真・恋姫無双 刀香譚 〜双天王記〜 第三十九話
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 益州は巴郡を目指し、進軍する荊州軍。

 

 その先頭を進む孟達は、三日前に一刀から言われたことを思い出していた。

 

 『孟達さん。援軍の件は確かに承知しました』

 

 『本当ですか?あ、ありがとうございます!』

 

 『ですが、俺たちはそれだけで済ませる気はありません。……益州を、取らせて頂きます』

 

 『な!?』

 

 『益州の人たちが重税と労役で、疲弊しきっていることは、俺たちも独自に調べてわかっています。その原因が州牧である劉季玉殿にあるのなら、それを廃して新たな法と制度を、整備しなければいけません。……それを為すためには』

 

 『……益州そのものを、攻め取る必要がある、と』

 

 『……気づいていますか?貴女がここに来た時点で、既に”自分の国を売っている”ことに。他国の軍を自国に招きいれようとしている。それを決めた時点で、ね』

 

 孟達は二の句が告げなかった。

 

 おそらく厳顔はそこまで承知の上で、自分に荊州に行けと言ったのだろう。だが、自分はそこまで考えなかった。ただただ、厳顔と魏延を助けたい。それしか考えていなかった。

 

 (けど、それだけだったら、私はあの時点で、すぐにでも益州に戻る選択をしていただろう。それをしなかったのは、その後の一刀様の一言があったから)

 

 『けど、それに乗じて他国に攻め入ろうとする俺たちも、また大きな罪を背負うことになる。なら、その罪をどう償うか。答えは一つ。……民が笑って暮らせるようにする。たとえ、偽善だといわれても』

 

 その台詞を聞いて、孟達は恥も外聞もなく、その場で泣き崩れた。

 

 自分は今まで、どれほど甘い考えでいたのか。それを悟ったから。

 

 だから、一刀にはっきりと言った。

 

 『……私は、今日この時より、劉翔様の下に降ります!たとえ売国奴と罵られようとも、益州の民を救うため、私は、私の覚悟をみなに示します!私の真名は由にございます。何卒、お受け取りください!』

 

 涙を流しながら平伏する孟達を慰めつつ、一刀は孟達の真名を受け取り、また、自分たちの真名を孟達に許した。

 

 そして現在。孟達は張飛と共に、荊州軍の先鋒を務めていた。

 

 

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 「由おねーちゃん。どーかしたのか?」

 

 物思いにふけり無言になっていた孟達に、張飛が声をかける。

 

 「……なんでもないわ、鈴々ちゃん。さ、そろそろ巴郡に入るわ。このあたりで一度、陣を敷いたほうがいいわ。一刀様にもそう伝えましょう」

 

 「わかったのだ!みんな!宿営の準備なのだ!」

 

 兵士達に指示を出す張飛。

 

 (……桔梗様、焔耶。もうすぐそちらに到着します。どうか、無事で)

 

 馬上から西のほうを見やる孟達。まもなく日が暮れようとしていた。

 

 

 「そうか。荊州軍が巴郡に入ったか」

 

 巴郡の街の太守の屋敷。主座の間に集まり、軍議を行う張翼、雷同、李厳。

 

 「数は約四万。先鋒は張飛。それと、……由や」

 

 「裏切り者が戻ってきたなう。しかも先鋒なう。……いい根性しているなう」

 

 怒気を隠そうともしない雷同。

 

 「早矢。由を裏切り者呼ばわりするんじゃない。……あたしらだって、似たようなものだ」

 

 雷同をそう言ってたしなめる、張翼。

 

 「……まあ、な。紅花さまを抑えられんと、梅花のええように動かされとんのやさかい」

 

 「けど、形式上は紅花さまのご命令になっているなう。従うのは当然なう」

 

 忌々しそうな李厳と、まったく無表情のままの雷同。

 

 「……ともかく、どう対応するか、だが。……戦力的にはまったくの互角。だが」

 

 「問題は武将やな。向こうはとんでもない化けもんばっかり揃うとる。劉北辰をはじめに、関雲長、張翼徳に、呂奉先、そして華雄」

 

 「特に劉北辰は軍略にも優れ、さらに補佐をする妹の劉備玄徳も、なかなかの用兵家と聞く。参謀にもかの徐庶元直と陳宮公台がおり、その脇を固める、か」

 

 「……勝てるなう?」

 

 「……自信はない。はっきり言ってな」

 

 『………』

 

 沈黙する三者。そこに。

 

 

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 「なんじゃ。蜀の三羽烏といわれたおぬしらが、情けないことを言うとるの」

 

 「桔梗様」

 

 その場に姿を現したのは、後ろに魏延を伴った厳顔だった。

 

 「ここに来られたということは、ご協力してくださるなう?」

 

 「勘違いするでないぞ、早矢。わしは荊州攻めには決して協力せん。あくまでも、ここ巴郡の守りに手を貸すだけじゃ」

 

 ぎろ、と。雷同をにらみつける厳顔。

 

 「けど矛盾してませんか?由に荊州に行くように指示したのは、桔梗様やないですか。なのにここの守備に手を貸すなんて」

 

 李厳がそう問うと、

 

 「確かにそうじゃ。じゃが気が変わった。うわさの劉北辰とやら、わしのこの目で、見定めてみとうなった」

 

 「……では、もし桔梗様のお眼鏡にかなう人物であったら?」

 

 「そのときは、この巴郡を差し出し、その軍門に降る気じゃ」

 

 にやりと笑う厳顔。

 

 「公然と、裏切るといわれるので?」

 

 「蒔よ。ぬしもさっき言うたであろうが。裏切っているというなら、わしらも同じじゃと。……民を裏切っているという意味でな」

 

 『………』

 

 厳顔の言葉に、何も言い返せない張翼たち。

 

 「安心せい。別におぬしらにまで、降伏を強要したりせん。逃げるなり立ち向かうなり、好きにするといい。行くぞ、焔耶よ」

 

 「はい!」

 

 魏延を伴い、出て行こうとする厳顔。

 

 「ああ、そうじゃ。一つだけ言い忘れておった。……感謝するぞおぬしたち。わざわざ時間を稼いでくれたことを」

 

 「……何のことでしょうか」

 

 「うちの手違い。そんだけやで、桔梗様」

 

 「そういうことなう」

 

 厳顔の言葉にとぼける三人。

 

 「ふふ。まあ、そういうことにしておこう。……ではな。縁があればまた会おうぞ」

 

 

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 そして、巴郡の街の東に位置する盆地にて。

 

 一刀達、荊州軍四万と、厳顔率いる巴郡の所属軍一万が、そこに対峙していた。

 

 「桔梗様、何のおつもりですか?」

 

 「由か。役目ご苦労だったな。じゃが、わしの気変わりにちっとばかり付き合ってもらうぞ。……劉北辰とやらはどこじゃ?」

 

 「……俺です。はじめまして、厳顔将軍」

 

 「ほほう。お主がか。……思っていたよりも童じゃな」

 

 一刀の顔を見て、そう感想を述べる厳顔。

 

 (あれが、劉翔殿……)

 

 「それで、その隣に居るのがおぬしの妹御か」

 

 「は、はい。劉備、字は玄徳です」

 

 (劉備様……。なんとお美しい……)

 

 厳顔が一刀達とやり取りをする中、一刀と劉備を見て顔を赤らめる魏延。

 

 「それにしても、話に聞く以上に、そっくりじゃな。……まさか、入れ替わってなんぞ居らんじゃろうな?」

 

 「……していないです。それで、わざわざ出迎えに来てくれたって言うわけでもないでしょう?……俺たちを防ぐつもりですか?」

 

 「そうなるかどうかは、これから次第じゃ。わしと、ここにいる焔耶、魏延とそれぞれ勝負してもらおう。一対一で、な。……ああ、後ろの兵たちはあくまでも見届け人。邪魔はけしてせぬ」

 

 ざ、と。一歩前に踏み出す、厳顔と魏延。

 

 「わしらが勝てば、ここから撤退してもらおう。そちらが勝てば」

 

 「……降ってくれますか?」

 

 「そのつもりじゃ。ただし、わしの相手は劉翔。おぬしがせい。それが唯一の条件じゃ」

 

 じゃき、と。自身の武器である豪天砲を一刀に向ける厳顔。

 

 「(……俺を量ろうとしてる、か)良いでしょう。お相手、させていただきます」

 

 すらり、と。靖王伝家を抜き放つ一刀。

 

 「ふふ。感謝するぞ、劉翔よ。で、焔耶の相手は誰がする?」

 

 「なら、鈴り「わたしがやろう」にゃ?」

 

 名乗りを上げようとした張飛を押しのけ、前に進み出てくる一人の女性。

 

 「……えっ……そ、蒼華?」

 

 「蒼華さん、その格好、何?」

 

 名乗りを上げたその女性、華雄の方を振り向いた一刀達は、その姿を見て、唖然とした。

 

 「ん?おかしいか?……亡き母上の形見の戦装束なんだが」

 

 華雄が着ていたもの。それは、純白の上着に、真紅の袴。そう、以前洛陽で謎の人物から受け取った、例の”巫女服”だった。

 

 「おかしいどころか、すごく似合ってる。うん。とっても綺麗だ」

 

 「そ、そうか?」

 

 「(む〜〜〜)……それで戦えるの?蒼華さん」

 

 一刀にほめられ、照れる華雄をジト目で見ながらも、率直な疑問を口にする劉備。

 

 「それは心配ない。この服、見た目とは違って物凄く動きやすいんだ」

 

 そう言いながら、赤い紐をたすきがけに身につけていく華雄。

 

 「というわけで、お前の相手は私がしよう、魏延とやら。この華雄がな」

 

 金剛爆斧を構え、魏延に向ける華雄。

 

 「……上等だ。そんなふざけた格好をしたやつになんか、負けられるものか!」

 

 鈍砕骨を構える魏延。

 

 「みんな、決して手出しはしないでくれ」

 

 靖王伝家を正眼に構え、厳顔と向き合う一刀。

 

 「良い眼じゃ。楽しませてくれよ、劉北辰!では、いくぞ!」

 

 「劉北辰、推して参る!!」

 

 「来い!魏文長!我が戦斧を味わってみよ!」

 

 「おお!覚悟しろ、華雄!」

 

 一刀対厳顔。華雄対魏延。

 

 その凄絶な一騎打ちがの幕が上がった。

 

 

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 <華雄対魏延>

 

 「ぬるいわ!!」

 

 ぐおん!!

 

 と、音を立てて迫る魏延の鈍砕骨を、紙一重でよける華雄。

 

 「くそ!ちょこまかと!」

 

 「振りが大きすぎる。その分隙が生まれやすい。こんな風にだ!」

 

 どがっ!

 

 「あぐっ!」

 

 再度振るった鈍砕骨を、またもやあっさりとかわされ、懐が大きく開いたその一瞬に、うちへと飛び込まれ、腹に一撃を受ける魏延。

 

 「足運びも無駄が多すぎる。もっと少ない歩数で動け。そして、その動きの基本は円!こうだ!」

 

 どががっっ!!

 

 「がっ!」

 

 ずざざざざっっっ!

 

 斧の柄で魏延を弾き飛ばす華雄。

 

 「……その素質だけを見れば、私なんかよりはるかに上だろうに。未熟にも程がある。よくもこれで武人を名乗れる」

 

 「く……そ……」

 

 戦いが始まって以降、巫女装束を着た華雄に、翻弄され続ける魏延。

 

 その攻撃は全くかすりもせず、白と赤に彩られた華雄の華麗な動きを、ただただ引き立てていただけだった。

 

 「……記憶を取り戻した記念にと、母の形見と判ったこれを着て”舞い”たかったんだが。……相手が不足すぎたか」

 

 「くそっ!言わせておけば!」

 

 再び武器を構える魏延。

 

 「その意気やよし。ならば、最高の技を持って、その意気に応えよう」

 

 スチャ、と。金剛爆斧を真っ直ぐに構える華雄。

 

 「一刀から授かった、我が究極の奥義。名を、『星砕きの神鎚』!」

 

 ドオーーーーーーン!!

 

 「ぐあああああっっっ!!」

 

 地に大穴が開き、大量の土砂と共に吹き飛ばされる魏延。

 

 「……威力は十分の一ほどに抑えてある。この程度で死ぬようならそれまでだが、さて」

 

 吹き飛ばされ、地に臥す魏延の傍に寄る華雄。すると、

 

 「う、うう、う……」

 

 「……生きていたか。ふふ。この先、鍛え甲斐がありそうなやつだ」

 

 笑顔で魏延を見つめる華雄であった。

 

 

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 <一刀対厳顔>

 

 「単我流、二の太刀。疾風怒濤!チェストおおおおお!!!」

 

 どおおおおんんん!!!

 

 

 厳顔の正面から、正眼の構えで突撃し、その強力を振るう一刀。

 

 「くぅぅぅぅ!なんの、まだまだ!!」

 

 吹き飛ばされながらも、体勢を建て直して、再び豪天砲を構える厳顔。

 

 ドウッ!ドウッ!ドウッ!

 

 豪天砲から次々と放たれる、矢の嵐。

 

 「単我流、三の太刀。『電光石火』!!」

 

 飛来する矢と同数になった(実際にはそう見えるだけの)一刀が、次々と矢を叩き落していく。

 

 「おおおおおっっ!!」

 

 矢を撃ち終えた厳顔は、それと同時に一刀へ突っ込む。

 

 「くっ!」

 

 それを寸手でかわす一刀。

 

 「……さすがにやる。あの呂布と並ぶ、闘神の名は伊達ではないようじゃな」

 

 「お褒めに預かり恐縮です。……まだ続けますか?」

 

 「無論」

 

 再び豪天砲を構えなおす厳顔。そして、靖王を肩口に構える一刀。

 

 「はああああ………」

 

 「おおおおお………」

 

 激しく高ぶる両者の気。そして、

 

 『せいりゃあーーーーーーーーっっっ!!』

 

 激突。

 

 閃光。

 

 爆煙。

 

 地に臥したのは。

 

 「………わしの負け、か。ふ、ふふ。ふはははは」

 

 はっはっはっはっは!

 

 と、大の字になって地に寝そべったまま、大笑いをする厳顔。

 

 その隣には、真っ二つに折られた豪天砲が、日の光を浴びて、輝いていた。

 

 

 

説明
刀香譚、三十九話です。

益州への侵攻をついに開始した一刀達。

その前に立ちふさがるあの二人。

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コメント
何故だろう?蜀側の思いや葛藤も読み応えがあったし、荊州側も決断も重いものがありました・・・しかし、蒼華の巫女装束が全てと思ってしまった自らがいるw(深緑)
U_1さま、洗濯か〜。そこまで考えが及ばなかった^^。まあ、基本手洗いだろうけど。・・・蒼華が手洗いで洗濯する姿・・・やば、萌える^^。(狭乃 狼)
まぁ巫女服は、神楽舞等巫女さんにとっても戦闘服と言って差し支えないとは思うけど…。洗濯大変だろうなぁ。(U_1)
紫電さま、はい、出しました。痛い目に会いたくないですから^^。焔耶はこれから蒼華とセットで動かす気ですw新たな師弟コンビにご期待をば。(狭乃 狼)
sionさま、そう、問題はないです。華雄の美しさはすべてを超越するんです!www(狭乃 狼)
よーぜふさま、そうですか、そんなに嬉しいですか^^。今回限りのつもりだったけど、デフォにしちゃおっかなーww(狭乃 狼)
巫女服が戦装束に変わるとは。。まぁ機能的には問題ない・・のかな?w(Sirius)
なん、だと?よもや戦装束となろうとは・・・貴方はなんと言うお方なんだ!! これで向こう3世紀は戦える!!(ぇ もうやだ・・・幸せすぎるw で、とりあえず蜀三羽のほうはどうなるか・・・焔耶たん(MILI様絵の影響受け中)は一刀には同接するのか楽しみです(よーぜふ)
はりまえさま、そこはそれ、美少女ゲーの不文律ですよwだからこそ、巫女服みたいな衣装がが映えるんです^^。(狭乃 狼)
巫女服・・・・・よく考えたらみんな何であんな露出が多いんだろう・・・・・・(黄昏☆ハリマエ)
2828さま、巫女服進呈・・・。いや、ここはあえて、別の衣装を・・・何かは、ひ・み・つ^^。(狭乃 狼)
hokuhinさま、益州落としてからのことになりますけどね。(狭乃 狼)
村主さま、誰かその場面を絵にしてくれないかなー。自分に画才があったら・・・orz(狭乃 狼)
砂のお城さま、今回のお話の中で、それらしい(一刀にも惚れる)シーンがありますよwwで、蒼華(華雄)については有限実行しました^^。(狭乃 狼)
華雄が魏延を鍛える・・・魏延強化 巫女服進呈ですかw(2828)
華雄さんが魏延を鍛えるのか・・・これは楽しみになってきたわ。(hokuhin)
つか戦場で巫女姿・大斧を振り回していたいた訳ですよね、華雄さんw想像したら・・・凄いシュールな図ですな だがそれがいいw(村主7)
poyyさま、そんなに喜んじゃって、もう!このこの^^。(狭乃 狼)
巫女服キターーーーーーーーーーーー!!(poyy)
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恋姫 刀香譚 一刀 桃香 華雄 厳顔 魏延 

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