真・恋姫無双 EP.40 日向編 |
机の上に積まれた書簡に手を伸ばし、桂花は次々と仕事を片付けてゆく。
「にゃあ!」
「にゃ、にゃー!」
「うにゃ……」
バッターン、ガラガラガッシャーン!
「……っ! もうっ! 何やってんのよ、あんたたちはー!」
持っていた筆を真っ二つに折り、部屋の中で自由気ままに暴れる三匹の猫に桂花は怒鳴った。
実はミケ、トラ、シャムの三匹が桂花にとても懐いていたので、張遼に会いに出かけた一刀が置いていったのである。
「パッと行って、パッと帰ってくるからさ。頼むよ」
「嫌よ!」
「じゃあ、よろしくー」
「嫌って言ってるでしょ! ちょ、ちょっと離れなさい!」
同じ匂いがするのか、三匹はまるで親に甘える子供のように桂花にまとわりついていた。最初は邪険にしていた桂花だったが、なんだかんだで面倒見が良かったのである。
「ミケ、そこは登ると危ないでしょ! トラ、足に墨が付いているじゃないの。もう、シャム。そんなところで寝たら汚れるわよ」
仕事と三匹の世話に部屋の中を右往左往する桂花の様子に、城で働く侍女たちは「まるでお母さんね」と微笑ましく見守っていたという。
「にゃあ……」
「にゃん!」
「ふにゃぁ」
元気に遊んでいた三匹は、散らかした部屋を片付ける桂花に甘えるように顔をすりつける。どうやらお腹を空かせたようだ。
「何かあるかしら……みんな、いらっしゃい」
三匹を引き連れ、桂花は部屋を出た。
台所からは、よい匂いが漂っていた。
「あ、桂花様」
猫たちを引き連れた桂花が顔を覗かせると、テーブルで料理が出来るのを待つ季衣が気付いた。その声で、中華鍋を振っていた流琉も振り返って手を止めようとする。
「ああ、続けてちょうだい。この子たちのご飯をもらいに来ただけだから」
「すみません」
三匹は匂いに誘われるように、料理を作る流琉の足元でちょろちょろと動き回った。
「邪魔しちゃダメよ……えっと、猫が食べられそうなものって、何かないかしら」
ぶつぶつ言いながら桂花が棚を探っていると、遠慮がちに流琉が声を掛ける。
「あの、もしよろしければ何か作りますけれど……」
「そうね……時間は掛かるかしら?」
「お忙しいようでしたら、私たちでこの子たちを見てますよ?」
「いいの?」
「はい。訓練が終わって、この後は暇なので」
少し考えた桂花は、流琉の好意に甘えることにした。三匹を残し、一人で部屋に戻って行く。
「それじゃ、一緒にご飯にしようね」
「にゃあ!」
大喜びの三匹は並べられたお皿に飛びつくと、顔中を汚しながら夢中で食べ始めた。負けじと季衣も、いつも以上のスピードで食べ物をお腹の中に収めてゆく。
「もう、慌てなくてもいっぱいあるからね」
「にゃあ、にゃあ!」
「あっ、それはボクのだぞ!」
「にゃっ!」
「もう。季衣ったら、猫ちゃんたちと同じなんだから」
料理を取り合う猫と季衣の姿に、流琉は呆れながらも笑みを漏らした。自分の料理をこれだけ夢中に食べてもらえれば、作った甲斐があるというものだ。確保した自分の分を取られないよう、流琉も食事を始めた。
やがてお腹が膨れると、ぽかぽか陽気もあってか季衣と流琉は眠気に襲われる。椅子に深く腰掛けて、うつらうつらと船をこいだ。そんな時、ふと季衣が呟く。
「流琉……」
「んっ? なあに?」
「……こんなに笑ったの、久しぶりだね」
「……うん」
二人が、三匹の猫たちがいなくなったことに気が付いたのは、それからしばらく後のことだった。
久しぶりの休暇に、華琳はのんびりと読書を楽しんでいた。城の中庭にある大きな木の根元に腰掛け、通る風が心地よく頬を撫でていく。
「ふう……」
疲れたように目を擦り、本から顔を上げた華琳は空を見上げる。
「今は、どの辺りかしらね……」
ぽつりと呟いた華琳は、ふと、草むらの影に動くものを見つける。よろよろと、眠そうに歩いているのはミケ、トラ、シャムの三匹だった。
「あら、あなたたちは……」
華琳は持っていた本を閉じ、そっと手を差し伸べる。
「こっちにいらっしゃい」
寝ぼけ眼の三匹は、呼ばれるままに華琳のもとへ。そして抱き上げられて膝に乗せられた。柔らかく暖かい膝の上で、三匹はすぐに眠りに落ちてしまう。
「ふふふ……あなたたち、どことなく張三姉妹に似ているわね」
張三姉妹も一刀と共には行かず、ここに残って留守番をしていた。華琳が三人に、兵士の慰問を頼んでいたためだった。
「利発そうな子に、元気が溢れている子、それに天然そうな子……」
言いながら華琳は、一匹ずつ頭を撫でてゆく。そうしながら、何だか無性に腹が立ってきた。
「一刀は、ああゆう子たちが好きなのかしら……」
胸の奥が、小さくうずく。どこか切なくて、でも暖かい。何かを待ちわびるこの気持ちは、初めて抱く感情を華琳に湧き上がらせる。
(悪くないわね)
満足そうに頷いた華琳は、流れる雲に悪態を吐き、少しだけ目を閉じた。
一仕事を終えた雪蓮は、静かな森の中でお酒を楽しんでいた。黄巾党との戦いの後、こうして静かにお酒を飲むことが多くなっていたのだ。
「探したぞ、雪蓮」
「あら、冥琳。どうしたの?」
そう言いつつも、実は近付く気配ですでにわかっていた。冥琳は小さく笑って、雪蓮の隣に座る。
「ようやく、引き上げた書簡を調べ終えたわ」
「何かわかった?」
「ダメね。組織に繋がるものは何もない」
がっかりしたように冥琳が言うと、悔しげに眉をひそめて雪蓮は杯の酒を飲み干す。
「人身売買はこれまでも行われていたけれど、ここまで大規模で組織だったものは初めてだわ」
「被害のほとんどが大陸の南方で起きてる。これって、舐められてるってことでしょ?」
「そうね……」
「今は袁術が統治しているけれど、ここは私たちの生まれ育った場所よ。人買いなんかに好き勝手させないわ」
雪蓮の決意に、冥琳も頷く。
「蓮華様たちも動いていると報告があった。まずは情報収集が先決よ。一人で、突っ走らないでね?」
「わかってるわよ、もう」
拗ねたように口を尖らせた雪蓮に、冥琳はどこか安堵するように笑う。
(昔のような、怒りに支配された暗い感情はないみたいね。いったい、誰のおかげかしら?)
親友の血に潜む『狂戦士』を、いつも危ういと感じていた。だが黄巾党の戦いの後、どこか落ち着いている。冥琳は、雪蓮に良い影響を与えた人物の顔を思い浮かべ、少しだけ寂しげに微笑んだ。
国境の見張り所を、一人の伝令が馬に乗って飛び出す。主君、曹操に、この大事を一刻も早く伝えなければならない。仲間が持ち帰った、大切な情報だった。
袁紹の領地、河北四州を手中に収めた何進軍が南下。その数、100万――。
説明 | ||
恋姫の世界観をファンタジー風にしました。 ひとときの平和。 楽しんでもらえれば、幸いです。 |
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コメント | ||
無邪気に転げまわる猫達・・・ほわぁ〜癒されるw 北の大地にて遂に動き出した輩・・・さて、今後どんな展開になるか楽しみです。(深緑) 嵐の前の静けさ(pore) 利発なネコいたっけ!?(ギミック・パペット ヒトヤ・ドッグ) |
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