大好きだから… 〜They who are awkward〜 第5話 |
去年の春、始業式のことである。
澪先輩が生徒代表あいさつを務めていた。
多分新入生の誰もが目を奪われたと思う。
凛とした瞳、腰まで届くであろう長い髪、一つ一つの挙動をとっても彼女の美しさと完璧さを際立たせ、見るものを暴力的に屈服させるかのようだった。
当時の俺は澪先輩が生徒会長だと思っていた。
が、後々わかることだが今も昔も澪先輩は帰宅部で、人気があるからという理由で頼まれていたらしい。
最初に出会ったのはこの時だった。
ちなみに美樹と恭一の二人と出会ったのは、俺が子供のとき神原家に来て近くの学校に茉莉子と通うようになってからである。
その学校で恭一と美樹と仲良くなりその頃からの付き合いでそして今までずっと同じ学校に通い、
今度もまた同じになったというわけである。
次に澪先輩を見たのは屋上である。
始業式からしばらく経ち、新入生を獲得しようと部活動の勧誘が激しくなる時期であった。
ある日の放課後、美樹はフットサルの部を見学しに、恭一はどこかフラフラと消え、
一人になった俺は手持ち無沙汰になり学校を見て回ることにした。
色んな場所を一通り見て回った俺は、美樹と合流しようと思い、戻ろうとしたが
そこで屋上に続く階段を発見し、ほんのささいな好奇心に身を任せ進んでいった。
そこにいたのである。
完璧な美人が。
端のほうへ歩いていくつもりだったのだろうか、俺が入ってきたことに気づき後ろを振り返る。
「見慣れない顔だな新入生か?生憎だがここでは何の部活もやっていないぞ?」
俺はメデューサに出会ったが如く固まってしまい、やっとのことで口筋を動かすことに成功した。
「そ、その学校を見て回っていてだから、あのここで部活をやってると期待してきたわけじゃなくて…」
「ふむ、そうか。だったら用事は済んだだろう?帰ったらどうだ」
あの時見せ付けられた美しさは忘れるわけも無く、始業式であいさつをしていた先輩がいたのである。
先輩にそう言われたが逆になぜ何もないのに先輩はここにいるのかと思い、
「せ、先輩はどうしてここにいるんですか?」
「ここから落ちようと思ってな」
「……冗談ですよね?」
俺が目を丸くし驚く。
「いや至って真面目だが」
先輩を見るとそれが冗談ではないというのが伝わってくる。
「なんで…ですか?なんで、そんなことしたいんですか?」
「…ふむ、誰かも知らない赤の他人にましてや新入生に言うことでもないが…まぁいいか。聞いてくれるか?」
俺はうなずいた。
「……私の両親はな資産家でな。子供の頃から何不自由なく育ち、
家にお金はたくさんあったし何でも欲しいものも買ってくれた。ワガママも聞いてくれたし。
ただその代わりいつも言われていたことがあってな勉強や運動、何においても一番であれ、と言っていたんだ」
先輩の独白が始まる。なら俺はただ一人の観客といったところか。
「両親に言われてもあったし私は遊ぶ時間も惜しみ努力した。勉強もしたし、
運動も、色んなセンスを磨くために習い事もたくさんやった。
私は別にそれが苦しかったとか嫌だったとかそんなことを言いたいわけではないんだ。
勉強は嫌いじゃなかったし、色んなことを学べて楽しかった気もするし」
少しずつ足取りを前へ進めながら舞台女優は続ける。
「でも、私はある時ふと考えた。何のためにこんなことをしているんだろうとね。
振り返り我に返ると、私の傍には誰もいなかった。友達と呼べる者がいなかったんだ。
両親は仕事が忙しく家にいるときのほうが稀だった。
自分を高めれば高めるほど回りとの差が広がり、周りの者は憧れや嫉妬、羨望や、畏敬、色んな感情があったがどれもこれも私を天上の者でも見るかのような目で私を見る。
話していてもやれ凄いだの、綺麗だの、秀才兼備だの私の上っ面を褒めるだけで、作り笑いを浮かべる。そんな関係は望んでいないし、私は嫌なんだ。
確かに私も悪い点があったのだろうと思う。けれど、今まできちんと同年代の者と関わらなかったから
何を話せばいいのかもわからなかったし、テレビにも興味なんて持てなかった。
どうすれば普通に友達を作って、一緒に遊んで、楽しんで、それから色んなことをして……それから……」
先輩は苦笑する。
「人の大半は特別な才能など無く、私もその大半に入るただ努力しか出来ない
完璧じゃないただの凡人だというのに見当違いも甚だしいよ」
「一つ口を挟ませてもらうなら」
俺が割り込む。
「努力できる人間はそれだけで努力が出来るという才能があると思います。
少しでも努力できる人間はあとはやる気しだいでどこまでも出来るんじゃないですか?
逆に出来ない人間はどこまでいっても出来ないと思います」
「なんだ?それは私がただの凡人ではなく特別だと言いたいのか?」
「まぁ……。先輩が凡人だ、なんて言ったらそこらへんの人達、俺も含みますけど、凡人以下のなんかよくわからない者になっちゃうんで。
俺の勝手な意見ですけど先輩本当に綺麗だと思いますし。それだけでも特別だと俺は思いますよ。
それに先輩がいくら違うと思っていても所詮は人の主観で何でも捻じ曲げられてしまいますからね」
ちょっと生意気だっただろうか。自分の中で反省する。
「外見などどうしようもないが……特別なんていらなくて私は普通が欲しかったのにな」
先輩の気持ちを少し垣間見た気がした。
気づくとついに女優は舞台際にまでたどり着く。
「今までは私は耐えてきたけど…もう限界なんだ。
一人は辛いんだ…苦しくて…寂しくて…ぬくもりを求めてしまう。何処にも無いというのに。
心の中が隙間だらけで風が吹くたびに凍え死んでしまう。誰かに支えて欲しいんだ。誰もいないというのに」
先輩が自分の身体を抱きしめる。
「死ねばそんなこと思わないし、感じもしない。
だからいっそこんな何も無い私なんて消えてしまえば……ってね
……………すまないな長々と話して。私の話はお終いだ。これからの学校生活を楽しめよ新入生」
先輩は俺に背を向け地面を見据える。そして一歩足を踏み出そうとして……
「待って下さい!!!!」
「……どうかしたか?」
俺の声に動きを止めた先輩だったが振り返らずに先輩は言う。
とりあえずはセーフだ。俺は先輩に質問を投げかける。
「あ、あの先輩は、先輩はゲームしますか?」
「……?いやしたことはないが」
「じゃぁいつもご飯は何を食べますか?」
「家の者が作ってるくれるから季節のものとか…だと思うが」
「何時にいつも寝るんですか?」
「学校に行く準備をする6時間前だから0時半くらい…だな」
「兄弟はいますか?」
「残念だが私は一人っ子だ」
「俺は、俺は家にないけどゲームはします。美樹ってやつと恭一ってバカとゲーセンに行ったり、
そいつの家にいってやります。ご飯は義母さんとか義妹の茉莉子ってやつが作ってくれます。
寝る時間は23時で結構早かったりします。でもいつも寝坊して茉莉子に起こされます。
兄弟は俺と茉莉子の二人ですね」
俺は先輩に向けて言いながら、少しずつ先輩に近づく。
「…何がいいたいんだ?」
先輩が俺にいいかげんにしろと言わんばかりに問いかける。
「俺も小さい時、嫌なことがありました。
その嫌なことから開放されてからも、毎回夢に出てきていて正直、苦しかったんです。
それこそ死にたいとも思いました」
ポツリと俺は言った。
「でもさっき話した美樹や恭一、茉莉子のおかげで乗り越えて来れました。
だから今度は……今度は俺の番だと思うんです。あいつらはもちろんですけど、今、目の前で先輩が苦しんでいて放っておけるわけありません!!!」
先輩は俺に背を向けたままだった。
そして俺は先輩の後ろまで辿り着いた。
「確かに他の皆は先輩が苦しんでることを知らないしそんなこと有り得ないって思ってると思います。
なにせ先輩は完璧ですからね」
少し軽口を叩くように笑いながら言った俺だけど、でも次の言葉は真面目に、
「……でも俺は!! 俺だけは先輩の言葉を聞いて完璧じゃないって知ってます!!
先輩が本当は友達が欲しくて寂しくて苦しんでいたのを知ってます!!
だから俺は俺だけは!! 先輩の友達になれます!!!今は俺だけかもしれないけど、
これからもっと広がっていくと思うんです」
俺はさらに続ける。
「死んだらダメです。死んだらそこで終わりなんです!!!
だって、だって勿体無いじゃないですか!?まだ何も始まってないんですよ!?
このまま先輩がいなくなるなんて俺は認めません。そんなことになったら俺は後悔なんて
言葉がぬるいと思えるほど自分を許せません」
そういった俺は先輩の手首を掴む。
「ぐすっ……はぁ…ぐっ……ひぅ………はぁぁ…はぁぁ……うぅ……ズズッ」
泣いていた。俺が。
辺りには俺の嗚咽と鼻水をすする音しか聞こえない。
「……名前を聞いていいか」
先輩が俺に尋ねる。
「すびません……はぁぁ…ズズッ………ちょ……ちょっ……ズズッ……って……くだざい」
俺は先輩から手を離し涙を拭く。
「すいません…神原悠樹です。あのみんな悠樹って呼んでるんで呼び捨てにしてもらってかまわないで
す」
「そうか…私は佐久島澪だ。私も呼び捨てでかまわない」
「いや流石に先輩なんで呼び捨ては……じゃぁ澪先輩で」
「うん…それでかまわない」
澪先輩は振り返り、俺に握手を求めた。
「そのもしかしたら多分迷惑とかかけると思う……それでもいいのか?」
「はい、そんなの気にしませんよ。俺らなんてったって友達ですから」
「ありがとう………悠樹」
目から零れ落ちる雫がキラキラと光り、泣いていても澪先輩は綺麗だなぁと思っていた俺だった。
それから澪先輩と話をしていた俺だが、
「あ、澪先輩好きなものとかあります?」
「好きなもの……か? あ、あのその…笑わないで欲しいんだがそ、その…ぬいぐるみを…集めてるんだ……」
澪先輩は頬を染めながら恥ずかしそうに言った。
「だったら今度駅前に一緒行きませんか?」
「……あ、うん…。い、いいぞ……悠樹」
「よし、決定ですね。じゃぁまず二人を紹介するんで一緒に行きましょう!!」
俺は澪先輩を連れて屋上を出て二人を探しに行った。
気づくと朝だった。
夢を見ていた。
っていうか昨日帰ってから今までってどんだけ寝てるんだよ俺。
それにしても懐かしかったなぁ。
あの後、澪先輩に恭一と美樹を紹介したらしばらくの間、二人して俺のことをナンパ野郎って言ってたっけ。
駅前に行った時は茉莉子もつれていったんだよな。
俺達と一緒に過ごすうちに澪先輩もだんだん慣れていって今の感じに落ち着いたんだよなぁ。
それで今年、茉莉子も同じ学校に入校して晴れて五人揃ったという訳である。
俺は手早く着替え茉莉子とともにみんなと会うべく集合場所に向かった。
「あれ、佐久島先輩はー?」
澪先輩を除いて最後に来た美樹が俺らに尋ねる。
「さぁな?自分探しの旅とかじゃねーの?」
「あんたじゃあるまいしそんなわけないでしょ」
美樹が恭一に素早くツッコミを入れる。
「もしかしたら佐久島先輩、先生に呼ばれて早く行ったのでしょうか?」
「んー確かにそれは有り得るかも」
茉莉子の意見を美樹が肯定する
「じゃぁとっとと行こうぜ」
恭一の言葉で学校へ向かう。
寝すぎたせいか頭が痛い。
…………本当にそのせいだろうか。
「兄さん大丈夫ですか?」
「あ、あぁ。大丈夫だよ」
茉莉子の心配してくれる気持ちは嬉しいが今はそれどころではなかった。
学校に着き、靴を履き替える。頭痛が更にひどくなる。
教室に入り、机に着いて落ち着かせていると担任がいつもより早く来てHRが始まった
「えーと、まず悲しいお知らせがあります」
なんなのだろうか……
「非常に言いにくいのですが私達の一つ上の学年の―――――――さんがですね」
誰が?
「詳細は不明なのですが」
あぁ頭が痛い
「昨夜に重症で病院に緊急で運ばれ」
いい加減に痛みが自己主張するのはやめろ
「――――――――――ました」
俺は あまりの痛さに意識を 手放した―――――――――――――――――――
「………あぁやっぱりそうなんだろう。悠樹、私はきっとお前のことが好きなんだ。
お前と出会ってたった1年間だが私には何にも代え難い日々だった。
ふふ、こんなこと言って迷惑かもしれないがこれが私の偽らざる気持ちだ。
悠樹、本当にありがとう」
*** あとがき ***
はい第4、5話です。今回は先輩回でしたね。
んー書いてて思いましたけど表現って難しいです。
書きたいことを上手く表すことが出来てるかそこはかとなく不安です。
思ったんですけどもっと日常とか昔のことをきっちり詳しく書いたほうがいいかなぁ、
そのほうがいいのかなぁと思いつつも、作者はぐだぐだになってテンポが失われ
るのはイカンと思いましてこんな運びになったわけですがどうなんですかね?(笑)
あ、意見やアドバイスがある方は遠慮無く叩いてください。
叩かれた分だけ感じますので(性的じゃなくてこう…成長的な意味でだからねっ!!!)
はい、ではまた次の話ににて。
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過去の夢。 それは彼女との出会いを記憶から呼び起こす | ||
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