くろのほし 第2話 |
「……さ、遊んであげるわよ?」
風と暗雲の乱れる草原。
七又の鞭を手にした女の子――ヴィオが妖しく笑んでいました。
「レイを……返せ……!」
拳を振り上げたゲイルが、ヴィオに向かって飛びかかります。
ヴィオは鼻で笑いながら、鞭を縦に振り下ろします。
ゲイルは身をよじり、七又のうち一本を避けました。
「ふうん……動体視力はなかなかね」
ヴィオは意外そうな表情を隠しもせず笑いました。
「でも……ふふ、あなたは決定的に未熟なのよ」
残りの六本がゲイルの体に絡みつきます。
身動きを封じられながらも、それを振りほどこうとゲイルは抵抗しました。
「……女だからって、なめてない?」
ヴィオが鞭を掲げ、振り下ろしました。
その動きに遅れてゲイルは持ち上げられ、そのまま地上へと叩きつけられます。
「っぐ……」
ゲイルは空気の吐き出された肺をかばおうとしますが、束縛されていてはそれも叶いません。
ヴィオは恍惚の笑みを浮かべながら、精妙に鞭を操作します。
すると先ほどゲイルの避けた一本が、強かにゲイルを打つのでした。
「経験も! 研鑽も! 何もかもが、未熟! ……それすらもわからない!?」
嘲るヴィオに、ゲイルは歯噛みします。
その表情を噛締めながら、ヴィオは歓喜に震えるのでした。
「知るか……レイを、レイを返せよ!」
砕けそうなほどにぎしぎしと歯を軋ませながら、ゲイルは吼えました。
「叫べば帰ってくるとでも思ってるの?」
ヴィオのそれはゲイルを蔑み、知恵の足りなさを憐れむ目でした。
「その甘ったれた顔が癪に障るわ」
四肢を縛る四本を残し、七又の三本が宙を舞います。
そうしてゲイルの体を余すところなく打ちすえました。
「言われてなければ殺しちゃうんだけどなあ」
残念そうに口を尖らせながら、ヴィオは七又の鞭をしまいます。
ゲイルは半死半生の様相で、肩で荒い息をしていました。
「……強くなって、追いかけて来ることね。あなた、早すぎて楽しめないもの」
ヴィオはそう言い放つと、草原の向こうへと飛び去っていきました。
一人取り残されたゲイルは、それを目で追うだけで動く力さえ残っていませんでした。
「ちくしょおぉぉぉぉぉぉ!」
いつしか天候も落ち着いた……日の沈んだ草原に、悲しい叫びがこだまします。
アロバゴ鳥も寝静まっている頃、静かな村の片隅から声が聞こえます。
「じいちゃん、俺……この村を出ます」
親しみを込められ爺と呼ばれる村長。
その村長に決意を伝えていたのは、ゲイルでした。
「お前が出てもレイが帰ってくるとは限らんぞ? そればかりか、相手が『城』では……」
神妙そうな顔つきで、村長は言いました。
『城』には人ならざるもの、人を超えたものがはびこっていると聞きます。
「だったら強くなります。あいつらに負けないように……強く、なります」
恐らくゲイルも、考えはしたのでしょう。
それでもゲイルの目は揺らぎませんでした。
「じっとしていられないんです。ただ、悔しいんです……」
村長は溜め息を吐き、しわくちゃな顔をさらにたゆませながら微笑みました。
「ゲイル……お前は小さい時から頑固だったな。あてはあるのか?」
「西の街に、行きます」
草原を越えた先、西に大きな街があると聞きます。
実のところ明確なあてなどないのですが、ゲイルは交流の盛んなそこで情報を掴もうと考えていたのでした。
「……わかった。気の済むまで旅をして来い。ただし、無理はせんようにな」
「ありがとう、ございます」
ゲイルは村長に頭を下げると、星空のもと村を旅立ちました。
「……というわけでして、ゼラ様」
「そう……心底侮っていたけれど、経過観察が必要かもしれないわね」
黒い髪の女の子は、風に揺れる綺麗なそれを後ろで結びます。
そうして中空から取り出した白い帳面に、記録をしました。
横を飛んではにかむヴィオの薄紫色の髪もまた、風にそよいでいます。
「じゃあヴィオ、私は予定通りに行くわ。あなたは目に付くやつを適当にあしらって」
「目に付くやつって……悪魔使い荒いですよ、ゼラ様ぁ……」
説明 | ||
「……さ、遊んであげるわよ?」 風と暗雲の乱れる草原。 七又の鞭を手にした女の子――ヴィオが妖しく笑んでいました。 連載型童話風厨二小説、第二話。まだまだ始まったばっかりです。 169312 ←前の話|次の話→ 172347 |
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