くろのほし 第3話 |
星々の輝く空が、にわかに白み始めました。
広い草原にも限りがあり、ゲイルはようやく街へと到達します。
行商と妙酒の街――ミデノです。
(ヴィオって言ったか、あの女……一発殴ることすら叶わなかった)
薄暗く眠ったままの街に足を踏み入れましたが、考えるのは先の戦闘のことです。
(戦闘経験もそうだけど、得物が……武器によるリーチが、圧倒的に足りないのかもしれない)
村を出る前に、村長の好意で路銀を貰い受けていました。
(倒せないまでも身を守るくらいはできないと、レイは……)
買ってしまうべきかどうか……ゲイルは悩みます。
「おい、そこ往く若者よ!」
思いあぐねていると、誰かに話しかけられました。
だみ声の持ち主は、冴えない風体をしていた中年の男性でした。
「た、助けてくれ……!」
「どうしたんですか?」
ゲイルは丁寧に訊きました。
「家に財布忘れてきた☆」
自分の頭を叩いて片目をつぶりますが、可愛くもなんともありません。
それどころか不快感がひしひしと募るのを感じていました。
「……酒場のおじさん、なんとかならない?」
「ツケも溜まってるからねえ、ちょーっと許せないねえ」
おじさんはにこにことしていましたが、目は笑っていませんでした。
「はあ……」
ゲイルは溜め息を吐き、頭をかきむしります。
中年男性を睨んで、確認しました。
「……家に行けば財布があって、ちゃんと返して頂けるんですね?」
「おう、俺は詐欺師じゃねえからな! 約束するぜ!」
ゲイルはおじさんから金額を聞き、お酒の代金を払います。
(うわ、所持金のほとんどが……)
「ありがとよ。さ、じゃあ俺んちに来てくんねえか」
目覚め始めた街の中を、冴えない中年男性と一緒に歩きます。
行商の街と言うだけあって、特定の店舗を持たない商人も見受けられます。
様々な職業の人たちがせわしなく動き、活気の片鱗を見せています。
「ああそうだ、若者よ」
冴えない中年男性が閃いたように言いました。
「俺のことはオッサンと呼んでくれ!」
「え、ああ……ハイ」
(それはオジサンという意味の、あのオッサンなのか……?)
なにか釈然としないものを感じますが、ゲイルは問い質せませんでした。
しばらく歩いていると、男達が揉めているのを見かけました。
言い争った後に、二人とも腰に帯びていた剣を抜きました。
その陽光を照り返す輝きは、紛れもなく……模造ではない刃物のそれでした。
「あれはやばいんじゃ……あれ?」
ゲイルが隣を見ても、誰もいませんでした。
逃げられたかと思いきや、自称オッサンは男達の方に向かって行きました。
「な……何やってるんだあの貧相中年……!」
駆け寄っていこうとすると、自称オッサンの様子がおかしいことに気付きました。
先ほどまで普通に歩いていたはずなのに、なぜか千鳥足です。
剣を振りかぶった男に体当たりして突き飛ばし、剣を手から話させました。
「おい、何しやがる呑んだくれが!」
「いーひひひ、すいませんねえすいませんねえ! 出ー来上がっちゃってるもんで!」
自称オッサンは男が落とした剣を拾い上げると、もう一方の男に向かいます。
「オッサンもチャンバラやっちゃおうかなああああ」
その目の据わった形相は、酔っ払いを通り越して幽鬼のようでした。
生気の感じられない泥酔状態ながら、鋭い視線です。
「ひぃ……なんだアンタは!?」
怖じついた男の振り下ろす剣を受け止め、刃を返し峰で打ちました。
その一連の動作は洗練されており、目に留まらぬ程の素早さでした。
「へへ……名乗るほどのモンじゃねえですよっと!」
こうして……自称オッサンは驚くべき滑らかさで揉め事を鎮圧したのでした。
自称オッサンがざわつく人ごみから抜けて、ゲイルを促します。
しばらく歩くと街外れの閑静な中に、自称オッサンの家はありました。
気付くと千鳥足でもなく、至って平然と二の足で立っていました。
「あんた、すごいんだな……ええと」
「俺のことはオッサンと読んでくれ!」
「いや、でも」
「俺のことはオッサンと読んでくれ!」
「オッ……さん。頼みがあるんだけれども」
ゲイルはオッサンを見据えて言いました。
「オッサン、俺に剣の稽古をつけてくれないか」
オッサンはそれを聞くと、不敵な笑みをこぼしました。
「おいおい……俺は“剣の”達人じゃねえぜ? ……“武器の”達人だ」
説明 | ||
連載型!童話風?厨二病小説 第3話。 ゲイルは村を出て、街に来ました。そこで出会う人物とは? ……とりあえずコメディ分を少しでも補いたかった。 170884 ←前の話|次の話→ 173703 |
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