みだれそめにし |
天下にその名を轟かせる蜀の将軍、関雲長――――真名を愛紗という――――は困っていた。
敬愛するご主人様のもとに書簡を届けにきてみれば、その方――――北郷一刀という――――はこともあろうに仕事中、居眠りをしていたのだ。
愛紗の目の前には規則正しく寝息を立てるご主人様がいる。
彼女はもちろんわかっていた。立場上、すぐにでも彼を起こして政務の続きをさせなければならないことを。
けれど、彼の寝顔は無邪気で気持ち良さそうで……、起こすのをためらっているうちに、そういえばこうして寝ている姿を見るのもずいぶんと久しぶりだ、なんてことを今さらながら思ってしまった。
愛しい人のいちばん無防備な姿に愛紗は自分でも不思議なくらいどきどきしていた。
それと同時に、彼の寝姿を知っているのが自分一人ではないことに思い至って心に鈍い痛みを覚えた。愛紗の心は一刀だけで染まっているというのに。
かなうものならご主人様の心を独り占めしたい……。
「まったく、憎たらしいお人です。ただ眠っているだけで、こうまで私の心をかき乱してしまわれる。」
口ではそうは言うものの、乱れた前髪を整える愛紗の指先はこわれものを扱うように慎重だ。なかなか落ち着かない前髪をそっと撫でつけてやるうちに、口元にはいつしか微笑みが浮かんでいたのだった。
前髪を整え終わった愛紗の視線はやがて、顔の輪郭に沿って下へ降りていった。
なかば髪に隠された額、
閉じられた目蓋、
安らかに寝息をたてる鼻、
柔らかそうな頬、
そして、くちびる。
一度見てしまうと、磁石に引き寄せられる鉄のようにその場所から目が離せなくなってしまう。
くちづけ……したいな……。
愛紗の視線はもう一刀の唇に釘づけだった。意識しすぎているせいか、どんどん大きくなっているような気さえする。
あともう少しで……。
違う、そうじゃない!!!!
いつの間にか、互いのくちびるが触れあう寸前にまで近づいていることに気がついた愛紗は大慌てで距離をとった。
胸に手を当てて深呼吸を繰り返し、なんとか気を落ち着けようとしている。耳元で鐘が鳴らされているように聞こえるのは心臓の音。熱病にかかったように顔は真っ赤に染まっていた。
乱れたあれこれがようやく落ち着いた後、愛紗は改めて一刀の方に向き直った。
一刀は愛紗の慌てぶりなどどこ吹く風と眠りこけている。
そんなのどかな姿と自身の醜態を比べているうちに、愛紗は大好きなご主人様が親の仇のように腹立たしくなってきた。
そして――――――――
静かだった執務室に愛紗の怒声が響きわたるのだった。
あとがきらしきもの
はじめまして、さむと申します。よろしくお願いします。
萌えられる話を目指してはみたんですが、いかがでしょうか?
みなさまのご期待に添えれば幸いです。
さて、今回は習作ということで自分の中でお題を作って書いています。
内容はといいますと、
1 1ページ以内に収める
2 話を詰め込みすぎないようにする
3 愛紗がきちんと動くか書いて確認する
この3つです。
課題の1については前作を書いたときに、調子に乗って冗長になってしまった反省からです。
2についても前作の反省からで、あれもこれもと書きたいことを入れていった結果、ピントのボケた話になってしまったため。
これを書いているうちに、案の定、余裕で2、3ページになってしまったので一度書きなおした上で表現も簡単にしてあります。また、プロットの段階であったエピソードを削って一番書きたいシーンの印象が強くなるようにしました。
最後に3についてなんですが、実はこれとは別に愛紗をメインに据えた話を作っていたんですが、プロットをいじくりまわしているうちに彼女のキャラがよくわからなくなってしまいまして……。そこでブレたイメージを整理したかったからです。
もちろん、このお話のキャラが崩れているかどうかは読んでくださった皆様が決めることです。
そういうわけで、上記のお題うんぬんにかぎらずご意見をいただければと思い、筆を取った次第であります。
どんな形でもかまいません、誤字・脱字のご報告、ご意見、ご感想、次作へのご要望などございましたらお願いします。
最後になりますが、ここまで読んでくださった方々に感謝を捧げます。
乱筆・乱文失礼致しました。
おまけ(カットしたシーンのうちのひとつ)
「やれやれ、少しは成長したかと思えば……。三つ子の魂百まで、とはいうがお主のも筋金入りだな。」
執務室から出てきた愛紗に声をかける者がいた。
「何の用だ、星よ。」
「初めて、というわけでもなし。あのままくちづけをしてしまえば良かったではないか。」
「……まさか、見ていたのか?」
「あんな面白いもの、見逃すものか。もったいない。……お主の赤面する姿、なかなかの眼福であったぞ。」
「……………………っ。せ〜〜〜〜い〜〜〜〜っ」
「『憎たらしいお人ですー、眠っているだけで、こうまで私の心をかき乱してしまわれるなんてー』」
独り言を声音まで使って再現された愛紗はただ顔を赤くするしかなかった。
やがて言葉に詰まった愛紗は、どこからともなく自慢の得物を取り出す。
「はははっ、真っ二つにされんうちに逃げるとするか。」
そんな台詞を言うやいなや、星は後も見ないで駆け出していく。
「逃さんぞ。望みどおり、青龍偃月刀の錆にしてくれる!ま〜〜〜〜て〜〜〜〜!」
説明 | ||
真・恋姫†無双の愛紗メインのお話です。習作でもあります。萌えを目指して書いてはいるんですが、いかがでしょうか? | ||
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コメント | ||
>深緑様 そう言っていただけると書いて良かった、と思えます。ありがとうございます。(さむ) 愛紗ならば必ず出くわしそうな場面ですな。星のからかう気持ちも分かります、可愛すぎるぞ愛紗w(深緑) >YTA様 ありがとうございます。追加するかどうか悩んだんですが、喜んでいただけたようでなによりです(さむ) >よーぜふ様 そこに痺れるあこがれる〜。こういう場面ではやっぱり星の出番ですよね(さむ) 愛紗らしいニヤニヤepですねぇwww(YTA) さすが星、こちら側の意思まで読み取ってくれるとはw(よーぜふ) |
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真・恋姫†無双 愛紗 一刀 星 | ||
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