ろし、ナイトテーブルに戻すと、額に浮かんだ汗を拭い、再びベッドに倒れこむ。
時計を確認すると時刻はまだ深夜、街の明かりが大きな窓から入り込み、部屋を僅かに明るく染めている。
見知った部屋とベッドの感触。リニアトレインに乗り込んでからの記憶がハッキリしていないが、自分の部屋に戻って来れたらしい。
「久し振りに見たな……あの夢」
子供の頃に度々うなされた悪夢。見たのは何年ぶりだろう。
独り言ちたヘイゼルの手に触れる、ひんやりとした感触。目を向けると、それは濡らしたタオルだった。跳ね起きた時に額から落ちたのか……。どうやら少女がつきっきりで看病していた様である。
「……キャストが……か」
自らを記憶喪失と語ったキャストの少女。正体不明の怪しさは有る。だが同時に感じる、この懐かしさは何だろう……?
ヘイゼルは複雑な思いのまま目を閉じる。熱のせいか二度目の眠りはすぐに訪れた。
窓から差し込む日の眩しさで、ヘイゼルは目を覚ました。閉じたカーテンの隙間から僅かに差し込んだ光が顔に掛かっている。
「……朝か……」
ヘイゼルの呟きを聞き取ったのか、寝室と隣室を仕切る壁から二人の少女が姿を覗かせた。
「気付いたみたいッスよ!」
一人は例のキャストの少女。彼女は連れ立つ、もう一人の少女に話しかける。
「そうみたいですね、良かったです〜。……って、あ! カーテンの閉め方が半端でしたか。すみません、ヘイゼル様!」
もう一人は小柄なキャストの少女より更に小柄で、身長は1メートルにも満たない、黒い衣服の童女。
ライセンスを持つガーディアンが所有する事を許され、個人のスケジュール管理から身の回りの世話、更には基板から武器・防具を作成し、ミッションではバディとして戦闘もこなす、パートナーマシナリーである。GH450『ジュノー』と言うのが彼女の名前だ。
「ヘイゼル様、体のお加減は如何ですか?」
二人の少女がヘイゼルの側までやって来て、心配そうに顔を覗き込む。
「良くはない……ところで……」
ヘイゼルがキャストの少女を見る視線に気付き、ジュノーが説明を始めた。
「昨日の夜、この方が意識の無いヘイゼル様を背負ってお帰りになられたのですよ」
「家の場所を聞いても、うわ言だし、駅からずっと負ぶってるから重いしで大変だったッスよ〜」
何故か得意気に少女は胸を張った。
成る程、やはりヘイゼルを部屋まで運んだのは、この少女だったか。ヘイゼルは列車の中で意識を失った自分が、部屋に戻っている事に納得した。
「この方が、ご一緒で本当に良かったですね〜、ヘイゼル様!」
「エヘヘ♪」
キャストとマシナリー……似た様な者同士、気が合ったのか二人は意気投合してるようだ。
「で、お前は疑いも無くコイツを部屋に入れたのか?」
ヘイゼルがジュノーに訊ねると、彼女は顔色を変えた。
「え、お友達かと思って、部屋にお入れしたのですが……お知り合いじゃなかったんですか!?」
「つーか、昨日会ったばかりだ……全然知らん」
ジュノーは目を丸くし、警戒して少女から身を離す。
「不審者!? ど、どうしましょう。警察に通報しますか!?」
「ちょ! ジュノーちゃん、あんまりッスよ!? 私達、あんなに仲良くなれたじゃないッスか!」
「ええ、だから残念です……とっても!」
悲しい宿命を背負った(?)二人のやり取りにヘイゼルは小さく笑う。
「知り合いじゃないのは本当だが、助けられたのも事実だ……お前には借りが出来た。礼を言う」
「それじゃ警察へは?」
「必要ない。と言うか、この能天気な顔で何か悪い事が出来そうに見えるか?」
少女とジュノーの二人は安心して顔を見合わせる。
「……でも言い方が、どこか上から目線ッスよね」
「ヘイゼル様はデフォルトで、ああですよ?」
「デフォルトッスか! ……じゃあ仕方ないッスね」
「ええ、諦めてます」
小声で小さく溜息をつく二人を、ヘイゼルは取り敢えず無視した。
ヘイゼルは服を寝巻きに着替えた。少女とジュノーは汗に濡れた肌着を受け取ると、それを洗濯する為に脱衣室へ向かって行った。
二人が居なくなってから、ヘイゼルがガーディアンズ専用の小型フォトンウェーブ通信機、ビジフォンを確認すると昨晩の内に着信があった事に気付いた。
着信の相手は悪友にして同僚のビリー・G・フォームからである。たいした用事では無いのだろうが、ヘイゼルは一応連絡を取っておく事にした。
数度の呼び出し音の後、ビリーが応答する。
『おう、俺だぜぇ! どうした今日は随分早起きじゃねえか、で昨夜は何してたんだぜ?』
ヘイゼルは風邪で倒れ寝ていた事を伝え、電話に出れなかった事を詫びた。
『そうか……別れた時は、そうは見えなかったがなぁ……まあ、次のミッションまで体調を整えてくれれば良いぜ。アンチメイトでも飲んでゆっくり休んどくんだぜ!』
「ああ、そうさせてもらう、じゃあまたな」
ヘイゼルは言葉少なく通信を終わらせた。
「ヘイゼル様? 病気なのですから電話も程々にしてお休みになって下さいね」
隣の部屋から咎めるようなジュノーの声がする。
「解ってるって……」
母親の様な小煩わしさに肩を竦めると、ヘイゼルはベッドに潜り込んだ。隣の部屋からジュノー達が付けっ放しにしているテレビの音声が聞こえる。
『―――では、次のニュースです』
映っているのは、ニュース番組らしい。
『本日未明、ホルテスシティ リニアトレイン駅周辺の路上に駐車されていた乗用車の中から、男性の遺体が発見されました。持っていた免許証から、男性はシティ在住の『ハリス・ラブワード』さんではないかと見られ、軍警察は事件、事故の両面から捜査を始めております……』
どれ位、時間が経過した頃だろう。
浅い眠りにまどろんでいるヘイゼルの耳に、部屋の呼び出しチャイムが飛び込んで来た。
「はーい……すみません。手が離せないので応対して貰って宜しいですか?」
「了解ッスよ〜! 今、出ますッスね〜!」
ヘイゼルは、まどろむ意識の中でジュノーと少女のやり取りを聞いていた。玄関に駆けて行く少女の足音がする。続いて部屋の自動ドアが開く音。
「いらっしゃいませッスよ〜。どちら様ッスか?」
「―――あんたこそ……誰よ?」
不機嫌そうな女の声が応える。聞き覚えのあるソプラノの声……。
(……アリアッ!?)
ヘイゼルは布団を跳ね飛ばし飛び起きた。
説明 | ||
EP01【Boy Meets Girl B】 SEGAのネトゲ、ファンタシースター・ユニバースの二次創作小説です(゚∀゚) ひょんな事から知り合ったキャストの少女と係わりになってしまったヘイゼルは 宿舎へと帰る電車の中で高熱を出し意識を失ってしまう。 悪夢共に目覚めたヘイゼルは前後不覚に陥り、目の前にあった少女の頭部に銃を突き付けていた……。 Phantasy Star Universe-L・O・V・E それは戦火に彩られた“L・O・V・E”の物語……。 読んで頂ければ幸いです。 |
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